障害者と共に働くことが、働きがい生きがいに
2004年度作成
事業所名 | 間口マテリアルハンドリング株式会社 ならコープ物流センター出張所 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 奈良県磯城郡田原本町 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | ならコープ物流センターの構内で、荷受した商品を検品・仕分し、ピッキング・梱包をする事業。 梱包された商品は県内の6支所(北部、中部、生駒、高田、香芝、桜井)を通じて生活協同組合員宅に宅配される。 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 450名(フルタイム60人、午前型パート200人、午後型パート120人、夜型パート70人) 会社全体 4,500人 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 26名
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![]() 全景 |

1.事業所の概要と理念
(1)事業所の理念 |

ヒト・カネ・モノという三大経営資源のうち、人材を経営の中心に据えて、創業100年をこえる港湾運送事業の老舗である。昭和40年代から生活協同組合物流センター内業務(荷受、検品、集品、仕分、ピッキング、梱包、食品加工、在庫管理、棚卸等)を各地で展開されている。 「ノーマライゼーションの理念に沿った社会の実現にむけて、企業の社会的責任を全うする」として、障害者の方々とも「現場の創意工夫と本人の努力で、一人ひとりの潜在能力を引き出し、磨き、生産現場で能力を発揮して、会社に貢献する」を目標に、日々努力されている。 社是は、「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず をもとに、人材の育成並びに資質の向上をめざす」。 モットーは、「Yes We can do it well.(はい!やります) We satisfy your needs, whatever they are.」。 |

(2)当物流センターの事業内容・作業内容 |

ア シッパー 回収された通い箱を選別整理保管し、空箱の内壁いっぱいにビニール袋を沿わせて集品作業の準備をする。 イ バッカン 入荷商品が取り出されて、空になったプラスチック容器を種類別、大きさ別に整理して納品元へ返却の準備をする。ダンボール容器は取りまとめて売却の準備をする。 ウ 荷受、検品 入荷した商品の梱包を解き、ダンボール等の容器から商品を取り出し、検品する。 エ 仕分 検品された商品を、商品ごとに区分棚に整理・配列する。
区分棚から伝票記載の商品をピッキングし、そのドライ商品、冷蔵商品、冷凍商品、農産商品を通い箱(シッパー)に入れる。そこへ保冷剤、緩衝材を加えて、蓋をする カ 梱包 シッパーの梱包をする。 キ リサイクル 破損した発泡スチロールなどをリサイクルするため、機械で破砕・成型する。 ク 整理整頓 マテハン機器(作業場内で用いる台車、カゴ車、シッパーなど)を整理整頓する。
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2.障害者雇用の沿革
(1)障害者雇用のきっかけ |

この事業所での障害者雇用は、企業の熱意、地道な取り組みは言うに及ばず、社団法人奈良県手をつなぐ育成会在宅障害者自立訓練事業所、養護学校、ハローワーク、奈良障害者職業センター、障害者雇用促進協会などの支援により推進された。 平成7年頃から、この物流センターでは、「ならコープ(奈良市民生活協組合)」が社団法人奈良県手をつなぐ育成会在宅障害者自立訓練事業所に、回収したペットボトルとビニール袋の整理作業を提供している。今も指導員1人を配置して、知的障害者7人の職業生活への参加・復帰をめざして自立訓練が行われている。 当社は、この物流センターで荷主「ならコープ」から物流業務を受託して、その組合員から注文された商品を個別配達する前工程(荷受・検品・仕分・ピッキング・梱包)を主要な業務内容として事業を展開している。 そうした縁で、自立訓練事業所の訓練生のなかから平成8年4月に1人、5月に1人、平成9年2月に1人、平成11年9月に1人、当社のライン作業に採用し、当社の社員450人とともに働くこととなった。 一人、二人と迎えられた障害者が、採用から職場適応、定着にこぎつけるまでの歩みの中で、それぞれが努力と挑戦をし、家族からは励ましや必死の支援、自立訓練事業所の歴代所長からは熱意あふれるサポートを受け、会社の指名した上司や世話役、同僚等の温かく地道な粘り強い支援とこれらと連携した会社の粘り強い取り組みにより、挫折を克服し、障害者が健常者に伍して生産現場に欠かせない人財(人材)へと成長していった。今では現場作業の熟練者となっておられる。 そのようにして蓄積された職場適応・定着への尊い実績が活かされ、後日当社における障害者雇用の進展へとつながっていく。 |

(2)関係機関の協力による雇用の進展 |

平成14年に、当社の他府県所在物流センターで障害者雇用の推進実績を重ねられた前任の木之下課長(副所長)が当事業所に人事労務責任者として着任され、障害者雇用がすすめられた。在宅障害者自立訓練事業所(育成会運営)、養護学校、ハローワーク、奈良障害者職業センター等との連携が深められていったのは勿論である。 平成15年1月に1人、2月に1人、3月に1人が奈良障害者職業センターのサポートを受けて採用された。職場配置の工夫、職務内容の見直し、職場適応の取り組み、就業時間の工夫、賃金格付等処遇の決定をみて、ライン作業のメンバーとして活躍することとなった。 3月には、在宅障害者自立訓練事業所からの4人が、養護学校、ハローワーク、奈良障害者職業センター等のサポートを受けて採用され、フルタイムでライン作業のメンバーとして現在も働いておられる。 これらの人々は22~35歳で、学校卒業後、職業経験をもつ社会人であり、前の就業先が事業所閉鎖、リストラ、自己都合等で失業を余儀なくされた方が多い。再就職をめざしてこの機会をえられたことを喜び、家族と関係者の支援を得て努力をされている。 |

(3)増員に伴う中高年齢障害者の雇用 |

さらに平成15年3月には、農産商品ラインが充実されることとなり、パート5人募集の相談をした折に、ハローワーク桜井からの要請をうけて、夜間(18:00~22:00)作業に障害者を採用することとされた。ハローワークから中高年齢障害者5人の紹介を受け、採用された。はじめての中高年齢障害者の雇用である。 この新たなる職域開発にあたっては、事業所トップの指示により、人事担当責任者、現場のリーダーによる検討がなされた。結果、雇用環境・作業環境の設定が行われ、多くの健常者と一体となっての作業が円滑に効率的に展開されている。ここに60歳定年前後(56~67歳)の人々の採用が実現した。 |

(4)学卒者・倒産による離職者の採用 |

やがて学卒時採用が平成15年3月卒からはじまり、2校から重度知的障害者を含む2人が採用された。16年3月卒でも重度知的障害者1人の採用をみている。 平成15年5月には他社倒産等で職をなくした重度知的障害者3人が採用された。この人たちの採用については、ジョブコーチによる支援事業(雇用前1カ月を含む5カ月)を活用し、また業務遂行援助者を配置して指導・就業援助をしている。なお、これら3人の雇用に関して重度障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置)が活用された。 つづいて8月に1人、9月に1人、11月に1人を採用し、その際もジョブコーチによる支援事業(1カ月~2カ月)を行い、業務遂行援助者を配置して支援している。 このような経過があって、平成16年8月現在の障害者雇用状況は計26人(視覚障害1人、肢体不自由3人、心臓機能障害1人、知的障害21人)となっている。養護学校卒業後に他社での就職経験者が多くを占め、若年者から高年齢者までの軽度・中度・重度の障害者が在籍している。 |

3.作業内容・配置・能力開発
(1)採用の条件 |

採用の条件として、一定の体力、気力、作業能力が必要で、通勤できること、職業生活について家族の協力支援が得られること、生活リズムの保持に努められることなどが求められる。 |

(2)障害者が担う職務分担 |

ア ドライ・冷凍・冷蔵の商品別 商品を仕分・ピッキング・梱包する補助作業。
回収された通い箱を選別整理保管、集品の前準備をする。
保冷剤の積み上げ(Jシッパーに詰め合わせの補助作業)。
空のダンボール、空のプラスチック箱を選別整理保管する。
発泡スチロールを破砕して再利用の原料に向ける。 カ 場内整理 マテハン機器の整理整頓をする。 |

(3)障害者の配置 |

障害者の配置にあたっては、物流センター1階に作業ラインが4列あって、ライン毎に3人、計12人を配置し、列毎にパート従業員2人が密着した形で指導・支援が始まった。作業の手順は、シッパーに保冷材をいれ緩衝材で区切り蓋をする。これを3人1組で作業するというものである。 一人ひとりの障害の特性に応じて、職業能力を個別に見極めきめ細かく検討して職場配置をする。そして、指名されたリーダーを中心とした職場適応への挑戦がはじまる。一人ひとりの適性と能力を見極め、リーダー・ライン長が作業環境を設定し、作業を進めていく。 必要に応じてジョブコーチのサポートを受けたり、配置転換や職務内容の見直しを試みたりしながら、トライ&トライで仕事に習熟していき、着実な職場適応にいたるのである。 |

(4)採用の条件 |

職場実習では、ジョブコーチ支援を活用しながら、マニュアルを使う、絵に描く、言って聞かせ、やってみせ、やらせてみる、といった指導をしている。こうして実務を通じて具体的にマンツーマンで指導する中で、指導者は成功を本人とともに喜び、障害者は一歩一歩着実に習熟して、仕事を我が物としていく。 また、人事担当と現場のリーダーが連携して、人事考課と職場配置、合同研修、職場毎研修、密着指導のOJTを行っている。手違いがあればその場で指摘して改善をはかる。 指導のためリーダーのもとに配置していた補助者2人を、習熟にしたがって補助者1人に縮小し、段々とサポートの密度を下げていき独り立ちへとつなげる等の実践もしている。 |

4.障害者の力を活かす職場づくりと指導者・同僚の意識
(1)雰囲気づくり、職場づくり |

あいさつ、礼儀、言葉遣い、マナーは、職業生活に欠かせない。これらを身につけて、社員、パート、バイト等の皆さんとの融和が図られれば、勤めに出ることが苦にならない。仕事が当たり前に、楽しみに、喜びになる。そんな雰囲気づくりに努力が重ねられている。 人間関係に問題があるとみたとき、その多くは障害者というより周囲の健常者との関係でもあることを理解している。また、職場と家庭・保護者間で連絡帳の往復をしており、作業指導と生活指導をめぐって障害者職業生活相談員が働いている。 また、集中力の要る仕事の場合は時に上手に緊張をほぐす等、適度の疲労緩和、生産性の向上、産業安全の確保に取り組んでいる。生産業績の向上、経営合理化に沿った職場環境の整備・障害者の力を活かせる職場作りが進められている。現場のリーダーの働きにより勤労意欲が引き出されかつ保持されて、喜びの職業生活が実現するよう営みがつづけられている。 その結果、無断欠勤はこれまでほとんどなく、事前の申請による休暇の取得が守られている。真面目にひたむきに励む障害者、その豊かな感性をうけとめて、ともに職場生活を送っているのである。 |

(2)指導者・同僚にとっての働きがい |

あるリーダーは、部下が仕事をこなせるまで指導して初めて自分の職責が果たせたことの喜びと自信を語っておられる。障害者の職業自立、これは障害者自身にとってこのうえない喜びにちがいない。同時に指導者であるリーダー本人にとっても、その職責を果たせたという自信が、ご自身の働きがい生きがいにも通じるというものである。 また、その職場でともに働く中高年パートの方が、パートナーとなって仕事をするなかで、障害者がこの職場に働きがい生きがいを持って働くことが、パートナーご自身の働きがい生きがいでもあると話されたのが印象的であった。 |

(3)障害者職場定着推進チームの設置 |

中高年齢者と若年者、健常者と障害者、男性と女性、いろいろな特性を持つ人々が構成するこの職場において、日常、障害者がごく普通に健常者とともに職場で働く状態を求めて「ノーマライゼーション」の取り組みがつづけられる。 このように事業所トップの障害者雇用に対する深い理解と支え、それに雇用管理責任者、作業現場の指導員、生活相談支援者、障害者の代表格、保護者等からなる就業サポートが、当事業所にはじめての障害者を受け入れられてからつづけられてきた。平成15年度に多くの障害者を採用、作業現場の各部署に配置して、雇用障害者数が20人を越えたことから、奈良県障害者雇用促進協会の要請を受けて、平成15年10月7日に障害者職場定着推進チームが正式に設置され、10月30日にその発会式(保護者、学校教諭、協会等関係者同席)が行われた。 構成メンバーは、出張所長、人事担当副所長、ライン長・作業現場指導員4人、障害者の代表とし、例会を2カ月に1回予定している。 |

5.処遇と健康管理
(1)労働条件 |

最低賃金はクリアーされており、除外申請の事例はない。 就業時間については、8:30~17:00、9:00~17:00、12:30~17:30、18:00~22:00などとなっている。 休憩は、同僚、仲間、上司、正社員、パートさんなどとのコミュニケーションの大切な場となり、このひととき、休憩時間のリフレッシュが作業効率の向上に役立てられている。 |

(2)健康管理 |

作業場は生鮮食料品、冷凍商品、冷蔵商品を取り扱うので寒い。ある障害者が体調不順に苦しんだが、それを家庭と職場のサポートにより克服し、みごと勤続にこぎつけた。 社員がいきいきと働いて会社に貢献してもらうためには、健康管理は欠かせない。日々の心身の体調を見守り、声をかけ、必要に応じてメモを手渡すなどして、家庭との連絡が緊密に行われる。 |

(3)通勤 |

近鉄電車の黒田駅から徒歩15分の立地である。送迎バスは田原本、橿原、王寺の各駅とこの物流センターとの間で運行されている。障害者の皆さんもこれらを利用して通勤しておられるが、自ら車を運転して通勤をされる方もある。 |

6.障害者雇用の効果と今後の課題
(1)まとめ |

当社は、パート従業員を含めて雇用者450人のうち障害者が26人であり、障害者雇用率は高水準にある。健常者とともに障害者がこの職場でいきいきと輝いて働くまでに到達している。 経営や雇用の合理化という厳しい条件下にもかかわらず、持続された障害者雇用、職域開発の成果。そこに至るまでの雇用管理、職務内容の見直し、職場適応への企業努力。これを紆余曲折の工夫をこらしトライ&トライで乗り越えてこられた。 それは、池田出張所長のもとで中野副所長とリーダーの方々の確固たるリーダーシップの発揮があり、そして同僚や仲間それぞれの日々の支援があってこそ、ここに「あなたと共に働く職場、働きがい生きがいのある職場」を構築されたのである。 |

(2)障害者雇用の効果 |

障害者本人の一生懸命な仕事振りが周りへ波及していく。 職場のスタッフとのコミュニケーションの工夫で和やかさが保てる。 障害者に秘められた能力の発掘、開発、適職とのマッチングで生産性が向上する。 他の社員の研修・教育実施のチャンスとなる。 職場で障害者同士が切磋琢磨して育ちあう。 |

(3)これからの課題 |

作業環境の整備、休憩室、更衣室、更衣ロッカーの改善。 周囲の支援・協力に感謝して、できる人も自意識過剰に陥らないように。 その職場になくてはならない人となること。 職域開発、職場改善、健康と安全の確保。 機会の平等から多様性の追求へ。 障害者がごく自然に健常者とともに社会参加できることを求めて。 地道に手堅く着実に課題に挑戦。 (執筆者:社会保険労務士 冨松 茂) |

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