障害者と共に働き、共に学ぶ企業
2004年度作成
事業所名 | フジリネンサプライ株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 愛媛県松山市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | リネンサプライ業 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 32名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 19名
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1.会社の概要と工場の作業工程
昭和58年8月、フジ広告株式会社の関連会社として設立。業種はリネンサプライ業。2回の移転工場規模拡大を経て現在に至る。ホテル、旅館、温泉施設、結婚式場等の顧客が約250社あり、愛媛県と高知県が営業範囲である。
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2.障害者雇用の経緯と意識の変化
(1)障害者雇用の経緯 |

初めて障害のある人を雇用したのは平成4年のこと。大学の教授から紹介があったのがきっかけであった。 5名の知的障害者を雇用したが、雇用する側としては、仕事の担い手というより居場所を提供してあげるという意識の方が強く、はじめは「できないだろう」という気持ちが大きかった。実際の作業では何度同じことを言ってもうまくいかず、教える方が根気負けしてしまう、怒っていいものか接し方が分からない、厳しく言うと気の毒に思ってしまう等、アプローチのしかたが分からず障害者との間には大きなバリアがあった。それは、健常者の従業員にとっても同じだった。 当時は工場内の仕上げラインの機械化が十分でなく、作業は熟練した従業員に頼る形で進んでいた。しかし、一部の従業員は、障害者に対して仕事の指示をしなかったり、邪魔者扱いをしたりした。障害者自身が何かをしようとしていても、仕事をさせないような雰囲気があった。あるとき社長は「それは違うからもう邪魔しないで」という従業員のことばを聞いた。社長は従業員たちを叱り、障害者への偏見をなくすように説得した。「子守りするために来てるんじゃない。」それが従業員たちの言い分であった。その日のうちに3名が、一週間もたたないうちに2名が退職してしまった。 「これではいけない。」作業の要であるベテラン従業員を失った会社がとった行動は、障害者を解雇することではなく、均一の仕上げができる機械の導入と、人間性を重視した雇用への転換であった。そんな中、たまたま採用した従業員の中に重度知的障害者の息子を持つ女性従業員がいた。彼女は障害者に対し、同じことでも根気強く教え、よくできれば誉め、本人が気を抜けば厳しく指導した。すると、できないだろうと思っていたことができるようになっていった。作業が素早く正確になっていった。 「こんなことができるのか。」障害者に対する意識ががらりと変わった瞬間であった。以来、従業員が一体となって障害者雇用に取り組んでいる。 |

(2)障害者雇用についての考え |

「どうしたら彼らと一緒に働けるか」という思いを根底に、以下3つの基本方針をあげている。
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3.工場での配置と障害者の作業状況
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4.障害者雇用の取り組み
(1)選考・採用面接 |

本人と保護者の面接、研修期間を経て正式採用する。養護学校やその他関係機関からの紹介を受け、知的障害者、精神障害者及び身体障害者を雇用している。養護学校からの職場実習は毎年受け入れており、卒業後そのまま就職することもある。 採用の際に一番重要視しているのが、障害者本人の働く意欲と、保護者に十分かかわってもらえるかということである。障害者が就職する際、本人の意志より保護者側の「働いてもらいたい」という思いが強いことがある。働く本人に意欲や責任感がなければ、仕事は続かない。 また、就職したからといってそれで終わりではない。職場でトラブルが起こることもあるし、家庭でのトラブルが業務に影響することもある。色々な問題の原因を会社と家庭が一緒になって考え解決するために、保護者にも積極的にかかわってもらう必要があるということを確認している。 |

(2)労働条件 |

一般の勤務形態は、週休は二日、勤務時間は午前8時50分から午後6時までである。障害者の場合は各個人の状態に合わせ、週休3日制や午後1時から6時の勤務時間等、多様な雇用形態をとっている。障害者を採用するときは、健康管理のための通院時間の確保や体力の配慮等を行い、まずは本人に無理のない勤務形態をとる。勤務に慣れ自信と体力がついてくれば、残業を含め一般の健常者と同じ形態に近づけていく。 賃金については、原則として最低賃金を維持する給与体系を考えている。しかし、最低賃金を下回っている従業員もいる。多くの障害者を雇用しようとしているため、障害の程度、ひいては作業能力や職場適応能力にも差が出てくる。個々の能力を正確に評価し、それに応じた賃金を考えればどうしても最低賃金を下回るスタートになることがある。始めは少ない賃金であっても、能力が上がれば賃金もアップさせている。賃金について一番大切なのは、その価値を実感することにあると考えている。自分で働き、得たお金で、自分の生活を豊かにする楽しさを味わって欲しい。そうした体験を通して、また働く意欲がわき、定着へとつながる。仕事にやりがいや誇りをもって取り組んで欲しいと思っている。 |

(3)能力評価、教育訓練 |

職場実習あるいは研修期間を通して、障害者一人ひとりの作業能力や特性を把握し、職務配置に活かしている。それぞれに「どのような制限がある」のかを正確に把握するとともに、「どのような特性がある」のかをみる。 作業をする際には、いきなり全てを任せるのではなく、例えば作業を5つに分け、1段階ができたら2段階へ、5段階全てできたら繰り返し行い円滑にする、といった方法をとっている。段階的に行うことで本人にとって目安となり、繰り返し行うことで自信をつけることができる。また、途中で失敗しても最後までなんとかやり遂げることを大切にしている。うまくできないからといって中断させてしまうと、自信を失い達成感も味わえない。作業は分担して行うので、個々が任された作業は全体のごく一部だが、自分がどこのどういう部分を行っているかということは把握できるようにしている。自分が作業を中断すると次の人が困る、自分がしなければならない、ということを意識し責任を持って仕事をするよう促している。 |

(4)配置転換 |

それぞれの特性や作業能力に一番合った職務配置をしているため、普段は特定の作業のみを行っている。しかし、作業全体を把握する目的や休みがあった場合などの対応を考え、他の作業もできるようにしている。 知的障害者の場合、障害が軽度であればいろいろな作業を行うことができるが、重度の場合は作業内容が特定されてしまうため配置転換は難しく、課題となっている。 |

(5)人的支援体制 |

雇用管理で一番の根底にあるのは職場の人間関係である。従業員が思っていることを自由に話せる働きやすい環境をつくり、障害者がその能力を十分に発揮できるようにするため、「障害者職場定着推進チーム」をつくり、障害者職業生活相談員1名、職業コンサルタント1名、業務遂行援助者3名を配置している。 業務遂行援助者は、障害者のとなりで共に作業をしながら業務を励まし、トラブルがあった場合は問題点を正確に把握し、適切に対応する。問題が起こったとき、自分から相談員や家族に言える人もいるが、中には言えない場合もある。そうした場合にでも周りが気づけるような職場を目指している。障害者の隣には健常者、という配置にはなっているが、1対1で責任を持つというのではなく、全員が支え全員で解決する体制をとっている。 ![]() 従業員全体会議(障害者を除く)を年数回開催し、障害者にとって気持ちよく働ける職場作りや、教育訓練法を検討している。ここでは、実際にあったトラブルや対応、障害者に接する場合の反省点などを具体的にあげて話し合っている。また、各関係機関にも参加してもらいアドバイスを受けたり意見交換を行ったりしている。 また、小旅行や誕生会、ビアガーデン等の懇親会を定期的に行い、人間関係の円滑化を図っている。お互いの趣味や興味を知って話の幅が広がったり、仕事の励みになったりしている。また、保護者を含めた障害者にかかわる人々の懇親の場にもなっている。 |

(6)家庭との連携 |

働き続けるということは、本人の努力も必要だが、保護者のバックアップも不可欠である。障害者を理解、協力していくために会社と家庭の連携を密にするよう心がけている。職場で気になることがあった場合は、すぐに電話で保護者に連絡をとり、事情を聞いたり伝えたりするようにしている。会社側だけで原因を判断や対応した場合、十分把握できず本当の解決にならないことがあるからである。電話で十分に言い切れなかったこと、記録に残したい大事なことなどは、連絡ノートを使ってやり取りを行う。ノートでは、本人が約束事や意思を書き、確認することもできる。また、懇親会などにも積極的に保護者も参加してもらうように呼びかけている。健常者の従業員との親睦が深まり、保護者が気軽に工場に来て担当者と色々な話をしている光景がよく見られる。 |

5.取り組みの効果と課題
(1)定着 |

仕事の定着率はよく、最長で勤続11年になる。これまででやめた従業員は3名のみである。障害者の良い特性として、まじめで一生懸命に仕事を続けることを感じている。彼らを理解し、支えることでその特性がより活きてくる。 |

(2)指導する側の人間的成長 |

障害者雇用を進めていくに従って、会社側のメリットを感じている。 健常者は、障害者に指導することで、仕事の手順や方法の基本的な部分をもう一度原点に立ち戻って考えることができる。教える方の仕事の再確認になっているのである。彼らと話し、彼らを指導し、少しずつ成長していく姿を見てきたが、気がつけば人間的に成長できたのは自分たちの方であった。周りにいる健常者たちだった。 障害者や保護者の喜ぶ姿を見ると心から良かったと思う。「ぼくもこれだけできるようになったよ」と汗を流しながら自慢げに話す姿を見ると、「頑張れよ」と言いながら勇気が出てくる。自分の子どもに接するように話しかける従業員の姿を見て、人を育てることの本質を実感している。 |

(3)今後の課題等 |

特に重度の障害者の場合、作業内容が限定されてしまう傾向がある。特定された単純作業であっても、きちんと指導すれば、障害者は一生懸命取り組み、根気よく続ける特性を持っている。だが、年齢を重ねれば体力が落ちるため、作業能力も自然と低下してくる。その時、その人に対応する仕事があるだろうか。本人の将来を考えると悩みがつきない。現在、特定の分担作業だけでなく、色々なこともチャレンジするよう取り組んでいる。異なる部署でもその人に合った作業の方法を考え、できることを増やすよう努めている。 また、障害者雇用のひとつの成功例として、他の事業所へのPRも積極的にしていきたい。「障害者がとなりで働くのがあたりまえ」という時代がくることを願い、理解者を増やす努力を地域のみんなでしていきたい考えである。 |

6.執筆者の所見
「会社、家庭、学校。どんどんかかわっていきましょう」ということばが印象的だった。そのことばの通り、障害者が働くということは本人ひとりだけの努力ではなかなか続くものではない。雇用率もさることながら障害者従業員の定着率のよさからも、「障害者側」の感じ方や思い、そして将来をも大切にしていることが分かった。「障害者が職場に満足し、意欲をもって自己の能力を十分に発揮し、本人自身が『働こう』という気持ちをもって定着している状態こそ、もっとも重要だと考えています。」 作業現場はとにかく暑く、サウナを連想させた。大きな機械が並ぶ作業場は、仕事の流れがよく分かるようになっている。作業は滞りなく進んでいき、誰を見てもそれぞれの仕事をてきぱきとこなしていた。何一つ問題が起こらない、というわけではない。何かあれば、すぐに対処しているのである。小さなことでも、一人で抱え込んでしまうと重大な問題となることも多い。周囲と連携を取り合って、小さな芽のうちに解決する配慮がされている。そうして成果をあげている今でも、障害者にとって働きやすい環境はなにか、ということを毎日思案しながらかかわっている。障害者と一緒に学んでいる。 初めは暑いけれどすぐに慣れる、という作業場で、肩にタオルをかけ汗を流しながら一生懸命に布を広げている職員の方が、あいさつに笑顔で応えてくれた。仕事の後の一杯がたまらないという。 (執筆者:愛媛大学教育学研究科 美濃宏実) |

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