人と人、人と技術の大きな輪~グループ企業全体で取り組んだ障害者雇用~
2004年度作成
事業所名 | 信盛電機株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 福島県福島市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 各種電源装置・ケーブルアッセンブリ製造 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 110名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 9名
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![]() 障害者専用駐車場 従業員通用口に隣接して降雨・降雪時に配慮して屋根が付いている。 |

1.事業所の設立と事業経歴
信盛電機は昭和53(1978)年6月に福島市笹谷に設立された株式会社で、設立と同時にケーブルアッセンブリの製造を開始した。翌54(1979)年には、電源装置組立及びプリンタ組立を開始し、昭和57(1982)年には電源装置試験とプリンタ試験を開始し、昭和59(1984)年に現在地に工場を建設し、生産管理棟を増設した。 平成16年8月現在、正社員38名、契約社員37名、派遣会社社員35名で、総数は110名である。会社設立後の事業経歴は表1の通りである。 表1 事業経歴
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2.障害者雇用の概況
(1)障害者雇用に対する東北沖電機グループの取り組み |

昭和51(1976)年に雇用促進法の抜本的改正が行われ雇用率の引き上げ等がなされたが、信盛電機(株)の親会社である東北沖電気(株)ではそれ以前からも地味ではあったが身体障害者の雇用を実施してきており、雇用率の達成では一応の成果(2.62%)を挙げていた。 そして昭和56(1981)年の国際障害者年を契機に、東北沖電気(株)とその関連企業グループ全体で企業集団として障害者雇用の促進を図るために、会社内に「身体障害者雇用促進特別委員会」が設置された。それを受けて、東北沖電気(株)では工場建屋の構造等に問題があったために、関連企業である信盛電機を全面的にバックアップすることにし、重度障害者多数雇用事業所の設立に向けて取り組んだ。 |

(2)信盛電機における障害者雇用の経緯 |

信盛電機では「社会貢献」を経営理念として、雇用に際しては創業以来公共職業安定所の指導を受けて、一貫して中高年或いは社会的弱者を重点的に採用してきた。さらに親会社である東北沖電気(株)からは、健常者の出向に加えて身体障害者の出向や出張による指導を受け、さらに機械設備等においても順次高性能のものへと更新を図っていった。 さらにより多くの障害者の職務創出を可能にするために、労働基準監督署から施設設備についての助言を得て、安全・衛生面にも配慮を図った。しかし、当時の施設では改善が困難な状況にあったため、東北沖電気(株)と連携して障害者の雇用促進を推進する旨の方針を決定した。これを受けて、昭和59年同社の事業規模と障害者多数が就労可能な施設・規模を検討のうえ、障害者に配慮した新工場を現在地に建設した。 その後、業務の進展に併せて障害者の雇用を積極的に進め、最盛時(平成9年度)には障害者が28名も在籍していた。また、企業の構造改革等の必要が生じた場合も、障害者をその対象外とするなど、障害者に配慮した企業経営を行っている。 この間、平成3年9月には障害者雇用功労により、労働大臣賞を受賞している。 |

(3)障害者雇用の実態と概要 |

昭和58(1978)年に重度障害者多数雇用事業所の認定を受け、現在の障害者雇用状況は表2に示すように、障害者雇用率が20.0%(重度障害者はダブルカウント)に達している。 現在(平成16年9月現在)雇用されている障害者の内訳は、男子8名女子1名の計9名で、年齢は31歳から54歳までに及んでいる。勤続年数は4年から21年にわたり、平均年齢が43歳、平均勤続年数は16年である。障害種では肢体不自由や聴覚障害が主で、知的障害者は含まれてない。9名のうち2名が車いすを使用している。ここ数年は障害者を含め、新しい社員は採用されていない。 表2 主要な障害者の実態と作業内容
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3.障害者雇用に際しての工夫と配慮事項
障害者の雇用には会社の理解と施設設備面での配慮が不可欠であるが、信盛電機では障害者雇用に際して以下のような工夫と配慮がなされている。 |

(1)施設面での配慮 |

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(2)作業(工程)面での配慮 |

ア ライン作業から負担の少ないライン外作業に従事させている。 イ センサーによる端末圧着の半自動化(片手で操作できるように)している。 ウ ローラコンベアーラインのハネ上げユニットの軽量化を図っている。 エ レイアウトはなるべく見通しがつくように直線的にし、障害者の管理及び非常時の誘導を容易にしている。 |

(3)人事管理上の配慮 |

ア 身体障害者職業生活相談委員(現在4人)を選任し配置している。 イ 親和会(障害者の会)を社内に設置し、社長・総務担当・生活相談委員が2ヶ月に1回の割合で懇談会を開催している。 ウ 親和会主催の全社行事(ボーリング大会)を年1回ほど開催し、健常者との親睦を深めている。 エ 下肢障害者(車いす用)の駐車場を会社の構内に設置し移動の利便を図っている。 オ 健常者との対人関係の形成を重視し、健常者には社員採用(面接)の際に「重度障害者多数雇用事業所」であることを説明している。 カ 会社行事の社員旅行や忘年会等は障害者を配慮したプランを立て実施している。 |

(4)人事管理上の配慮 |

ア トイレ内に非常用のボタンを設置している。 イ 毎年消防訓練を実施し、避難の困難な障害者には介助人を指名し実施している。 |

(5)まとめ |

信盛電機では以上のような会社あげての温かい配慮がなされていて、障害のある人にとって働きやすい職場になっている。かつて国際障害者年(1981年)当時に、「障害者にとって住みやすい社会は健常者にとっても住みやすい社会である」とよく言われたが、信盛電機を訪問して、「障害者にとって働きやすい会社(職場)は健常者にとっても働きやすい会社(職場)である」ということを実感した。こうした会社あげての細やかな配慮や障害者理解への取り組みが障害者の雇用を可能にしているのだということを痛感した。 |

4.障害者雇用の取り組みに対する評価と今後の課題
障害者の雇用については法定雇用率(1.8%)が定めてあるにも拘わらず、現状はそれを達成してない会社が未だに多い。しかも大企業になるほど達成率が悪いという悲しい現状がある。 信盛電機を訪問して感じたことは、障害者雇用の成否は会社の規模に依るのではなく、障害者に対する会社の姿勢そのものに依るのであるということである。信盛電機は決して大きな会社ではないが、社長以下、会社ぐるみの障害者理解への努力と障害者への温かい支援のもとでその雇用を可能にし、障害者にとって働きやすい環境になっている。しかも重要なことは、障害者にとって働きやすい安全で優しい職場は、実は健常者にとっても安全で働きやすい職場になっているという点である。 かつて信楽青年寮の故池田太郎氏は、障害者の「4つの願い」として、1)私も働きたい、2)無用の存在ではなく有用の存在と思われたい、3)みんなと一緒に暮らしたい、4)楽しく生きたい、の4つを挙げている。この4つの願いは障害の有無を問わず、我々みんなの共通の願いである。障害者も健常者も共に楽しく働き、共に生きる「共生・共存・共栄」の社会の実現が望まれる。それこそがノーマライゼーションの具現化であるといえる。 創業以来会社の社会的責任として障害者理解と障害者雇用に積極的に取り組んできた信盛電機の姿勢とその努力は高く評価される。同社に可能なことがどうして他社に出来ないのか、その点の解明が障害者雇用率未達成の企業には厳しく問われている。その意味で、経営規模の大きい大企業こそが率先して障害者雇用の促進に努力していく社会的責任を負っているといえる。 こうした状況の中で、障害者雇用のモデル事例として取り上げた信盛電機の取り組みには学ぶべき点が多々あり、他社にも見習っていただきたい。 謝辞: 会社訪問に際しては、ご多忙の中を信盛電機(株)常務取締役の先山晃一氏に社内の案内と懇切丁寧なご説明をいただいた。この場を借りて衷心より謝意を表します。 (執筆者:福島大学人間発達文化学類教授 松崎 博文) |

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