企業内共同作業所から雇用につなぐ
2004年度作成
事業所名 | 株式会社川合製作所 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 本社 滋賀県湖南市 石部工場 滋賀県湖南市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 自動車用部品の完成品組立 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 28名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 8名
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![]() 石部工場全景 |

1.事業所の概要と障害者雇用の状況
(1)事業内容 |

(株)川合製作所は自動車用部品(タイロットエンド、サスペンションアーム等の懸架装置用部品)の完成品組立を行っている事業所である。 製造品目の用途は、輸出された日本製中古自動車の補修用に使用されるものである。元来、日本製自動車は高品質、高性能の故に中古車としても輸出先国で長期に保有・使用されるため、輸出先国の現地ユーザーでは、補修用部品の需要が根強く、部品ストックを要する事情がある。 これを受けて同社は、製造元からの発注に応じて、各日本製自動車メーカーの部品各仕様(懸架用部品で約1,400種ある。車種・形式によっては約20年前の低年式車の仕様部品を始め、近年の高年式車の部品まですべてとりそろえる必要がある、多品種の仕様の意)を生産し、輸出先100余地域向けに分類・区分けの上、梱包まで一貫して実施、納品している。 |

(2)障害者雇用の現状 |

平成16(2004)年7月1日現在における、障害者(知的障害者)雇用の現状は次表のとおりである。 第1表 障害者の個別状況
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2.企業内共同作業所での作業実績から企業就労に結びつける
(1)障害者雇用の契機 |

(株)川合製作所では、同地が交通辺鄙な地であるうえ、近隣に福祉施設が多数設置されている事情から、入所者の生活を日夜目にするにつけ、何とか就労の機会を提供できないかと考えていた。昭和55(1980)年になって従業員の充足がさらに困難となってきたので、近隣の滋賀県立近江学園(児童福祉施設)生2名(男性1名、女性1名)を管轄公共職業安定所の指導の下に職場適応訓練生(訓練期間1年)として受入れたほか、作業訓練生としてさらに10名を受入れ、「訓練」を行った。 これら訓練生のうち、職場適応訓練生2名については、訓練期間終了後所期の訓練効果を認めるに至ったため、正式に雇用した。 |

(2)「企業内共同作業所」の設置 |

一方、他の作業訓練生については、訓練効果としてはみるべきものが認められなかったものの、訓練生の保護者や同学園からの就業希望を看過し難かったため、同社は「共同作業所」を新設したうえ、作業訓練終了生に「就業」の場を提供した。 こうした一連の取り組みは、「福祉的就労ではなく、できれば企業就労。仕事はきついかもしれないが、働く喜びがあると思うし、生きがいにつながる」(現社長)との経営者の信念によって実現したものと感じられる。 これら共同作業所で「就業」する者の就業の対価については、職場適応訓練終了後雇用された障害者の作業能率と比べて著しく格差があると認められるものの、無償ではいかがかとして、生活費程度の思いから平均月額4~5万円程度を各人に直接に交付し、また、出欠を明らかにするため、「タイムカード」も使用していた由である。 |

(3)共同作業所の位置づけの整理 |

平成13(2001)年7月、これら共同作業所で「就業」していた者の位置付けは、行政の指導に沿って、企業内共同作業所の設置者たる川合製作所に雇用される者として、位置付けの整理を行った。 |

(4)現状 |

現在、これらの就業者は、同社に雇用される者として最低賃金額適用除外の承認を受けたうえ継続就労している。また、作業所からは3名が就職している。この経緯は、企業内共同作業所での作業が訓練の場となって、企業就労への橋渡しの結果を生じたものであると認められる。 |

(5)所見 |

障害者、とくに知的障害者のスキルの水準は、一般的雇用労働(企業内の典型的労働形態)に問題なく適応可能なレベルの者がある一方、その対極に雇用的労働に従事不可能なレベルの者がある。その両者の中間域にさまざまなレベルのスキルの者が存在し、そのうちで雇用労働が可能と考えられる者の範囲は、固定的・横断的に明瞭に区分できるものではない。その範囲は、マクロ的には時代の要請、労働力需要の態様、個別的には事業主の雇用管理の理念、当該仕事の遂行に求められる能力等の諸要因により規定される個別性がきわめて強く、しかも変動するものであって、このことは障害者雇用の各企業での現状を見る限り、容易にうなずけるものである。 こうした現状を見ると、共同作業所で作業する障害者のなかには、その訓練の程度によりスキルが変動し、向上したと認められるに至り、雇用労働ないし一般就労(非典型的労働形態を含む)へ誘導できるレベルに至ったと認められる者も現れよう。その際に必要な対策は、福祉部門から一般就労への移行支援をはかる施策といわねばならない。 丁度この時期(2004年7月9日)、厚生労働省では「障害者の就労支援に関する今後の施策の方向性」をまとめ、公表された。それによると、「障害者の就労支援に関する当面の方向」において、前記と同旨の方向が打ち出されている。 すなわち、「福祉部門から一般就労への移行支援施策の確立」として、「現在の障害者の就労等に関する福祉施設等を、(1)一般就労に向けた支援の機能(訓練の場)、(2)就労が困難な者が日中活動を行う機能(日中活動の場)、(3)一定の支援のもとで継続的に就労する機能(働く場)の3つに区分したうえ、一般就労への移行を目指して上記(1)の『訓練の場』ではもとより、同(3)の『働く場』においても『就労能力の高まった者が次のステップに移行することを促す仕組みの検討』」(略記)を挙げている。 これらの実現を期待するとともに、この施策の副次的効用について述べる。 すなわち、福祉部門から一般就労への移行支援を行うに当たって具体化する課題の第一は、「訓練の場」たる福祉施設は現状では入所者に提供できる「仕事」の確保に苦慮しているが、この施策が実現すれば、一般就労を展望できる企業から「訓練機会(=仕事)」に見合う作業の提供を現状以上に期待できる訳である。つまりは、入所者向けの作業量の確保に目途がつく利点が考えられるのである。この意義も合わせて、施策の具体化に期待したい。 |

3.知的障害者の作業内容高度化への適応
——単一工程作業から複数工程へどう適応させるか——
(1)下請中小企業に対する発注元企業の内容高度化 |

(株)川合製作所の受注製品は、日本製中古自動車輸入国の現地ユーザーの求めによるタイロットエンド、サスペンションアーム等の懸架装置用部品であり、受注製造、加工、組立を行い、輸出先国向け仕分け、梱包、納入しているとのことである。 同社に対する発注元の発注内容は数年前までは、主として単一工程の作業をもって仕上げる部品を、部品として納入する形で足りたところ、2年前(2002年)から発注元の発注条件は、外製化・完成品化をさらに進め、その工程は連結した複数工程による作業を要するものが中心となってきている。そのため、納品は単一部品から中間的完成部品ユニットへと、しかも納入されたまま輸出できる形に梱包して納品を求める形に移ってきている。 この発注条件の改変の結果、従前の単一工程生産品目の比は全体の約2割にまで低下し、約8割は複数工程によるより高度な中間的完成部品ユニットへと、より高度化することとなった(単一部品のみ生産していた下請企業の数社は、近時受注減となった)。 加えて、これらの中間的完成部品ユニットの仕様は、典型的多品種(約1,400種内同社100種)少量生産であるため、頻繁に(作業の2日前に変更を要する例が多い)仕様の変更・取替を結果し、仕様の取替のつど、作業手順・ツールの「段取り替え」(同社での呼称)を必ず要することとなる。この「段取り替え」の頻度は、多い例では1日当り十数回に及ぶこともある由である。 この結果、これまで知的障害者の従事していた作業は、単一・反復・固定的作業であったところ、近年の発注元企業の発注内容高度化に即応して、限定的ながらも、複数工程で、かつ「段取り替え」による作業手順・内容の変更を伴う複数工程、仕様取替、非定型的作業の要素が加わらざるをえない新しい事態を迎えることとなった。 今後における企業内(=とくに製造業事業所内)での作業内容の変化を考えてみると、本事例のように単一的作業工程の仕事は、(知的障害者が従事している仕事か否かに関わりなく)漸減し、これに代って、より複雑で高度で仕様の変更を短時日要するような仕事が漸増してゆく、とみるのが現実的である。
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(2)知的障害者が作業工程の変化に対応するための手法 |

では、知的障害者の作業ぶりは、この新しい事態に適応できるのであろうか。ここで、知的障害者雇用事業主のとるべき有効な手段は何か、という課題に、今、直面しているのである。 単一工程の作業をこなしてきた知的障害者を、複数工程をこなし「段取り替え」を受容させるため(=知的障害者の作業で段取り替えのような応用問題に即応するには、長時間を要するため)、同社では以下のような手法を取り入れている。 健常者従業員(主としてパートタイマー)と知的障害者従業員をペアにし、かつ、最小単位の仕事の区分ごとに健常者従業員が中間検査(中間検査所要回数は単一工程作業時の約10倍)をして、知的障害者の作業完成度をチェックし、またフィードバックする、という手法である。 ペアの能率は、それぞれが単独で作業をしていたときの能率と比べると、現状では相当程度低下するのは避けられそうにない。なぜなら、健常者従業員の作業能率は、障害者従業員にOJTとしての指導とこまかく検査・チェックを要する作業を従前以上に多く要するため、いきおい低下する。また、障害者従業員の作業能率も、変化する「段取り替え」を受け入れて習熟するとしても、それまでの期間は低下を免れないからである。習熟までの所要期間は、健常者の3~5倍の時間とされている。 「段取り替え」に即応可能なペアの組み合わせの有効な手法については、たとえば作業習熟を促すには人的組み合わせ、習熟度の差の大きい組み合わせ、段取り替えの変化スピードのどれが最も効果的か等、試行錯誤中である。今後の継続的観察を要する課題である。
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(3)所見 |

下請中小企業における今後の発注元企業からの受注内容の変化は、本事例の(株)川合製作所で見られるように、単一工程を主とする部品の加工・製造の形から、連結・複数工程を要する中間的完成部品ユニットの形へと移行していく、と考えられる。 一方、現在、知的障害者が従事している作業の特徴は、単一工程・反復・定型的作業とされているところ、今後は発注元企業の求めに応じて、より高度に、限定的ながらも複数工程・仕様取替・非定型的作業主体の「段取り替え」が加わって、知的障害者の側も、新しい事態に習熟する必要が増すとみなければならない。そのための企業のとるべき手法は、新鋭設備の導入にはコストの面で踏みきれない状況からみて、健常者従業員のOJTによる障害者の訓練の外にはあるまい。 この結果、製造業における知的障害者の職場適応は、障害者の仕事が限定的ながらもより複雑で、応用的で、非定型的な作業が加わってくる(=これらの作業への習熟は知的障害者にとっては、かなりの時間を要するものである)ため、健常者の指導・障害者の受容を促し支える仕組み・訓練環境の充実を、さらに望むものである。 (執筆者:滋賀文化短期大学非常勤講師 臼井 瑛) |

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