訓練次第で、能力の開発は無限である～20数年の取り組みの実績から～
2004年度作成
| 事業所名 | 株式会社ワシントン・ランドリー | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 福岡県大野城市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 産業用クリーニング（主としてユニフォーム）、リネンサプライ | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 60名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 28名
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1.障害者雇用の経緯
| 障害者雇用に取り組む事になった契機は、知人から、結婚式で寄り合いがあるため、4～5日知的障害の子どもを預かって欲しいと米5合を持参して頼まれ、無人の工場に宿泊させたことからである。 「それならば、経営だけでなく、親の役に立つことができればよい。一つ、人のしないことをやってみよう」と考え、それから他の施設を見学し、取り組みを始めた。 当社では、20数年に及ぶ障害者雇用の実績を通して、作業内容の技術的改良を初めとして、適性の発見、訓練のあり方、生きがい職場作り、指導員や企業のあり方についてきめ細かな検討がなされているので、その概要を紹介する。
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2.知的障害者雇用を進めるにあたっての考え方と具体的な取り組み
（1）作業工程の分解 |
| 知的障害者雇用を進めるに当たって、初期の段階では、特定の健常者を知的障害者との入れ替えを行ったが、この方法だと知的障害者の雇用率はせいぜい10～15％止まりである。雇用率を高めるために、第2、第3の方法が取られた。 第2段階では、熟練労働者の作業を分解し、その中に含まれる非熟練作業（動作）部分を抜き出し、知的障害者の作業とした（細分化）。 第3段階では、熟練労働者の作業を完全にバラバラに分解して細分化し、その作業全部を知的障害者の仕事に置き換えてしまう。この方法には知的障害者向きに改良された機械の導入が大きな力となる（単純化）。 |
（2）障害者を多数雇用する効果 |
| 障害者を多数雇用する効用は、採用された障害者が未知の対人関係の中に入ってくる場合、同じ障害をもった先輩がそこにたくさん働いていると、不安感を少なくすると同時に友人ができやすくなる。これは職場適応の第一段階として非常に有効である。 |
（3）適性と長所・短所の把握 |
| 適性を発見し、知的障害者の長所と短所をよく見極めて、もっとも適した作業につかせることが職場適応の大事な条件であるという。これがうまくいけば作業成果もあがり、周囲の人達からも誉められ、本人も気をよくし、作業に対する意欲もでてくることになる。 そのためには、まず第一に養護学校等の先生や保護者から、本人の健康状態（特に性質）や長所、短所、趣味等できるだけ多くの情報を仕入れ、記録しておくことから始める。 知的障害者の長所としては、（1）性質が非常にすなおで純真温和である、（2）全力で与えられた仕事をし力の出し惜しみをしない、（3）反復単純作業に耐える性質がある、（4）定着性が非常によいという点である。短所としては、（1）数を数えたり簡単な計算ができない、または不得意である、（2）応用動作ができない、（3）のみこみが遅く動作が鈍く、同年齢の健常者に比べて体力が劣っている場合が多い。 |
（4）作業訓練 |
| 作業訓練に関しては、第1段階では一定の作業に定着したら、当面1年ないし2年間くらいは他の作業はさせず、その仕事のみを反復して徹底して実行させる。この一つの作業に対し、一人前の社員としての自信を持たせるまで継続して行う。 第2段階では、第1段階を修了して、より高度な作業に移し、さらにその作業をより高度な仕事へと職能を高めていく、また新入社員を下につかせ、一緒に作業をさせることにより新人の訓練を助ける機能も果たさせる。 このことは、本人の意識づけの効果だけでなく、新人も同じ障害をもった人と一緒に作業することで健常者と一緒に作業するよりなじみやすいし、先輩の作業ぶりを見て、自分もやればあのようにできるというひとつの目標になる。 |
（5）生きがいのある職場作りの工夫 |
| 仕事に対して意欲を起こさせることが一番重要であり、またこのことが一番難しいことである。今日は仕事が多いか少ないか、欠勤者がいるかいないかの認識をさせる「計画」、毎日のしごとを段階に区分する「実行」、その日その日の作業の結果に対し簡単な評価をして、各人の責任感をめざめさせる「評価」、どんな単純な作業でも脇役ではなく主役として各人が工場内で重要な機能と責任を果たしているという「仕事をやりとげた満足感」、こうした体験を通して、生きがいのある職場作りがなされる。 |
（6）全社員の認識 |
| 全社員に対して、知的障害者の雇用の意義と重要性、会社の強い決意と長期的に雇用を高めていくという方針を認識してもらい、心の底からの理解と協力を得られるような社風を創りあげることも、重要な前提条件の一つである。間違っても、からかったりばかにした言葉や態度は絶対に禁止している。 具体的には、指導員は、愛情をもって根気よく時間をかけて指導することが絶対条件とされている。一人一人「おはよう」の声かけをしたり、昼は一緒に弁当を食べながらおしゃべりの仲間入りをすること等を通して、一日も早く人間同士の信頼感と親近感を作り出し、命令者、監督者といった見方を取り除き、安心感を早くもってもらう。それと同時に、自分を一人前の人間として対等に尊重して話し合ってもらえるという人間関係を作り出すよう配慮されている。 |
（7）企業方針の重要性 |
| 企業側としても、一時の同情論や社会的責任として多少協力していかなければなるまいという程度の考えで雇用すると、知的障害者にとっても企業にとっても、実りある成果を多くは期待できないし、また永続性も発展性もないと断言している。 一定の考えと雇用計画をもって、継続的に雇用率を高めていこうとする企業努力のあるところに大きな成果が得られ、職場適応も容易になってくると指摘されている。こうした指摘は、長年の真摯な障害者の理解と慎重な、細やかな作業の分析とその実行から生み出された貴重な成果であると評価される。 |
3.今後の課題・展望
| 当社で示唆された具体的かつ詳細な成果は、高く評価され、今後障害者の雇用を計画されている企業や養護学校等の職業指導に大いに参考となるであろう。当企業の雇用は、知的障害者がその対象であり、同一障害者の多数雇用の有効性と成果が示されている。そのことは高く評価されることは勿論である。しかし、障害児教育の現場では、年々障害の重度化・重複化が顕著であり、また、自閉的傾向を示すが知的には正常な能力をもつ子ども達の就労の問題がある。 当企業の雇用の対象を他の障害者の雇用へと拡大され、さらに、知的障害者を対象とした実践の中で築かれた成果と方法を、他の障害者雇用へ活用・展開する際の貴重な助言と指導が期待される。 （執筆者：福岡教育大学教育学部教授  ） |
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