継続は真理です~障害者雇用を始めて40年以上、退職は定年だけ~
2004年度作成
事業所名 | 有限会社御福餅本家 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 三重県度会郡二見町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 菓子製造業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 44名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 9名
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![]() 御福餅本家 |

1.障害者雇用の状況と職務内容
(1)障害者雇用率は約27% |

有限会社御福餅本家(以下、御福餅)では、昭和38年に聴覚障害を持つ人の雇用を始めており、平成16年10月1日現在で9名の障害者を雇用している。雇用率は、法定雇用率を超えて約27%である。 現在では60歳を超える方が3名在籍されており、それぞれ定年退職後に再雇用(継続雇用)をすることで、現在に至っている。 |

(2)障害者雇用の特徴 |

障害者雇用を開始してすでに40年以上が経過しているが、その中で定年による退職以外の退職者を出していない事が、御福餅の事業所としてのすごさを現わしている、という事が出来る。 その要因としてはいくつか考えられるが、その一つに事業所の規模や従業員とのつながり、障害の部位(障害種別)と職務内容の関連性、経営者による理解、等を挙げることが出来る。 |

(3)職務内容 |

それぞれの職務内容としては、餅を適当な大きさにちぎり取り、餡をつける工程に従事する者、餅を製造する者、餡を製造する者等である。 特に熟練を要する作業として、餅に餡をつける作業があるが、これは御福餅がスカウトをしてきた下肢障害の方をリーダーとして、日々技術の研鑽がなされている。この餡付け作業は、御福餅本店の店頭に入ってすぐの場所で、ガラス越しに作業風景を見学できるようになっており、特に作業そのものに熟練の美しさや清潔さが求められるものであり、熟練の域に達するのには時間がかかるとの事であった。 熟練の下肢障害の方で一日平均して1000個の餅に餡をつけることが出来るそうで、それ以外の障害従業員についても1日平均で500~600個程度の餡付けが出来るとのことであった。御福餅の商品そのもののデザインともなった手の形に添った美しい餡付けは、その作業工程にどれだけ熟練しているかが問われるものであり、下肢障害者や聴覚障害者を手先の作業の工程に配属したことにより、個人の能力を最大限に発揮することが出来ているようである。 また、作業終了後にはそれぞれの担当部署において衛生管理のための清掃に従事している。生のお菓子を製造販売している為、特に衛生管理には気をつけており、工場内はもちろん、作業スペースについても清潔が保たれていた。 |

2.採用と教育研修
(1) 採用 |

多くの障害従業員については地元のハローワークを通じての採用となっており、稀に近隣に住んでいるという誼で採用をしたケースや三重障害者職業センターからの依頼というケースもある。 採用後の研修というものは特別には行われておらず、すべてOJTによるものとなっている。朝にはミーティングがもたれており、昼食後にも午前中の作業事故やトラブル等があれば改善ミーティングがもたれ、その都度修正が加えられている。 |

(2)知的障害者の日常生活の支援 |

現在のところ、聴覚障害従業員についてはほとんどが主婦であることもあり、日常生活上の支援を必要とすることはないとのことであった。しかしながら、近年採用している知的障害従業員については、今後支援が必要になることが考えられる。 現在雇用している重度知的障害従業員については、自宅の最寄り駅で工場長と待ち合わせて一緒に出勤しており、退社時も工場長が最寄り駅まで送っている状況である。駅から自宅までは一人で往復する事が可能であるが、将来的に家族との生活が困難になった場合、別の方法を考えなければならないことが検討課題として挙げられる。 休日の過ごし方などについては家事をこなさなければならない人や、コーヒーを飲みながら家族や友人と過ごす人、地元の障害者団体等で活動する人などそれぞれのフィールドで積極的に活動しているとのことであった。しかしながら残念なことに、従業員同士で休日を過ごすということについては、現在のところほとんど見られないとのことであった。 |

3.就労継続の要因
これまでのところ、御福餅では、雇用した障害従業員の解雇や離職などが一切ない。ここまで障害者の就労を継続できている要因をいくつか挙げると、次のようなものとなる。 |

(1)事業所と従業員とのつながりが密である |

従業員数との関連も予想されるが、障害者職業生活相談員である総務課長と、障害従業員との関係が良好で、しっかりとした信頼関係が構築されている。これについては、総務課長自身が一人ひとりの従業員の情報を確実に把握しようと努めていることや、限られた工程での作業のため常に顔を見ることができ、障害を理解する一助となっていると考えられる。 |

(2)障害者と健常者との仕事内容に差がない |

特に聴覚障害従業員の作業について、健常者と同じ仕事に従事しており、作業レベルも遜色ない程度となっていることが上げられる。職務として必要最低限度の意思疎通については可能であると総務課長が述べるように、聴覚障害従業員は読唇での口話が可能であり、加えて筆談によるコミュニケーションを図っているとのことであった。 |

(3)対等な関係を保持している |

部門のリーダーに下肢障害のある従業員がなっていることから、障害に対する理解がよい。また、障害者と健常者との多少のコミュニケーション上の課題はあるが、衛生管理上話をしながら作業を進める職場ではないために、コミュニケーションが最低限度に限られ、聴覚障害者むきの作業場になっている事が要因として考えられる。 知的障害従業員の場合についても、指導者である工場長の指示に素直に従って行動しているために、他の従業員から受け入れられていると考えられる。 |

(4)職務内容が障害種別とあまり関連性がない |

繰り返し述べていることであるが、聴覚障害、つまり聞こえない若しくは聞き取りにくいという事が、作業内容とはあまり関係がなく、障害従業員に適した職務内容となっていることが挙げられる。 |

(5)それぞれの従業員に役割が与えられている |

それぞれの障害従業員に職務以外でも役割が与えられており、その役割を遂行する事で職場での一体感が生まれていると考えられる。また、御福餅の伊勢店開店10周年記念行事では、1名が代表者として舞台上で手話通訳をするなど、表舞台に立つことにも取り組まれている。 |

(6)夕食会を開いている |

1年ほど前から取り組まれている夕食会は、3ヶ月に1度の割合で開かれているとのことで、障害従業員の社会に対する考え方や日常生活を中心に話をしながら食事を取っているとのことであった。始めた当初は、障害従業員の思いを引き出すことは難しかったが、徐々に思いを語ってくれるようになり、現在では一人一人の従業員について理解を深める助けとなっている、と総務課長は話しておられた。 |

4.他の機関との連携と助成金
(1)職業安定所、学校や職業センターとの連携 |

御福餅では、県立の聾学校や養護学校、三重障害者職業センターからの実習生を受け入れており、その他にも研修会への参加などは事業所として積極的に参加し、障害者雇用の方法やあり方について検討を重ねているとのことであった。また、管轄の公共職業安定所とも障害者の受け入れなどについて、緊密な関係を保っているとのことであった。 また、採用にはいたらなかったが、3ヶ月かけて公共職業安定所の担当官や養護学校の教員、御福餅の担当者、社会保険労務士が様々な書類を作成し、受け入れの準備を整えていた、という話からも、一人の障害従業員を採用するために、多くの時間や関係機関、関係者との連携が必要なことを実感として感じた。 今後については、三重障害者職業センターのジョブコーチ支援事業についても活用を考えていきたいとのことであった。今後の採用予定に知的障害者をある程度想定している事からも必要と考えられている。 |

(2)助成金等 |

御福餅は、これまでに多数の障害者を雇用してきているが、助成金を活用し始めたのは平成15年度からである。それまでは、社長が助成金をもらう為に障害者雇用をしているわけではない、として助成金の受給申請をしてこなかったが、障害者雇用を進めるうえで、種々の福利厚生面やその他障害者の為の有効活用に気づき、最近では各種の援護措置を利用するようになったとのことである。これは、事業所としての理念や障害者雇用に対する考え方が大きく関係していることが推測される。 現在活用している助成制度は、障害者雇用報奨金、重度障害者介助等助成金、特定求職者雇用開発助成金の3種類である。 |

5.まとめ~定着の条件
総務課長は、現在雇用している障害従業員について、次のように述べておられた。嘘をつかない、業務内容等を正確に指示を守る、余計なことを言わない、全員が明るい、日常業務以外の事柄についても依頼すると迅速に対応する。 以上のようなことは障害の有無に関わらず、採用をする側にすれば、従業員に求める必要な事柄であることがわかる。障害者であってもこれらの事は社会人として必要な事柄であり、それを身につけている事が採用・定着に必要な条件であるという事が出来る。 職務内容については、障害の種類(部位)・程度に合ったものを提示する必要があるが、それについても、御福餅では従来の職務をほとんど変えることなく対応する事が出来ていることが、障害者雇用の拡大につながっているということが出来る。 (執筆者:佛教大学大学院博士課程社会学・社会福祉学専攻 尾崎 剛志) |

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