定例の「手話通訳付き連絡会」を10年余~聴覚障害者が安心して働ける伝統~
2004年度作成
事業所名 | 株式会社ミスズ工業 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 長野県諏訪市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 情報機器部品製造、精密金型設計・製作、電子情報部品設計・製造、医療機器開発 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 500名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 6名
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1.事業所の概要
3月中旬のある日、会社を訪問するとそのまま広い社員食堂の一角へ案内され、これから開かれる聴覚障害者との「手話通訳付き連絡会」に特別参加することになった。 今回訪問したこの本社工場は、1965年の操業当初から蓄積してきたウォッチのムーブメント部品で培った精密加工技術やノウハウをベースに超小型・薄物部品・パーツの製造を金型の設計・製作からプレス加工・表面処理に至る一貫製造体制を続けている工場である。 したがって、製造体制や管理体制、工場内の雰囲気なども長い歴史と伝統が残っており、半導体などのマルチメディア機器を製造するエレクトロニクス分野を担当する他の国内2工場や海外工場とは、別の環境と雰囲気をもった工場のようである。 就任して2年とまだ日の浅い人事・総務の山田課長は、「先輩から勉強中」と言いながら伝統ある社風を次のように説明してくれた。 「当社は、創業当初から地域の方々に勤めていただいたので、パートタイマーや準社員の方にも気持ちよく働いてもらえるようないろいろな工夫をし、今も続けています。ですから、このような会社の方針が基本にあって、22年前から聴覚障害の方にも就労の場を提供するようになり、以来常に2人位の方に仕事をして頂いておりますし、この『手話通訳付き連絡会』も13年も続いているのだと思います」「いわば、会社の伝統の一つとして社内に定着しているように思います」。 |

2.「手話通訳付き連絡会」に参加
(1)手話通訳者のNさん |

![]() 彼女は、当社で初めて聴覚障害の方を採用したときに面接時の通訳者としてかかわって以来、すでに20年を越える長い期間を当社の聴覚障害者の支援をしており、12年前から始まったこの「連絡会」の中心となってきた方とのことである。 2ヶ月に1度、1時間くらいのこの「連絡会」を通して、会社生活から仕事の面に至るまで幅広い話題を通訳したり時にはアドバイスもまじえながら、雇用の安定を目標に良い雰囲気で「連絡会」が続いている“要”になっている方のように感じられた。 |

(2)入社2ヶ月の牛山さん |

「入社されて約2ヶ月がたちますが、会社や職場のことで何か改めて説明することがありますか?」 職場の係長の発言から「連絡会」が始まった。 ![]() 精密電子部品を加工する自動機を担当し、機械や部品の動きを注視しながら製品の選別作業を習得中の彼は、仕事にも職場生活にも慣れてきて、様子がわかるようになってきたというころであろうか。 手話通訳者が入っての話し合いが始まると、上司の方が同席しているためなのか、それともこのような「連絡会」が初めてのことで緊張気味であったのか、表情の硬かった牛山さんが、とたんに手振りも交えて表情も豊かに話し始めた。 「職場内の連絡は、回覧用紙でかなりわかっているが、わからないことは自分から質問するようにしている」「職場の人とは身振りでも通じるし、筆談も増えかなり通じるようになってきた」「職場の人も、私の表情を見て声をかけてくれるようになってきてうれしい」「時には外国人の人とも身振りで話ができるようになってきたので楽しい」「前の会社ではこのような手話通訳付きの話し合いなどなく、とてもうれしいし、ありがたいと思っている」。 その後、困っていること、心配なこと、仕事上のことや職場内のことでわからないことの他、生産計画の説明、人事・総務面での要望など、会社生活全般に及ぶやりとりが続き約1時間後に終了した。 かなりボリユームのある内容ではあったが、職場の方も慣れている様子でスムーズに進行し、集合してきた時の表情とはガラリと変わり、胸を張って上司の方と一緒に職場へ戻っていく後ろ姿が印象的であった。 |

(3)ベテラン社員の五味さん |

こちらはもう手馴れた様子で、職場の上司の方々も、通訳のNさんも一体となっており、会社全体の動向や生産状況などを中心にトントンと話題が飛びながら、質問、説明・意見交換とスムーズにやりとりが続いていく。 五味さんは言う。 「紙に書いたものは決まったことであって、それまでの過程については私たちのような聴覚障害の人には中々入ってこない情報なので、そこを知りたいことが多いんです」 ・・・う~ん、なるほど。納得である。 手話通訳のNさんが補足してくれた。 「私たち健常者とちがって聴覚障害がある人の場合は、情報やそのときの状況が“自然に入ってこない”ので、通じにくいことが多いようですね。ですから、言われないとわからないし、言ってやらないと理解できないことが多いように思います」。 「筆談では細かいことが伝えられないですからね」。 五味さんも続ける。 「私は、何を話しているのかを知りたいことがあります。聞いてみると『たいした事じゃないよ』と言われることもあるので、さみしい思いをすることがありますね」。 「ですから、このような「連絡会」が定期的にあることはとてもありがたいことですし、毎回楽しみにしています」。 「私は夜間勤務専門の勤務ですから、はじめの頃は余計心配をしていたのですが、今は不安はありません。このミスズ工業に勤務できてよかったナーと妻とも良く話しているんです」。 夜間稼動の自動機15台を担当し、不具合のチェックや調整・修理などが仕事だけに生産状況の変化などは特に気になるようで、先の生産動向に強い関心を持っている様子が見え、ベテラン社員らしい落ち着いた雰囲気をもっている社員に見えた。 |

3.手話通訳者の活用を
「連絡会」の後で、手話通訳のNさんが話してくれた。 「私も通訳者としてハローワークなどからの依頼を受けて採用時の面接などをお手伝いすることが多いですが、入社してからのフォローや支援ができないので残念なケースをいくつも見てきました。 こちらの会社でやっているような『手話通訳担当者の委嘱』を助成してくれる良い制度がありますので、せっかく入社できた会社に長く定着できるようなお手伝いができれば、障害者にとっても、採用した会社にとっても安心できると思います。もっと多くの会社で利用していただくようになればいいですね」。 |

4.おわりに
今回の取材で特に印象深かったのは、聴覚障害の人の場合は“情報が自然に入ってこないので通じにくい”という言葉と、“伝統のもつ安心感”だった。 「聞こえてくる情報」の大きさ・大切さを改めて認識することができたとともに、決まる・決めるまでの過程を知りたいというニーズもあり、その内容・程度にかなり個人差があるので、個々に対応することの必要性を再認識させられたのと同時に、このような手話通訳担当者による定期的な連絡会の果たす役割の大きさを改めて感じることができた。 そして、このような特性についても、聴覚障害の方々と長い間一緒に仕事をしてきているからこそ、職場の方々も理解をしたうえで、自然体で接することができており、それが安定につながっている様に思えた。 このような環境がご本人にとっても心地よいのだろう、外国籍の方とも並んで黙々と仕事をしている様子を見て安心感を覚えた。 (執筆者:前エプソンミズベ(株)代表取締役 吉江英夫) |

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