流通最前線の戦力として~夜間勤務や昇格へのチャレンジ~
2004年度作成
事業所名 | ヤマト運輸株式会社 静岡支店 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 静岡県静岡市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 貨物自動車運送事業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 269名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 12名
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![]() 静岡支店 全国から、全国への物流の中核拠点 |

1.企業全体の概要と障害者支援
(1)企業の概要 |

ヤマト運輸(株)は、ヤマトグループの中核を成す企業である。 資本金1,200億余円、従業員115,000人、国内約8,000店の直轄事業所を持ち、クロネコヤマト、宅急便、メール便で知られた一般消費者向け小口貨物輸送サービス事業を展開している。 |

(2)企業の理念 |

ヤマトグループの企業理念は、事業運営の目的や企業集団として目指す方向を示した「経営理念」と、グループの社会への約束、実行していく基本となる考えを示した「企業姿勢」の二つで構成されているが、その「企業姿勢(社是)」の第一項に「ヤマトグループは、地域の一員として信頼される事業活動を行うと共に、障害者の自立を願い、応援します」とある。 |

(3)障害者への支援 |

1993年、『心身に障害のある人々の「自立」と「社会参加」の支援』を目的にヤマト福祉財団を設立。奨学金制度や各種の障害者福祉助成、小規模作業所パワーアップセミナー、ヤマト福祉財団賞、スワンベーカリーなど各種の事業を継続的に展開している。 こうした中で、障害者雇用も全社的に取組まれており、「地域に密着した採用」が、全国各地にある事業所ごとに積極的にすすめられているのである。 |

2.静岡支店での知的障害者の雇用
(1)静岡支店の概要 |

静岡支店は、本社—支社—主管支店—支店という流通ネットワークの中での、最前線中核組織である。全国に向けて発送したり、全国から集まってきた荷物を仕分け、大型トラックで運搬する拠点で、社内では「ベース」と言われている。 顧客との個別の集配は、各地域に拠点を構える傘下の「センター」で行っていてベースの業務はどちらかというと夜の仕事がメインの24時間体制となっている。 |

(2)知的障害者の雇用 |

静岡支店には、従来から、身体障害者が働いているが、業務遂行では全く健常者と差はない。しかしながら知的障害者の雇用にあたっては、直接顧客と接し、臨機応変に一人何役もこなす多様な役割のある「センター」では未だ就業環境が未整備で困難かと考え、ベースである支店に配置することとした。 |

(3)知的障害者の仕事内容 |

知的障害者の中心の仕事は仕分けである。これは団体行動の仕事で、コンテナの荷物をベルトコンベアに載せる、ベルトコンベアからの荷物を地域別に仕分ける、といった作業がそれぞれの人の能力に応じて分担配置されている。 作業は、枝分かれしたコンベアから流れてくる荷物の住所を見て、例えば○○市は何番、静岡市××町は何番などと、いくつにも分かれた区番ごとに仕分けをするのだが、いままでは、分類を記憶し正確に仕分けることは彼らには無理ではないか、と考えられてきていた。そこで変化の少ないよう一カ所の枝に固定して配置した。しかし、彼らは分類した表を見ながら区分けを勉強したり、昼食を食べながら互いに「00はどこ?」「△△!」といった訓練を時間をかけて繰返し行い、確実に戦力として成長している。 職場の同僚はパートの主婦が多く、みんな長く勤務している熟練者ばかりである。平均40歳、知的障害者に対しては、大人の感覚で対応し、自分の子供のように考えてくれている。
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3.定着と職域拡大への努力
(1) 夜間業務にチャレンジ |

現場の仕事は24時間体制で動いている。むしろ入荷、出荷のピークは夜間で、仕分け作業も量的には夜間業務が中心である。そのなかで、知的障害者は昼間の部分を担当しており、生活のリズムからもそれが一番良いと考えられてきた。しかし、昼間の仕分け作業だけだと少人数で足り、数多くの人員を採用することは出来ない。 そこで、知的障害者のうち「出来る人」に夜間の仕事にチャレンジしてもらった。「夜間」の通常勤務シフトは18:00~6:00だが、知的障害者の場合は17:00~1:00という時間帯とした。割増賃金もあるので、本人からの強い希望もあった。夜の帰宅にも問題はなく、健常者の中に入っても「彼なら出来る」という判断で配置換えを行った。 最初は少々びっくりしていたが、慣れてくるとやりがいもあり、目標も持って今では「楽しい」といって活き活きと仕事についている。昼間の「甘い」環境よりも、忙しい反面今の「充実した」環境に満足しているようである。最初は少し心配もしたが、結果的に本人のためにも良かったと考えている。 加えて、昼間の席がひとつ空いて、新しい雇用の受け皿が出来た。ステップアップがやりがいを満たし、受け皿の拡大にもつながったのである。 |

(2) 辞めようとした障害者への対応 |

右腕、右足に障害をもった勤続17,8年のベテラン社員がいた。障害には直接支障のない仕事についていたのだが、最近「手足にシビレがあって辞めたい」という申し出があった。本人は「限界」と思いこんでのことのようだが、会社では雇用の継続を第一に考えて、本人の話もよく聞いたうえで業務を変更し、構内での車の誘導の仕事に配置換えをした。彼は、現在も元気に仕事に従事している。 また、「別の職業に就きたい」と訴えてきた知的障害者がいた。普通なら辞めていただろうと思われるが、「これをやってみようか」と本人の意欲を引き出し励まして、今はがんばっている。 「その仕事は無理だよ」で終わらせず、「どこかにその人を活かす場所がある」という目で従業員の雇用や配置を考える環境があり、支店全体に職員の教育、意識が徹底している。 |

(3)グループ長への昇格 |

当然のことながら、障害者といえども仕事にはきびしい指導が行われている。その中で著しく成長していく障害者がいる。チームワーク、人間関係が最も大事な雰囲気の現場で、性格も穏和で協調性もあり、可能性を秘めている若者である。 その障害者を、能力開発も見すえて、今「グループ長」に昇格させることを考えている。 職場は、10人が1グループで、1日に7人が出勤し3人は休みというシフトである。シフトを個人毎に組むと10通りの組合せが出来るが、グループ長は、このシフトを組み、作業の指揮をとることになる。他人に指図することの難しさに耐えられるか、今その正念場を迎えているのである。 いろいろ克服すべき問題もあるが、彼らの成長を促すために、また障害者の一層の雇用拡大のためにも、昇格や他の業務への挑戦など、是非とも実現したい課題としていま取り組みが始まろうとしている。 |

4.おわりに~戦力として活かす
企業トップが障害者雇用に積極的な姿勢を示す、このことの重要性は言うまでもないが、その「姿勢」を、企業の末端まで徹底させるのはなかなか大変なことだと思う。まして、ここは流通業界の激烈な競争にさらされている第一線である。毎日毎日、昼夜を問わず多種多様な荷物を、大量に、迅速に、確実に処理することが要求される中で、障害者といえども甘やかされる環境にはない。 しかしながら担当者は、障害者への深い理解と愛情をもって接して、様々な問題に実践的に対処し、彼らの雇用の安定と能力の向上、そして更なる雇用の拡大に取り組んでいる。ここに取り上げたのは、私が目にすることができたほんの一コマに過ぎない。 担当者の、「個人はみんな違うのでそれを認識すること。誰も個性がある。障害者だからといって、皆一緒にするということはしない」という言葉は、彼らを「戦力」として活かしている自信のように聞くことができた。 作業現場訪問の帰途、黙々とコンテナを移動させている若い実習生がいた。地域の養護学校から定期的な雇用を期待されており、いまその生徒が実習に来ているとのことであった。 その彼に「疲れないか?」と声をかけている採用担当者の姿が印象的であった。 (執筆者:障害者雇用推進技術顧問 中島 義夫) |

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