造船の一翼を担う障害者
2004年度作成
事業所名 | 今治造船株式会社 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 愛媛県今治市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 船舶の製造と修理 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 804名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 10名
![]() |
|

1.事業所の概要
明治34年創業。古くから海上輸送の要である来島海峡に面した今治市を拠点とし、以来100年の歴史をもつ。造船ひとすじ、そして船主のどのような要望にも全力で応えていくという姿勢は信頼となり、新造船のシェアは日本でトップクラス、世界でも常に上位を誇っている。常に次世代に向けた造船の可能性に挑戦。新しい設備も積極的に導入し、効率化を図っている。平成12年、日本では25年ぶりといわれる超大型新造船ドッグを西条工場に建設し、21世紀の「造船新時代」を拓いている。
|

2.障害者雇用に至った経緯
(1)雇用のきっかけ |

造船業という職業上、資格を要する作業や高所や狭所など危険度の高い現場での作業は避けられない。そのため障害をもつ人々の雇い入れは難しく、雇用率を達成できない状況であった。 しかし、平成14年の障害者雇用促進法の改正を契機に障害者雇用の意識が高まり、どうにかして雇用の枠を広げようとの思いが強くなった。地域に根ざす会社として社会的責任を果たすべきである、との認識のもとトップの積極的な支持も得られたことから、専門の窓口へ指導・助言を仰ぎながら進めていった。 |

(2)作業内容の検討 |

雇用にあたっては、社内の業務を見渡し、どういった作業内容であれば可能であるか、安全であるかを考え、リストアップすることから始まった。屋外での作業は危険度が高く考えられず、屋内での清掃作業、図面のコピー、簡単な設計、倉庫の資材管理があげられた。コピー業務についてはそれまで人材派遣会社に委託し派遣社員が行っていたが、障害者の雇用を考え社員として雇用することとした。
|

(3)雇用率の向上 |

昨年の9月には、ハローワーク主催の障害者就職面接会に参加し、多数の応募者の中から選考の結果5名の採用となった。雇用率は平成15年度の1%から16年度は2%と倍増。1.8%の法定雇用率を上回る結果となった。 |

3.取り組みの内容
作業面では、あらかじめ安全性・妥当性を考慮した職種であることから、特別な取り組みは必要なかった。専門性を要する作業は、一般社員と同じようにOJTを行っている。業務は一人作業が多く、何かトラブルがあれば対応する体制である。 施設面では、肢体に不自由のある社員の雇用により、トイレに手すりを設け、安全性に配慮した。 また、同じ職場で働く同僚への説明を積極的に行い、理解や協力を促した。上肢や下肢に障害があれば、ない人に比べ作業スピードが異なるのはやむをえない。あるいは、定期的に病院へ通う必要がある等、個人によって配慮する事情があればそれを同僚に伝えるようにした。 給与については、業務内容に応じた賃金設定を行っている。賞与についても一般社員と同様である。 現在の工場別の状況は以下の通りである。
|

4.取り組みの効果と課題
取り組みの効果は、コストダウン、人間関係の円滑化、職場の活性化の三点があげられる。 |

(1)コストダウン |

コストダウンについて、例えばコピー作業では、それまで必要に応じ人材派遣会社に委託して行っていた作業を新たに雇用した正社員に任せることによって、これまで外注で行っていた作業までも行えるようになった。派遣社員に支払っていた賃金に比べ、正社員に支払う賃金の方が高いのだが、この作業内容の見直しにより外注費がかからなくなり、コストダウンにつながった。 |

(2)人間関係の円滑化 |

人間関係の面では、職員の持つ思いやりの気持ちが強くなったように感じている。肢体不自由者では上肢、下肢の障害から日常動作がスムーズに行えないことがある。内部障害者では人工透析を受ければ体に負担がかかる。そうした場合、周囲が気づき声をかけるなどすることで自然と人間関係がよくなったのである。職員の作業に対する一生懸命な姿勢を見たり、コミュニケーションを取ったりするうちに、「障害者」という意識は薄れていった。 |

(3)職場の活性化 |

職場の雰囲気が良くなった。高齢な職員が多かった職場に若い職員が入ることによって、自然と話題ややりとりが増えた等、職場全体が明るくなったと感じている。 |

(4)今後の課題等 |

今後も雇用率を維持していく方針であり、除外率が縮小されていくことも意識して障害者雇用に取り組んでいきたいと考えている。造船の実際の現場では、安全面を考えると障害者の雇用はどうしても困難であり、ネックになってくる。障害者雇用を考えると当然職域開発が必要であるが、当面は企業が求める業務に対応できる人材であれば、障害の有無は関係なく雇用していきたい。例えば、設計など屋内で安全にできる作業などが考えられる。 |

5.執筆者の所見
巨大なクレーンに高所での作業、造船という実際の業務のようすを見て、障害者が働く場としては難しいことを実感し、障害者雇用が進まない要因の一つであると痛感した。 しかし、現場以外にもいろいろな業務がある。障害者ができないことだけを強調するのではなく、「できること」を探した点が雇用率のアップを裏付けている。 長い歴史の中で地域の人々、海とかかわりあってきた「地域とともに」という姿勢と、社会的責任を果たすという強い信念により、このような結果に結びついたのだと感じた。「トップの理解があったからこそできたこと。」と言われるように、障害者雇用の理解は何より企業トップの深い理解が必要であり、その意識が雇用に反映されているように思う。 働く場も、和やかな雰囲気であった。作業は基本的にひとりで行うものであったが、閉鎖感はない。仕事上だけでなく、日常面においても本人に困ることがあれば自然と対応できる環境であった。周りの社員の方は「一緒に働いてきましたが、今は『障害者』という意識は持っていません。」と言う。障害者の社会参加の理解を職場から地域へ広げていける可能性を感じた。 (執筆者:愛媛大学教育学研究科 美濃宏実) |

アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。