知的障害者は必要な人材~養護学校との連携によって~
2004年度作成
事業所名 | 株式会社前川博之商店 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 高知県土佐市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 生姜の生産・加工・販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 60名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 6名
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1.事業所の概要と企業理念
(1)事業所の概要 |

事業内容は、生姜の加工を中心に行っているが、生産地での集荷作業も行うなど、生姜の生産・加工・販売まで一貫して行っている。生姜の栽培は、高知県内の3大生産地域である四万十川流域を中心に行っており、有機減農薬栽培を心がけて、土を痩せさせない生姜栽培に取組むなど、環境保全型農業にも力を注いでいる。 |

(2)企業理念 |

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2.障害者雇用のきっかけと考え方
(1)障害者雇用のきっかけ |

現在、社員は60名、そのうち知的障害者が6名働いており、それぞれ、加工や集荷の作業に従事している。また、関連事業所の「農業生産法人 有限会社よさこいファーム」にも知的障害者が1名働いている。 障害者を雇用したきっかけは、事業所の近くにある養護学校から卒業生の就職について声かけがあったことだという。その後、卒業生を雇い、彼らが働いている様子を見ていると、「知的障害者は、1つの作業を気長に行う能力に優れていることに気づいた」という。「生姜の加工という仕事は、1日の仕事の流れが単調で、健常者ではすぐに嫌になる。しかし、知的障害者は、集中力を欠かさずに作業を行う。作業の単純さが知的障害者に合っていると思った。」とのこと。 |

(2)障害者雇用についての認識 |

生姜の加工工場での仕事というのは、繰り返しの作業が多いが正確さが要求される。1ケースに入っている生姜の数など、商品にばらつきがあってはいけないため、働いている人1人ひとりが責任を持って作業を行わなければならない。 また、「機械を入れてしまうと経費がかかるし、この仕事は、午前中に注文を受け、その日のうちに出荷をするため、毎日作業体制を柔軟に変えていかなければいけない。こうした仕事に、機械は人ほど柔軟に対応できない」という。実際、事業所で長く働き、経験を積んだ障害者が1人休むと全体の作業に影響を与えることもあるという。「今後、出荷数が増え、機械を導入したとしても、(障害者は)会社に必要な人材である」という。
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3.施設・設備などハード面の工夫
(1)生産面 |

例えば、生姜の選別作業は、刃物を扱い、工場の中でも経験の必要な仕事である。忙しい時期は、この作業に何人か手伝いに入ることもあるが、そのようなときは竹でできたナイフを使うこともあるという。 |

(2)その他 |

働いている人の中には、障害者だけでなく、高齢の方もいるため、トイレに手すりを付けるなど、ハード面での工夫を行っている。 |

4.ソフト面の工夫
(1)募集・採用 |

近隣の養護学校から実習生を受け入れ、その時点で空きがあれば雇用するなど、不定期に雇用している。ここ1~2年は、新規採用は行っていないが、「これから社会人となって働こうとする障害者にとって、職業実習というのは大切なこと。そのため、今後も実習生の受け入れは行っていきたい」という。 |

(2)賃金 |

賃金は固定給ではなく、時間給となっている。1人あたり月10万円前後である。 |

(3)労働時間 |

基本的に朝8時30から17時30分までの8時間制となっている。土曜日の休みは、全国の市場の日程に合わせているため、年間を通してこれぐらいの休みという目安となっている。また、日曜日は休みである。 |

(4)職場配置・定着 |

学校からの情報などを参考に、本人の個性、障害の程度に配慮しながら、本人の適性を見極めた上で、それぞれの作業に配置している。
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(5)教育・訓練 |

2~3か月間は、研修期間をおいてそれぞれの特性をみる。職場は常にラインの責任者が仕事の指導、アドバイス、相談をできる環境になっている。 |

(6)福利厚生・健康管理 |

養護学校から通っている人は、学校で年1回の健康診断があるが、その他の人は個人個人で健康診断を受けている。 |

(7)養護学校との連携 |

たまに、事業所で対応できないことがあるが、そのような場合は、本人が卒業した学校の先生に相談するなどして対応している。また、実習期間中は、先生が1日1回事業所まで働いている様子を見に来たりもする。 そうした行き来を通じて、学校の先生も事業所での作業内容をよく知っており、卒業生を採用する場合、学校から適切な情報が事業所へ提供されている。 |

(8)助成金や各種支援制度の活用 |

特定求職者を継続して雇用する事業所に対して、賃金の一部を助成する「特定求職者雇用開発助成金」や重度の障害者雇用等のために、職場環境を整備したり、適切な雇用管理を実施する事業主に助成される「重度障害者介助等助成金」を活用している。 また、「ハード面の整備について、もっと助成金を活用していきたいが、内容が難しい」という。そのため、「各助成金について、分かりやすくまとめた冊子の提供や障害者雇用について取組もうとする事業所同士が集まって、勉強会を開いたりできると良い」とのこと。 |

5.まとめ
(1)心のバリアフリー |

また、事業所の雰囲気としては、「障害者という意識を持って周りの人は接しておらず、働いている1人ひとりが自分の仕事に取組んでいる」という。そのため、「今後とも、障害者の個性を大切にしながら、事業所内での障害者への理解を深めていきたい」とのこと。 前川博之商店の事例をみると、障害者雇用を進めるためには、施設・設備など環境面での配慮ももちろん必要だが、むしろ心のバリアフリーを進め、障害者を受け入れていく考え方を進めることも大切なのではないかと思った。 |

(2)今後の事業運営の展望 |

食の「安全・安心」に対する消費者のニーズは高くなっている。生姜についても、国産生姜に対する消費者の要求は高くなる一方である。 現在、事業所では、国産生姜と中国産生姜両方を扱っているが、その加工を同じ工場内で行っている。今後は、そうした体制を改善するため、「工場を国産用と中国産用の2つに分けたい。そうして、事業を拡大し、経営の安定化を図るとともに、障害者雇用の人数も増やしていきたい」という。 |

(3)養護学校との連携と制度の活用 |

学校を卒業したばかりの障害者にとって、学校生活で基礎的な力は身につけているとはいえ、それだけで社会に出てすぐに社会の要求に答えられるかというと難しいところがある。その点、前川博之商店では、事業所と養護学校が近く、職業実習の受け入れも積極的に行っているため、企業側と養護学校の先生との交流が頻繁に行われ、それが企業側にとって障害者雇用を進める上での重要な情報源となっている。 しかし、一般的に「職場での受け入れがスムーズにいくのだろうか」と受け入れに不安を持つ企業も少なくない。そのような場合は、地域障害者職業センターが行う職場適応援助者(ジョブコーチ)による人的支援事業の利用を検討してもいいだろう。こうした制度を利用して、職場で直接障害者の支援や職場の社員に対しての助言を受けるなど、職務や職場環境の改善を図ることも大切であろう。 (執筆者:株式会社くろしお地域研究所調査研究部長 浜口忠信) |

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