生涯現役の職場を目指して～年齢に関係なく障害者が活躍する鍼灸・マッサージ業～
2004年度作成
| 事業所名 | 有限会社岸川興産 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 佐賀県藤津郡嬉野町 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 鍼灸・あんま・マッサージ・指圧 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 23名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 19名（平成16年11月1日現在）
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 盲導犬アロマと社長夫妻 |
1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
（1）障害者雇用の経緯 |
| 昭和3年、嬉野町にて初代岸川卯七氏が、鍼灸院を開院したことに始まる。昭和56年に2代目の岸川資氏の跡を継いで、岸川美好氏が社長に就任し現在に至る。 障害者の雇用については、初代岸川卯七氏の頃は徒弟制度の時代であり、昭和3年の開院当初から、中途失明者を2名程度雇用していた。2代目の岸川資氏は健眼者であったため、視力障害者の雇用は余り進まかったが、3代目岸川美好氏の代になり、経営改善、事業拡大を図る中で障害者の雇用が促進されていった。平成16年11月現在、19名を雇用している。 事業内容が鍼灸・あんま・マッサージ等であるため、視力障害者の雇用が主であるが、勤労意欲のある障害者であれば、障害の種別に関わらず雇用を進めている。 従業員数は23人で、そのうち障害者の雇用数は19名、雇用率は82.6％となっている。 |
（2）高齢者雇用と盲導犬等の啓発活動 |
| 障害があっても勤労意欲を重視し、60歳を超えた障害者でも勤労意欲があれば雇用したり、定年は65歳となっているが、同じように本人の働く意欲があれば定年を過ぎても雇用を継続している。現在、最高齢は77歳の視力障害者の方が元気に就労されている。 このような障害者雇用が進んだ背景には、3代目岸川美好氏の障害者雇用に関する信念と卓越した企画力と行動力で経営されていったことがその要因と考えられる。 また、障害者の雇用を促進するということだけでなく、盲導犬育成の全国キャンペーンの展開や身体障害者補助犬に対する啓発・啓蒙活動も積極的に推進されている。
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2.取り組みの内容及び効果
（1） 障害者の配置 |
| 視力障害者については、18名全員が鍼灸・マッサージの仕事をしており、肢体不自由の障害者が受付や電話の対応等をおこなっている。健常者は4名で、事務や送迎の運転等の業務を担っており、業務の内容からして、当然のことながら障害者が雇用の中心となっている。 |
（2）新規雇用と再雇用 |
| 岸川興産では、マッサージ師の雇用は視力障害者が前提であり、県立盲学校及び公共職業安定所から採用している。社長自身も視力障害者であり、働きたいという意欲を持つ障害者が安心して働ける職場作りを雇用の基本とされているため、社員として定着している障害者が多い。 この業界は職人の世界で、少しでも手取り収入がよければ他の職場へ移ることも常識の世界であるため、中には辞めていく人もいる。しかし、結果的には岸川興産の働きやすさから、戻ってくる者も多く、現在働いている視力障害者の1/3以上は一度退職して、再就職した障害者ということであった。 また、開業を目指して岸川興産で働くことを希望する人もおり、そのような場合は、開業できるように支援しており、同じ嬉野町で開業した障害者もいる。 |
（3）生活面での支援 |
また、視力障害者の場合、その大半が障害年金を受給しており、継続した安定的な年金所得があるため、勤労意欲が乏しかったり、金遣いが荒いなどの障害者もいるため、生活面での世話も同時にしていかないと雇用が安定しないということがある。このため、岸川美好氏の妻で専務の岸川洋子氏が主にその役割を担っている。 また、マッサージ等の技術面においては、資格もあり特に問題がなくても、仕事の案内や旅館までの道のりを覚えてもらうための歩行訓練、旅館からの苦情の対応、宿舎を利用する社員への食事の世話、病気になった場合の手配や世話、親への対応・連絡等を個別的に、その時の状況に応じて対応していく必要があり、社長の岸川美好氏が妻の洋子氏と協力して行っている。 |
（4）厳しい業界と利用客の拡大の取り組み |
| 鍼灸・マッサージの業界は、障害者だけでなく、免許があれば健常者でも仕事ができ、最近は健常者で無資格の者が入り込んできており、目が見えること、見かけ、マナー等も訓練されており、健常者に職場を奪われるという状況も生じてきている。 また、目が見えないことで、お客の物を踏んでしまったり、壊したりで旅館から出入りを断られるなど障害者の雇用を継続していくことが厳しい状況になったときもあったという。 そのようなときも、マッサージと宿泊のセット旅行を企画し、障害者自身が県外各地に出向き、PRのため街頭宣伝活動を行ったり、社長の家族で「チンドン屋」の旗揚げを行い観光地嬉野温泉のPR活動を行うなど積極的に利用客の拡大を図り、雇用継続を実現させてきている。 |
3.今後の課題・展望
| 現在雇用されている身体障害者で最年長は77歳の方で、一番新しく採用された方も平成15年に盲学校を卒業された55歳の障害者である。このように岸川興産においては、働く意欲があれば年齢に関係なく働くことができる職場を目指している。このような取り組みができる背景には、社長である岸川氏の経営能力と障害者の生活面の支援を重視していく姿勢があったことがその要因と考えられる。 しかし、構造的な経済不況はその改善の兆しが見られるとはいえ、厳しい状況にあり、観光客の増減が大きく影響するこの業界にあっては、今後の状況は楽観視する状況にはない。 特に、視力障害者にとって、重要な伝統ある職場としての鍼灸・マッサージ部門に無資格の健常者が入り込んできている問題は、早急な行政面での対応が必要であり、視力障害者の生活面での理解を地域住民も含めていかにして進めていくかは今後の課題でもある。 そのような中で、職場における障害者の雇用の安定化を図るだけでなく、視力障害者の福祉全般に渡る住民の理解や啓発に強い意欲をもたれ、特に盲導犬育成のキャンペーンや身体障害者補助犬法の周知に向けた社長夫妻の取り組みは特筆に価するものである。 （執筆者：西九州大学健康福祉学部助教授 田代 勝良） |
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