視覚障害のケアマネージャーがゆく
2004年度作成
事業所名 | 株式会社長野物理療法センター | |||||||||||||||||||||
所在地 | 長野県長野市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | ハリ・灸・マッサージ、指定居宅介護支援事業所 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 11名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 11名
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1.事業所の概要
国道18号線沿いの大きな県営住宅団地前から、わずか100mばかり入った住宅街の一角にこの指定居介護支援事業所である(株)長野物理療法センターはある。![]() このような時流を読んだ事業運営や事業展開は、研究熱心でアイディア豊富な前代表取締役の笠井を始めとする会社全体の発想の豊かさによるところが多いようである。 そのいくつかをパンフレットの中から紹介してみる。 ・ワンポイント20分間マッサージ サラリーマンやOLも視野に入れた治療メニューの一つで、時間に余裕があれば2ポイントマッサージ(40分)や、全身マッサージ(60分、80分、120分コース)も選べるシステムになっている。 「つかれた、つかれやすい、首が張る、背中が張る、肩がこる、腰が痛い、頭が痛い、頭が重い方。目がつかれる、だるくて何もやる気がしない方。スポーツ前のウォーミングマッサージ、スポーツ後の疲労回復。手足が冷たくて夜ねむれない、手足が痛い、ひじ・膝の関節が痛い、手足のしびれ・・・ちょっとおかしいと思ったらすぐご来院ください」。こんなメッセージがあれば、オフィスや工場・お店などで働く人は気軽に申し込みできそうに思う。 ・機能回復を目的としたマッサージ治療 脳卒中や脳梗塞の後遺症、交通事故の後遺症、あるいは椎間板ヘルニア症、パーキンソン病などで自宅療養している方のほか、機能回復などを目的としたマッサージ治療で、各家庭に出向くシステムである。ケースにより、健康保険の適用となる場合もあり、少しづつではあるが治療例が増えている傾向にあるそうだ。 ・一般家庭へ出張するマッサージ治療 このところ、自分の健康管理にマッサージを利用する方が大変多くなってきているようだ。その紹介コピーは次のようである。「“そんな年寄りでもあるまいに”等と言われる方はもう時代遅れです。10代の息子さんや娘さんから、80代・90代のおじいさん、おばあさんまで、大変幅広くご利用いただいております」「夜10時までにお電話いただければ、技術者がお宅までお伺いいたします。 全身マッサージ1回50分の治療時間です」「ハリ治療も行いますので、ご希望の方は予約の時に申し出てください」。 |

2.ケアマネージャーの誕生
そんな勉強家で、アイディアマンの笠井が目につけていたのは、新しく始まる介護保険制度であった。長年、リハビリや運動療法に治療面で貢献してきたが、これからの高齢化社会の進行に伴ってスタートする新制度の中に、新事業として期待できるのが、“介護支援”の事業であり、その導入を意識させたのが2級の視覚障害をもつ島田の仕事ぶりであった。 昭和51年入社後、20年の勤続となる島田の日頃の仕事ぶりを笠井は次のように話してくれた。 「月曜から土曜日の、9:00~17:00の中で、本業のマッサージ治療だけでなく、器具の紹介や交渉・調整の他、生活援助などにも相談にのってやったりして、患者さんからの信頼が厚く、親身になって支援してやっている姿は社員の間でも好感をもって受け入れられていたんですよ。それに、やっている事がすでにケアマネージャーみたいなことをやっていたんですからね。やはり目線が障害者や高齢者に合っていたんでしょうね。だから彼は、この介護保険制度に対しての関心が高く、けっこう意欲的でして、私も時々質問されて困ったこともありましたよ。そして、あの仕事振りをみてもまだまだ若いので、資格も取りやすいだろうし、第一、本人のやる気をとても感じたんです。ですから、いかにも適職ではないかと思ったんですよ」。 笠井は、島田に“ケアマネージャー”の資格取得を指示し、県の「指定介護支援事業所」の認定を受けることを決意したのである。 その時、当の島田は、「やってみてもいいな・・と思った」と、当時を振り返り話してくれた。175cm前後の比較的体格に恵まれた島田が、明るい笑顔で歯切れの良い口調で話してくれる様子は、なるほど患者さんからも好感を得ていると納得のできる第一印象であった。 「いや、むしろその時は、“やってみたい”“やりたい”という気持ちが強かったかもしれませんね。本当のところ。私たち障害のあるものから見れば、医者や看護婦と同じ資格を一緒に受けられるなんてことは今までなかったことでしたし、心地よく思いましたよ」。 実際には、当初の受験資格の中にハリ・灸・マッサージ業の従事者は明確になっておらず、ギリギリになって受講ができたようである。しかし、島田にとっては受講中の苦労もあったようではあるが、とにかく痛快な体験であり、気持ちよく受講を続けた後、平成11年5月に「介護支援専門員実務研修修了証」を手にし、ケアマネージャーの資格取得ができたのである。 |

3.ケアマネージャーとしての苦労と情熱
そして、さっそく市からの依頼を受けて認定調査の仕事を始めるのに続いて、平成11年7月には「指定介護支援事業所」の認定を受けると、ケアマネージャーの本業であるケアプランの作成をも本格的に開始したのである。 2級の視覚障害を持つ島田は、わずかな視力を頼りに認定調査に臨み、訪問先での面談中も常にテープレコーダーを傍らに置いての聴き取りや観察をするなど、慎重ながらも大いに張りきって認定調査票にまとめる仕事を始めた。 しかし、しばらくすると、思いがけないことで行き詰まってしまったのである。 それは、ケアプランの作成や訪問しての認定調査、苦情処理、会計事務など一連のケアマネージャーの業務内容には、思いのほか記述作業が多いということであった。 ![]() 視力の弱い島田にとって、所定の用紙に所定のサイズで記入しなければならない書類作成の作業はかなりの重荷となった。 市から委託された認定調査の用紙は、拡大コピーしたもので判定し、A4サイズの所定用紙に事務スタッフの人に転記してもらう方法をとった。“特記事項”は、島田がワープロで作成した文章を代筆してもらうなどして、1件当り4~7枚の書類を今では月に13~14件作り上げなければならないのである。 さらに、本業であるケアマネージャーの業務においては、利用者との面談・状況把握(アセスメント)、事業所の選択・調整、ケアプランの作成・利用票の作成、フォローのための再アセスメント(月1回ペース)、プランの見直しなど、1連の業務を月に35~38件やっている。 島田にとっては、本職であるハリ・灸・マッサージ等の治療活動と並行してこれだけの作業を実施しているのだから、その仕事ぶりと情熱、馬力には頭が下がる。 |

4.ケアマネージャーのパートナー
平成12年当初は、まだ上記のような件数はなかったが、仕事自体に慣れないこともありほぼ毎日のように苦戦している島田の様子を見ていた笠井は、「何かよい方法はないものか・・・?」とまた考え出したのである。 島田は、当時を思い出しながら言う。「そうですね、昼間から夕方はマッサージの仕事がありますから、それが終わってからになりますから夜中の2~3時頃までやった時もあったし、日曜日はほとんど使っていましたネ」。 笠井としては、内容的には興味深い事業であり、島田を核にして何としても継続していきたかったが、「何よりも、島田君自身が乗り気で仕事に打ち込んでいる上、利用者からも好評なだけに、何とか負荷を軽くしてやれないものか?」「こんなことで体を壊しては元も子もないし・・・」。 自分自身も視覚障害があり、この書類作成を応援してやることができない笠井は、事務スタッフが応援している様子を見ていたある日、『ハタ!』と膝をたたいた。「そうだ、助成金制度でカバーしてやる方法があるはずだ!」。 ![]() さらに幸いなことに、会社設立直後から平成11年まで当社で事務スタッフとして勤務し、視覚障害者に深い理解を持ってくれているうえ、島田とも十分なコミュニケーションをとる事のできる女性を委嘱者として選任できたのである(平成13年12月)。そして、平成16年6月からは、今までも時々会社に出入りしていた彼女の娘さんが二代目の介助者として交代してくれ、若返った新コンビが誕生した。 こうして、視覚障害を持つケアマネージャーに、気心の知れた母娘二代にわたる文章代筆の介助者というパートナーが誕生したのである。 |

5.視覚障害のケアマネージャーがゆく
仕事を始めて5年。島田は今の心境を話してくれた。 「仕事量は確かに多いですね。大変ですよ。でも、これからも長く続けたいです。会社でこの体制をとってくれているのでこれだけの仕事が出来ていますし、内容も含めて利用者の方にも評価して貰っているように思っています。だから、辞められないですよ」。 (執筆者:前エプソンミズベ株式会社代表取締役 吉江 英夫) |

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