視覚障害者となった社員のためにヘルスキーパー室を新設し雇用を継続
2004年度作成
| 事業所名 | ハウス食品株式会社 奈良工場 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 奈良県大和郡山市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 食料品製造業 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 379名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 4名
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 全景 |
1.事業所の概要
| ハウス食品奈良工場は、昭和41年に奈良県大和郡山市にて操業が始まった。長い歴史に彩られた静かで緑豊かな環境の中、5万平方メートルの敷地に9つのプラントが稼動しており、ザ・カリー、黒豆ココア、ねりスパイス、六甲のおいしい水等の生産を行っている。 社員数は379名（男性306名、女性が73名）を数え、2交代勤務と3交代勤務とで24時間稼動の工場を実現している。 ハウス食品のものづくりの基本は「おいしさとやすらぎ」を提供することにある。その中でも特に「やすらぎ」という意味では健康、安全、安心、家庭の味を重視した物づくりを行なっている。 障害者の雇用という面においても、この考え方は基本として生かされている。 当社に在籍中に身体的なハンディーを負うことになっても、職場復帰と雇用の継続、そして安心して仕事を続けていける環境作りを追求してゆくことを、当社ではなおのこと重視している。 |
2.企業内理療士（ヘルスキーパー）導入の経緯
| 本稿にて紹介するのは、一人の社員が病気のために失明をし、それが大きな転機となり、ヘルスキーパー室を開設するに至った事例である。 病気のために40歳頃中途失明となった一人の社員が、障害を乗り越え、仕事をしていくことが出来る道を模索した。中途失明という大きなハンディーを背負いながらも、会社に在籍しつつ、大和郡山市の県立盲学校に3年間通学をして、慣れぬ点字を学び努力を重ねて「理療士」の国家試験に見事合格した。 これをうけて、会社ではヘルスキーパーとして活躍できる環境を整備し、職場復帰のために、当工場の健康管理スタッフとして配置した。そして、奈良県初の企業内理療士（ヘルスキーパー）が誕生した。 この企業内理療士（ヘルスキーパー）制度は、今年で11年目を迎え、今ではマッサージを通じて社員の健康づくりに大きな評価を得るに至っている。また、社員の健康管理サポート事業の充実を図るとともに、重度の視力障害者が健常者と共生できる職場づくりを行なってきた結果、大きな成果を上げることが出来たものと考えている。 今日、この奈良工場の成功例をもとに、福岡工場においてもヘルスキーパー制度を創設し、運用するにいたっている。
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3.ハード面の改善工夫
（1） 施設・ルールの改善 |
ア 工場内（会社入り口からトイレ、ヘルスキーパー室など）に点字ブロックを設置し歩行時の安全を確保した。 イ 点字ブロックの設置してある通路に面したドアはすべて室内側へ開くようにし、ドアとの衝突事故を防いだ。 ウ 社内ルールを整備し、通路での立ち話や物品の放置を禁止し、衝突・つまずきを防止した。社内の従業員はもとより、出入りの関係者にも積極的に呼びかけを行い、通路上の点字ブロックには決して荷物等を置かないことを徹底している。 エ 音声のコンピュータを導入し、ヘルスキーパー室利用社員のカルテ管理を効果的に実施している。 |
（2）ルール遵守指導の徹底で衝突事故減少 |
| 「通路で立ち話や物品の放置の禁止」を徹底して社内外に呼びかけを行った結果、社員の一人ひとりが視力障害者に対する理解を一段と深め、衝突事故、つまずき事故が減少した。 |
（3）ヘルスキーパー室の新設移築 |
ヘルスキーパー室から管理棟に行くには、社内外の車や人が頻繁に通行する工場内の通路を通るため、点字ブロックが設置してあるものの白い杖を使ってはいてもヒヤッとする場面があり、常に「ぶつかるかも知れない」との不安があった。納入業者の車が歩道上に駐車していてぶつかったり、雨天時の雨音で足音がかき消されてぶつかるなどのトラブルがあった。 そこで2003年にヘルスキーパー室を管理棟内に移設した。新設のヘルスキーパー室は同一建物内に食堂、トイレ、事務所が有り、車と交差しないため、安全が確保され安心して仕事ができる環境となった。 |
4.ソフト面の改善工夫
（1）ヘルスキーパーの位置づけ |
| 社員健康管理の充実のため、ヘルスキーパーを産業衛生スタッフと位置づけた。 奈良工場社員の健康管理のスタッフとして、産業医、看護師、栄養士とともに、社員の健康づくりに取組んでいる。さらに予防医学の観点からマッサージをとりいれ、社員の健康保持、疲労回復に寄与している。 より多くの社員が利用されるよう、休憩時間を利用し予約制にて、1人30分のマッサージタイムを設けて運用している。 |
（2）電話、朝礼による情報伝達 |
| 中途視覚障害者という事情のため、文書での意思コミュニケーションが難しいという現状がある。そのために、他の社員とともに朝・終礼には必ず出席をし、会社情報・業務連絡を受けて、ヘルスキーパーの業務がスムーズに行われるように工夫がされている。また急なマッサージ依頼等の受入調整は電話が有効に活用されている。 |
（3）昼食時の社員食堂での対応 |
食堂担当者は理療士が食堂に来るとテーブルに案内し、本人が事前に選んだ食事をお盆にのせ、メニューの内容と配置を時計回りに説明して、食べてもらうようにしている。 同席した他の社員ともコミュニケーションが出来、会話しながら楽しい食事のひとときを過ごす。 |
5.現在の奈良工場の状況と今後の課題～在宅雇用と高齢化
（1）社員から喜ばれるヘルスキーパーの活躍 |
| 企業内理療士として11年目を迎え、利用者も増加し、1日あたりの利用者数は5人程度までになっている。なかでも肩こり、腰痛の人には特に喜ばれて、マッサージの時間を心待ちにし「会社内でマッサージをしてもらえるなんて・・・、それも無料で・・・、ありがたい。」と皆さんから喜びの声が上がっている。 |
（2）在宅での継続雇用 |
| 奈良工場においては、本事例で紹介をした障害者以外にも男子2名の中途障害者の継続雇用を行なっている。 2名はいずれも在宅の勤務となっており、仕事の主なものは市場情報の収集と報告となっている。 それぞれに、障害の程度に応じて、過重にならないよう配慮をしながら、健常者とのコミュニケーションを取りつつ、また家族からのサポートを得ながらの勤務となっている。 |
（3）今後の課題～高齢化 |
| 障害者の雇用を進めてゆくことは、大変大事なことであるということは勿論だが、同時に障害者の雇用の継続について、これからは今まで以上に注意を払ってゆかねばならない。現在のところ大きな問題は発生をしていないが、今後、多くの障害者雇用の現場で留意をしてゆかねばならないことは「高齢化」の問題である。 障害者本人も当然高齢化をしてゆく訳だが、同時にサポートをしてもらう家族の方が高齢化によって、逆に介助を要するという事態も想定をしておかねばならない。障害というハンディーに加えて高齢というハンディーを今後負担してゆかねばならないことになる。 この意味で、一企業のみならず、今後は社会全体としての障害者雇用への取組みとサポートが今まで以上にもっと求められ、重視されなければならないと思う。 （執筆者：社会保険労務士 千阪直比古） |
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