機械化を追求し、知的障害者の雇用拡大の実現へ~勤続10年の“純子さん”~
2004年度作成
事業所名 | 事業協同組合ナガブロ | |||||||||||||||||||||
所在地 | 長野県小県郡武石村 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | ブロイラーの処理・加工(日本ケンタッキーフライドチキン(株)認定工場) | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 85名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 10名
![]() |
1.はじめに~通勤バスの中から
同社は、雇用開発協会を通じて各種助成金を有効に活用し、障害者の雇用を開発、拡大をはかり、実雇用率20.5%(H16.6.1現在)という高率を確保している会社ということで、興味津々、底冷えする信州の1月中旬のある早朝に訪問した。![]() 防寒用コートに毛糸の帽子で「おはようございます」と元気な声の女性が通勤バスに乗り込んできた。先に乗っている同僚や運転手さんとの間で、会社到着までの30分程の楽しそうな明るい会話が屈託の無い笑顔とともに、早速始まった。 これが、その“純子さん”である。彼女の持っているカバンの中味は、9時の休憩時間に食べるパンと野菜ジュース、お昼のお弁当に、3時の休憩時間用のバナナなど、大切な物なのだそうだ。 この通勤用のワゴン車は、もちろん助成金で購入したバスであるが、ドライバーさんも通勤用バスの運転手として委嘱された女性で、この時すでに運転をしながら仕事が始まっていたのである。 その仕事というのは、車中での何気ない日常の言葉のやりとりの中から、障害者個々の体調や気分を探ったり、励ましたりした内容を会社の総務に、朝夕報告することである。 出勤に気持ちがのらない時には、彼らの母親と協力してバスに乗せたり、伝言を預かったりすることもあるそうだが、保育士をしていた運転手のTさんは、「朝夕の送迎が、家庭と職場との橋渡しとなり就業への支援ができることは、私の楽しみでもあり、張り合いを感じる一時になっているんですよ。」と一緒に笑いながら話してくれた。 7時20分頃に到着した“純子さん”は、朝礼の後7時40分から作業を開始し、16時25分終業までの一日が始まった。 それでは、その仕事を拝見しよう。 |

2.工場の概要と感想
工場を初めて訪問し、色々と驚いたことはあるが、説明をお聞きしていくうちに「なるほど!」「さすが!」と、納得してしまったことが2つあった。 |

(1)衛生管理と品質管理の徹底 |

![]() 建物間を移動する場合にも、その建物用の靴に履き替える点をみても、食品衛生法に基づく管理水準の高さを感じた。 我々の日常生活とは、随分と異なった環境の中で、作業が行われており、「さすが!」と納得してしまったのである。 |

(2)まさに“オートメーション工場” |

![]() さらに、鮮度を保持するための冷却装置が1年を通じて18℃以下の室温が維持された工場の中で、機械と一体化して黙々と働いている社員の様子は、自動車や精密機器の合理化されたオートメーション工場に共通した雰囲気を感じさせ、工場全体の活気と緊張感をさらに高めているように思えた。 工場の概要を説明して下さった宮中代表理事は、「鶏肉というのは、翌日が最もおいしんですよ。」と教えてくれた。「ですから、早朝6時から加工を開始し、夕方には、店頭に向けて発送する流通システムをとっているんです。私どもは、機械設備で能率と品質を維持向上している工場なんですよ。」と、バイタリティーに富んだ大きな体から、自信の程が伺えた。日本ケンタッキーフライドチキン(株)の認定工場となっているのも、そのレベルの高さが評価されてのことであろうと感じられた。 |

3.障害者雇用の経緯と仕事ぶり
(1)障害者雇用のきっかけ |

このような環境の工場で、どうやって障害者雇用を始めたのかというと、前述の宮中氏の子女の担任の先生が養護学校へ転勤され、その先生からの熱心な勧めに動かされて、平成6年3月に、養護学校高等部卒業した重度の知的障害を持つ女子生徒を初めて採用した。それが“純子さん”なのである。 その後、随時増員をはかり、現在10名の知的障害者雇用をしているが、それは“純子さん”の仕事振りを見て、「“工夫すれば、戦力にできる”ということがわかったからです。」と、丸い顔の内山製造部長さんが話してくれた。 “頼まれれば受け入れなさい”という会社の方針があったとはいえ、知的障害者を全く初めて社員として雇用し、6~7年の間にこれだけの拡大をしてきた過程を改めて“純子さん”の仕事を通じて、具体例を見せてもらうことにした。 |

(2)“純子さん”の仕事ぶり |

![]() この作業は、加工途中の鶏肉を工場移動する時に使用される“カゴ”を洗浄機を使って自動的に熱湯消毒・洗浄する作業で、彼女は機械への投入をしていた。 15段前後に積み重ねられたカゴを、屋外のプラットホームから引っ張って移動し、機械のベルトへ1台ずつ乗せていく作業である。 外気の冷気と熱湯の蒸気とで湯気が立つ職場で、ゴム製の作業衣と帽子・手袋の姿で活発に動き、サイクルタイムどおりのリズムで仕事を続ける様子は、まさにベテラン社員そのものであった。 |

4.障害者雇用のための特徴と工夫
“カゴ洗浄”の作業に代表されるように、工場内の随所に助成金とアイディアを活用した機械や障害者の仕事振りを見ながら、同社の障害者雇用の特徴を次のように感じた。 |

(1)助成金の有効で巧な活用 |

![]() 従って、これらの自動機の稼動によって作業が簡素になり、知的障害者の雇用拡大が実現できたのであり、知的障害を持つ社員のほとんどの方はこれらの機械が稼動するラインについていっしょに作業をしている。 |

(2)仕事の場では一人前として |

内山製造部長は、「うちは、流れを機械化・システム化することにより能率と品質を維持する製造体制ですから、単独の仕事は無いので健常者と一緒のラインの中に入って貰うんです。障害者用のラインは考えていません」ときっぱりと言った。 「以前は包丁を使っていたが、機械化することで使わなくなっているので障害者にも仕事に就いて貰えるようになったし、品質も大いに安定しましたよ」「今は、最賃の除外申請者はいません。むしろ多能工化をねらっており、中には健常者以上の賃金をもらっている人もいますよ」とのこと。 これは、ノーマライゼーションの考えから見ると最も好ましい雇用環境であり、彼らの明るい表情がその環境の定着ぶりを表している様に思えた。 |

(3)独特の支援と指導の体制 |

![]() 雇用管理の上で重視している家庭との連携や協力依頼など、私生活での生活指導や家庭を持っている障害者の家庭生活面にまで支援の手を伸ばしているのが「川手さん」。 一方、仕事上の事柄を中心に、様々なトラブルや問題点を解決しながら作業員として育ててきたのが「内山さん」。まさにこの2人の連携と熱意が核になって独特の支援体制として社内に浸透してきたのであろう。 “業務遂行援助者”の配置、月2回の他、各職場からの提議で都度招集し早い段階での問題解決をモットーとしている“職場定着推進チーム”の設置など、組織的な支援体制も機能している。そのほかに、会社主催の新年会・観桜会・バーベキュー大会・ハイキング等にも参加させ、他の従業員との交流の機会を増やすなど、家庭からの協力も仰ぎながら「働く喜び」「社会的自立」に向けての動機づけを常に続けているそうだ。 この方法は、知的障害者をじっくり育てるには、指導にあたる者と機能を集約した方が好ましいとの考えからのようであるが、最初の頃は大変であったようだ。 「以前には、構内でトラブルを起こしたり、言うこともなかなか聞いてくれないこともあったが、今は問題も少なく恵まれていますよ」と昔を思い出しながら、「でも、真剣に接しているからでしょうかねー」と川手係長は言う。それもあろうが、10年にわたる二人の支援・指導・教育の成果が現れてきたからのように思えてならない。 |

5.おわりに~障害者雇用の姿勢
![]() 「今、一番楽しいことは何?」という問いに対し、持参した野菜ジュースを飲みながら「T君(=後輩の男子)にいろいろ教えてあげること」と、笑顔いっぱいでうれしそうに答えてくれた。 彼女は出勤率もよく、粘り強く仕事をしてくれる一方、残業はやってくれない、仕事は変わってくれないなどのガンコなところを持ちながらも安定しているので、信頼のおけるお姉さん的な存在になっているのだそうだ。 最後に、親企業であるミヤマグループの企業理念を見た。
この言葉の中に、同社の障害者雇用に通じる姿勢を正に見たように思う。 (執筆者:前エプソンミズベ(株)代表取締役 吉江 英夫)
|

アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。