ポイントは適材適所~聴覚障害者のリーダーを育成~
2004年度作成
事業所名 | 株式会社昭和ドレス塩山研究社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山梨県塩山市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 婦人服製造縫製業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 41名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 4名
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1.事業所の概要
(1)事業内容 |

昭和46年創業以来、ファッション界は時代の流れの中千変万化し、激しく発展を遂げている。華々しく美しい世界を築く道のりは、想像に難い厳しいものもあるが、(株)昭和ドレス塩山研究社は、婦人服製造縫製業として、ファッション界の一翼を担い、共に成長し続けてきた誇りを胸にかざせる今日を得ている。 ここに至るまで、多くの出逢いに支えられ、特に社員との出逢いにより、企業との接点をより深いものへと常に努力し、世界を広げている。 デザイナーが平面に描いたラインをパタンナーが立体とし、ソーイングスタッフが一つの質を作り上げる。そのコミュニケーションは全て「JUST ON TIME」に消費者のニーズに応えるためである。 (株)昭和ドレス塩山研究社は、より高い生産性・高度な技術を備えたフレキシブル対応と、独自の発想を自由に語り合える組織作りを常に目指している。 |

(2)経営方針 |

人間の生き様はこの先もっと感性的・情緒的になっていくだろう。これはファッション界にとって最も注目すべき点であり、今後は企業活動のものさしとして生活文化産業・生活創造型産業という考えが必要である。生活文化を生み出してゆくための活動、中でもファッションは生活そのものになり、人々の生活が変わってゆく活力がファッションエナジーである。 また、ファッションは、どれほど情報機器が導入されたり生産が効率化されようとも「人のビジネス」であり、一人一人が多くの文化に触れること、時代を的確に読みとることが求められる。先輩後輩のふれ合いの中、お互いのパーソナリティーを高め合うことを第一の目的とした教育方針を貫いている。 |

(3)組織構成 |

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2.障害者雇用の理念と経緯
(1)障害者雇用の理念 |

会社が求人を行い、それに応募してきた方が会社の求める仕事が出来るかどうかだけが問題であり、募集した仕事内容に対して障害が支障にならず、一緒に働きたいという意欲があれば、採用を断る理由はない。聴力に障害のある方は、聴力を使わなくても出来る仕事がある。肢体不自由の方であっても、使える部分でできる仕事や出来るようにする工夫が十分可能である。したがって、障害とかに関係なく、仲間として歓迎しバックアップする。ただし、甘えは認めない。つまり、障害者かどうかというのは全く問題ではなく、健常者と全く同じように捉えている。 障害を持っていても、会社の求める役割を果たしてもらえれば、当然のこととして、社員として活躍してもらっている。さらに、定年は60歳だが、仕事が続けられれば再雇用している。即ち、障害者も含めた人材の雇用及び活用の理念としては、「適材適所」の一語に尽きる。 障害者雇用率から見ると、義務の段階ではないが、全く関係なく雇用に取り組んでいる。 |

(2)障害者雇用の経緯 |

山梨県立ろう学校は、聴覚に障害を持った0歳から18歳までの子どもたちが学ぶ山梨県で唯一のろう学校である。学校の周囲は自然に恵まれ、春は桃の花がじゅうたんのように咲き誇る。大正11年に開設、昭和23年に現在の山梨県立ろう学校となった。昭和54年に山梨市万力から現在地に移転新築をしている。校訓は「己に克つ」で、「社会の変化に主体的に対応できる能力と民主的な社会の形成者として必要な資質を養うとともに、個々の能力を最大限に引き出し、調和のとれた人間を育成すること」を目標に教育を行っている。 25、6年前になるが、この学校の一人の先生から卒業生を紹介されたのが障害者雇用の始まりである。その先生のあまりの熱心さに、社長がほだされ、障害者雇用に共鳴したというのが真相である。嘘のような話だが真実であり、社長曰く「その先生との出逢いがなければ、障害者雇用に取り組むことはなかった」とのことである。 経緯を簡単にご紹介する。 その卒業生の就職した会社が倒産し、転職先を探していた時に、卒業生の担当であった先生が、(株)昭和ドレス塩山研究社を直接訪れ、就職のお願いをした。そして、直接社長に会い、話をしたのがきっかけである。 先生は、就職が決まった後も定期的に会社を訪問し、会社側と本人の不安を取り除くべく非常に熱心にサポートしたとのこと。会社側にしてみれば、障害者を雇用するのは初めてであり、とまどいや不安があったことは事実だが、その先生の熱心な対応によって乗り越えることが出来た。その障害者の方は、採用後22、3年間しっかり勤め上げ、定年退職されている。 この経験が、以後の障害者雇用を促したことは言うまでもない。先生からはその後も継続的に卒業生を紹介され、実績とノウハウを蓄積していった。そして、現在ではハローワークを通じて紹介を受け、4名の障害者が活躍している。 先生との出逢いにより、障害者雇用のきっかけと経験を与えられ、「適材適所」という人材活用の考え方の基本を実践するに至ったわけである。 |

3.聴覚障害者の労務管理の工夫
(1)労働条件 |

ア 雇用期間 労働契約期間の定めのない常用労働者。 イ 時間 1日8時間、時間外労働あり(家族の理解を得ている)。 ウ 賃金 正社員であり、通常の能力給体系である。 |

(2)仕事内容 |

特殊なミシンを使った縫製作業で、専門技術的な仕事を担当している方や、アイロン作業、裁断を担当している方がいる。 仕事内容は全て、障害者だから与えた仕事ということではなく、通常の作業であり、その担当者がたまたま障害者であるというだけのことである。
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(3)労務管理の工夫 |

最初の聴覚障害者を受け入れたときは、経験のないところからのスタートであったため、お互いが引け目や緊張感で気兼ねをしていたことも事実である。 初めは、聴力に障害があるということが業務的にどういう影響があるのか具体的にわからず、意思疎通の方法の試行錯誤の連続であった。しかし、時間の経過と共に、「障害者だから」という意識がなくなり、全く気を遣わなくなった。 したがって、障害者だから特別扱いするということではなく、いることが普通であり、なくてはならない空気のような関係を構築している。 即ち、障害者の方をお客さん扱いせず、本人の努力も引き出すことにより、お互いが気を遣わない関係を作ることが、障害者雇用を実現し、継続するポイントである。 ア リーダーの育成 障害者が複数人おり、その中でリーダーを育成した。というのも、障害者へのいろいろな連絡の伝達度を高めるために試行錯誤してきたが、障害者の方の中にリーダーがいれば効果的であり、お互いに助かると考えたからである。 仕組みは次のとおり。
結果として、会社内のコミュニケーションが非常によくなった。
また、そのリーダーは、平成15年度の障害者雇用促進月間において、県内3名の優良従業員に選ばれ、知事表彰を受賞した。 選定理由としては、家庭と仕事の両立、障害のない方以上の仕事ぶり、リーダー的役割、永年勤続等が評価された。一度結婚退職されたが、職場復帰を果たし現在も活躍している。障害者雇用への取り組みによる就業環境が整備されていたからに違いない。 この表彰は、その方にとっても会社にとっても、非常な大きな励みになり、社内で発表し、皆で喜びを分かち合ったそうである。労使相互のモチベーションの向上に大きな効果があると考えられる。 また、そのようなリーダーの育成を継続することが、障害者の活用につながると考えられる。 イ 就業環境の整備 ● 筆談 聴覚障害者に指示や連絡を正確に伝えるために、口頭と筆談を併用することにしている。細かい内容や、難しい内容は紙に書いて伝えることを励行している。 従業員が面倒がらずに、自然に行うことにより、伝達ミスは今まで一度もなく、コミュニケーションの上でも有効と思われる。
聴覚障害者にいろいろな社内外の伝達をするには、FAXやメールを用いるようにして、出来るだけ連絡ミスや誤解が起きないように配慮している。 ● 機器の改良 肢体不自由者が縫製に配属された際、右足が使えないので、左足だけでミシン操作が出来るように改良した。これは、障害者の方の縫製作業をやりたいという意欲と、会社側の「適材適所」の理念が一致して実現したことであり、特別扱いという事ではなく、作業効率の改善として実施している。 ● 安全対策 聴覚障害者が機械を扱うことがあるので、扱う機械には、故障等のエラーが分かるように、ブザーだけではなく、目で確認できるようにランプを取り付けている。 事業主が視察したトヨタ自動車の生産現場を参考に、赤、黄、青のランプ表示を導入し、そのランプの点灯によって速やかに故障等に対応できた。
労務管理の原則は「適材適所」であり、職務変更をして適性をみることもある。また、作業効率面からだけでなく、安全管理の面からも「適材適所」を心掛けているので、作業内容としては出来る仕事だけれども、場合によっては安全配慮の面で配置しないケースもある。 エ 家族との連携 何かあったときには、家族の方に連絡がとれるように体制を整えている。基本は家族と考えているので、緊急連絡や業務連絡、送迎等も含めて家族との協力体制をしっかり作っている。 主にFAXを使って、連絡をやり取りするが、緊急の場合は携帯電話等により連絡する。実際に、電車内に忘れ物をした従業員の遺失物を、会社と家族の協力で、無事に取り戻すことができたこともある。 したがって、家族のバックアップというのは、会社にとっても本人にとっても非常に重要であり、大切にしている。
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(4)助成金の活用 |

活用した助成金は以下のとおりである。これらの助成金・奨励金の制度は、障害者雇用の促進をバックアップしてくれるので、非常に役に立っている。ただし、事前に十分に検討して申請しなければ受給できない場合があるので、今後とも勉強が必要と考えている。事業主はしっかりした予備知識が必要と思われる。 ・特定求職者雇用開発助成金 ・トライアル雇用奨励金 ・障害者雇用のための機械設備の整備に関する助成金(20年以上前) |

4.効果と課題
(1)企業風土の改善 |

ア 中国人研修生とのコミュニケーション (株)昭和ドレス塩山研究社では、毎年、中国人研修生を受け入れている。彼らは、まだ日本語に慣れていないため、意思疎通が難しい面があるが、聴覚障害者は手話を使えるため、彼らと最も早くコミュニケーションをとることが可能であり、一番早く仲良くなることが出来ている。それを起点に、社内全体にコミュニケーションの輪が広がっていく。 障害者雇用は、社内全体の意思疎通を活性化するのに実効性が認められる。 イ やる気の向上 障害者が懸命に働く姿を見ることによって、他の従業員の「やる気」が高まる。 なぜならば、障害の有無による仕事の区別が全くないため、障害がない従業員は「見習わなければ」という気持ちが自然と湧いてくる。障害者だからという意識はないが、頑張らなければ申し訳ないという気持ちになり、活気を生み出していると思われる。 ウ 自己啓発の促進 障害者とより円滑なコミュニケーションを図るために、同僚の従業員が手話を勉強している。会社から命令されたわけではなく、職場の仲間として楽しく交流したいという自然発生的な気持ちから、自己啓発に取り組んでいる。 このことは、自己啓発意欲と成果を高めるものと考えられる。 |

(2)雇用の確保 |

ろう学校との連携をはじめとして、地域の障害者を雇用することで、企業の社会的使命である雇用の確保を実現している。 |

(3)障害者雇用の効果 |

障害者を雇用することにより、企業、障害のない従業員、障害のある従業員、地域の四者が相互にメリットを受け、それが循環する仕組みが機能する魅力ある職場づくりを実現している。 |

(4)今後の展望 |

ア 人材の活用 障害者雇用に関して、課題らしい課題は見あたらない。 障害者に限らないが、適材適所による人材活用を実施することにより、継続して障害者雇用を実施していく予定である。 障害の有無によって区別しない人員配置と処遇(賃金決定)を図ることによって、障害者と健常者の境目のない(ボーダーレス)環境を実現している。これを、確実に浸透させることにより、企業風土の改善も進み、会社と従業員の相互がよくなる仕組みが機能すると考えられる。 イ 安全対策 安全衛生は、企業経営の中の全てに優先する最重要ポイントである。障害者の安全衛生を考えるということは、会社全体の安全衛生のレベルを高めることにつながる。 |

(5)まとめ |

(株)昭和ドレス塩山研究社の障害者雇用の理念である「適材適所」は、障害者に限ったことではなく、全ての従業員に当てはまるものである。 したがって、特別に何かをしているのではなく、普通の雇用管理の中で、障害者雇用に取り組み、それを実現しているということになる。障害者のリーダー育成も、その一つの表れである。 「適材適所」という考え方は、各人の能力発揮を最大限促す一方、障害者の方を含めた全ての従業員に対して「甘え」を許さないという厳しい側面を持っている。即ち、自己啓発や自助努力、向上心などが必要不可欠となってくる。しかし、これこそが社内を活性化し、障害の有無に関わらず継続的に雇用を生み出していく鍵と考えられる。 民間の企業が、障害者雇用率を達成するための取り組みではなく、自発的にかつ積極的に障害者雇用を図るためには、この「適材適所」の考え方抜きにしてはありえない。 「適材適所」や「安全対策」に継続的に取り組むことが、結果として、障害者雇用に取り組むことにつながることが確認できた。 (執筆者:雨宮労務管理事務所社会保険労務士 雨宮 隆浩) |

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