障害者が働きやすい環境を整えることで高い雇用率を達成した企業
2004年度作成
事業所名 | TDK庄内マニュファクチュアリング株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山形県鶴岡市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 電子機器製品の製造販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 632名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 12名
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1.事業所の概要と障害者雇用状況
(1)事業の内容 |

山形県庄内地域にあるTDK庄内マニュファクチュアリング株式会社は、電子機器の製造販売を行っている。同社はもともと鶴岡TDK(1968年設立)であったものが、2002年、同じく庄内地域にある酒田TDK(1981年設立)、遊佐TDK(1968年設立)を吸収合併して、社名も現在のものに変更された。 主な製品はビデオや音響機器、通信機器、パソコン、自動車などに使用されているインダクタ—巻線コイル、LED表示装置用電源、産業機用電源、ハイブリッドカー用電源などである。 |

(2)経営方針 |

TDK株式会社の社是は「創造によって文化、産業に貢献する」であり、社訓に「夢、勇気、信頼」を掲げている。 近年、長期にわたる不況の中、製造業の海外移転は当たり前のようになってきている。しかし、同社社長は「利益が出ないから海外に出る、ということはしない。国際競争に勝てるものを作り出すことが重要」と言う。 同社は「地元に根をおろした企業」であり、「地域と共にある企業」である。本業にあっては地域経済を支え、また雇用によって、多くの人々にチャンスを与えている。その他に、高校生のインターンシップや小学生の見学会の受け入れ、敷地内にある緑地の開放などを行っている。環境問題に関しても、ISO14001(環境マネジメントシステムの構築及びそれに伴い環境パフォーマンスの改善を継続的に進めていくための国際規格)の取得はもちろんのこと、同じ地域にある他社とともに地域ぐるみで環境問題に取り組んでいる。 世界で勝てる製品を、地域密着型の企業のなかで作り出す、これがTDK庄内マニュファクチュアリング株式会社である。 |

(3)障害者雇用の現状 |

現在、TDK庄内マニュファクチュアリング株式会社には12人の障害者(うち7人は重度障害)が雇用されている。実雇用率は3.0%と法定雇用率1.8%を大幅に越えている。ちなみに平成15年の一般民間企業における障害者の実雇用率は1.48%なので、同社の雇用率はその倍以上ということになる。 雇用形態は7人が正社員、5人が嘱託社員である。障害種別では肢体不自由が多く、なかでも下肢障害のある者が多い。内部障害を抱える従業員が2人いる。勤続年数は短い者で4年、一番長い者は25年、平均して約16年である。現在雇用されている障害者全員が受障後の採用である。 |

2.車いすを使用する従業員への対応
障害のある従業員12人のうち、現在、電源部門で事務的職種に就いている2人の従業員について取り上げる。2人とも下肢に障害があり車いすを使用している。 |

(1)配置 |

TDK庄内マニュファクチュアリング株式会社では、この2人を行政の指導によって採用したのだが、どんな仕事についてもらえばいいのか、というとまどいがあったそうである。そこで、まずは実際に働いてみて、その中で適した仕事を見つけることにした。 2人が最初に配置されたのは資材管理部門で、資材を規格に従って分類する業務である。次に、倉庫での品揃え業務に配置された。ここでの作業は体力をそれほど必要としないということもあり、下肢に障害のある者に向いているのではないかと会社は考えたからである。 現在は、購買業務の資材管理部門と製造部門の間で、品揃え業務の事前確認管理の仕事に就いている。どの業務でも、会社は少しずつ様子を見ながらの配置であったが、2人とも順調に業務をこなしているということである。職場との同僚とのコミュニケーションもスムーズになされている。 同社では、障害者のために特別な仕事を作ることは基本的にはしない。それだけ同社における業務の幅が広いということかもしれないが、配置の際の工夫(できるだけ障害特性に適した仕事に配置する)や、配置後のフォロー(配置後の様子を見る)といったことが、結局は障害者の働きやすい職場を作り出しているということであろう。 |

(2)訓練 |

新しい仕事に就くとき、どのように仕事を覚えていくのか。TDK庄内マニュファクチュアリング株式会社では障害者に限らず、まずはアシスタントとして入り、実際に仕事をしていく中で仕事を覚えていくのが通常のやり方である。 同社では社内教育も行うが、能力開発は基本的に自分で行うもので、それを会社が補助していく、という形をとっている。企業における仕事内容は時代とともに変化する。特に製造業では技術革新の中、それまで行われていた仕事が変化し、新しい仕事を生まれることも珍しくない。このような仕事内容の変化についていけるかどうかは、そこで働く者にとっては重要なことである。それは障害者も同じである。能力開発をすることで、仕事にも広がりが出てきて、その人にとってもステップアップのチャンスになる。 だが、自分の能力開発に積極的に取り組むことが簡単ではない人もいる。障害者の中には、障害特性や社会生活上のスキルの不足から、本人任せでは能力開発が容易ではない場合や、本人が積極的に能力開発に関わらない場合もある。こうしたケースはほとんど無いのだが、同社では場合によって、外部での研修を検討することもある。 |

(3)環境整備 |

障害者雇用において大切なことは何か。その一つは環境整備である。環境が整えば、作業遂行に大きな支障はない、という障害者は少なくない。環境整備には、作業がやりやすいようにする整備の方法と、日常的な職場環境の整備がある。
TDK庄内マニュファクチュアリング株式会社では、車いすを使用する従業員が入社してすぐに、職場の横に畳敷きの休憩室を設置し、トイレを新しく専用のものを利用しやすい場所に整備し、車いすが通れるように職場の通路を広くした。また、専用の駐車場を整備した。駐車場から職場への出入口は非常に近い。 このような環境整備の結果、現在、電源部門のスタッフとして働く2人に対して、周囲の人が手助けをすることはほとんどない、ということである。もちろん、全くいらないわけではない。山形県庄内地域は豪雪地帯というわけではないが、それでも冬季には雪が降る。雪が積もったときなどは駐車場から入口まで手助けが必要な場合もある。しかし、これもその時、気が付いた人が手を貸せばいいことである。環境を整備(駐車場と入口を近くしたこと)したことで、最小限の手助けを可能にしているのである。 |

(4)労務管理 |

健康面への配慮という観点から、仕事量に注意し、基本的には残業は無いようにしている。もちろん残業が必要なときもあるが、それでもあまりにも残業が続いた時期には早く帰るように職場の上司がアドバイスしている。本人も気が付かないうちに残業負荷が多くなっているとの判断からである。この上司は2人が入社してから、ずっと上司である。2人のことを一番良く知っていて、本人が気がつかないところにも気を配っている。このような上司の存在は、障害者雇用にとっては大きな力である。 なお、TDK庄内マニュファクチュアリング株式会社では、障害者であっても優秀な人材は管理職に登用する方針である。実際、障害者で管理職にある者もいる。昇進に関しては障害の有無は関係ない。 |

3.雇用率達成企業のあり方 ~一つ一つの積み重ねが大きな成果を生む~
「平成15年障害者雇用実態調査」(厚生労働省)によると、事業所が身体障害者の雇用上の課題として挙げているのは、「会社内に適当な仕事があるか」というのが一番多く、次に「職場の安全面の配慮が適切にできるか」「設備・施設・機器の改善をどうすればよいのか」などである。また、同調査において、就業中の身体障害者で現在の会社で仕事をしていく上で何らかの改善・充実・整備が必要とした者は全体40.0%であり、改善が必要な事項として最も多かったのは「能力に応じた評価、昇進・昇給」と「コミュニケーション手段・体制の整備」、次いで「労働条件・時間での配慮」である。 ここまで見てきたTDK庄内マニュファクチュアリング株式会社の取組みは、このような事業所の声、障害者の声への「答え」である。 基本的には一般従業員と同じ処遇をし、必要な部分にだけ配慮する。例えば、配置に関しては、まずは仕事をしてもらって、様子を見ながら適切な仕事を探していく、優秀な人材であれば管理職に登用する、駐車場やトイレ、休憩室など働きやすくなるように環境整備はしっかりやる、残業時間の調整など健康面に配慮する、業務が変わっても同じ上司のもとで働けるようにする、など、さまざまな方法で「障害者が働きやすい環境」をつくっている。その結果が3.0%という高い雇用率につながったのである。 (執筆者:東北公益文化大学公益学部講師 澤邉みさ子) |

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