ポイントは自然体~スーパーマーケットでの障害者雇用~
2004年度作成
事業所名 | 株式会社日向 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 山梨県山梨市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | スーパーマーケット | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 250名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 5名
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![]() (春日居店) |

1.事業所の概要と障害者雇用の理念
(1)事業内容 |

(株)日向では、地域社会の発展のために、消費生活、文化生活に貢献できる事業を幅広く展開、ショッピングセンター・スーパーマーケットを山梨県内で営業しており、経営の合理化を推進している。また、移動販売車や、山梨市農地いきいき特区事業(後掲)として「ひまわりファーム」を運営している。
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(2)経営方針 |

株式会社日向の経営理念は、「私達は お客様を大切にします。私達は 商品を大切にします。私達は 仲間を大切にします。私達は 挑戦し続けます。私達は 社会と共に成長し続けます。」である。 また、スローガンは、「地域を愛し、地域社会の豊かな食生活を応援。経営効率・ローコストオペレーション。明るく元気な組織・風土。」である。 以上の経営理念及びスローガンの下に9つのキーワードがある。「勇気」「情熱」「行動」「スピード」「継続」「徹底」「逃げない」「あきらめない」「ごまかさない」である。 |

(3)組織構成 |

●本部
イ 従業員(パート従業員を含む) ●男性162人 ●女性362人 |

(4)障害者雇用の理念 |

株式会社日向では、最大の武器を「人」だと確信し、人材育成のために入社教育OJT、各種セミナー、海外研修など新人教育から管理者教育に至るまで、様々な教育制度の充実を図っている。また自己啓発のために多くの機会を用意して個性と能力を引き出し、フルに発揮できる職場作りに努めている。優れた流通マンとは、企業人としても社会人としても常にリーダーシップのとれる人材であると考え、養成の充実を目指している。 障害者雇用についても、その理念に基づき、障害者だから雇用するという考え方ではなく、他の人の手を借りずに仕事が出来れば障害の有無は関係なく採用している。したがって、入り口の時点において、障害の有無で判断することはない。求人を行いその仕事を担える人材の応募があれば、仕事が出来るか出来ないかだけを基準とする。即ち、障害がなくても仕事が出来なければ雇用することは出来ないが、障害があったとしても会社の求める仕事が出来れば仲間として歓迎し大切にしている。 障害者の雇用に対して拒否反応は一切なく、苦労したことがあったとしても、採用は続けていくという企業風土を持っている。 また、地域貢献という使命を果たすべく、雇用の受け皿としても障害者の方の雇用を前向きに捉えている。 |

(5)障害者雇用の経緯 |

最初は、障害者雇用率を達成すべく取り組みを始めた。しかし、企業の社会的責任として、雇用の確保を図るという使命を果たす中で、自然と障害者雇用も実現されていった。 現在では、ハローワークからの紹介や、障害者自身からの応募があり、障害者雇用が地域の皆様にも浸透してきたと感じている。 |

2.知的障害者の雇用状況~農産センターでの仕事
(1)労働条件 |

6ヶ月間の有期契約。 イ 勤務場所 農産センター。 ウ 勤務時間 8時00分~16時00分の6時間。 エ 賃金 通常の賃金体系であり、障害による区別はない。 |

(2)仕事内容 |

青果の運搬、仕分け、パック・袋詰め作業。
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(3)労務管理の工夫 |

知的障害者を雇用することは、会社としては初めてであり、最初はとまどいがあったが、半年くらいで職場として対応が出来るようになった。 基本的に、障害者のリズムを把握することにより、声を掛けるタイミングや無理に声を掛けないなどの配慮が自然と出来るようになり、現在では、欠くことの出来ない戦力として活躍している。当初は腫れ物に触るような感じだったが、時間の経過とともに「障害者に対して」という意識がなくなり、全く普通となった。 したがって、障害者だから特別扱いするということではなく、いることが普通であり、なくてはならない空気のような関係を構築している。 ア 配属説明 本部の人事担当者が、障害者の方が配属される前に、職場の同僚となる従業員全員に対して、対応等の説明を行っている。 また、配属後も2日おきに現場に出向き、ケアーをしている。この定期訪問は2週間程度行われる。何かあれば、現場の課長を窓口として、迅速に対応できるような体制を整えている。 イ 指導員の配置 特に、訓練期間としては設けないが、特定の指導員を1カ月程度配置し、マンツーマンで指導を実施している。作業手順を教えるだけでなく、職場にスムースに溶け込めるように、周囲が障害者を理解するという期間でもある。 指導員の配置により、精神的なリズムとコミュニケーションの方法をお互いに理解することが出来るようにしている。 ウ 就業環境の整備 会社の人材育成の理念にあるとおり、企業の最大の資産は「人」であり、その個性と能力を引き出し、フルに発揮できる職場作りに努めている。したがって、障害者に対しても例外はなく、最も力を発揮できるように、業務の流れを変えている。即ち、作業効率が最大に上がるように、見直しを行っている。 エ 仕事の配分 仕事の配分としては、一人でも出来る仕事を割り当てるように心掛けている。仕事のスピードは決して速くはないが、ミスがなく確実であり、それに応じた作業割り当てをすることにより、力を発揮してもらえるようにしている。 その作業配分については、職場の同僚全員が障害者の動きを心得ていて、流れを考えているので、必要な仕事を必要なタイミングで割り当てることが可能であり、効率よく作業が出来るわけである。
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3.身体障害者の雇用状況~スーパー店舗での仕事
(1)労働条件 |

6ヶ月間の有期契約。 イ 勤務場所 スーパーマーケット石和店。 ウ 勤務時間 9時00分~16時00分の6時間。 エ 賃金 通常の賃金体系であり、障害による区別はない。 |

(2)仕事内容 |

水産の担当。切り身のパック、値付け、生イカを開く(刺身用の前処理)、イワシを開く(天ぷら用の前処理)等。
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(3)労務管理の工夫 |

障害者であることを忘れるくらいに通常の業務をこなしているので、特に工夫しているという意識はない。 ア 就業環境の整備 作業に使用する物を高所に置かないように、配慮している。肢体不自由であるため、作業をしやすいようにいろいろな物を取り出しやすい位置に置くように段取りしている。 これは、作業効率の点からだけでなく、危険防止という安全管理の面からも非常に重要なことと考えられる。 イ 仕事のペースの維持 どのような場面においても、「無理をせずに、出来る範囲で仕事をしてもらう」という考えが根付いている。無理をすると、ストレスやモチベーションの低下につながる可能性もあるので、マイペースで高いパフォーマンスを維持してもらえるよう、作業指示をしている。
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4.身体障害者の雇用状況~農場での仕事
(1)労働条件 |

1年間の有期契約を更新する。 イ 勤務場所 ひまわりファーム。 ウ 勤務時間 8時00分~17時00分 エ 賃金 通常の月給制であり、障害による区別はない。 |

(2)仕事内容 |

ア 耕耘作業 障害はあるが、トラクターや建設機械の免許を持っており農業土木が出来るため、耕耘作業を担当している。職場では、リーダーとして活躍している。
イ 野菜作り 「丁寧に 丹念に 心を込めて」をモットーとして、お客様に喜ばれるように安心・安全な野菜作りを心掛けている。現在は、特に機械農業化を図りながら有機減農薬農法に取り組み、ほうれん草、小かぶ、サツマイモ、トウモロコシ、チンゲン菜、カボチャ、大根、小松菜、ジャガイモ、茄子等の野菜を作っている。
ウ 雇用の経緯 (株)日向が、山梨市農地いきいき特区事業に取り組むにあたり、農業業務従業員を募集したところ、障害のない方を含めて多数の応募があったが、採用選考で合格した。そして、平成15年10月より着手し、平成16年1月より本格稼働している。 エ 山梨市農地いきいき特区事業について 構造改革特別区域計画の「山梨市農地いきいき特区」が平成15年5月23日に認定された。この特区のポイントは、(1)株式会社・NPO法人などの法人が山梨市から農地を借り受けて、農業経営(果樹栽培・野菜栽培等)を行うことができる、(2)市民農園を開設する場合、株式会社・NPO法人などの法人が山梨市から農地を借り受けて開設者となることができる、ということである。 今まで農業経営を行うために農地を借りたり買ったりすることができる法人は、農業生産法人に限られていた。また今まで開設者になれるのは農地所有者、地方公共団体、農協だけであった。 この事業により市では、この事業の対象となる特別区域を笛吹川右岸(八幡地区・山梨地区・岩手地区)と定めた。市内の遊休農地の90パーセントはこの区域にあることからこの区域に株式会社等の農業参入が図られれば、高齢化・後継者不足等によって遊休化している農地の解消と、その進行に歯止めをかけることができる。またこれにより、優良農地の確保と保全を進め、整然とした農地を維持するとともに、都市と農村との交流も期待でき、農業振興の推進が可能となる。 |

(3)労務管理の工夫~補助器具の開発 |

ほとんど気を遣わず配慮も不要なくらいに通常以上の業務をこなしているので、特に工夫しているという意識はないが、補助器具を含めた就業環境の整備に取り組んでいる。 手蒔きが十分に出来るように、塩ビ管を工夫して道具を内製した。これにより、支障なく作業が出来、障害の有無にかかわらず作業効率並びに正確性が上がっている。 また、種を蒔いた後の土を掛ける厚みが一定になるように、道具を内製した。これにより、支障なく作業が出来、障害の有無にかかわらず作業の効率性並びに正確性が上がっている。 これらは、業務命令ではなく、作業効率の改善という積極的かつ自主的な取り組みの中から生まれたものであり、障害への配慮という意識からスタートしたものではないことは特筆すべきと思われる。
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5.障害者雇用の効果
(1)企業風土の改善 |

障害者を雇用し、活用することにより、企業風土の改善に効果が認められる。 ヒアリングによると、チームワークや協調性が高まり思いやりが芽生えた、思いやりや気遣いが当たり前の職場になった、上司が率先して何気ない配慮や気遣いをすることにより職場全体に浸透していった等が明らかとなった。あいさつやちょっとした会話の中から、わざとらしいものではない自然な気遣いやコミュニケーションが生まれ、職場が活性化し明るくなっている。 |

(2)作業効率の改善 |

障害者が十分に力を発揮できるように業務の流れを見直すことにより、効率が上がり、労働生産性の向上などの業績改善に直接結びつけている。 |

(3)モチベーションの改善 |

障害者自身については、採用されたということで、張り合いや会社の期待に応えたいという労働意欲が顕著となっている。 職場の仲間は、そのような障害者の姿勢を見て、尊敬し気持ちを引き締めやる気を出すという上向きの循環が確立している。さらには、障害者の方を中心とした協調性や団結力なども育成されている。 |

(4)助成金の活用 |

特定求職者雇用開発助成金を受給することができ、非常に助かっている。仕事は全く通常と同じように勤めており、なおかつ助成金を受給できることは、障害者雇用に対して大きな励みとなっている。 |

(5)まとめ |

障害者を雇用することは、企業にとってイメージアップというプラスとなっている。障害の有無で従業員の区別をしないということで、社内外から従業員に優しく温かい会社というイメージを持ってもらうことが出来ると思われる。障害者だからといって、特別扱いすることなく処遇も全く同じようにすることが、良好かつ働きやすい職場関係並びに人間関係を築き、そして維持するための鉄則と考え、実践している。 さらに、障害者が一生懸命働く姿を目の当たりにして、他の従業員にとってもやる気を奮い立たせるというプラスになり、雇用の確保という点で地域にとってもプラスとなっている。当然、障害者自身にとってもプラスであり、三位一体ならぬ四者相互のプラスの効果を生みだしている。 |

6.今後の展望
(1)知的障害者雇用での展望 |

ア 課題 扱っている製品が食品であり、ミスや間違い、不具合等は許されないため、本人からの意思表示をどのように的確に汲み取るかが課題と考えられる。 イ 最適な人員配置 本人の精神的なリズムの変化によって、ミスが起きないような人員配置や作業工程の見直しを検討している。このような改善は、障害のない者が作業を行っても、十分によい効果を上げることができると思われる。 障害者に限らず、企業運営には適材適所による人材活用が必要不可欠と考えられる。作業内容及び作業量に応じて、従業員の能力を最大限に引き出す人員配置を図ることが大切である。 最適な人員配置を徹底することが出来れば、障害者の方の雇用に関して、問題はほとんどないと思われる。 ウ 安全対策 安全衛生を整備するということは、企業経営の中の最も重要な雇用管理ポイントの一つである。障害者の安全衛生を考えるということは、企業の安全衛生のレベルを高めることにつながる。 エ まとめ 適材適所も、安全衛生も、従業員に能力を最大限に発揮してもらうために、雇用管理において不可欠である。これらに取り組むことで、障害者を含め全ての従業員がやりがいを感じ、安心して働ける魅力ある職場づくりを実現することが可能となる。それが企業業績の向上につながる。 雇用対策並びに安全対策を含めた業務改善に対して、継続して取り組んでいくという方向性が確認できた。 |

(2)身体障害者雇用での展望 |

ア 自然体な職場作り 職場の仲間が、障害者であることを意識せずに、自然と気遣いや配慮が出来るような職場作りを継続していくことで、障害者の方にも継続的に意欲を高めてもらうことが可能であることを実証している。 イ 段取りの工夫 仕事の段取りを工夫することにより、業務の流れをスムースかつ効率良くすることが可能である。それは、作業する物を取りやすい位置に置く、移動する距離を短くする等のちょっとした改善や補助器具でも効果的であり、それを実証している。 ウ 安全対策 安全対策として、無理をしない・させないことが重要と考えられる。労働災害の背景には、ヒューマンエラーがある。ヒューマンエラーとは誤認や誤作動・行動ミスやエラーのことをいうが、無理をすることでそのエラーが発生する可能性が高まる。 無理のない指示や仕事配分、スケジュール管理により、そのエラーを減少させることが可能であり、それを実証している。 エ まとめ 自然体な職場作りや段取りの工夫、並びに安全対策は、従業員のモチベーションを高め、能力を最大限に発揮してもらうためにも、雇用管理においては不可欠な要素と考えられる。これらに取り組むことで、障害者の方が、やりがいを感じ、安心して働ける魅力ある職場づくりを実現することが可能となる。 無理矢理でもなく強制でもなく、自然と気遣いや段取りの改善が出来る職場作りに継続して取り組んでいくことが確認できた。 |

(3)感想 |

障害者雇用については、ハローワークから紹介がありその本人に意欲が感じられ仕事に適応すれば、今後も継続して取り組んでいくことが確認できた。 原則は、「特別扱いしない(自然な配慮、思いやり)」「同じ処遇(同一価値労働同一賃金)」「適材適所」であると実感した。 (執筆者:雨宮労務管理事務所社会保険労務士 雨宮 隆浩) |

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