福祉施設における知的障害者雇用の取り組み
2004年度作成
事業所名 | 山形県立総合コロニー希望が丘 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山形県東置賜郡川西町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 福祉施設(知的障害者入所施設) | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 254名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 12名
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1.はじめに
障害者の雇用問題が社会的に取り上げられるようになって久しいが、近年、ジョブコーチやトライアル雇用、そして就業・生活支援センター等の施策が展開され一定の成果が認められるようになっている。 しかし、当地のような「地方」における雇用情勢は悪化の一途を辿り、リストラや事業所の閉鎖等が相次ぎ、離職防止と職場開拓が極めて困難な状況にある。 本稿では、企業の絶対数が少ない地域特性を踏まえた取り組みとして、福祉施設における障害者雇用の経過や現状と課題について、筆者が勤務する山形県社会福祉事業団「置賜障害者就業・生活支援センター」利用者の事例から報告する。 |

(1)事業団について |

山形県社会福祉事業団は、県立施設の受託経営を行う法人として昭和39年に設立され、現在、県下全域で、特養、救護、身障、知的等の入所(通所)施設や就業・生活支援センター等々、16事業所の運営を行っており、障害者雇用に関しては、特に、施設利用者の自立支援及び地域生活推進のための法人全体の方針として確立され、各事業所において取り組まれている。 |

(2)置賜障害者就業・生活支援センターについて |

置賜障害者就業・生活支援センター(以下、センターという)は平成11年4月「あっせん型雇用支援センター」として、知的障害者総合援護施設コロニー希望が丘(以下、希望が丘という)の授産施設に併設する形で開設され、地域生活を支える拠点づくりにも取り組みながら、平成14年の法改正により「就業・生活支援センター」となっている。 |

2.事業所の概要と障害者雇用状況
(1)事業所の概要 |

希望が丘は昭和49年から52年にかけて整備された県内最大規模の知的障害者入所施設で、以下のような状況となっている。
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(2)障害者の雇用状況 |

希望が丘では、清掃・厨房・洗濯等の間接部門と、乗馬療法のスタッフとしての援助部門において、16年10月現在12名の知的障害者がパート職員として雇用されており、以下のような状況となっている。
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3.職場の紹介と雇用に至った経過
(1)清掃業務 |

清掃業務については、平成元年に始まったグループホーム利用者への職場の提供として実習からスタートし、管理センターで1名、重度更生施設で1名が雇用されている。
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(2)厨房業務 |

施設利用者500名への食事サービス体制が維持されてきたが、平成11年頃より授産施設の支援プログラムとして厨房での実習が開始され、利用者3名の地域生活移行に伴い雇用に至っている。なお、昨年度末には、自己都合による離職者に代わり当センター利用者1名が採用されている。
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(3)洗濯業務 |

主に更生施設の利用者300名の私物やリネン類の洗濯業務のために専任の職員が配置されていたが、昭和60年頃より業務全般を授産事業に委託することとなり、平成14年には地域生活移行を目指していた利用者4名と当センターの基礎訓練修了者1名の雇用の場となっている。4において、事例として後述する。
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(4)乗馬療法 |

平成11年に開始された乗馬療法は、馬の飼育と一体的に展開する必要があり、授産施設において飼育を担当していた利用者2名が、サイドウォーカーとしての専門性・技術面の向上により雇用され地域生活に移行している。
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以上のように、希望が丘における取り組みは、施設利用者の地域生活移行に伴う職場の開拓と提供という形で進められており、企業の絶対数が乏しい地域特性に応じた有効な対応策であると考えられる。 |

4.児童施設に入所していたAさんが雇用となるまで
現在、洗濯業務に従事している当センター利用者Aさんの事例について、取り上げる。 |

(1)Aさんの概要と経過 |

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(2)Aさんの抱える課題 |

児童施設入所中であったAさんは、18歳に達しており、一般事業所での実習を経験していたが、人間関係や生活面での課題により雇用に結びつかず、施設の利用期限が迫っていた時期の相談であった。家庭での養育が困難で、生活の場の確保が緊急の課題であり、また実習経験があるものの、対人関係や社会行動面の課題とともに生活リズムが不安定なため、就労に向けた意識の再構築が必要であった。 こうしたことから、平成14年1月に職業センター・児童相談所・福祉事務所・当センターによる「拡大ケース会議」を開催し、職業リハビリテーション計画を作成。 併設施設(知的入所授産施設)を利用した一定期間の「基礎訓練」を実施し、課題への対応を図ったものである。 |

(3)職業リハビリテーション計画 |

訓練期間を第1期から3期まで設定した。 第1期は、施設への適応、適性把握、生活能力の把握を目的に1か月程度とした。 第2期は、2か月程度として、作業能力の向上、社会行動の改善を図った。 第3期は、職場開拓、職場実習、雇用移行、生活の場の確保を目的に3か月程度の取り組みとした。 |

(4)結果 |

児童施設での経験から、第1期・第2期ともにスムーズに経過した。第3期には洗濯業務についての施設としての方針があったため、タイミング良く雇用に至っている。また、生活の場の確保についても職員独身寮が活用できることとなった。 現在のAさんの仕事ぶりを紹介する。
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5.今後の課題とまとめ
(1)支援体制 |

希望が丘では、雇用条件から業務遂行上の教育・支援まで、事業所全体として取り組む体制として「障害者職業生活相談員」を配置しており、当センターとの連携窓口としても機能している。 また、施設から地域生活への移行を具体的に実践するための組織として「希望が丘地域生活推進担当者会議」が設置されており、当センターからも継続的に出席し、主に生活面の支援について連携を図っているところであるが、元来、施設の利用者と職員という関係であったことから、馴れ合いや説明不足等、受け入れ側の姿勢に課題がみられ、定着支援として当センターが継続的に介入していくことが必要である。 |

(2)本人の願いに添って |

6時間パート雇用ということから経済的な基盤の確立のために年金受給申請や国民健康保険加入等の支援を行ってきたが、9月に開催した当センター主催のセミナーでシンポジストとして出席してもらい、今後の生活設計について聞いたところ、「車の免許を取りたい」「アパートで暮らしたい」という思いが語られた。 洗濯業務の中の搬出入がトラックによって行われており、Aさんの分担外となっているが、「職場におけるスキルアップ」として年齢的にも能力的にも十分に期待できることから、チャレンジできるよう支援していきたい。 また、現在の住まいが施設の敷地内にあることから「地域で暮らす」という実感が薄いということも頷ける。まずは、貯蓄によって経済基盤を固め、近い将来には実現できるよう支援していきたいものである。
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(3)おわりに |

福祉施設での障害者雇用については全国的に取り組まれている事例であり、目新しいものではないが、景況に左右されることも少なく、人的支援が容易であるという点で効果的であると言える。 しかし、今後の課題でも述べたが、受け入れ側の認識や将来の生活設計等の「ニーズ」を踏まえた支援を継続していくために、関係機関が連携する体制としての「ネットワーク」を構築していくことが重要であり、そのことが「個別支援」の基盤となるものと考える。 最後に、本稿をまとめるにあたり協力をいただいた希望が丘の所長はじめ職員・利用者の皆さん、そしてAさんに心からの謝意を表したい。 (執筆者:日本職業リハビリテーション学会東北ブロック理事、置賜障害者就業・生活支援センター援助主査 菅 洋一) |

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