生き活きと働くための人づくり-多様な業務を行う知的障害者が主役の特例子会社-
2004年度作成
事業所名 | 山武フレンドリー株式会社 (株式会社山武の特例子会社) | |||||||||||||||||||||
所在地 | 神奈川県藤沢市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 清掃業務 山武グループのPR誌の発送業務 生産ライン補助作業・副組み付け作業 メール集配業務 印刷・コピーサービス業務 エアクリーナーのセル洗浄・メンテナンス作業 工場廃棄物の回収緑地維持管理業務 開発関係実験データ記録支援業務 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 17名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 14名
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1.事業所の概要と経営方針
(1)沿革 |

山武フレンドリー株式会社は、オートメーション機器メーカーである株式会社山武の特例子会社として、1998(平成10)年2月に設立された。同年4月に知的障害者の社員10名で操業開始、翌5月に特例子会社として認可された。資本金は1,000万円である。 2004(平成16)年9月1日時点の概況は以下のとおりである。
「山武フレンドリー」という社名は、同社の企業理念「セーブメーション&フレンドリー」に由来する。セーブメーション(savemation)とは親会社による造語で、セービング・バイ・オートメーション(saving by automation)すなわちオートメーションにより省エネ・省資源・省力を通じて社会に貢献するという意味を持っている。 |

(2)経営方針 |

ア 知的障害者だけを雇用する フレンドリー設立の背景として、親会社の障害者雇用率は法定雇用率以上の水準を保っていたが、知的障害者の雇用に苦慮していたことがある。親会社の創立90周年記念行事におけるアイデアコンテストで「知的障害者だけの会社をつくりたい」という提案があったことから、フレンドリーが設立された。 これ以後山武グループでは、身体障害者は従来通り親会社で雇用し、知的障害者はフレンドリーで雇用する方針をとっている。2004年6月1日時点の山武グループの障害者雇用率は1.93%で、フレンドリーはそれに一定の貢献をしている。 イ 親会社との一体化 フレンドリーは親会社の藤沢工場内に位置する。社員の就業時間や休日・休暇、加入する社会保険は親会社と同一である。社員食堂やロッカー、トイレといった施設は親会社との共用である。同社は親会社で発生する周辺的業務を手がけており、親会社に出向いて職務にあたる社員もいる。 特例子会社については、障害者の差別や隔離につながるという疑問あるいは否定的な見方もあるが、フレンドリーは親会社との一体化の度合いが比較的強く、仕事を通じてノーマライゼーションを実現しているといえよう。 ウ 運営にお金をかけない フレンドリーは運営にあたり、設備改善等に費用をかけていない。更に独自の管理体制や賃金体系により、低コストの運営を実現している。 スタッフが3人と少ないのも、運営にお金をかけない方針を反映している。知的障害者を雇用する際には専任の指導担当者の配置が推奨され(※1) 、多くの特例子会社もこれを実践している。しかしフレンドリーではこのような指導担当者を一切置かず、社員の職場適応や職務遂行の支援は全てスタッフが担当する。この点が同社の大きな特色の一つといえるだろう。 またこのことは社員の自主性や能力の向上にも寄与し、先輩社員が新入社員や実習生に仕事を教えたり見学者に自分の仕事を説明するといった行動にもつながっている。 エ 福祉機関との連携を図る 知的障害者が職業生活を継続するには、福祉機関や家庭・学校と連携を図り、職場の支援に加えて私生活面の支援も必要不可欠となる。彼らは一般的に心身の自己管理が不得手で、私生活が仕事に影響しやすく、事業主の雇用管理上の負担にもつながるからである。 社員の私生活にどこまで関与すべきかについては、企業によってさまざまな考え方がある。知的障害者とはいえ一人前の社会人だから、関与は必要最小限にとどめるとする企業もあれば、顧客の信頼や理解につなげるために、必要に応じて可能な限り支援する方針をとる企業もある。 フレンドリーの場合、設立段階から一貫して地域の就労援助センター(※2)との連携を保っており、私生活面の支援は就労援助センターが担当する。このように企業と福祉の役割を明確にすることで、会社側は雇用管理上の負担を軽減し、本来の業務に専念できる。フレンドリーが家庭と連絡を取るのは、重要な変更や大きな問題が生じたときである。 同社は事業開始当初、家庭と密に連絡を取り合っていた。しかし年月が経ち、業務が軌道に乗ったことと、常習欠勤や金銭の貸借といった大きなトラブルがほとんどないことから、会社が家庭と連絡を取ることは徐々に少なくなっていった。 ※1 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構編集『障害者雇用ガイドブック(平成15年版)』雇用問題研究会 p. 241 ※2 地域就労援助センターは、1991年に神奈川県の単独事業として始められた。この事業は、就労に際し継続的なフォローを必要とする障害者を対象に、就労の場を確保することと、職場定着を支援することを目的としている。2004年9月時点で地域就労援助センターは神奈川県内に11か所あり、いずれも社会福祉法人又は財団法人に運営が委託されている。 |

2.社員の仕事
(1)多様な業務 |

フレンドリーは前述のように親会社で発生する周辺的業務を担当しており、その内容は多岐にわたる。このように多様な業務を引き受ける基盤としては、誰かがしなければならない周辺業務はどの企業にでもあり、それらを集めれば事業として成り立つことと、業務をある一定のルールや基準に基づいて標準化・単純化していけば、学習や理解に難のある知的障害者も仕事ができる、という考えがある。しかもフレンドリーは顧客の信頼を獲得するため、仕事の依頼を断らない方針をとっている。 フレンドリーが多様な周辺業務を一手に引き受けることで、親会社の社員は本来の業務に専念でき、工場全体の効率化に結びつけられる。また社員も多様な職務をこなすことにより、彼らが本来持っている能力や意欲、自主性が引き出され、フレンドリー内の活性化、すなわち「生(い)き活(い)きと働く」ことにつながっている。
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(2)1日の流れ |

次に「今日の目標」の唱和を行い、スタッフが社員に当日の作業スケジュールの伝達を行う。伝達は口頭による指示のほか、ホワイトボードを用いることもある。 朝礼後、社員は各自作業に入る。フレンドリーは多様な業務を引き受けており、1人の社員が担当する業務も多岐にわたる。このため社員は曜日別あるいは時間別に決められたスケジュールに従って、その日の作業をこなしていく。例えばある社員は、月曜と木曜に工場内の廃棄物回収、火曜にエアクリーナーのセルの洗浄及びメンテナンス、水曜日と金曜日に廃棄物の解体・分別を行う。 このほか、月に一度の仕事が入ることもある。また別の社員は朝礼の後、植物の水やりと除草作業を行い、その後昼休みまで清掃を行う。午後はまず午前中にしていたところとは別の建物で清掃を行い、終わったら廃棄物の解体・分別作業に入る。その後植物に水をやり、作業場の清掃と終礼に参加する。 職務遂行にあたっては、「かきくけこ(考えて・決まりを守って・工夫して・計画的に・行動しよう)」を励行し、絶えず考えながら働く、すなわち考働(こうどう)することを奨励している。 社員は一つの仕事が終わったときや、異常が発生したときには必ずスタッフに報告し、「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」を徹底している。社員の報告を受けたスタッフは、次の作業の指示を出したり、異常に対応する。 午後4時55分になると、社員は作業を止めて作業場の清掃を始める。5時5分から終礼が始まり、その日の反省や報告が行われる。その後社員は当日の目標、当日した仕事、当日の反省、翌日の目標、当日の体調等を各自業務日誌に記録して、1日の仕事を終える。 |

(3)メール部門の移転 |

フレンドリーのメール部門は、従来親会社の一角で業務を行っていたが、2004年8月31日に特例子会社内へ移転し、翌日よりそこで業務を行っている。移転前はスタッフの目が届きにくいこともあり、親会社の社員が異常への対処等にあたっていた。しかしその社員の退職に伴い、特例子会社内へ移転することとなった。移転作業及びフレンドリー内のレイアウト変更は、メール担当の社員だけでなく、他の社員も協力して行った。 メール業務は、次のようなサイクルで行われる。まず藤沢工場内の郵便物を集荷し、宛先別に仕分けする。その後トラックが来ると、集荷・仕分けした郵便物をトラックに乗せ、同時に藤沢工場宛の郵便物を受け取る。受け取った郵便物は部門別に仕分けし、各部門に配達する。このようなサイクルを午前中に1回、午後に1回、1日合計2回繰り返す。宛先が不明の郵便物、例えば古い組織名が書かれたものや退職者宛のものは、所定の箱に入れておき、後にスタッフが調べる。 メール部門の移転により、親会社の社員が郵便物の差し出し等でフレンドリーに出入りすることが多くなり、親会社でフレンドリーの認知度が高まることが期待される。 |

3.知的障害社員のための技能習得のシステム
(1)作業上の工夫 |

フレンドリーでは、学習や理解に難のある社員が作業しやすいように、さまざまな工夫をしている。 数えることが不得手な社員が作業をするときには、決められた数がセットになっている資材を用いたり、スタッフがあらかじめ準備をした上で行う。これによって社員の不得手をカバーし、正確かつ効率よく作業ができるようになる。 例えば、部品をビニール袋に封入する作業では、社員は200枚が1セットになったビニール袋を用いる(図1)。また一定数の箱を組み立てて、それを大きい箱に詰める作業では、作業前の準備として、スタッフが組立前の箱を決められた数だけあらかじめ大きい箱に入れておくようにしている(図2)。 図1 部品をビニール袋に封入する ![]() 図2 一定数の箱を組み立てて、それを大きい箱に詰める ![]() |

(2)技能習得のための育成 |

フレンドリーでは、設立直後、就労援助センターのスタッフが一定期間常駐し、障害特性の理解や指示の出し方、コミュニケーション等について支援にあたった。その後社員の技能習得はスタッフあるいは他の社員の指導・支援により行われている。前述のように、専任の指導担当者を置かないことと、社員が他の社員や実習生に仕事を教える点は、フレンドリーの大きな特色である。また同社は多様な業務に携わるため、社員のローテーションを行う。これによって一人の社員が担当できる業務の幅が広がり、能力や自信、責任感の向上にもつながる。 例えば2004年4月より清掃業務を始めたある社員は、初めのうちはスタッフのほか同僚にも作業方法を教わった。わからないことがあれば、その社員は自ら同僚に質問をして、解決を図った。誤った方法で作業をしたときには、同僚から注意を受けたこともあった。このようなプロセスを経て、開始から5ヶ月後の9月には、その社員は一人前の戦力として清掃業務に取り組んでいる。 分別作業では、さまざまな工具を用いて廃棄物をさまざまな物質に分ける。社員は工具の使い方をOJTで学習した。更に作業の繰り返しにより、ビスやボルトによって使う工具も異なる、といった細かなことも習得していった。物質の区別には見本を用いた。社員は見本の鉄を磁石につけたりヤスリでアルミニウムに傷をつけることで物質の材質を学び、分別作業につなげていった。 名刺の作成を担当する社員は、2004年3月にこの業務を親会社から引き継いだ。名刺は原則として仕様書に従ってコンピュータで作成する。しかし細かい注文に応じきれないときや、わからないことがあるときには、親会社の前任者に問い合わせることもある。 フレンドリーでは、「見学を受けるなら、自ら学ぶ姿勢を持つ」という考えに基づいて、社員自身が見学者に自分の仕事を説明する。これによって仕事に自信と責任を持ち、技能の更なる向上にもつなげられる。またスタッフにとっては、自分の仕事に専念できるほか、説明から社員のその日の体調等がわかる、というメリットもある。 |

(3)今後の課題 |

今後の課題としては、次の2点があげられる。 第一は、社員の技能習熟度を把握し、将来の配置や育成に活かすことである。この課題に対しては、社員名と作業を一覧表にし、誰が何をどれだけできるようになったかを示すスキルマップ(※3)の作成を検討している。 第二は、マニュアルを整備することにより、業務の標準化・単純化で知的障害者も仕事ができるという考えを、更に具現化することである。これによって、品質向上、作業効率の向上、安全の確保、技能習熟、職域拡大などが期待できる。 ※3 スキルマップを導入し、知的障害のある社員の育成に活用している特例子会社もある。 |

4.生(い)き活(い)きと働くために
(1)社内行事 |

フレンドリーはバーベキュー大会、忘年会、歓迎会、送別会といった行事を、節目ごとに行う。このような行事は、心身をリフレッシュする、社員同士、あるいは社員とスタッフの間の親睦を深める、更にそれらによって意欲や効率の向上につなげられる、といった効果がある。例えば社員が新規に採用されると入社式を行い、先輩社員全員がメッセージを送る。これによって新入社員は会社に受け入れられた、皆に認められたという感覚を持つようになり、その後の仕事への動機づけにも影響する。 行事の企画や準備、後片づけは全て社員が行い、費用は社員の給与から毎月一定金額を積み立てて賄う。行事は勤務時間外に行うこともあれば、朝礼や終礼を充てることもある。仕事のみならず、このような行事でも主役は社員である。
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(2)実習生の受け入れ |

フレンドリーは実習生の受け入れにあたって、周到な準備ときめ細かな配慮を行っている。実習は3日間にわたって行われ、この間実習生はさまざまな作業を体験する。作業の指導や評価にあたるのはスタッフだが、社員は実習生に対して友好的で、彼らが作業を教えることもある。実習の様子は、数値・グラフ・写真・言語を用いて作業ごとに詳細に記録され、A4用紙数枚にわたる報告書としてまとめられる。 実習生及び関係者にとって、事前の情報収集や、実習生自身の関心・適性・能力・体力・性格等の見きわめは非常に重要である。しかしこれらが不十分なために、実習を途中で中止するケースはままある。しかも実習の中止によって、実習生本人が就労への意欲を失う、本人や関係者と実習先企業との関係が悪化する、実習先企業に対して悪いイメージを持つといった懸念も出てくる。フレンドリーは、実習生が自ら学ぶ姿勢を重視することと、実習の経験が実習生のその後の人生にプラスの影響をもたらすことを狙いとすることから、実習を安易に受けない方針をとっている。実習の中止やそれに伴う懸念を防ぐためには、実習生の事前準備に加えて、フレンドリーで実践しているように、企業側が明確な方針と十分な体制をもって実習生を受け入れることが、一つの方法として有効であろう。 |

(3)社長とスタッフの役割 |

フレンドリーの社長は、親会社の藤沢工場長を兼務している。社長として、工場長としての職務をこなす中、昼食はフレンドリーの社員ととるようにしている。また毎週月曜日はフレンドリーの朝礼に出席する。このようにして、社長は社員やスタッフとコミュニケーションを取り、現状を把握するように努めている。 スタッフの主な役割は、社員が働きやすい環境を作ることである。作業スケジュールの設定や、作業の準備、冶具の製作、異常への対応等は、全てスタッフがこなす。また14名の社員の特性を見きわめることは、スタッフの重大な責任である。社員が14名いれば14通りの特性があるので、その活かし方次第で業績、ひいては会社自体の将来が左右されるからである。スタッフには短期的・日常的に見る「虫の目」に加えて、長期的・俯瞰的に物事を見る「鳥の目」も要求される。 フレンドリーは設立から6年が経過し、設立当初のスタッフは、異動や退職により全て入れ替わった。スタッフは前任者が築いた基盤を生かしつつも、「今日が最悪」と考えて、「ダラリ」すなわちムダ・ムラ・ムリをなくし、更なる改善に向けて日々努力している。 |

5.おわりに -主役は社員-
近年、障害者雇用に対する関心が事業主や福祉関係者の間で高まっている。その背景としては、企業の社会的責任に対する意識の高まり、法定雇用率未達成企業名の公表(※4) 、障害者雇用促進法の改正に基づく除外率(特定業種について障害者の雇用義務を軽減する制度)の段階的縮小、少子高齢化に伴う労働力人口の減少等、さまざまな要因がある。 このような関心の高まりと同時に、政策面の基盤も強化されている。2002(平成14)年12月24日、障害者基本計画(平成15~24年度)及び新障害者プラン(重点施策実施5か年計画:平成15~19年度)が閣議決定され、その中で障害者の就労支援は重要な課題の一つとして位置づけられている。更に厚生労働省・障害者の就労支援に関する省内検討会議は、2004年7月9日、「障害者の就労支援に関する今後の施策の方向性」を打ち出した。障害者試行雇用事業(トライアル雇用)(※5)や職場適応援助者(ジョブコーチ)事業(※6)といった、既に実施されている施策も、障害者の雇用促進の上で一定の成果をあげている。 しかし制度が整備・拡充され、事業主や福祉機関が努力しても、障害者本人が主体的に働かなければ制度や努力は功を奏したとはいえない。主役はあくまでも障害者自身である。フレンドリーはこのことを、現場・現実・現物という三現主義の次元で体現している企業といえよう。 (執筆者:明治大学講師 青木律子) ※4 2003(平成15)年に1社、2004(平成16)年に1社の企業名が公表された。 ※5 この事業は、実際の職場に障害者を短期の試行雇用の形で受け入れてもらい、常用雇用への移行を促進することを目的としている。平成15(2003)年度実績は、実施者数3,162人、うち常用雇用移行者数2,081人で、常用雇用移行率は81.1%であった。 ※6 この事業は、知的障害者、精神障害者等の職場での適応を容易にするため、職場にジョブコーチを派遣して、きめ細かな人的支援を実施するものである。平成14(2002)年度実績は、実施者数2,120人、終了1か月時点定着率90.5%、終了6か月時点定着率84.4%であった。 |

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