私を待っている職場がある~連帯感とチームワークの職場づくり~
2004年度作成
事業所名 | 有限会社上田玄米茶屋 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 奈良県大和高田市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | お茶(ティーバッグ)・コーヒー等の製造加工 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 30名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 3名
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1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要 |

当社は、昭和34年に創業し、現在地には平成11年11月に移転した。平成12年、有限会社上田玄米茶屋となる。 本社工場と橿原工場があり、橿原工場は平成15年10月から稼動している。 主要の扱い品目は、緑茶、ほうじ茶、麦茶、ハーブティー、紅茶、コーヒーなどの製造加工であり、取引先は大阪及び近畿一円である。 現在地にお茶の生産工場を建ててからおよそ5年が経過するが、原材料であるお茶の葉は湿気と乾燥の両方を嫌い、また時間が長く経過すると命ともいえる香り成分が飛んでしまうため、材料を長く保管をしておくわけにはいかず、決められた時間内に生産計画どおりに工程を迅速に進めてゆくことが重要となっている。 経営の理念は、「迅速 快適 誠実」である。 |

(2)障害者雇用の経緯 |

従業員を採用するにあたり、当初は障害者の雇用を考えていなかったが、奈良県立高等養護学校の先生の熱心な勧めがあり、最初は実習を受け入れ、現場の責任者のほうでOK が出たのでやってみようということになった。勿論、最初から戦力となるかどうかは未知数であり、時間が相当にかかるものと考えていた。 最初に採用した人が長期的な就業となり、問題も無く働いてくれていることから、その後も数名の障害者を継続的に雇用するようになり現在に至っている。 会社の雇用管理の面からは、以前も現在も特別扱いはない。 平成16年には実習を2月から実施したが、その実習生は、最初は目を伏せていて少しオドオドとした様子が見受けられたが、それでも少しずつだんだんと顔が上がるようになり、蚊の鳴くような声であったものが最近は大きいとはいえないまでも、普通の声で話しが出来るようになってきた。お昼は皆で昼食をとる関係で、会話の中にも入ってくるようになった。製造をする商品によっては数を数える必要があるが、数を数える場合はゆっくりとこなしている。本人の適応能力により仕事のレベルをゆっくりと上げて行くようにしているということだが、その結果、家庭での健康管理や生活の指導と相俟って、うまく仕事に適応していると思われる。 上田玄米茶屋で障害者が問題なく就業できているのは、取扱商品がお茶であり、仕事上の危険が比較的少なく、工場の立地面などの穏やかな環境が維持出来ているという面が影響しているかもしれない。 |

2.工場での様子
(1)朝礼にて |

上田玄米茶屋の朝は、冬季でもかなり早く始まる。工場の近くを葛城川が流れていて、11月の晩秋のころになると川から流れてくる冷気があたりを包み、気温が下がるとともに朝もやが立ち込めるようになる。近畿日本鉄道の松塚駅を南に向かって歩くこと約10分で緑の屋根と緑の壁が見えてきて、かすかであるがお茶の香りが風に乗って運ばれてくる。ここが本社工場である。 朝もやの中を従業員が1人、2人と順番に出勤し、各人が気軽に「おはよう」と声をかけあい、健常者も障害者も関係なく「さあ、今日も頑張ろうね」という様子である。8時にはウォームアップのためにお茶の製造機械の電源がスイッチONとなり、8時30分から朝礼が始まる。
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(2)障害者をサポートするチームワーク |

白い帽子と白の制服を全員が着用して、一斉に作業が始まる。作業は殆どが機械化され、原材料の機械への投入と製品化された商品を、出荷単位に分ける作業だけがマニュアルで行なわれている。各人の持ち場が決まっているので、チームワークで工程を進めて行かなければならない。自分が担当する作業を効率的に行う事と、同じラインに入った仲間が作業を行いやすいように、心配り、手配りをする必要がある。 そして、この手順がチームワークを生んでいく。生産する商品の種類は、各日毎に異なったものとなるため、仕事を間違うことなく能率的に進めていくために一番大事なことは お互いが声を掛け合い、確認をしてゆくチームワークと言える。
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3.連帯感のある職場環境
(1)仕事を通じた連帯感 |

障害者にとっては働くことが社会への第一歩に違いない。実社会の中でコミュニケーションを取ることのスタートが、職場で仕事をすることなのである。実習で職場の雰囲気に慣れ仕事への適応が見込めるようになったとしても、その職場の中で仲間作りがうまく行かないと離職につながってしまう。 上田玄米茶屋では最初は難しく思える仕事でも、根気よく行うべき作業の手順と内容を仲間が教えていく。障害者にもっと近づき、理解し、行動を共にすることが、一番のキーポイントである。 障害者を迎えた職場の雰囲気は、最初はぎこちなく始まっても、徐々に慣れてくると不思議にこだわりがなくなっている。ふと気がつくと健常者と障害者の区別はなくなり、同じように話をして、同じように笑いあっている。 家族的な雰囲気の中で、意思の疎通を図ることにより、いつしかお互いが仲間なのだという認識が醸成されていくのである。就業が継続されるためには、職場の中で仕事を通じての連帯感が必要である。健常者も障害者も区別無く、そしてこの仲間意識が定着したときに、障害者の自立への自信が出来てくるように思える。 職場と家庭の双方のサポートと相乗効果で、個人差が有るといえども、自立をしていく様子が徐々に現れてくるのを実感している。 ![]() |

(2)かけがえのない人材 |

上田玄米茶屋で出社が一番早いのは障害者のIさんで、朝6時30分には必ず約30分の時間をかけて自転車で出勤してくる。これは夏も冬も一年を通じて変わらない。彼女が朝一番なのは仕事に対する責任感もあるが、それ以上に、他の社員が朝からスムーズに仕事の準備に取り掛かれるようにとの思いがあるからなのである。仲間と仕事をするのが楽しいのである。彼女にとっては、まさしく“職場が待っている”状態がそこにある。 障害者は一般的に自分を表現することが決してうまくない。こちらから声掛けや挨拶を積極的に促して行くことが必要である。しかし、お互いの信頼関係がいったん出来てしまうと、障害がある分だけ他人を思いやる心が大変強いことが分かる。 雇用環境を整えるということは、ハード面だけを考えるということではないと思う。それ以上に信頼関係、思いやり、工夫と支え、などのソフト面が大切である。 Iさんは、当社に勤務をしてもう10年ほどのキャリアとなった。会社にとってはかけがえの無い人材である。意欲を持って働くことが継続につながり、仕事への想いに変わっていくのだと言えるだろう。 |

4.障害者雇用を通じてわかったこと
(1)継続的な育成 |

仕事を進めてゆく上で最も重要なのは「質と量」ということになると考えられ、社員に先ず仕事を覚えて貰う要点は「量」をこなして貰う事である。「量」をひたすらこなしていくうちに、いつしか「質」に変化が生じる。 これは全従業員にあてはまる。障害者にも個人差があるが、しかし本質は同じである。最初は時間がかかっても、或いはとてもゆっくりでも、作業を根気よく続けていくと、数ヶ月たってみると驚くほど作業に対する手順がスムーズになり、そればかりかお茶の充填用機械のスピードに追われていたのが、いつしか機械を待つようになっている。袋詰めをする方向や位置、他の人の状況を判断していく余裕が出来ているのである。この段階でチームワークが出来てきていると言って良いのだろう。 障害者の雇用を通じてわかった事がたくさんある。教育や育成は継続的に行わなければ意味がなく、障害のある社員の教育や育成、指導は特別なことではなく、全ての社員に対するものと何ら変わることはない。 |

(2)企業としての目標 |

障害者を含めた全社員と共に目指す目標は、継続的に粘り強くチームワーク作りを行うこと、そして自立をした社会人として常に前向きにチャレンジをしていくことである。 事業を行っていく中で、企業の社会的責任という言葉がよく聞かれる。障害者雇用率の目標値を達成することも、社会的責任の一端といえるだろう。しかしそのことが就業の最終目標ではない。 上田玄米茶屋では、就業をするということは、人として尊厳を持って生きるための社会への入り口だと思っている。そしてこの門は誰にとっても常に開かれたものでなければならないと同時に、社員を育て自立をさせることが企業の本来の役割であると考えている。 (執筆者:社会保険労務士 千阪直比古) |

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