福祉施設の協力を得て、寮生活を家庭的にサポート
2004年度作成
事業所名 | 打江精機株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岐阜県高山市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 油圧機器製造 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 171名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 13名
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![]() 会社前景 |

1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要 |

当事業所は、岐阜県飛騨地方の中心、高山市の郊外にある工業団地の一角にある。昭和26年に創業した、金属機械加工を主とする工場である。現在は、主に建設機械等の油圧機器製品を製造している。常用雇用者数は、171名で、身体障害者2名と、知的障害者11名を雇用している。以前は、企業に対するサポート体制がそれほど整備されていたわけでなく、不況やオイルショックなど経済的な危機に会い苦しいときもあったが、何とか乗り越え現在に至っている。 |

(2)障害者雇用の経緯 |

障害者の雇用には早くから取り組んでおり、昭和45年に地元の知的障害者施設「山ゆり学園」の入所者を最初に受け入れた。その人は、現在勤続34年で、厚生労働大臣表彰を受けている。以後、養護学校および山ゆり学園とのつながりができ、徐々に雇用を増やしてきた。現在まで、延べ20人を受け入れている。 最初は、社長宅での住込みから始まり、衣食住すべて家族の一員として面倒を見ていた。その伝統が今も残っており、障害者は、大半が寮生活をしているが、みんなを家族のように考えている。 障害者を採用した当初は戸惑った従業員も多く、不満も出たようであるが、社長みずから障害者の立場をよく理解し支援し続け、その熱意により、周囲も納得していった。また、不景気の折、知的障害者をリストラの対象として考えたらどうかと提案した役員がいた。そんな時、社長は、「今解雇したら誰が拾うか。優秀な人間だけ集まった企業がいい企業か」と言って理解を求め、周囲も納得していった。 当社では、どんな人であろうと基本的にみんなと同じ労働条件にするという方針を貫いており、就業規則や労働条件、待遇、福利厚生も同じである。ハワイなどの海外研修旅行を楽しんできた人も多い。 |

2.障害者の作業状況と雇用管理
(1)障害者の作業内容 |

障害者は、油圧機器部品の加工、組立などをライン作業で行っており、おおむねまじめな勤務態度である。配置については、いろいろ可能性を考え、特長をつかみ、部署を決定する。慣れれば作業は早くなるが、仕事が変わると適応できない人が多い。
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(2)教育・指導の方針 |

知的障害者については、一人ひとりに対して責任者を決め、マンツーマンで仕事の指導を行い、定着を目指している。 教育・指導の方針としては、まず見本を示し、一緒にやってみせて、できたら一人でやらせてみるというふうに、徐々に段階を踏んで覚えてもらう。同じ立場に立って、こうしたらこうなるということをかんで含めるように言う。高圧的な態度で上からものを言ったり、怒ってはダメで、本人が納得できるようにやさしく言う。できたら誉めることを忘れない。 また、上司と合うかどうかで仕事ぶりが変わる。人を見る目があり、自分が一目置いている人のことは聞くがそうでない人の言うことは聞かない。みんなの信用を得ている人かどうかがよくわかっている。上司は、仕事以外でもよく面倒をみたり、日々のコミュニケーションやスキンシップをしっかりとることが求められるので、ベテランの面倒見のいいスタッフをつけている。
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(3)労働条件と評価 |

勤務時間は一部2交替制である。残業もあり、本人の了解を前提としているが、障害者の方は日勤で大半が残業もやっている。よくやる人もいれば、全くやらず毎日定時で帰る人もいる。 給料は基本的に能力給で、残業もあわせるとかなりの額になる人もいる。 能力評価は、直属の上司、グループ長、部長の3段階で行い、評価票にチェックして点数化される。資格、出勤状況、協調性、能率、技能などの項目で評価している。 |

(4)寮生活での支援 |

障害のある従業員は、実家が遠くにある人が多いので、大半が寮生活をしている。寮からは、当社の通勤バスで通っている。 寮は、会社の寮と、知的障害者施設「山ゆり学園」の運営する通勤寮、グループホームである。グループホームや通勤寮は、個室あるいは2人部屋で、12畳の部屋が4つある。寮は共同生活なので、それまで家庭にいた人はどうしても慣れるまで時間がかかる。 基本的に施設のスタッフが生活の支援を行っており、会社の寮においても、施設のスタッフに相談に関わってもらっている。入浴、整容、清潔など、生活の細々としたことまで、指導が必要な場合もある。汚れた服をためて着る服がなくなることもあり、月・水曜日にクリーニングに出す、忘れずに服をかごに入れる等の指導をすることもある。自転車をどこかに置いて忘れてしまい連絡をもらう事もしばしばある。 普段の楽しみは、パチンコ、ボーリングなどである。給料を前借りしてまで遊ぶ人もおり、金銭管理の指導が必要な場合もある。 「なかよし会」という障害者施設の同窓会組織があり、生活支援を行っている。年金も施設が管理している。 障害者で辞めた人は少ない。どうしても家庭の事情があって離職し家に戻ったり、家庭が過保護で頭が痛いと言うだけで休ませる等が重なり離職に至るなど、家庭環境に問題あるケースが多い。 |

(5)施設や養護学校の協力 |

福祉施設および養護学校のPTAと障害者を多く雇用している企業とで保護者の会を開催しており、事業所の代表、従業員の保護者、養護学校の先生や施設のスタッフが一同に会し意見交換している。事業所から保護者、学校、施設に協力を求めると同時に、雇用上の課題をみんなに考えてもらい指導していくという活動もしている。 |

3.雇用上の課題と要望
(1)生活面の支援 |

このように、会社での就業上の指導だけでなく、生活面の指導も必要であり、そのためにはかなりの労力が求められるので、山ゆり学園の協力なしではとてもやっていけない。仮病をよく使い休む人や、睡眠不足で就業中に倒れる人、飲み屋でツケをためる人など生活態度に問題があるケースも多々ある。知的障害に併せて精神障害があり服薬の管理が必要なケースもあり、気分のムラがあるなどさまざまな課題をもっている。 寮母が諸事情で寮生の生活指導ができないときは、当事業所の担当者が行う。その時は、家庭の協力がぜひとも必要である。しかし、家族に連絡しても遠方なので来てもらえない。どうしても家を離れてしまうと、家族は子供に無関心になるようである。 |

(2)事業所の要望 |

障害者雇用という社会的な貢献も企業の役割であり、それは会社にとって直接の利益にならないこともある。障害者雇用は、正直言って大変な面もあり、仕事以外の生活上の面倒も見るとなるとかなりの努力と出費が必要である。そこをきちんと評価し、具体的には次のようなことを検討してほしいと考えている。 ア 寮を運営するための費用(寮母さんの給料、電気、ガス、燃料費等)を補助してほしい。 イ 通勤手当などの補助が必要である。遠隔地のため交通費がかさむ。 ウ 職場適応訓練の期間を長くしてほしい。半年や1年ではできない。 エ 職場適応訓練時に本人に支給される訓練費補助だが、月12万円も支給するのは多すぎる。正式雇用後もこれだけもらえると錯覚されては困る。支給期間を長くして、額は少なくしてほしい。 オ 施設および福祉機関の就労後の指導体制について、一貫性のある体系的な指導体制を整えてほしい。どのスタッフも積極的に関わってくれるが、異動がよくあり、指導が継続的になされないことがある。特に養護学校は先生の異動が頻繁にあり、その都度一から説明をしなければならない。 |

(3)コメント |

この事業所は障害者雇用を積極的に進め、職業指導のみならず、施設と協力しながら寮生活を通じた生活指導まで行っている。さらに、他の障害者雇用企業や障害者の家族まで巻き込んだネットワークづくりにも努力するなど、大変貴重な実践を行っている。居住地域が広く寮生活が必要という条件と、施設をはじめとする関係者の熱心なサポートが相俟ってできる家族的なケアといえるが、一企業がここまで踏込む努力に対して、頭が下がる思いである。 「社会的な貢献も企業の役割である、うちが解雇したら誰が彼らを引き受けるのか、という思いで障害者雇用を続けている」との社長の考えに、障害者に対する熱意と愛情が感じられる。 この地域で、多くの経営者の理解が得られ、より緊密な雇用促進・支援のネットワークが形成されることを期待したい。 (執筆者:中部学院大学短期大学部助教授 稲垣 貴彦) |

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