障害者が助け合い能力を発揮する職場づくり ～より高いステップへの挑戦に向けて～
2004年度作成
| 事業所名 | SMBCグリーンサービス株式会社 東京本社 （三井住友銀行の特例子会社） | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 所在地 | 千葉県習志野市 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 手形・小切手帳の印刷作成 マル優書類点検及び保管業務 一括振込依頼書等のマイクロフィルム撮影業務と保管業務 夜間金庫入金伝票発行業務 手形・小切手帳作成電話受付センター 経費支出確証の費目別金額集計と編綴業務 提携先無効カードの回収業務 外貨選別作業（ユニセフ募金） | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 35名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 27名
 SMBCグリーンサービス（株）全体 障害者数 88名
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1.事業所の概要と障害者雇用の状況
（1）事業所の沿革 |
| 平成2年3月に、旧住友銀行が経営方針の一つである事業と社会の調和を図るため、都市銀行では初めて身体障害者の雇用促進を目的とした全額出資の特例子会社「泉サービス株式会社」を設立し、平成3年4月1日に東京本社（千葉県習志野市：当事業所）、同年11月1日に大阪本社（大阪府東大阪市）、平成5年4月1日に多摩営業所（東京都多摩市）で業務を開始している。 平成13年7月に「SMBCグリーンサービス（株）」と社名変更し、三井住友銀行の特例子会社として重度障害者や知的障害者の職域拡大と戦力化に積極的に取り組んでいる。現在、企業全体で、重度障害者67名を含む88名の障害者を雇用している。 |
（2）障害者雇用の状況と経緯 |
| 平成2年3月に会社設立後、障害者雇用納付金制度に基づく助成金制度等を活用して重度障害者に適応したバリアフリー化、印刷機の自動化、電動車いす等の施設・設備の整備を行い、平成3年4月に就職経験のある障害者10名、新卒障害者6名を採用しスタートした。 当初は、就職経験者であっても業務上は新卒者と同様であったことから、社会人としての「いろは」からの教育を行い、大変なご苦労があったようである。しかし、コミュニケーション手段に日誌を取り入れ、「やったことを日誌に書くこと」の徹底とか、「質問をさせる」「約束を守る」を徹底させること等で乗り切り、問題なく業務遂行のできる社員に育てている。 障害者の働きやすい職場つくり、作業環境の改善等の努力により、事業も安定してきた平成8年11月には、知的障害者を1名採用し、雇用する障害者も20名になった。平成12年3月には、知的障害者をさらに1名を採用して、現在は2名である。 その後も、更なる雇用率の向上を目指し、業務の拡大や施設設備の整備、環境の改善に努め、平成16年8月現在では、東京本社の従業員35名のうち障害者は27名である。 これらの取り組みが評価され、日本障害者雇用促進協会の主催する「職場の施設・設備改善コンテスト」で平成4年9月に「奨励賞」を受賞、更に「障害者雇用促進のための職場改善コンテスト」で、平成12年9月に「優秀賞」を受賞している。また、障害者の雇用設備を評価され平成11年8月には「日経ニューオフィス審査委員長特別賞」も受賞している。 |
2.理解し能力を高めあう職場づくりの取り組み
（1）職場づくりの基本方針 |
| 会社設立のスローガン「仕事にも、生活にも、大きな夢を持とう・・・より高いステップへの挑戦を試みよう・・・」のもとに、次の5つの行動指針を掲げて、重度障害者をはじめ障害の異なる者同志が、理解し合い、互いに助け合い、能力を発揮できる職場づくりを目指している。 ＜行動指針＞ ア 笑顔で明るい風通しの良い職場をつくろう イ 礼儀正しく規律を守ろう ウ 仕事は責任をもってやりとげよう エ チームワークを大切にしよう オ 創意工夫で働きやすい職場をつくろう また、社内ではいつも気兼ねなく「お願いします」と声をかけ、それに「はい、わかりました」と気持ちよく応え、「ありがとう」と感謝する、この3つの言葉（手話も含む）を大切にしている。 |
（2）コミュニケーションつくり |
| 管理者全員が障害者職業生活相談員の資格を取得するとともに、障害者理解を深めるためのコミュニケーション手段として「日誌」を取り入れ、日誌を通して業務の理解状況を把握し習熟支援を行うだけでなく、コミュニケーションの保持を図っている。 また、障害者27名のうち7人が聴覚障害者であることから、「手話はわが社の共通言語」として、朝礼等が手話を交えて行われているだけでなく、月2回は聴覚障害者を指導者にした全員参加の手話勉強会を行い、全員がコミュニケーションに手話が使えるようにして意思疎通を図っている。  手話勉強会 |
（3）指導員制度の導入 |
| 業務のベテランとなった障害者を「指導員」に任命し、新人及び配置換え等で転入してきた障害者の指導を行わせている。指導員マニュアルは全員が理解できるように配慮して作成されているが、ベテラン中心で改善を加えている。 |
（4）ジョブリーダー制度の導入 |
| 資格、経験、人間性に優れたものをグループリーダーとして、良きチームワークつくりに当たらせている。現在、グループリーダーは4名おり、全員の期待と意欲向上に繋がっている。 |
（5）業務の多役化による能力開発等 |
| 「誰でも、どんな仕事でも出来るように」を目指し、業務の多役化を図っている。 これは、通常業務とは別の業務を体験させることにより、業務の一体化を促進することを目的に実施されているもので、2週間程度、他の部門に配置転換のうえ、ベテラン障害者によるマンツーマンによる指導によって多役化が図られている。 また、月3回パソコン教室も開かれており、障害者が自分の体験を生かしながら指導に当たっている。 このような取り組みの好影響か、平成16年度の千葉県障害者技能競技大会には身体障害者対象のパソコン表計算部門に2名、ワープロ部門に2名及び知的障害者対象の喫茶サービス部門に1名が自らの意志で参加を申し出ている。特に、喫茶サービス部門は、日常の仕事とは全く関係のない業務に従事している、しかも、自閉の強い障害者から予想外の参加申し込みであったようだ。そのような積極性の出て来た事を喜び、社員全員が食事や休憩時間に練習相手を努めるなどほほえましい光景が見られたとの事。銀賞1名、銅賞2名というすばらしい結果を得て、自己能力の確認と更なるレベルアップの挑戦意欲が全員に広がっている。 なお、マンネリ化の防止と更なる挑戦を促すため、全社員に「個人の年間計画」を立てさせ、その実現に向けた指導を行い、能力向上を支援している。 |
（6）改善活動 |
| 仕事への意欲向上と効率化等のために「改善提案制度」を設け、改善提案を推進している。改善提案は採用されると人事評価に加点されることもあるが、月平均10件程度の提案があり、業務の進め方をはじめ設備や作業改善に役立っている。 |
（7）社員の情報交換 |
| 「井の中の蛙」となることの防止と、社員がお互いのことをもっと知り合ってもらうことを願い、情報誌「Spring」を毎月発刊している。社員から投稿された原稿は総務部に勤務する障害者が編集を担当するなど、障害者中心に運営されているが、積極的な投稿が多く、うれしい悲鳴をあげている。 また、これら障害者からの投稿からは、公式に知られざる能力等の発見があり、それぞれの障害に対する理解を深め、本人たちの意思疎通におおいに役立っている。  「Spring」の編集作業 |
（8）バリアフリーへの配慮 |
| 業務開始当初には車いす使用などの重度障害者を受け入れるため、エレベーターやスロープ及び手摺りの設置、OAフロア化、トイレの改修など施設のバリアフリー化を進めた。 さらに使用する印刷機の自動化等を行い、聴覚障害者のためにランプによる表示を要所に配置する等の他、書類整理用のスカイファイルの設置やリフト付車いすの導入等、常に働きやすい職場環境つくりに努めている。 また、それだけに満足することなく、配置した障害者の意見を取り入れ、安全確認ミラーの設置、配置の変更、設置されている台の高さの変更等細かな配慮をその後も継続的に行っている。
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（9）ボランティア活動 |
また、ユニセフ募金の外貨選別作業をボランティア活動で受注し、社員全員が活動に参加し、社会への貢献意識を高め、チームワークと責任感を育てている。 外貨選別作業（ユニセフ募金） |
（10）ボランティア活動 |
| なお、途中から受け入れが始まった知的障害者の職場適応のために、挨拶やエチケット等社会人に必要な事柄について職業生活相談員と指導員がその都度指導を行い、業務に必要な銀行支店名等について、毎日、宿題にして早く身につくよう工夫しているほか、家庭との連絡日誌で情報の共有を図り、問題が見つかったときは職業生活相談員が素早く対処している。そうしたきめ細かな対応が、「体調不調でやむなく退職」という以外、離職する者がいないという定着の良さとなって現れている。 |
3.まとめ～チームワークで責任を果たす職場に
（1）取り組みの効果について |
| 全社一丸となった、これらの取り組みによって、社員のやる気、生きがいが随所に感じられ、以下のような好ましい結果となって現れている。 ア 障害者自らの意識改革による職場つくりによって、定着率が極めて高い。 イ 障害者同士の助け合いによって業務が遂行されることによる強いチームワークと、障害が補完されることにより比較的高い生産性が得られている。 ウ 仕事と生活の目標に向けて積極的に挑戦する気運が盛り上がり、職場を明るくしている。 エ 責任を持って確実に仕事をこなしていることから、親会社の信頼も高く、業務拡大、雇用の増加に繋がっている。 |
（2）おわりに |
| 「仕事にも、生活にも、大きな夢を」のスローガンのもと、職場つくりに5行動指針を掲げて、根気良く実践し改善を進め、事業の拡大と障害者の雇用拡大につなげた当社の事例は、特例子会社のみならず障害者多数雇用の企業にとっても良きベンチマークと言える。 仕事と生活に果敢に挑戦する社員の意気込みは、健常者以上であり、お互いに助け合い、補い合ってチームワークで責任を果たす風土は、企業の求めるものであり、当事業所の職場つくりは通常の企業にとっても良きモデルとなるだろう。 社員の夢にこたえ、育てながら障害者雇用の取り組みを進めて行くためには、更なる業務拡大に努め、親会社に貢献できる経営基盤を確立していかなければならないであろうし、雇用を維持継続するために、高齢化した障害者対策も重要な課題となる。一層の奮闘を期待したい。 （執筆者：経営士・中小企業診断士・技術士 川崎秀雄） |
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