福祉施設の協力を得て、寮生活を家庭的にサポート
2004年度作成
事業所名 | 日晴有斐株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岐阜県高山市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | クリーニング業、寝具・リネン等のリース・販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 34名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 9名
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![]() 会社前景 |

1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要 |

当事業所は、岐阜県飛騨地方の中心、高山市の郊外にあり、2つの事業所が合併して、昭和62年より現在の社名でクリーニング工場を創業した。現在は、一般のクリーニング、厨房やビルの窓などの特殊クリーニング、寝具やリネンのリース、販売、ウエスの販売、害虫駆除などさまざまな事業を手がけている。主力となる事業は、ホテル・旅館などへのシーツ、浴衣などのリース(クリーニング)である。 常用雇用者数は34名で、身体障害者2名と、知的障害者7名を雇用している。知的障害者である従業員は、療育手帳の中度の人と軽度の人が半々くらいで、何か特別なサポートが必要なわけではない。他に、職場適応訓練者を現在2名受け入れている。 |

(2)障害者雇用の経緯 |

障害者の雇用は、昭和63年に、地元の知的障害者施設「山ゆり学園」の入所者を職場適応訓練生として受け入れ、卒業後に雇用したのがきっかけである。その後、養護学校の評議員などの役員を引きうけるなど、関わりを持ちつづけ、知的障害者施設の利用者や養護学校の卒業生を徐々に採用するようになった。これまでに、実習や訓練などを含めて、20名ほどの障害者を受け入れている。 |

2.知的障害者の作業状況と雇用管理
(1)障害者の就労状況 |

障害者は、クリーニングのさまざまな工程での作業に従事している。前捌き、洗い、乾燥、仕上げといった工程に4~5人が従事し、各部署に1名あるいは、1つの機械に1名の障害者がつくという構成になっている。 基本的には単純な作業が多く、集中力や根気が求められる。知的障害者は、いったん作業を覚えれば早くしっかりこなすことができる。しかし、根気という面で、若干問題のある人もいる。 全体に、特に問題を起こすこともなく、仕事だけでなく職場全体に適応しているようである。欠勤もなく、勤務態度は良好であり、お盆などみんなが休むときにも出てきてくれるので助かる。
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(2)配置と教育訓練 |

部署に1人責任者(班長)が決めてあり、知的障害者のサポートは、班長を中心に行っている。 適材適所を考え、配置しているが、単純作業で飽きがこないように、また集中力を高めるために、健常者を含めて、3年に1回を目処に配置換えを行っている。知的障害者については、作業の内容が変わると戸惑い、新しいことを覚えるのに時間がかかる人もあるが、班長を中心にマンツーマンで仕事の指導を行い、おおむね早く慣れて作業が早くなることが多い。 月によって仕事量のばらつきがあり、比較的余裕のある時期に配置がえを行い、業務が滞らないように工夫している。 |

(3)採用 |

養護学校の卒業生を中心に、学校、施設、ハローワークの紹介などを経て採用しており、養護学校の職場実習を経て採用に至るケースも多い。なかには、お金はいらないから実習という形で働かせてほしいという要望があり、職場適応訓練を利用して1年間試験的に雇用したケースもあった。こうした制度は、半年から1年かけてじっくり本人の適性や関心などが確認できるし、本人も仕事や職場に慣れることができるので、もっと充実させ、また利用を促進すべきであると思われる。 ただ、できるかぎり障害者の雇用を増やしたいが、徐々にしかできないので、断らざるをえないこともある。 |

(4)労働条件 |

給与は、できる限り最低賃金を下回らないように努力している。能力的な差に従って最低賃金の除外申請を行っている者もあるが、全体としてはあまり差がでないようにしている。勤務時間は8時から16時40分で、4週6休という条件である。 とくに観光シーズンで業務が繁忙になる時は残業もあり、平均年50時間くらいになる。 |

(5)施設・学校の協力による生活支援 |

実家が遠くにあり知的障害者施設「山ゆり学園」が運営する寮やグループホームなどに住んでいる人も多く、施設で生活面の協力を得ている。寮やグループホームからはバスで送迎している。 また、養護学校の教員が、卒業生のアフターケアということで定期的に訪れ、生活面などの指導・助言を行っている。 職場への定着率はよく、今まで退職した人は、定年間近で加齢により体力の衰えが目立ち体調不良により勤務を継続できなくなったケースや、もともと精神障害を併せ持っており精神的に不安定になったケースなどである。 健康管理については、気を配っているが、会社だけでは全員の状態を把握し、対応することはできないので、家族の理解と協力が得られる場合は支援してもらう。とくに加齢に伴い健康上の問題が増えてくることに鑑みて、保護者会を立ち上げ、組織的に協力体制をつくっていった経緯がある。 |

3.まとめ~障害者雇用拡大を目指す地域づくり
(1)地域ぐるみの協力体制づくり |

飛騨地域では、障害者を積極的に雇用する事業所と、バックアップ施設(養護学校)および行政機関が緊密に連携をとっており、定期的に集まって、情報交換を行い、雇用促進に向けての協議を行っている。核となる事業所と施設、学校、行政とのつながりは、十数年前からの歴史があるが、5年前に「飛騨地域障害者雇用促進懇話会」を立ち上げ、現在、年に2回会合を行っており、地域ぐるみで障害者の雇用促進への理解と協力体制をつくっている。また、家族を巻き込み、父兄会を定期的に行い、家族への指導や助言などを積極的に行い、障害者への支援を強固なものにしている。 現在は、この事業所を含め、「全国重度障害者雇用事業所協会」に所属する事業所が中心になって活動を進めており、徐々に会に参加する事業所を増やしている。2004年の9月には、関係者に呼びかけて大々的な会合を行うなど、各種のイベントも行い、各方面に声をかけ、少しでも多くの障害者を雇用する事業所の輪を拡げようと努力している。 |

(2)制度に対する事業所の要望 |

まだまだ多くの事業所に障害者の雇用を促進する余地はあると思うので、障害者雇用についてのさまざまな制度があり使えるということを理解してもらい、ぜひ実際に利用してほしいと思う。そのためにはもっと使いやすい制度にしていく必要があるが、現在の制度はいうなれば奥は深いが間口は狭く、障害者を積極的に雇用する一部の事業所にはかなり手厚い支援があり、メリットを受けている。そうではなく、多くの事業所が障害者を雇ってみようと踏み切れるような利用しやすい制度、言い換えれば広く浅く使っていけるような制度にしていくべきであると思う。 行政の提供する情報には、実情を反映していないこともある。実際に制度を利用してメリットになることもあれば、負担になることもある。きちんと両面を提示して、実情を理解したうえで、制度の利用を判断することを進めてほしい。 また、制度利用の際の手続きがやはり煩雑であり、申請・報告等の書類作成などの負担の大きさの割に受けるメリットが少ないとなれば、やめようということもあるので、できるだけ簡素化していただきたい。 |

(3)今後の展望 |

今後、当事業所としては、特例子会社をつくり、より多くの障害者を雇用する可能性を広げることを考えている。また、社会福祉法人あるいはNPO法人を設立し、授産施設あるいは作業所を運営することも視野に入れている。福祉の事業にかかわることで、いわば2軍で選手を育てて、伸びてきた人をどんどん1軍である事業所に起用するという仕組みをつくっていきたいと考えている。 事業所で働ける能力をもっている人は、潜在的には大勢いると思われる。訓練によってそれを磨き、実戦でやれるようになる場がまだまだ不足しているので、そうした場をつくり、施設や地域にいる障害者と企業とをつなげていきたい。 たとえば、農作業やタオル関係の仕事など、ある程度の収益が見込まれ、利用者に還元できる事業はある。どうせやるなら、一個の自立した人間として生活できるような事業を展開していきたい。 |

(4)コメント |

この事業所は、障害者雇用の義務がないにもかかわらず、多数の障害者を積極的に雇用してきた。障害者だけでなく、パートタイマーの主婦や外国人など、さまざまな立場の人を従業員として受け入れ、チームワークづくりに重点をおいて、職場づくりを進めている。また、地域の他の事業所や行政、学校、施設や障害者の家族まで巻き込み、地域のネットワークづくりも積極的に取り組んでいる。それだけ、地域にとけ込んで、厚い信頼を得ており、障害者の雇用を進めることで地域の協力や理解をつくっていき、それがまた雇用の促進につながるという、よい循環を具現しているように思われる。 特例子会社や福祉工場の企画も、障害者の生活を支え、社会参加を推進するこの地域の拠点として重要な役割を果たすであろう。障害者雇用を、一事業所の義務という狭い見地からではなく、社会貢献、さらには地域づくり、まちづくりにもつながる広い見地から捉えており、この地域で少しでも障害者が働けるように、彼らを理解し雇用する事業所を増やそうという熱意が感じられる。このような貴重な実践が、さらに多く豊かな実を結ぶことを切に願いたい。 (執筆者:中部学院大学短期大学部助教授 稲垣 貴彦) |

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