未来を創る心、未来を拓く力~製麺部門でのさまざまな作業工程と細かい配慮で、雇用率14%~
2004年度作成
事業所名 | 株式会社 江戸屋 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 福島県会津若松市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 製麺製造、酒類卸小売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 72名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 8名
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1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要 |

江戸屋の創業は大正3年であり、昭和34年に個人経営から有限会社江戸屋百貨店に組織を変更し、昭和50年日新町に食品工場を開設、創業以来80年余り常に地域と共に着実に成長してきた。さらに、平成3年真宮工場を新設、障害者に職場を提供し今日にいたっている。 現在、代表取締役社長は下平剛氏であり、社長は製造・物流・小売りの各段階をトータルにシステム化して効率を図っている。第1部門は品質管理・衛生管理を基本にした製麺製造システムで従業員は46名、第2部門は、地域に密着したきめ細やかなサービス体制の酒類卸・小売り部門で「酒の蔵」2店舗を従業員26名で経営している。第3部門はコンピュータによる最先端の営業管理システム、第4部門は配送網の整備による信頼のデリバリー体制である。 食品を消費者に提供すると共に、人間の生活の基本とも言うべき「食」文化の創造にターゲットを置いている。主製品の麺類に関しては5つのラインで日産8万食以上の生産量を誇っている。 |

(2)障害者雇用の経緯 |

江戸屋の標語「SPIRIT」とは、「CREATEとCHALLENGE」であり、食文化の創造を通して地域文化の向上に挑戦するもので、このエネルギーが障害者雇用の原動力となっている。因みに、障害者雇用の発端は、前会長の親戚に障害者がいて、その障害者を雇用したことからである。 標語に込められた創業者の経営理念と障害者に対する深い理解のもとに、障害者雇用を企業の社会的責任として捉え、昭和57(1982)年3月から障害者雇用を開始し、会社の規模の拡大と共に雇用者数も増加し、雇用率は14.0%と現在に至っている。 |

2.障害者雇用の状況
(1)障害者の配置 |

障害者の雇用は主として第1部門の生産部門に集中している。 生麺製造従業員46名のうち、障害者は、現在、年齢は30代から40代にまたがり在籍しており、平均年齢は約40歳、加齢の理由で昨年自主退職者が1名出ている。障害者の勤務年数は平均10年以上が多く、最高は勤続16年で会津若松市連絡協議会から永年勤続で表彰されている。 生産工場は、田畑の広がる静寂で空気の清浄な地域環境の中にあり、工場内も広い。製麺の工程は、危険な切断工程が自動化され、危険のない袋製工程の一部で障害者が作業している。餃子の皮の製造、うどんを茹で、トレーセット、製麺を一定量にパックづめにしたり、商標の貼り付け、箱の運搬、整理等の分野があり、個々の障害者の適性に合った作業分野が選択が出来るように配慮され、多数の障害者雇用を可能にしている。 現在、職場定着推進チームには、工場長、職業生活相談員、現場指導員の3名が当たっており、工場長及び専任の担当指導員を職場に配置することによって、雇用の定着と職場環境の改善を図っている。 その結果、障害者は仕事では遜色なく、むしろ健常者以上の能力開発が開発され、陰の責任者として期待でき実際にベテランの域に達している者もいる。 |

(2)高い障害者雇用率 |

周知のように「障害者の雇用の促進に関する法律」では「障害者雇用率制度」が設けられており、常用労働者数56名以上の民間企業ではその常用労働者数の1.8%以上の障害者(身体障害者及び知的障害者)を雇用しなければならないことになっている。いわゆる法定雇用率が定められているが、国の身体障害者及び知的障害者の実際の雇用率は2001年度6月1日現在では1.49%にとどまり、さらに2002年度には1.47%に下がっている。2003年には1.48%と0.01ポイント上がっているが、全体的には約50%強の企業が未達成の状況にある。企業規模別(2003年)では500~999人規模は0.04ポイント上昇、300~499人は0.01ポイント上昇、100~299人規模は0.02ポイント低下している。 このような状況の中で、江戸屋における障害者雇用の実態(14.0%)には注目すべきものがある。 |

3.障害者雇用に際しての工夫と配慮事項
当社では、事業主・工場長、職業生活相談員、それに家族等との連絡調整が図られていて、障害者雇用が定着し維持されるための以下のような試みや配慮がなされている。このような細やかな配慮と会社挙げての取り組みが功を奏し、長期にわたる障害者の職場定着が可能となり、驚異的な障害者雇用率を可能にしている。 |

(1)処遇 |

障害者の雇用では、障害のある社員を障害者として処遇するのではなく、一社員として健常者と対等に処遇し、関心の高い給与は時間制で最低賃金の保障を遵守し、障害の有無に関係なく処遇されている。個人の努力次第で差別なく評価されている。 |

(2)相談体制 |

障害者が所属するそれぞれの事業部に工場長を始めとし同僚達も理解を示し、親身になって障害者の相談・指導に当たっている。さらに、トラブルが生じた場合は工場長を中心に家庭訪問を行ったり、家族の責任者が来訪したりして調整に当たる即応体制を整えている。とりわけ、障害者同士及び健常者と障害者の人間関係や連携がスムーズにいくような配慮がなされている。 |

(3)配置と指導 |

受け入れの段階で全ての作業部門を説明し実際に本人に経験させたうえで、一番適正のある分野に配置し、生業工程の単純化と作業活動のスモールステップ化を図り障害者の能力に合わせて作業工程を段階的に指導する工夫を行い、障害者が孤立することなく作業に取り組める職場環境件りに努力している。 |

(4)通勤 |

自力で通勤距離が大変な場合は、出勤時間を配慮したり、通勤時の事故防止と就労の定着持続へ向けた支援を実施している。 |

(5)家族会 |

障害者の完全就労と社会的自立を支援するために「家族会」を組織し、定期的に(年2回)開催し、会社の方針を説明したり問題点等を率直に話し合ったりしている。 |

(6)家庭との連絡 |

家庭(家族)と会社の間では開設当初は「毎日の連絡帳」を交わしていたが、障害者が作業に慣れるにつれて、連絡帳から口頭での連絡調整となり、その日の気づいた点や配慮事項を、保護者と指導者間で調整し継続的で一貫した支援がなされている。 |

(7)福利厚生 |

福利厚生面にも力を入れ、社内旅行、忘年会、花見会、暑気払い、いも煮会、ボーリング大会等を企画し、障害者も健常者と一緒に参加している。労働安全衛生法に基づき健康検診及び特別検診を年1回実施している。 |

(8)表彰制度 |

皆勤賞や精勤賞の制度及び永年勤続者に対する表彰制度を設け、勤務が持続するような動機づけを行っている。 |

(9)職場実習への協力 |

養護学校や障害者職業センター等からの職場体験実習の要請には積極的に協力し、障害者理解と障害者雇用の啓発に努めている。 |

4.まとめと課題
(1)まとめ~様々な配慮と家庭との連携 |

江戸屋が多くの障害者を雇用し高い雇用率を維持している背景には、創業以来、「未来を創る心。未来を拓く力。」を掲げて障害者雇用に積極的に取り組んでいることに加えて、障害者雇用を定着させるための様々な配慮がなされていることが大きい。障害者と健常者を分け隔てることなく、障害者を一人の社員として対応している。 また専任の相談員(工場長)を配置し、ことあるごとに保護者との連携を図り、保護者会を組織し定期的な会合を持ったりして、会社と家庭が協力して障害者の職場環境作りや職場定着への努力がなされている。障害者雇用を定着していくためには本人の努力もさることながら、それを支える保護者(家庭)と会社の連携協力が不可欠である。その点、保護者と連携した支援体制を取っている江戸屋の取り組みは高く評価される。 |

(2)課題~高齢化と機械化 |

江戸屋では障害者の高齢化が大きな問題になっている。仕事は単純な肉体労働(単純作業)が中心だが、障害者は個人差はあるが平均的に50歳代あたりから老齢化が進むので、健常者以上に、加齢に伴う体力の低下の防止・体力維持等の健康管理やQOLの向上が今後の課題となっている。相談員は、本人及び家族と加齢現象について話し合い相互に無理のない状況を配慮しなければならない。 今回の調査では、障害者が自主的に退職するケースが報告されたが、加齢と共に障害者にどのような変化が起り、作業場面で危険となるのかを立証するには、時系列でその危険性に対しどのような対応・配慮を展開したか等の記録を残しておくと、今後の障害者の対応の参考となろう。 さらに、退職者が出ても、引き続き後継者を確保する手順の確立も大切である。因みに、高等部の養護学校との日頃からの連携を取り、相互の情報提供が緻密に行われていることが大切となろう。場合によってはトライアル雇用を取り入れたらよい。さらに、保護者の高齢化を考えると、保護者亡き後も障害者のメンバー間で連携や相互扶助が出来るグループホームを将来計画することも雇用の長期化・安定化のためには大切なことである。 今日長期化する構造不況の中で、会社の経営は出来るだけ経費節減を図り最高の利潤を生み出したいと考えるのが一般的考えである。しかし、江戸屋は、生産工程の機械化を、障害者の雇用の場の削減にならないようあえて行わないと言う会社の方針を堅持している。ただし、将来、会社・障害者の両者に利益がなければ、現状維持において早晩危機に遭遇することも考えられるので、さらに踏み込んだ工夫・検討課題があるように思われる。 (執筆者:福島学院大学 教授 品川満紀) |

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