就労支援機関を有効に活用し、メール室業務で障害者を雇用～障害当事者のキャリアプランを描きながら～
2004年度作成
| 事業所名 | 松下コンシューマーエレクトロニクス株式会社 関西支社 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 大阪府大阪市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 家電製品卸売業 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 240名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 2名
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 松下コンシューマーエレクトロニクス株式会社関西支店の外観 |
1.メール室業務での障害者雇用
| 日本一長い商店街と言われる天神橋商店街。賑やかな商店街のすぐそばに松下コンシューマーエレクトロ二クス株式会社関西支社がある。グループ会社の家電商品の量販店への販売活動を行う営業拠点である。 この関西支社のメール室で、郵便物や宅配物の荷受、担当者のもとへの運搬、カタログの発送作業を2名の重度障害者が担当している。 今でこそ、2名の分担で（仕事の量が日々前後するので、必ずしもその通りでないことも多いらしいが）仕事をこなすことができているのだが、最初からこのように、業務分担が整理できていたわけではなかった。 事業所側が安定した障害者雇用の受け入れ体制を整え、職場環境の改善を図ったことが何よりも障害者雇用の取り組みがうまくいっている要因だが、複数の支援機関と連携し、障害者の業務遂行にとっての効果的な就労支援を展開することができた点も無視できない。この会社の障害者雇用の取り組みでの特色の一つでもある。 |
2.就労支援機関の活用
| メール室での障害者雇用に取り組んだのは、今から4年前のこと。ハローワークに障害者求人（1名）の募集をしたことがきっかけである。採用したのは、交通事故で脳に損傷を受け、箕面市障害者雇用支援センター（以下「雇用支援センター」という。）に在籍していたAさんであった。 これまでは、障害のない社員が業務の合間に片付けていたメール業務。事業所内の事情に精通していれば、大きな問題なくこなせる仕事である。しかし、事業所内の組織の状況がわからない人にとっては、誰がどの組織に属しているのかがわからない、どの組織のデスクがどの場所にあるのかもわからない等、混乱するばかりの職場環境であった。事故の後遺障害として記憶力にも障害があるAさんにとっては、仕事の段取りをなかなか覚えられず、苦労の毎日だった。
雇用支援センター、トライアル雇用、職務試行法、ジョブコーチ事業 ・・・。事業主が障害者雇用に取り組む際に活用できる制度についてのキーワードは多岐に及ぶ。また、よく似た名称が多いために、混乱してしまうという事業主の方からの意見も多く聞く。しかし、この事業所に関しては、雇用支援センターを窓口にして、これらの制度を全て活用した。そして、それぞれが効果的に機能していったのである。 現在、メール室では障害者2名が働いている。3年前から働いているBさんと働きはじめて1年になるCさん。就労支援の制度がなければ、BさんやCさんがこの事業所で活き活きと働くことはできなかったであろう。 |
3.障害者従業員への熱い思い
| 事業所が障害者の就労支援制度を積極的に活用する背景に、メール室担当部署を始めとする、事業所としての障害者従業員の受け入れに対する熱い思いを感じずにはいられない。 3年前から働いているBさんは、当初はパートタイマーとしての採用だったが、昨年に準社員に昇格した。当初からBさんの働きぶりは、事業所の中で高い評価を得ていたわけだが、事業所が20代半ばのBさんのこの先の人生を真剣に考え、キャリアプランを描いたからこそ実現できたことでもある。 一方のCさんも、準社員になることを目標に仕事を一つずつ覚えている最中である。 |
4.指揮命令系統の明確さ
| メール室の障害者従業員が混乱なく業務を遂行できている要因の一つに、指揮命令のラインがしっかりとしている点がある。メール室業務の担当には、SさんとIさん。その上司にリーダーのTさんと組織上も整理されているのだが、業務上についても、SさんとIさんから実に明確に指示が出される。 また、会社の風土でもあるのだが、数ヶ月に一度は、お酒の席を設けているとのこと。何よりも大阪・天満の近く、アフター5を楽しむ店はいくらでもある。お酒好きのBさん、Cさんは、この日は酒に飲まれんばかりに飲み明かし、仕事への思い、プライベートな悩み等を打ち明けるのだそうだ。そうした関わりも、メール室の障害者従業員と、上司との信頼関係が深まっていくきっかけになることは、言うまでもない。 200名余りが働く会社のメール室。発送する宅配物の手続き等で、社員の出入りは頻繁である。当然、メール室の障害者従業員と他の社員が雑談をする機会も増えてくる。それでも、指揮命令のラインがしっかりしているため、業務が混乱するといった影響もない。 |
5.二つのホットライン
また、ホットラインといえば、事業所のSさん、Iさんと就労支援機関との間にもホットラインがつながっているのである。障害者従業員が「元気がない」「顔色がよくない」「後ろ向きな発言が多い」といったときに、就労支援機関には、事業所からの連絡が入るのである。すると、就労支援機関の職員は事業所に向かい、障害者従業員と事業所との間に入り、業務遂行の支援や指示の出し方の提案、その他悩み相談・・・と就労支援を展開するのである。就労支援機関のサポートは、いつでも相談できるという安心感も提供しているのである。 |
6.これからも就労支援機関を活用して・・・
| 「Bさんも、仕事で判断できることが増えて、任せられる仕事の幅が広がったなぁ・・・。」とは、事業所でBさんを見守るIさんの弁。Bさんのがんばりと、事業所と就労支援機関が連携してBさんを支えてきた結果である。 「これからも、Sさん、Iさんがいる限り、障害者雇用の受け入れ体制は万全・・・」と思いたいところだが、大きな会社ゆえ、人事異動の可能性もある。事実、これまでも直属の上司は何度か入れ替わっており、Bさんにとっては、Sさん、Iさんは入社当初からの関わりではない。 しかし、担当者が替わらざるをえない事業所での障害者雇用でこそ、存在価値を発揮するのが就労支援機関のサポートである。担当者が替わった際には、事業所に出向き、改めて就労支援機関の視点で、障害者従業員に必要なサポートと就労支援機関の存在についての説明を行うのである。このことで、担当者が入れ替わっても、切れ目なく障害者従業員へのサポートを続けることができるようになる。 Bさん、Cさんにとっては、信頼できるSさん、Iさんといつまでも一緒に仕事をしたいだろうが、こればかりは大きな会社組織の決めること。ただ、仮に障害者従業員の上司が人事異動で替わろうとも、事業所が就労支援機関を活用する限りは、障害者従業員が信頼できる就労支援機関のサポートを受けることができるのである。 就労支援の裾野はどんどん広がり、地域レベルでの様々な就労支援が展開されている。障害者雇用に取り組む事業主にとっての安心だけでなく、事業所で働く障害当事者の不安を少なくする意味でも、事業主の皆さんには、この事業所のように、もっともっと積極的かつ貪欲に就労支援機関のサポートを活用してもらいたい。 （執筆者：財団法人箕面市障害者事業団 下司良一） |
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