社会貢献とビジネスの両立を目指した挑戦
2004年度作成
事業所名 | 中電ウイング株式会社 (中部電力株式会社の特例子会社) | |||||||||||||||||||||
所在地 | 愛知県名古屋市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 印刷・商事(ノベルティ包装等)・園芸・メールサービス等の事業を展開 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 45名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 33名
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社員が集うエントランスホール。手話を巧みに取り混ぜ会社内を案内していただいた。 集いのベンチの背面にあるオブジェには障害者のみならず健常者も共に働く(Work)ことによって自立(Independence)し、立派(Nice)に成長(Growth)し、大きく飛躍(Wing)していくという願いが込められている。 |

1.事業所の概要と設立の経緯
(1)はじめに |

先日、中電ウイングに第1期生として入社した本校卒業生が成人を迎え、「成人を祝う会」が開催された。久々に再会し、彼の成長ぶりに驚かされた。大きな声で挨拶ができるようになったこと。そしてはじめて聞いたカラオケの上手だったこと。在校時は友達と関わったり、人の前に出たりすることが苦手であった。 話を聞いてみると、社会人としての毎日の生活が充実しており、様々な経験の中で自信を身につけたようであった。これほどの変容ぶりを遂げた彼の職場環境に興味を持ち、見学させていただくこととなった。 中電ウイングでは、障害者のことを「チャレンジド」(「神からチャレンジという使命を与えられた人」の意)と呼ぶ。ここにも中電ウイングの障害者に対する思いが込められている。こうした考えに敬意を表し、本文でも利用させて頂くこととする。 さて、中電ウイングは、チャレンジドが通勤しやすくかつ商いに不利にならないことが条件とされただけに、JR笠寺駅から徒歩1分という、恵まれた環境に立地している。建物は斬新且つ機能的で夢のあるデザインであった。 一般にチャレンジドが働く現場は「障害者に優しくない」場合も少なくない。その結果、離職率が高くなってしまうこともある。ところが中電ウイングでは定着率がとても高いと聞く。社会貢献とビジネスを見事に両立させている中電ウイングの取り組みを知ることは、今後のチャレンジドの一般就労を進める上でとても有意義ではないかと考えた。 |

(2)設立の経緯 |

近年、企業は経済的利益を追求するだけではなく、環境保全・雇用確保・人権等社会問題についてバランスよく責任を果たすという考え方(CSR:Corporate Social Responsibillty)が広まりつつある。こうしたなか、企業の社会貢献活動として、チャレンジドを積極的に雇用しようという企業が出てきた。 中電ウイングの親会社である中部電力では、従来より障害者雇用に積極的に取り組んでおり、雇用率(法定雇用率1.8%)は達成していた。しかし、軽度身体障害者中心の雇用であった。今後、重度身体障害者や法的に努力義務とされている知的障害者の雇用促進をいかに進めていくかが課題となり、平成13年4月中部電力の特例子会社として「中電ウイング」が発足した。 |

2.中電ウイングを支える3つの事業
事業がビジネスとして将来にわたり継続でき得る内容であること。チャレンジドの持っている長所を最大限に生かす内容であること。この2つの観点から3つの事業が展開されている。 |

(1)印刷課 |

印刷課はデザイン室と印刷工場があり、デザイン室では主に重度の身体障害者が働いていた。 現在、ベース業務となっている名刺印刷は、通常あまり利益が出ない業務であるそうだが、独自のプログラムによりウェブ化を図り、依頼主が外部から直接インターネットで注文ができるようになっている。営業や入力業務が削減され、十分な利益を確保することができるようになった。また、依頼主のコストも10~15%削減することができお客様からも大変喜ばれているとのことである。また商業用カラーパンフレットやポスター、チラシのデザインも積極的に受注し、実績をあげている。 工場では、熟練印刷工であるチーフ以外はすべて聴覚障害者である。印刷スタッフがカラー印刷機を自在に駆使し、高品質のパンフレットや広告を作り出していた。パイロットランプや、バイブレーターで機械の稼働状況が確認できるようになっている。また、印刷から製本まで一連の機器がそろっている。この規模の工場でワンレーンをもつ会社は珍しい。
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(2)商事課 |

商事課は様々なノベルティー用品等の販売を行っている。 「受付センター」と「包装センター」の2つの仕事があり、「受付センター」では車いすスタッフが電話応対や受発注管理、商品企画等を行っている。「包装センター」では3ヶ月間、市内の有名デパートの包装のエキスパートから直接指導を受けた知的障害者が商品を丁寧に包装している。 最適な高さで作業が効率よくできるよう「高さ調節機能付作業台」を採用している。 |

(3)園芸課 |

知的障害者の「繰り返し作業を根気よく継続できる」という長所を生かし、種を一粒ずつまいたり、育った苗をポットに移植したり、また枯れた花摘みをしたりする根気のいる作業を手作業で丁寧に行っていた。温室には、日照・温度・湿度を関知し窓を自動的に開閉できる「複合環境設備」と、水やりのむらが無い環境水式「プールベンチ方式」が取り入れられていた。チャレンジドの長所と、最新技術を見事に取り入れた好例といえよう。
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3.チャレンジドの能力を最大限に生かす
社会貢献とビジネスの両立。この相反すると思われる課題を融合するために、様々な取り組みがなされていた。中電ウイングでは、職場環境の整備のみならず、チャレンジドが持っている能力を最大限に生かした「ビジネスモデル」の構築に工夫を凝らしていた。 |

(1)雇用管理 |

チャレンジドの抱える課題や問題点は個々に大きく異なる。特に、知的障害者は一度に異なる指示を与えると混乱してしまうことがある。基本的には各課長が指導することになるわけだが、特定の課長に過度な負担がかかることも予測される。 そのため、週に1回の管理職会議を開くことで問題の共有化を図るようにしている。教育が必要な場合は優先順位をつけ、対応が後手にならないように工夫されている。また、連絡帳・個人ノートを作成し会社、チャレンジド、保護者の3者の連携が密に取れるように工夫されていた。 また、週1回健康アドバイザー(看護士)が在駐し、直接チャレンジドが健康相談やカウンセリングを受けられる体制も整えられている。良い精神状態で仕事を行うことは作業効率を上げるだけではなく、ミスや労災事故の防止にもつながる。 |

(2)ハートビル法にのっとった施設設備 |

「チャレンジドがストレスなく仕事に取り組めるよう設備投資をしました」という、石田専務取締役の言葉の通り、まさに「かゆいところに手が届く」施設設備の工夫がされていた。その一例を紹介したい。
業務を行う机などのレイアウトには、車いす利用者も自在に移動やすれ違いができるようにゆったりとしたレイアウトになっている。体温調節が困難なチャレンジドもいるため机の下には床暖房が施されている。将来机のレイアウトが変わってもいいように、パネル式になっており、移動や増設が可能である。 イ 更衣室 車いす利用者も、車いすに乗ったままで自分の荷物の出し入れができるよう車いすのタイヤが入るスペースが確保されたロッカーが設置されていた。 ウ シャワー、トイレ室 いつでも汗が洗い流せるよう、シャワー室が設置されている。シャワー用の車いすも設置されている。 鏡に傾斜が付けられた手洗い場の下には車いすのタイヤが入るスペースが確保され、車いすに乗ったまま手を洗うことができる。また洋式便器は右利き用、左利き用が用意されている。 万が一緊急事態が発生してもすぐに外部と連絡が取れるナースコールが配置されており、この緊急信号は業務課で一括管理できるようになっていた。 エ 事務機器類等の工夫 照明やコピー等のスイッチは車いす利用者が利用しやすい高さに統一されている。 コピー機の操作パネルは可動式の特別仕様になっていた。 |

4.まとめ~最新技術によるビジネスモデル
(1)今後の展望 |

設立初年度より売り上げ目標を大幅に上回っており(初年度目標4億6千万円、実績6億6千万)確実に業績を伸ばしている。平成23年(設立から10年経過後)にはチャレンジド数を50人まで増員する計画を持つ。そのためには長期的に安定し、かつチャレンジドの長所を活かした収益性のある事業の開発が重要となってくるだろう。 また、加齢や障害の進行等により就労の継続が困難になった場合の受け皿の確保や、退職後のケア等を確立することによって安心して働ける環境をより充実させていくことが必要であろう。そのためには企業だけではなく、行政や福祉施設等とのネットワーク作りも重要になってくると考えられる。 |

(2)最新技術でビジネスを拡大 |

従来の障害者就労の考え方は、どちらかというとチャレンジドにどのようなことができるのかという視点で考えられてきた。このことはチャレンジドの雇用拡大という視点でとても重要である。しかし、どうしても補助的な作業になったり品質面で他社製品と比べて劣るという側面もあった。つまり福祉的な視点にシフトしがちであった。 中電ウイングでは、全く逆の発想でチャレンジドの雇用開発を行っている。まず、ビジネスで成立できるという大前提の基に事業構築を行う。そして一般企業と互角に競争できる価格、品質を目指す。そのなかでチャレンジドが持つ長所をどのように活かしていくかを考える。手や足に障害があってもIT(情報技術)化とバリアフリー化を徹底すれば素晴らしい力を発揮する。聴覚に障害があってもコミュニケーションの方法を工夫すれば健常者と変わりない。知的に障害があっても仕事を選別すれば根気よさや、丁寧さではむしろ健常者をしのぐ能力を発揮する。 最新技術とチャレンジドの持つ長所との融合。このことが、社会貢献とビジネスの両立という難題を解決した。その結果、チャレンジドが主人公の新しい障害者雇用のビジネスモデルの構築に成功した。 この「中電ウイング」の挑戦がこれからの障害者就労の新しい発想として大きく発展し、広く普及することを願ってやまない。 (執筆者:愛知県立春日台養護学校教諭 河合健太郎) |

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