多様な障害者の雇用管理に自然体で臨んでいる多様な業容企業
2004年度作成
事業所名 | 株式会社アサヒテックコーポレーション | |||||||||||||||||||||
所在地 | 滋賀県湖南市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 衛生陶器製品の製造・出荷・倉庫管理の業務請負 化学品等の製造の業務請負 プラスチック製品の製造販売 ワイヤーハーネスの製造 福祉機器の開発製造販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 442名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 10名
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![]() 本社全景 |

1.事業所の概要
(株)アサヒテックコーポレーションは、1962(昭和37)年に段ボール包装材の製造・販売を行う製造事業所として設立。以後、順次業容を拡大し、現在主な事業は次のとおりである。 ◆アウトソーシング事業(衛生陶器製品・出荷・倉庫関連事業の業務請負、化学品・化成品の製造業務請負) ◆ケミカル事業(飲料・医療・工業用プラスチックチューブ、ストローの製造、販売事業) ◆ハーネス事業(給湯器、冷蔵・冷凍ショーケース、フォークリフト用等の産業機械用ワイヤーハーネスの製造事業) ◆ 福祉関連事業(強化段ボール製小児用福祉用具「iトライチェア」の開発、製造、販売等の事業) ![]() 「i(アイ)トライチェア」 同社の開発した「iトライチェア」は、寝たきりの障害児の立ち上り、腰かけ、座位保持を促進・支援し、自立を援助するための用具である。 従来、この種の福祉用具は一定の需要があるものの、ほとんど開発されておらず、あっても特注製品で高価(10万~20万円)、重量、取扱いが難しい難点があった。 そこで同社では、これらの難点を打開し、需要に応えるため、軽量化をはかる資材として輸出入品梱包材たる強化3層段ボールの堅牢性(タテの圧力に強い)、軽量性に着目、繁成剛教授(近畿福祉大学)との共同開発、国・滋賀県の支援を受け、障害児福祉用具「iトライチェア」として、平成13年に製品化を果たしたものである。同チェアの特徴は安価(=12,500~15,000円)、軽量(=約2~3kg)で堅牢、移動・取扱いが容易であることで、現在年間販売実績は100~150台というところであるが、企業の社会的責務の観点から同社では継続して製造・販売を行う方針である。 なお、事業所数は計15か所である。 |

2.多種多様な障害者の雇用状況と採用
(1)(株)アサヒテックコーポレーションにおける障害者雇用の現状 |

平成16(2004)年11月1日現在における同社の障害者雇用の現状は、次表のとおりであり、現障害者雇用率は3.0%となっている。 現に雇用されている障害者(10人)の定着状況は概してよく、勤続年数は最長20年、平均13年にも及ぶものである。 第1表 障害者の個別就労状況
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(2)多種多様な障害者に対する積極的採用 |

(株)アサヒテックコーポレーションで雇用されている障害者(=現10人)の障害の内容と程度は、「第1表 障害者の個別就労状況」のとおり、きわめて多種・多様である。 これを区分すれば、身体障害者9人(うち重度4人)、知的障害者1人であるが、身体障害者の障害の部位は、聴覚・言語障害3人、視覚障害1人、上肢障害(内部疾患障害も併存)1人、下肢障害1人、体幹機能障害1人、内部疾患障害2人であり、うち4人が重度障害者である。 これらの障害者の採用に当っては、同社の場合、障害者雇用についての理解をベースに障害者雇用への特化を際立てさせずに「自然体」で採用活動を行い、その結果多数の障害者の雇用に結びつけた形である。つまり、創業以後の旺盛な労働力需要も背景にあって、採用経路を拡大したこと等により、職務遂行可能な障害者を積極的に採用する結果となったものである。 |

(3)所見 |

(株)アサヒテックコーポレーションにおける障害者の採用は同社の障害者雇用への特化を際立てさせない「自然体で」という採用活動によって結実したものであって、ここで特記しておきたい。 元来、障害者を雇用する動機としては、障害者雇用率の達成を目的とした行政機関による雇用勧奨をはじめとし、事業所の主体的な各般にわたる採用の取組みなどの契機によるものなどがあるが、本事例では保護者らの採用要請が契機となったとはいえ、これを受けて同社が障害者雇用への特化を際立てさせずに「自然体」的採用活動を行った結果、と認めることができる。 この背景には(1)同社の設立(1962年)後労働力需要が増大し、当時(1980[昭和55]年頃)は、滋賀県の労働力需給はきわめて逼迫していた(当時の有効求人倍率は0.8倍~0.9倍、2002[平成14]年度では0.57倍、2003[平成15]年度は0.74倍)こと、次に(2)同社の立地場所は人口が必ずしも稠密でなかったため充足への制約が大きかったこと、(3)もとより、同社の雇用管理理念のベースに障害者雇用への理解が浸透していたこと、を挙げることができる。 なお、同社の事業のうち、福祉関連事業(「iトライチェア」の開発・製造・販売事業)についてであるが、同事業の採算はほど遠く販売額も同社販売額の数%と寄与度は低い。 にもかかわらず、同社としては、寝たきりの障害児の自立には役立てたいとして、継続実施の意向であること、を付記しておく。 |

3.「自然体的雇用管理」による職場配置と定着
(1)職場配置の考え方 |

(株)アサヒテックコーポレーションにおける採用した障害者の職場配置の経緯と背景は、次のとおりである。 元々、同社における障害者の採用姿勢は、障害者雇用についての理解を下敷きにした「自然体的雇用管理」で臨んでいることを見てきたが、採用後の職場配置、処遇についてもほぼ同様である。 すなわち、障害者を採用し、職場に配置するに当っては、まず、障害者個々の属性、特性、職務遂行能力の見極めに当り、制約要因に適度にとらわれることなく、つまり、同社での仕事は大抵はこなせるのではないか、とのスタンスで配置する。したがってその配置手法は、健常者従業員の職場配置の手法と原則的に大きく変わるところはない。その結果、賃金等の労働条件については、同様に処遇している現状にある。 ただ、職場配置後における障害者の労務管理には各般にわたる工夫が認められ、これらの結果、現障害者従業員(10人)の現平均勤続年数は約13年ときわめてすぐれた定着状況が認められるのである。 |

(2)作業現場での障害者の様子 |

職場定着の現状を、同社テクノパーク事業所の障害者3人(聴覚障害50歳台2人、知的障害20歳台1人。いずれも男子)の作業ぶりを実地で見て理解した。テクノパーク事業所は、東陶機器製品の検査、梱包、発送、流通等のアウトソーシングの事業を行う滋賀県甲賀市所在の事業所である。 いずれも勤続十数年に及ぶ聴覚障害者2人の作業内容は、衛生陶器・水まわり機器の梱包用段ボール資材の調達・移動などであり、自らの判断で作業をこなし、コミュニケーションにさしたる支障はない様子である。1人は場内リフトの運転もしている。 また、知的障害者(勤続12年)は包装用段ボール箱の組立、包装用ゴミの分別、ステーションまでの手押車による運搬の仕事を、難なくこなしている。
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(3)労務管理上の工夫 |

特記すべき労務管理上の工夫は、障害者に対するコミュニケーション(とくに作業遂行に関わる会社の指示、伝達事項)の徹底をはかるために、(1)全従業員対象の朝礼、昼礼(毎日1回)時の重要伝達事項の文書による理解の徹底化をはかる、(2)ペア就労(障害者個々人ごとに、コミュニケーションの橋渡しをする健常者従業員を予め指名しておく2人)を同じ職場内で働くようにする工夫を行っており、これを含めて好定着につながっている、といえる。 |

(4)所見 |

同社の障害者の採用姿勢、労務管理の手法は、障害者雇用の理解の下に「自然体」で進められて、これは一見、細かな配慮が表立っては見え難い面もあろう。 しかしながら、子細に検証すると、その背後には表立たない支援体制(=例・ペア就労)と合理性を認めることができる。 つまり、障害者従業員にとってはコミュニケーション支援体制が機能しているし、一方、仕事の性質は作業対象が衛生陶器・水まわり機器(キッチン・バス機器)などの、極小微細とはいえない仕様の製品の検査、梱包、発送等の作業であるため、聴覚障害者をはじめ多様な障害をもつ従業員に概してなじみ易い仕事という背景が平均勤続約13年という継続雇用につながっている、と認められる。 (執筆者:滋賀文化短期大学非常勤講師 臼井 瑛) |

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