継承される福祉の理念が雇用の場を育む
2004年度作成
事業所名 | 株式会社坪與 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 福井県吉田郡永平寺町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | プラスチック成形加工及び新建材製造業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 23名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 5名
![]() |
|

1.事業所の概要と障害者雇用の状況
(1)事業所の概要 |

株式会社坪與は、国道365号線東古市町から10分、曹洞宗大本山永平寺に至る途中の諏訪間地区にある。最近は、福井市から国道156号線が同地区を通り便利になった。 この地方は、福井県を代表する繊維産業の織物工場が集結していた。近隣の主婦の労働力を主力に小規模ながら本県を全国1位の人絹、化学繊維の生産量を誇る基盤になっていた。近年は、中国等の追い上げが厳しく、転業、廃業の推移をたどり、本県の産業構造の変革にいたっている。 当社は、昭和6年に繊維機業場として創業、昭和25年法人化し活発な製造活動を行っていたが、繊維改革の波は大きく、昭和51年にプラスチック加工部門を導入。更に56年には、繊維部門を全廃し、プラスチック加工、インジェクション射出成形を主力生産に転進した。 |

(2)障害者雇用の動機 |

ア 事業主の意識 昭和30年に、事業主である坪川真士氏の母堂が里親になり、ある知的障害者の女性を同居させ家族同様に生活していたことがある。この障害者は、家族の一員としての日常生活を送りながら、出来る限りQOL(生活の基本)の充実したサポートを受け、青年期から成人期まで20年間の長きに至り生活を共にした。 当時は養護施設もなく、受け入れた家族の慈善心と大きな理解によることが大きかった。その後、社会的には障害者に対する理解も進み、入所施設に受け入れられたようである。 母堂は「今は施設もできて、養護や自立生活に対する種々の指導が受けられるのはたいへん良いことだ」と言われており、障害者の人権を大切にする気持ちを表している。 このことは、経営者である坪川社長にも大きな影響をもたらしており、ノーマライゼーション(障害者の社会的支援の基本)の理念が育まれた。 イ 事業種転換による職域拡大 プラスチック成形加工、新建材加工事業に転換後10数年経過して漸く軌道に乗り、作業工程も標準化される中で、障害者にも適応可能な作業部署が見出されてきた。 |

(3)障害者の雇用状況 |

平成7年、公共職業安定所の紹介により下肢障害者(軽度)を採用し、新建材加工部署に配置(1年間努力をしたが立ち作業が身体的に合わず退職した。)。 平成8年、知的障害者(重度以外)を採用、継続就労中。 平成14年、精神障害者を採用、仕事に対する意欲も旺盛で継続就労中。 平成16年6月、知的障害者2人(重度1人、重度以外1人)及び精神障害者1人を採用。この3人は、作業能力及び持続力がやや劣ることから短時間で就労中。 現在雇用している障害者5人のうち、2人はプラスチック成形加工部門、3人は新建材加工部門に所属している。これらの障害者は全て安定所の紹介によるもので、平成16年の採用者3人は、福祉施設からの紹介後、職業安定所を経由している。 |

2.知的障害者・精神障害者の作業状況と雇用管理
(1)作業内容 |

|

(2)採用と配置 |

基本的には、知的障害者は単純継続作業、精神障害者は少し複雑な作業に向けることとして、最初からプラスチック部門と新建材部門には振り分け区分することはない。 両部門統括の工場長は、業務遂行援助者でもあり、障害者を新規採用する都度、作業選定して直接指導を繰り返し行い、適性を見極めて配置している。 平成16年採用者は3人同時と多数であったので、6ヶ月間の職場適応訓練の実施及び期間中において2ヶ月間にわたり障害者職業センターのジョブコーチの支援を仰いだ(事業所内での労働習慣・対人関係形成・作業遂行態度等の指導)。しかし、当該3人は、作業能力及び持続力がやや劣ることもあり、勤務時間を短時間とするよう配慮している。 配置後は、各部門の担当者(リーダー格)が作業細部の指導、仕上がりの確認等を行い指導援助を継続している。 |

(3)教育訓練 |

OJTは、工場長が継続して担当している。日常少しでも問題(作業遂行状況、人間関係、体調、出勤状況等)があれば、工場長と社長が協議して対処する。 平成14年採用の精神障害者は、仕事に意欲的に取り組んでおりまた能力向上も見られるので、プラスチック成形工2級技能検定受験を勧奨したところ、本人も承諾したので会社として受験させるよう配慮している。周囲の健常者が試験問題や回答等について教示する等協力的であり、人間関係も良い方向に推移している。 メンタルヘルスについてはジョブコーチの継続支援を仰ぐことを考えている。 |

(4)職場改善の努力 |

最初の下肢障害者のために、運搬作業補助の手押し荷台車をバッテリー車(モービルリフト)に変えた。同時に、無機質板を吊り上げ降ろすチェーンブロックも設置した(助成金を活用)。 また、トイレを洋式に改善し不便をなくした(助成金を活用)。 知的及び精神障害者のための改善は特にはしていないが、休憩室の使用は健常者と区別なく気楽に話せるよう配慮している。
|

(5)安全管理と危機管理 |

プラスチック加工部門は、個々の製品は軽量で手作業が多いが、機械の運転や材料、製品(10~30kg)の運搬の際の安全な方法・行動については、日常的に工場長が指導を繰り返している。 新建材部門では、3~4mの長尺の無機質板を切断する際に粉塵がでるためマスクを常用させている。切断機は回転鋸であるから安全カバーの点検や作業手順の指導は毎日実施している。素材の半製品は重量(10kg~15kg)なので安全な台車で運搬することを徹底している。 |

(6)生活指導と健康管理 |

職場生活面の指導援助は工場長が行い、問題があれば社長に報告し対処する。また、メンタルヘルス面は障害者職業センターのジョブコーチ、カウンセラー等の支援を仰ぐこともある。 社長、工場長、一般従業員も一緒に職業生活のことや健康管理のことについても心がけて、和やかで家庭的な雰囲気にしている。月一回は全員個人ミーテイングをおこなっており、問題の早期発見に努めている。 |

(7)賃金の決定 |

基本的には能力主義であり健常者との区別はしないようにしている。但し、平成16年採用の3人については、能力面から最低賃金の除外申請をしている。 |

3.まとめ~障害者への理解
事業主はじめ従業員が障害者に対しての理解度が高く、障害者の雇用率の高さは困難を感じさせない。社長の心に根付いた障害者に対する理解度は、今後の経営にとっても、また彼等の生活に対しても広く活用されることであろう。 現在のところは、視覚、聴覚障害者の雇用は困難であるとしながらも、障害者雇用に前向きの思考は新しい職場の開発にも芽が出ることと考えられる。 (執筆者:社会福祉法人足羽福祉会知的障害児施設元足羽学園園長 松村 進) |

アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。