障害者の所得保障のための雇用の実践~福祉工場としての取り組みと課題~
2004年度作成
事業所名 | 社会福祉法人愛光園 愛光園稲岡工場(福祉工場) | |||||||||||||||||||||
所在地 | 栃木県足利市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 授産施設・デイサービスセンター等福祉施設の経営、クリーニング、菓子製造 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 75名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 27名
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1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
社会福祉法人愛光園は、昭和52年4月に身体障害者授産施設(定員30名)として、クリーニングを営業品目として足利市山川町に開設した。当時は栃木県内には身体障害者の授産施設は皆無であり、福祉の中で働く(就労する)場が欠落していた。 授産施設では、主として働くことの尊さ、社会人としての自覚を促す。他人に迷惑をかけずに自立した人間を目指すことを主眼とし、職業対策に力点を置いた訓練の場、活動のステージを提供していた。 しかし、授産施設では、その制度や仕組みにより所得保障の面では限界を感じ、平成元年から行政や関係団体とも協議し協力を頂いて、平成4年に身体障害者福祉工場(定員50名)をスタートした。 当工場では、作業能力は有しているが対人関係や健康管理が自立していないという理由のため一般企業では就労できない障害者を雇用し、生活指導や健康管理等に配慮した環境の下で社会自立への促進を目的としている。 また、法人の経営している授産施設からの雇用への促進も積極的に実践しており、社会人として一市民として生活できるように支援している。 福祉工場は、その性格・意義として、地域においては一産業体という要素と、授産施設から一般企業に就職するその間の位置付けという要素(福祉と雇用の両側面を持つ)及び最低賃金以上の給与を支給する(一部状況により最低賃金除外の方も含まれる)ことで社会で自己実現を果たせるように支援するという要素があげられる。 確かに授産施設と比べれば格段に仕事の内容は厳しいものであるだろうが、これを達成したときの喜びは感無量である。 その後、福祉工場の利用者(従業員)も、障害種別が多様になり知的障害者の利用が増加したため、平成14年10月に知的障害者福祉工場(定員30名)と知的障害者授産施設(定員30名)とし、以降現在に至る。 ![]() |

2.日常での支援や授産施設と連携した取り組み
(1)知的障害者に対する日常の声かけの大切さ |

主として知的障害者を雇用する場合は、常に生活支援と健康管理の両面で支援をしていないと家庭内の問題や人間関係の難しさにより精神的なもろさを出してしまい、仕事に対する意欲を失いがちになる。また、常に本人の能力のペースを施設が十分把握していないと、わずかなオーバーワークで意欲を減退することがある。つまり、一般企業では当たり前である週40時間就労や時としての残業などが本人の持っているリズムを狂わせ、急に休んだり、またそれを放っておくと出社拒否などと言った行動が出やすくなる。 このため、常に実行しているのは、おはようから始まるあいさつや“声かけ”である。相手の声を待っているだけでは1日が始まらないとの考えからである。 また、仕事中でも一定の距離を置いた“見守り”が常に必要であり、いつもと少しでも変だなと思ったら声をかけるように注意している。仕事は単純な内容の繰り返しが多いため、これを継続することが重要であり、それには休み時間や終業後の声かけも必要である。そして、終業したら「ご苦労様、明日もまた来てね」という声かけも忘れてはならない。頑張ったらほめる。失敗しても本人に何が原因なのかを理解してもらってから注意する。こうした当たり前の日常(日課)を支援することに配慮している。 ちなみに、ハローワークなどから会社を解雇されたので面接して頂きたいという障害者の求人依頼が後をたたないとのこと。その面接時に決まって聞くのは、心ない経営者(上司)の一言で辞めることにしたというもの。その言葉は、「お前!!何度言ったら分かるんだ」。経営者も上司も厳しい経営の中でついイライラしているから、本当は励ましながら叱正したいのだろうが、結果として“仕事のできない頭の悪い奴”と受け取られるような言葉になってしまうのだろう。ほんの一息間を置くことができれば、皆やさしい人達ばかりなのに・・・と残念でならない。 こうした事例を時として反面教師として、普段着の接し方を心掛けている。 ![]() |

(2)授産施設との連携 |

就労・雇用に際して、学校を卒業したての障害者にとっては働くことって何?というところから支援しなければならない。もちろん、卒業してすぐに会社で働ける障害者も多いが、当法人には、こうした人達はまず来ない。 授産施設は訓練の場である。“自立すること”という目的のためにいろいろな支援が必要である。卒業したら、授産施設でこうした基本的な部分を習得してから雇用へのステージへと進むことになる。 雇用されると、一定のノルマが課せられるのは経営上やむを得ないが、順調に進んでいるようで人間である以上、何らかのきっかけで就労意欲をなくすことがある。こうした時、就労意欲を一時的になくした障害者の受け皿としても授産施設が活用できるのではないか。全く場所も業種も仲間も変わってしまった環境で再トライアルというのは、一からの出発になりがちである(もちろん気分を変えるために場を変える必要のあるケースもある)が、近くに仲間がいて少し緩やかな環境であれば、理解も一からではなく進めることができ、併設しているからこそできると思われる。この場合、本人あるいは家族の方とよく相談し納得した上でのスタートとなる。この取り組みは本人及び家族の方々から高い評価を得ている。 |

(3)行事の計画 |

仕事を離れての行事や活動も障害を持った人達からは切り離せない。忘(新)年会、納涼祭、愛光園祭、日帰り旅行等、年に4~5回位の息抜きは必須条件。 ちなみに授産施設では、原則月1回のレクレーションを実施しており、併設しているデイサービスの利用も可としている。休みの時には、昼間からカラオケもよし、普段やっていない身体を動かすもよし、気分転換も必要とのこと。 要は、働く時は一般の人に負けない位働く、休むときはハメをはずすことも必要。「障害者だって人間です」。 |

(4)その他 |

ア 意見箱の設置 一対一ではなかなか言えないのが悩み事だが、これを書いて投函することで解決したトラブルもずいぶん多かったようである。 イ 看護士の配置 病気になりそうな時、あるいはなった時の強い味方となっている。 ウ 嘱託医による診断 内科・外科は週1回、精神科は月1回である。仮病はすぐ発見される。この他、健康診断は年2回以上実施している。 エ 相談員の配置 当法人には福祉の専門家を配置しており、毎日かなり多忙とのこと。(特に休み時間は) オ 福祉ホーム(障害者用アパート)の設置 身体障害者用 15(空室あり) 知的障害者用 15(満室) たまに家族とけんかして、家出(?)してきた従業員(利用者)も1~2泊している。やさしい管理人が相談にのっている。 |

3.今後の課題と展望
(1)課題 |

ア 従業員の高齢化 福祉工場は、60歳定年制である。作業密度はやはり企業よりも薄く居心地がいいのか、設立して10年余が経過した今、従業員のうち10年選手が12人も在籍している。年をとって能力が低下した部分は健常者(含パート従業員)がカバーしている。厳しい経済下の運営であり、人件費のアップと合わせ、今一番の課題である。 イ 家族の高齢化 従業員が年をとれば、その両親はもっと高齢化しており、これまでは面倒を見る側だったのが面倒を見られる側になっている。中には親がもう他界してしまった従業員もおり、帰れる場がなくなってきている。 ウ 貧富の差の拡大 年金の受給者と非受給者では、5年、10年後には貯蓄に大きな差が生じてくる。民間の一工場ができることには限界があり、保護雇用などの障害者への公的配慮がまだ不足していると思われる。 エ 優先発注制度促進 いくつかの県などでは近年実施されているが、栃木県ではまだまだ遠いようである。しかし、経営を考えた時、受注は絶対である。入札制度も含め、これこそ補助なしで実現できる一番簡易なものだと思うのだが、既得権はまだ残っている。 |

(2)今後の展望 |

働く障害者にとっては、雇用されることが自己実現につながる。QCサークルやワークシェアリングなど、まだまだ企業に比べれば稚拙な部分が多くこれからだが、常に福祉と雇用を両立できそうな経営を目指していきたいと考えている。 治具の開発や職場の整備など日常的な改善は当たり前であり、作業効率も上げていかなければ生き残りはできない。しかし、当法人は企業と違い、一定の目標を数字のみで掲げ、限られた枠の中でのみ活動できる障害を持った人達だけの組織ではない。当法人が障害者雇用を維持するにあたって心掛けていることは、働き易い環境を作ること、心のケア、サポートにつきる。 障害者の雇用を、何か特別良いことをしているという感覚ではなく、自然な形で継続していきたいと考えている。 |

4.まとめ~福祉工場の役割
福祉工場で働く障害者にとって、福祉工場は(1)自己実現の場、(2)一般企業を目指す場、(3)能力はあるが緩やかな就労をしたい人の場、という役割があるとうかがった。一般企業であれば、就労可能な障害者に企業のペースで働いてもらうことが基本であるのに対して、同じ雇用の場であっても大きな違いがあることが分かった。 また、雇用の場ではあるが、本人の障害への支援だけでなく、本人を支える家族への支援も含めて提供することによって障害者が安定して働くことができるのだという説明を受けた。福祉工場の役割として、現行の福祉工場の職員配置基準の対象となっていない家族への支援が必要であり、障害者の雇用を継続するためには制度を改善すべきであると感じた。 福祉工場で働く障害者の多くは、一般企業での就労は難しいが授産施設では物足りない、企業と授産施設の間に位置するということで、最低賃金適用の除外という労働能力評価を受けている従業員も数名おられるとのことである。最低賃金適用除外後の所得保障の問題を考えると、公的な制度として賃金補助等を確立することによって、福祉工場の目的の一つである「一般企業を目指す場」の機能をより強化でき、多くの障害者が一般企業で働くことも視野に入れながら、福祉工場を訓練の場として活用することも可能になるのではないか。 障害者が安心して働く場として、福祉工場を増やしていくことが必要と思われるが、福祉工場を増やしていくためには安定した職種や作業量の確保が課題であり、企業だけではなく公的な支援策や受注を増やしていくことが課題であると実感した。 (執筆者:社団福祉法人足利むつみ会理事長 阿由葉 寛) |

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