重度視覚障害者の職務転換の成功例~電話交換手からテープ起こし業務へ~
2004年度作成
事業所名 | 株式会社椿本チエイン 京田辺工場 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 京都府京田辺市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 一般産業用チェーン、自動車用エンジンタイミングドライブシステム、物流・FAシステムの開発、製造及び販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 879名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 14名
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![]() 工場全景 |

1.事業所の概要
(1)企業全体の概要 |

大正6年12月に個人経営として椿本説三氏が創業、自転車用チェーンの製造を開始した。 昭和3年に自転車用チェーンの製造を廃止し、機械用チェーンの製造に専念する。 昭和16年1月に株式会社として新たに発足、昭和24年5月には大阪及び東京証券取引所に上場した。 これを機に新製品の開発にも力を注ぎ、自動車エンジン用タイミングチェーンや変速機の量産をはじめ、モノレール式搬送システムなどのマテハンシステムの製作を始める。 昭和45年、社名を現在の「株式会社椿本チエイン」に改称、それ以後、チェーン・自動車部品・精機・マテハン事業にと、着実に業績を拡大し、それぞれの分野での地位を揺ぎないものとしていった。 現在、本社は大阪府大阪市、工場は京田辺、京都、兵庫、埼玉の4カ所にある。従業員数は、全社で1,706名(平成16年3月現在)である。 |

(2)京田辺工場の概要 |

この椿本チエインの中核施設である京田辺工場を訪問したのは、平成16年12月のある晴れた日であった。7万坪もある広大な敷地にひと際目立つ斬新なデザインの建物群、それを取り囲むように自然豊かな環境に満ち溢れた中に工場はあった。 障害者雇用推進者として人事部参事の南出次郎氏、職業生活相談員として本岡昭二カウンセラー(なんでも相談担当)が任命されている。 ![]() 工場内部 |

2.障害者雇用の経緯
昭和56年の国際障害者年を契機として、障害者についての理解と関心が急激に高まる中、企業は障害者の雇用を通じて社会福祉の向上に貢献することが法律で決まり、どの企業も障害者を一定割合雇い入れなければならないという制度ができた。 この当時、当社の障害者雇用は、法定雇用率を大幅に下回っており、0.8%という状況であった(当時の法定雇用率は1.5%)。 昭和58年12月、法定雇用率の達成に向けて「障害者雇用」の方針が決定された。その内容は、一気に達成するには無理があるので、最終目標を掲げながら当面の目標として昭和59年12月末までに雇用率を1.2%にすることであった。 そのための採用人数は8人、その具体的な受入れ職場・職務などを各セクションに振り分けられ進められた。当初は、現場作業の安全上、聴覚障害者の採用を主に行うこととし、ハローワークを通じての活動が始まった。聴覚障害者の受入れに当たって、健常者との意思疎通や伝達手段など現場の不安はいろいろあったものの、心配していたよりスムーズに受け入れが進み、当面の目標は実現された。 さらに法定雇用率を完全に達成するために、視覚障害者や知的障害者に対する受入れ職場の環境整備が進められた。 障害者の法定雇用率は昭和63年から1.6%になっており、平成5年には再び障害者数が不足することになった。その時にも「景況が厳しく中途採用は凍結の方針の中にあっても、障害者の採用は続けること」と本部長名で早期達成の決意を示した。このように、経営トップが率先して何としてもやり遂げようとする姿勢を示すことによって、障害者の雇用は着実に進んだ。 当社の雇用率は、平成9年から2%となり、法定雇用率(平成10年7月から1.8%)を上回っていたが、今年度(平成16年度)は除外率が引き下げられたため、法定雇用率を再び割ることになった。しかし、障害者雇用促進については、その都度積極的に取り組み、社会的要請に応えてきている。 |

3.京田辺工場における障害者の職場配置
(1)障害者雇用の状況 |

現在、京田辺工場には14人の聴覚・上下肢・聴覚・知的などの障害をもつ人が働いている。
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(2)障害者の職場配置と作業内容 |

職場配置については、基本的には仕事に合わせて採用している。 しかし、障害者には安全への配慮として、同じチェーンの作業であっても比較的軽量物を取り扱うプラスチック製品の職場へ配属しているケースが多い。 障害別の作業内容は以下の通りである。 ア 視覚障害者(重度、2名) 1名はテープ起こし・電話交換・総務補助の業務、1名は産業マッサージに従事。 イ 聴覚障害者(4名、うち重度3名) プラスチックケーブルべアやプラスチックチェーンの組立・梱包に従事。 ウ 上下肢障害者(6名、うち重度2名) コンベアチェーンやローラーチェーンの成型・組立、翻訳業務等に従事。 エ 内部障害者(1名) 一般事務に従事。 オ 知的障害者(1名) 庫出し(ピッキング)業務や段ボール再利用の機械操作に従事。 |

4.定着への取り組み
(1)教育と安全管理 |

仕事の慣れから起こる失敗や危険についての安全管理は、現場管理者が常に注意を促し報告を求めている。 特に事故等があった場合、再発防止に徹底して取り組み、また作業指示や教育・訓練についても、それぞれの現場の上司が、マンツーマンで対応している。 |

(2)「何でも相談室」の設置 |

聴覚障害の人には、現場でのコミュニケーションに起因する職場内での人間関係の問題が起こることがある。そういった問題には「何でも相談室」を活用して対処している。 専門のカウンセラーを配置し、仕事面だけでなく生活面も相談できるようになってからの相談件数は減少傾向にある。 また、新たに障害者を受け入れる職場では、安全の問題や教育訓練の問題等で、いろいろ不安な面が見受けられたが、今ではそれも解消されつつある。 手話の出来る人が定年で辞めると困ることが多いが、職場の人間関係は、仲間としての思いやりを大切にする気風を高める教育が常にされていて、障害者雇用の安定に繋がっているように感じた。 |

5.重度視覚障害者の職務拡大
(1)電話交換手からテープ起こしへ職務転換したNさん |

視覚障害者のNさんは、昭和60年に大阪のライトハウスの世話でハローワークを通じて入社し、電話交換手として働いていたが、ダイヤルインの導入で仕事が徐々に少なくなっていった。 平成9年には、益々、仕事が減り、Nさんに新しい仕事を開拓する必要が生じた。 当時、全従業員に実施していた「事業再編」のアンケートで、「会社のためにどんなことが出来るか、したいか」の問いかけにより本人の意向を確認することになった。 結果、新たに見つけられた仕事は、議事録や講演のテープ起こし、工場見学者への準備、数は減ったものの電話交換業務などであった。 イ 職場が変わって 工場移転により、自宅近くの通いなれた本社工場(大阪市鶴見区)から新しい京田辺工場に通勤することになった。 新工場への通勤には、当然、上司や同僚らがJR京田辺駅のホームやバス乗り場で待ち合わせて介助するなど、さまざまなサポートを受けることになった。 Nさんは、通勤の苦労や新しい仕事で困ったりしたことよりも、まず職場環境に慣れるのに随分悩んだそうだ。例えば、電話交換業務のみの時は、6畳ほどの電話交換室に2人だけであったが、総務グループの広い事務所に移ることになり大いに戸惑った。今までと違って周囲の忙しそうな様子が耳に飛び込んでくるのである。 また、テープ起こしの仕事も当初は少なく、たまにしかかかってこない電話をただじっと待つだけという日々が続いた。暇なので、隣の席のYさんに「自分に出来ることを何かさせて」と相談することが増えた。新工場への移転前からサポート役を務めていたYさんは、彼女の働きぶりや周囲に交わろうとする明るくて常に前向きな姿勢にどんどん引き込まれていったと、笑って答えられていた。 ウ 現在では 現在では、多くの人の手助けもあって、自分の仕事をてきぱきとこなしておられた。 そして、Nさんは、昨年の第1回アビリンピック京都大会で視覚障害者対象のテープ起こし競技に参加し、見事銅賞を受賞されるまでになった。 このように、職務転換がうまく出来たのは、本人の努力はもちろんだが、周囲の温かい支えがあったればこそと、Mさんは何度も言っておられた。 |

(2)ヘルスキーパーのKさん |

この度、採用されたもう一人の視覚障害者のKさんにもお会いした。 ハローワークを通じて、昨年の10月からヘルスキーパー(産業マッサージ師)として働いておられた。 彼女は「今まで、いろいろなところでこの仕事をしてきたが、こんなに働きやすい良い職場は無かった」、「何よりも周りの温かさがありがたい」と本当に嬉しそうに言っておられた。忙しそうだったのでゆっくり話は出来なかったが、満足して仕事をされていることだけは、間違いなく伝わってきた。 このような働くことの厳しさの中で、アットホームな社風がいつまでも続くことを信じて、工場を後にした。 |

6.まとめ
(執筆者:京都府障害者雇用促進協会技術顧問(雇用管理) 佐野 太一) |

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