仕事と生活を支える雇用と福祉の連携を求めて
2004年度作成
| 事業所名 | 株式会社山陽タオル | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 《本 社》広島県広島市 《第2工場》広島県広島市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 1）タオルのリース・クリーニング業 2）タオル・タオル商材販売、その他繊維関係の輸入・販売 3）飲食用の機材の販売 4）ユニホームクリーニングとレンタル業 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 22名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 15名
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 工場正面 |
1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
（1）会社の沿革 |
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（2）事業内容 |
| 山陽タオルは、発足当初、おしぼりタオルを中心としたリース業が会社の中核を担ってきたが、最近は使い捨ておしぼりの普及や喫茶店の減少に伴って、需要が低下しているのが現状である。そのため、現在は原材料の低コスト化やスーパー銭湯などへの営業シェアの拡大を図り、ユニフォームのクリーニング・レンタル等の営業品目の拡大にも力を入れている。 |
（3）障害者雇用の経緯 |
| 山陽タオルと障害者雇用の出会いは、昭和55年、職業安定所の職員が一人の知的障害者を就職させてほしいと訪ねて来られたことに始まる。 その後、障害者職業センター、養護学校、施設、障害者能力開発校などからの紹介を受け続けているうちに、現在では15名の知的障害者の人が働いている。長い人で21年間継続して働いており、現在55歳になっている人もいる。ほとんどの人が10年以上継続して働いている。 |
2.職場配置と仕事への自信
（1）職場配置 |
| 本社工場は、通勤が不便であるために、最寄りのJR駅から送迎を行っている。社長自ら運転手として送迎を行い、毎朝・夕に本人達の顔を見てはその日の調子を窺っている。本人達も短い道中であるが雑談で和む時間でもある。 工場に到着すると、それぞれが決まった配置に付く。工場は4階建ての構造になっており、それぞれのフロアーごとに作業工程や種目が分かれている。各階ごとの配置は、4階はおしぼり包装部門で6名、3階は理・美容関係のタオルの包装と結束部門で2名、2階は洗濯部門で2名、1階は乾燥機部門で3名と配置されている。 作業は、その人の適性や能力に応じて工程別に分業した方法で行っており、健常の人と役割分担をしながら作業が展開されている。これは、知的障害者の人数が増えるに従って、仕事内容を分かりやすくして、それぞれに責任を持たせるための工程の細分化と単純化を図っていったそうである。そのことを通して、徐々に効率化や役割意識が身に付いてきたそうである。 また、最近ではクリーニングも事業内容に取り入れ、洗濯、ハンガー、乾燥、検品、包装という流れのなかで働き場所をつくっている。1階での乾燥機操作も、1年から2年がかりで従業員が付き添いながら徐々に技術習得をしていったと言われていた。
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（2）持ち場意識 |
| 15人のそれぞれが、自分の持ち場をしっかり守っている。特に4階の包装部門は、ほとんどが知的障害者の人たちによって、担われている現場である。結束部門ではタオルの最終チェックも行っており、機械に差し込むまでの僅かな間で、小さい汚れや破損も見逃さない。乾燥機や洗濯部門も機械を任されている。このように培ってきた力に、仕事への自信とプライドを持っている。 こんなエピソードもあった。ある時、社長がそれぞれのステップアップを考え持ち場の配置転換を提案したところ、本人達は自分の場所を取られたら困ると思ったようである。このとき、社長は持ち場意識と変化に弱い弱点があるとも感じたそうで、こちらの思いと本人達の思いにギャップがあることを感じ、その後の配置転換については慎重になったと言われた。 |
3.家庭的な職場環境
（1）生活・悩み事相談 |
| この工場では、社長が父親役、奥さんの専務さんが母親役である。 社長は、本人達の家族が高齢化し生活基盤での家族支援が不安定さを増していること、また本人達も高齢化しつつある中で、仕事の能率や体への負担を心配している。また将来のことを考え、何年か前に寮を兼ねたグループホームの設立を考えたこともあったと言われていた。その理由としては、家庭の事情で辞めていく人が出る度に辛かったとのこと。 奥さんは本人達の何でも相談役である。仕事のこと、家族のこと、人間関係のこと、恋愛のこと、お金のこと、将来のことなど色々な相談を受ける。時には家庭訪問をしたり親と話をすることもある。人数が少なかった頃は、お昼を食べながらのおしゃべりが悩みや心配事を話し合う発散の場になっていたそうであるが、人数が多くなってきてからは個人個人が奥さんを訪ねてくるそうである。元看護師の経験のある奥さんが、本人支援のキーパーソンになっている。 |
（2）職場で働く仲間の声 |
| 職場では、仲間同士の小さいトラブルや恋愛感情が芽生えることで心配することもあるが、全体的にはみんな仲良しであると奥さんは言われた。 彼女、彼らに話を聞いてみると、「奥さんがいろいろと話を聞いてくれるから、助けられてる」「趣味で和太鼓を休日にやっているから、気分転換になるよ」「会社に入ったとき、先輩がよく気をつかってくれて、面倒を見てくれたからよかった」「休憩時間に自動車のカタログを切り抜いて、紙模型の車を作るのが特技です（高級車を立体的につくる技を持っている）」「いつまでもここで働きたいと思う」等々の声を聞かせてくれた。 |
4.執筆者の所感～最低賃金と福祉
| 奥さんと工場内を一緒に回りながら本人達の顔をみると、しみじみとその人となりや人生の一端を話される。彼女、彼らが、奥さんに自分の胸の内を明かせる信頼関係を感じる。 5年前に、本人達の家族の懇談会を開いたそうである。歳月を経て長く勤めている人が多くなり、少しマンネリ化してきたことも感じ、また将来のことも心配になったことが理由であったとのこと。懇談では、家庭での様子、現在の悩み、今後のこと等について話し合うなかで「いつまでもここに置いてください」が、ほとんどの親の願いだったそうである。障害者福祉の世界では、親亡き後の問題は重要なテーマである。 一方、山陽タオルでは、知的障害者の半数以上に対して給料の最低賃金除外申請（8％カット）をせざるを得ない事情を抱えている。障害者雇用を進めてきた中小企業の多くは、最低賃金法をクリアするための厳しい経営状況がある。まじめに障害者の雇用を推進しようとする中小企業や働きたいと願う障害者への支援策の乏しさも、最低賃金除外申請を招く原因になっている。 昨今、障害者雇用の現場では悪質な事件が多発しているが、山陽タオルのように真面目に、積極的に障害者雇用を進めている会社も少なくない。その中で雇用が進み、就業年数が長くなるにつれ、生活から将来の問題まで幅広い課題を企業が抱え込んでいる現状もでてくる。知的障害者が力を発揮しやすい仕事が多いとも言われる中小企業で、本人達が安心して継続的に働ける雇用を実現するには、保護雇用の立場からの賃金補填などの行政支援と、一事業主に生活支援の負担を集中させない福祉サイドでの生活基盤の整備と生活支援が望まれる。つまり、仕事や生活に合わせた場面での支援と言う視点で、職・住分離を進める雇用政策と福祉政策の連携が求められる。 この事例は、今後、障害者雇用を促進するための雇用と福祉の総合的施策が大切になってくる事を示唆している。 （執筆者：広島市立広島養護学校教諭 草羽俊之） |
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