本人に可能な工程を探し出す
2004年度作成
事業所名 | 株式会社名賀繊維工業 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 三重県伊賀市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 婦人服製造業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 35名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 5名
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1.障害者雇用の経緯
名賀繊維工業では、およそ20年前から障害を持った従業員(以下、障害従業員とする)を雇用している。 婦人服を主に製造している事業所であり、本社工場ともう一つ同町内に工場を保有し、事業展開を行っている。当社の特徴として、現在、中国からの研修生を3年間という期限付きで受け入れており、中国からの研修生を受け入れたことにより、事業所全体の活気の醸成につながっており、こうした多種多様な従業員に対応できる企業風土が形成されているということが出来る。 さて、障害者雇用を始めたきっかけであるが、地元の中学校を卒業した知的障害者を一般公募で採用したのが最初となっている。その人は現在まで雇用を継続しており、裁断業務を主に担当している。 次に採用をしたのはそれから10年後になる。その障害者は公共職業安定所(以下、職安とする)の開催していた障害者合同求人説明会で面接をし、採用となった。この障害従業員は軽度の視覚障害を有しており、最初に採用された知的障害従業員とともに裁断の作業に従事している。 その後は、隣接市の知的障害者更生援護施設(以下、福祉施設とする)から3名の知的障害者を職業実習という形式で受け入れ、現在は縫製の作業に従事している。この3名については、出身の福祉施設においても縫製の作業をしており、本事業所においても仕事でも比較的スムーズに作業に入ることが出来ていた。 現在雇用をしている障害者は5名である。それ以外にも数名の障害者を雇用した経験があるが、それぞれの私的事情により退職をしている。
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2.雇用上の配慮として
(1)マンツーマンによる指導体勢 |

これまで、障害者雇用を進めるにあたり、実習生として障害者を受け入れた場合、作業指導者と障害者を1対1のペアにして作業を行う態勢を組んでいる。この実習期間中にどのような作業が可能かを検討し、雇用に結びつけるようにしている。このマンツーマン作業指導態勢が結果として定着に一定の効果をもたらしていると考えている。 現在は経験豊富な作業主任者が担当するようにしている。作業を熟知した主任者が一つの仕事をコツコツと教えることによって、時間はかかるが障害従業員の良い部分を引き出している。そうすることにより、一つずつの作業ではあるが、次第に出来るようになっているのが現状である。 |

(2)自分のことは自分で |

また、障害者の多くは、比較的社会経験の少ない人が多いので、事業所で働くということは、社会性を身につけるということに直結している。トイレの行き方は別にしても、休憩時間の過ごし方や他の従業員との付き合い方など、社会経験が少ないと誰でも判断に迷うことであろうと考えられる。そういう面についてしっかりとしたフォローが出来れば、障害者も安心して就職することが出来るのではないかと考えており、採用面接時に、障害者とその家族の方に対し、休憩時間の適切な取り方やトイレに行く時の方法などについて話をしている。 本事業所においては、障害があっても自分の事は自分でする、ということを徹底しており、仕事の面以外では他の従業員にそのことを徹底している。これは過干渉によって障害従業員が精神的に疲れることや、障害従業員自身が過度に依存的になることを抑制していると考えられる。 また他の従業員にとっても、常に緊張を強いられることなく障害従業員に接することが出来ると言うプラスの側面が考えられる。 |

(3)通勤に対する配慮 |

本事業所は駅から離れたところに位置している為、自家用車がないと通勤は不便であり、障害従業員の5名については本事業所の送迎バスにて最寄り駅もしくは自宅までの送迎を行っている。このことが雇用の継続に一つ大きな役割を果たしていると言うことが出来る。 |

(4)福利厚生 |

福利厚生面では、バーベキュー大会や食事会、忘年会等それぞれ年1回実施されているものには、障害従業員も参加しており、社員旅行については有志のみではあるが参加をしている。 |

(5)処遇面 |

衣服製造業については業界全体で冬物や夏物などの波があり、その季節によって製造する商品が異なる。そのため、障害従業員に担当できる作業が常に用意されているわけではなく、作業の変更に的確に対処できず、熟練度を挙げることが少ないため、やむをえず最低賃金の除外申請をしている。 |

3.作業上の配慮として
(1)品質管理に対する配慮 |

縫製をする布の生地に裏表を判別するシールを貼って目印にすること、縫製用の糸(約1200色)をメーカーごとに管理して管理者の指示書を通して持ち出すこととしていること等を挙げることが出来る。 縫製には様々なルールがあり、一般の従業員でも不注意があれば不良品に即つながってしまう。これら最低限度の失敗を防止するために、目印をつけたり糸の管理などを行っている。 本事業所では、特に品質管理面で気づくことのできる視点を大事にしている。特に知的障害従業員の場合、間違いに気づくことが出来なければ不良品が次々と発生してしまうので、障害従業員だけでなく、誰が見ても気づくことの出来る態勢作りを心がけている。
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(2)危険物管理の配慮 |

特に縫製作業のため、針の管理が重要となるが、折れた針についても台帳で管理をしており、一般の従業員では持ち出すことが出来ないようにしている。 これまでの障害者雇用で工夫をしなければならなかったのは、危険な機械を操作する際の安全上の配慮や、縫製用機械のスイッチを勝手にOFFにしてしまうことがあるため、繰り返し根気よく指導が必要なこと等である。 |

4.今後の展望として
障害者雇用を拡大してこられた要因としては、最初に雇用した障害従業員がうまくいったことが挙げられる。障害者雇用は始めてしまえば、次に続く人を採用することが可能となるのではないかと考える。 また、福祉施設からの斡旋などもあり、事業所における3~4ヶ月の職場実習をこなすたびに、障害者の持つ個々の能力は時間をかければ十分に引き出すことが可能である、という確信を持つことが出来ている。 ただし、最初でも述べたように、退職をしてしまった例も数名ある。名賀繊維工業としては、時間をかけて十分に対応をしていたのだが、本人から退職を希望されている。すべてがすべて上手くいくとは限らないと言うのが現状である。 加えて、現在の経営環境から考えて今後雇用を拡大することは困難であると考えている。 実習についてはこれまでも受け入れてきており、今後も依頼があれば可能な限り対応をしていきたいと考えている。特に養護学校や福祉施設等からは今後も受け入れることを検討している。 名賀繊維工業は営利企業であるので、障害従業員であっても利益を生み出すことの出来る工程に従事してもらいたいと考えている。利益を生み出すということは、その人が事業所で価値を認められるということであり、ひいては社会でその人の価値を認められる、ということにつながると考えている。よって本事業所では『出来る限り、この工程ならできる、というものを引き出したい』と考えて、仕事とのマッチングを調整している。 (執筆者:佛教大学大学院博士課程社会学・社会福祉学専攻 尾崎 剛志) |

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