農業を通して働く喜びを共有する職場~支援機関との連携による雇用と職場定着~
2004年度作成
事業所名 | 有限会社岡山県農商 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 岡山県岡山市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 農業生産加工 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 12名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 6名
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1.事業所の概要と障害者雇用の動機
(1)事業所の概要 |

岡山県農商は青ねぎの生産加工を行う事業所で、活動拠点は岡山市中原地区、御津町国ヶ原・矢原地区である。10年間の個人営農を経て、平成11年7月に農業生産法人を設立し、平成15年から御津町にも農地を取得し事業展開している。 作業工程としては、種蒔、草取り、ハウス設置、刈り取り、選別加工、出荷準備などがあり、生産量の約半数を直販し、生産管理の合理化を図っている。 |

(2)障害者雇用の動機 |

障害者の雇用に対しては理解があり、社団法人全国重度障害者雇用事業所協会の会員である。また、養護学校や知的障害者福祉施設(以下施設と称す)などからの実習生も多数受け入れている。 障害者雇用のきっかけは、事業所のある岡山市中原地区周辺に社会福祉法人旭川荘が支援する地域生活者が居住していたことと、いもの作付け・収穫を通して地域住民のつながりを深める目的で平成9年より始めた「平成いもの会」がきっかけで障害者就業・生活支援センターや施設とのつながりを持つようになり、参加した知的障害者の様子を見て作業が十分可能であると判断したことからである。 |

2.支援機関との連携
(1)単身生活のAさん |

平成12年に障害者就業・生活支援センター(以下センターと称す)からの要請もあり、知的障害のあるAさんを雇用した。Aさんは他の事業所で何度か働いた経験はあったが、コミュニケーションがうまくとれず、また人間関係で失敗し長続きしていなかった。雇用当初は人の動きを気にする傾向があり、畑の側を自動車が通ると会社の車であるのかどうか気になる様子で作業に集中できなかった。 Aさんの仕事ぶりが大きく変わったのは、社員旅行で沖縄に行き楽しめたこと、がんばる目標ができたからである。それ以後、励ますことで自主的に作業に取り組めており、今では各作業工程を一人でもこなせるようになっている。今日やるべき作業と目標を明確にすることで、最後まで集中して取り組めるようになり、御津町の作業現場を任されている。 Aさんの職場定着においては、職場の職業相談員のみならず、家族、センターの協力なしではうまくいかなかったと思われる。現在もAさんは単身生活を送っているが、食事や健康・金銭管理など生活面においてセンターから支援を受けている。他の知的障害のある人についても、センターや施設のスタッフとの良好な関係が雇用を継続する上で効果をあげている。 |

(2)自閉症のBさん |

自閉症であるBさんは、一つの作業をこなすことはできるが、作業パターンが変わったときや時間が変更になったときには応用が利かず、パニックになることがある。その際は時間をかけて、またキーパーソンとなる人(職場の職業相談員・家族・センターのスタッフ)が関わることによって切り替わることができ、適応できるようになってきている。 Bさんは現在、葱の選別ラインで葱をそろえ、コンテナに入れる作業に集中して取り組めている。居住場所はセンターに併設する通勤寮がバックアップするグループホームであり、毎日バス通勤している。健康状態など日々の様子がセンターを通じて把握することができ、職場としても安心して働いてもらえている。 |

(3)職場実習の受入れ |

実習生の受入れについては、平成14年より近くの通所授産センターから1名の企業内実習を受け入れている。このほか、施設、養護学校などからも随時、実習生を受け入れ、平成17年からは岡山県立高等技術専門校の障害者委託訓練事業所として訓練生の受入れも予定しており、障害のある人の幅広い就労ニーズに応えていこうとしている。 また、県下各養護学校から職場体験の受入れも積極的に行っており、進路担当教職員とのつながりもできている。 |

3.知的障害者雇用のための工夫・対策
(1)知的障害者の職域 |

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(2)接し方と指導 |

また食品を扱う事業であるため、ひげをそるなど衛生面にも留意している。 作業効率を上げるための指導方法としては、繰り返し根気強く伝えることで仕事を覚えるように配慮されている。また、いつもと違った作業が入った場合は、事前に作業内容を伝え、本人が理解し納得できるようにしてから作業に取り組んでいる。 |

4.これから就職する人や会社に対するアドバイス
Aさんは、「あいさつが大切である。自分に与えられた仕事は責任をもって行う。ケガをしないように指示をきちんと守る。よそ見をしない」「仕事をしてよかったことは稼いだ分だけ好きなものが買えること」、Bさんは「あいさつ、返事をきちんとする。がまん強く作業をする。タイムカードは忘れず必ず打つ。食事はしっかり摂らないと仕事に身が入らない」と話された。 事業所からは、「障害者であるという先入観で判断しないこと。一度働いてみてもらうことが大切である。接し方としては根気強く接することであり、本人に働くための目標を持ってもらうこと、それが励みとなり仕事を継続させる力となる」、また「生活面での支援は雇用を継続させる上で必須である。生活面が安定していてはじめて仕事でも一定の力を発揮することができる。家族やセンターとの連携は欠かせない」と話されていた。 挨拶、返事、責任をもって仕事をするなど働くうえでの基本的なことを職場として指導することの大切さを感じると共に、そのことが本人たちに伝わっていることに事業所としての取り組みのこれまでの苦労を垣間見ることができた。 |

5.地域貢献・社員交流
このほか事業所では、社員間の交流を深める目的で社員旅行を実施している。Aさん、Bさんに感想を聞くと、「楽しかった。食事も美味しかった。ゴルフやテニスも初めてでした。これからもいろいろな所へ出かけて行きたい。」との答えが返ってきた。新たな体験に満足した様子である。また、そのためにはこれからも仕事を一生懸命がんばるとのことである。 |

6.今後の展望とまとめ
今後の展望としては、障害者の働く場を増やしながら働く意欲のある人がいれば雇用し、将来、重度障害者多数雇用事業所をめざしたい、また障害のある人がより働きやすくなるための取り組みとして、生産現場では、露地野菜が天候に左右されるため、大型ハウスなどを利用した施設栽培によって作業が継続しやすい環境を作り、作業の効率化を図ることによって作業場面を安定的に提供したいと考えている。 また、障害のある人が職場で定着するためには仕事に対する意欲を高めることが必要であり、旅行や食事会など楽しみをつくり、日々の作業現場においては目標が達成できたときに称賛することが効果的であるとのこと。 しかし、何よりも大切なことは彼らの存在を認めることではないだろうか、と話されたことが印象的であった。事業所の一員として生産活動の一翼を担っているという意味において、そのがんばりを評価することが明日への意欲につながっていくものと思われる。 障害のある人の雇用は、中小企業においては雇用率の達成や企業イメージを高めるといった目的ではなく、障害のある人とのふれあいにあり、それが県農商の企業経営の基盤となっている。岡山県農商に続いて「働く喜びを共有する事業所」が増えることを心より希望する。 (執筆者:岡山障害者就業・生活支援センター センター長 捻金 徹明) |

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