関係機関との連携と職場内体制の取り組み~自閉傾向のある社員への対応~
2004年度作成
事業所名 | 有限会社松江京らぎ | |||||||||||||||||||||
所在地 | 島根県松江市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 和食レストラン | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 22名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 1名
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1.事業所の概要
(1)事業の内容 |

昭和63年、松江市黒田町に「松江京らぎ」をオープン、有限会社「松江京らぎ」が開始した。平成11年、客層の変化が顕著になってきたこと(地元客から観光客へ)と地元のおいしい食材を出したいという社長の方針から、“京風”をやめ、地元の食材にこだわった、松江らしい料理を提供するようになった。平成13年店内をリニューアルし、現在に至る。 |

(2)経営方針 |

何事も「お客様第一」「鮮度第一」をモットーに行動することを運営方針としている。 |

(3)組織構成 |

社長以下従業員22名(うち知的障害者1名)で、雇用管理は店長が中心となり労務管理担当者とともに行っている。 |

(4)障害者雇用の理念 |

障害者雇用については「特別」はなく健常者と区別せず、一人の人として認め、雇用する方針である。 |

2.障害者雇用と職場実習の受け入れ
(1)障害者雇用のきっかけ |

オープン当初、社長の知り合いの紹介で軽度の知的障害者(女性)を雇用したのが最初。家族と離れて自立生活を、という家族・本人の希望もあり、一人住まいをする事となり、女性社員のアパート隣室で生活を始める。 仕事は何とかこなせていたが、生活面では次第に問題が起こるようになった(キャッチセールスにだまされるなど)。また、他社員との人間関係もうまくいかないことがあり、その対応に困った店長が店舗近隣にあった「島根障害者職業センター」に相談し、問題の解決を図った。一社員の生活を支援するという考えはなかったが、仕事にも影響があり、生活面が充実すれば仕事も安定して行える事を痛感した。 結局、この社員は父親の転勤に同行すると言う事で離職したが、職業センターとのつながりのきっかけができ、その後積極的に職業センターからの実習受け入れをするようになった。 |

(2)職場実習の内容の設定 |

実習受け入れ当初は、とまどうことも多かったが、現在は実習する障害者の障害特性や適性に考慮し、実習内容を組み立てている。実習時間の設定の工夫をしたり、障害者の適応能力や可能性、また職場における人間関係などについては、現場からの声を把握する事に努めている。 特に、知的障害者の場合、まずゆっくりとしたペースで行える仕事内容で、しかも忙しさのピークを過ぎた時間という設定から始め、様子を見ながらステップアップしていくという方法をとっている。 ア 実習時間 短時間→時間を増やしていく。 イ 内容 簡単な清掃・洗い物から始める。 徹底して一つの作業・一つのやり方を指導し、出来たら、次の仕事へ。同時に複数の作業を教えない。 |

(3)生かせる特性 |

様々な実習生を受け入れる中で、その人その人の特性があり、それは、やり方によっては仕事に大いにプラスになる事であることが分かってきた。 例えば、とてもスローペースではあるが、笑顔の絶えない、素直な性格の実習生。仕事の進み方としてはマイナス面が大きいが、周囲のムードをとても和やかにし、お客様に対しても安心感を与える。仕事は速さだけが重要とはいえない。 そのような流れの中で、障害者受け入れ、雇用の考え方がまとまってきた。 |

3.自閉傾向のある社員への対応
(1)ジョブコーチ支援事業の活用 |

このような実習生の受け入れの中から、自閉的傾向のある障害者を雇用した。 実習当初は、本人が大変緊張しており、作業の流れに一生懸命ついていこうとする姿が大変好印象にみられていた。しかし、仕事に慣れるに従い、他の仕事の流れに関心が行くようになり、自分の仕事を完全に覚えた後は、しばしば他の社員とぶつかるような事が見られるようになってきた。 また忙しい時は気分が高揚し、態度・言動が荒っぽくなってくる事が続き、他の社員との関係が悪化していった。そのような時には社員が注意するとさらに興奮する為、収拾がつかなくなった。社員の中からも「あのような態度では一緒に仕事ができない」という声も上がった。 礼儀・言葉遣いは「基本」であるが、この基本への理解が知的障害者になかなか伝わりにくい。 そこで、職業センターのジョブコーチ支援事業を利用して確実な就労に向けてサポートしてもらうこととした。 |

(2)社内体制の改善 |

職場内の指示方法や人間関係については、はっきりとした「型」と「仕組み」が必要である。特に、現在働いている方は自閉的な傾向の強い障害者で、やり方次第では健常者以上の力・スピードを持ち、力を発揮できるが、一旦崩れると「問題行動」となり、様々な「事故」を起こす要因となる。 そこで、職業センターのジョブコーチ、出身施設の職員などに意見を求め、次のような対応策を立てた。
しかしこのことが雇用障害者の為だけでなく、職場内の仕事の進め方についてプラスになる面があったことから、一般社員へ説明をして理解をしてもらった。現在はその対応方法で、本人の力を充分発揮できるような職場になっている。仕事に集中すると、一般雇用者よりスピードが速いため、任される仕事も増えつつある。 |

(3)環境整備 |

以前は、客席から厨房内が見渡せる構造となっており、雇用障害者の作業の中心である洗い場が直接見えたり残菜の様子や汚れ物の状況が見えており、雇用障害者がどうしてもお客様の動きを目で追ってしまい、集中して作業が出来ない状況であった。 そこで、店内のリニューアルに併せて、雇用障害者が集中して作業が出来るように厨房と客席の間に目隠しをするような構造に改善した。 このことにより、障害者だけでなく、厨房の社員が集中できるようになった。何よりもお客様対応にプラスとなった。
また職業センターのジョブコーチにより洗い終えた食器の収納場所を名前シールで明示されたことも、障害者向けではあるが、他の社員にも分かりやすい形となった。
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(4)ルールを作る |

自閉的で「こだわり」のある障害者にとっては、目に見える分かり易い「指示」が重要である。現在、雇用障害者が担当している「洗浄」、「炊飯」、「茶碗蒸しのセッティング」について、店長がそれぞれの作業ごとに流れとルールを作り、くりかえし本人に指導する。 また、「してはいけないこと」を明確に示す。(障害者については必要以上にはっきりと示すことが重要である。) このことによって、雇用障害者の問題点であった「よけいなことをしてしまう」ことがなくなり、また問題点が出てきた時にも同じ言い方で指導する事が出来、本人にとても分かり易くなった。 ルールの内容
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4.関係機関との連携
(1)障害者職業センターとの連携 |

実習生の受け入れから雇用前支援、雇用中支援をジョブコーチを利用して実施した。仕事に関するトラブルについて、職場内で解決できない事についてはセンターに相談し、解決に向けて取り組んだ。 また、障害者に合わせた工夫(シールなどで食器種類を明示する、タイムカードが確実に出来るように作業前後の流れを掲示するなど)を実施するなど、専門的な作業支援を行ってもらっている。 |

(2)生活支援センターとの連携 |

雇用障害者の様子から生活面の問題があるのではないかと思われる場合がある。こうしたときは店長がさりげなく尋ねる。そして、問題が生活面に有る場合には生活支援センターに連絡し、生活面での状況を確かめ、問題のあるときには解決を図っている。 あるとき、仕事を抜け出し休憩室で喫煙をしていた。それまでに喫煙の習慣はなく、このようなことも初めてだった。店長が理由を聞いても「ごめんなさい、もうしません」を繰り返すのみ。そこで、生活支援センターに連絡したところ、生活面での大きな不満があり、数日前から不安定な状態である事がわかった。生活支援ワーカーと生活の場であるグループホーム職員が本人とじっくり話し合い、問題の解決策を示したところ、安定した。 |

5.まとめと今後の課題
(1)今後の課題 |

現在、1名の雇用であるが、将来的に次の雇用を考えるとき、業務内容についての課題がある。調理、接待等の業務が難しいため、業務内容を分解整理して、単純な下処理・下ごしらえ作業をうまく仕事として活用できないか、検討中である。 |

(2)まとめ |

当社の各種取り組みから、下記の通り総括して評価する。 オープン以来、積極的に職場実習生を受け入れ、その受け入れの中で実習内容を障害者の障害特性や適性に合わせて組み立てを工夫していることは、職場としての努力が伺える。 また、雇用障害者に関して、適・不適という基準をあえて設けず、まず受け入れて、職場内で工夫をしてみた上で判断している。これは、様々な特性を持つ障害者にとって大変前向きな雇用対応であり、雇用障害者の実力を最大限に引き出すための体制を店長が先頭に立って実施されている。この点に関しても、重要であると感じた。 雇用障害者が抱える日常的な生活問題やトラブルへの対応に対しては店長自ら対応し、生活支援センター、職業センター等の機関と迅速に連携しておられる事は、生活面の影響が仕事に出やすい障害者にとって、大変心強い職場であると言える。 (執筆者:社会福祉法人四ッ葉福祉会障害者地域生活支援センター「ハローネット」生活支援ワーカー 吉岡直子) |

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