仲間同士の思いやりが支える車いすの職場
2004年度作成
事業所名 | 有限会社三協車椅子製作所 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 熊本県熊本市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 車いす、福祉用具の製造・販売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 16名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 5名
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1.事業所の概要と障害者の雇用状況
(1)沿革 |

昭和63年、車いす製造メーカーとして設立。平成2年に熊本県、市町村委託契約、平成12年には介護保険レンタル事業指定を受け、現在に至る。 |

(2)事業内容 |

車いす、福祉用具の製造・販売。自社工場で個別製造が可能なため、特に重度障害者向けの車いすのオーダーメイド製造が主たる事業となっている。ほぼ完全に受注生産であり、汎用型の車いすはほとんど製造していない。 各種介護施設や病院などからの注文が多く、営業員がケアマネージャーやドクターなどの意見を聞き、利用者本人の要望や障害の状況、身体的条件に応じた仕様書を作成し、工場へと指示を出す。軽度の障害であれば汎用型の車いすで充分利用に供することができるが、重度障害の場合は本人との綿密な打ち合わせが必要となる。同社はそのような細かな条件合わせに基づいた福祉用具の製造からアフターケアまで行うことから評価されており、福祉用具取扱業者からも修理など依頼されるなど高い評価を得ている。
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(3)経営状況 |

介護保険導入以前に比べると、受注量は減少している。介護保険によって福祉用具はレンタルが主流となり、軽度な障害の場合にはほとんどレンタルで賄われるようになった。そのため、同社が製造しているようなオーダーメイド車いすの需要が減少しているようである。 特に、同社のような練度の高いノウハウを有しているメーカーに対しては望まれるニーズも高い。いわば特殊性の高い車いすのオーダーのみに絞られている傾向があり、工期も長期化しているとのことである。つまり年間で製造できる台数は減少しており、その分、付加価値も高いとはいうものの、それに見合うだけのものとは言えなくなっている。 そこで、車いす受注量の減少を補うため、同社では現在、座位保持器具の製造も行っている。本来、オーダーメイドの車いすが対象とする重度障害者においては体幹のゆがみなども多く、当然ながらオーダーメイド車いすには座位保持機能がセットされていた。しかし、介護保険導入によって汎用型車いすが一般化すると、それに付加する座位保持器具が独立した福祉用具として取り扱われるようになってきたのである。 また、新たな車いすの開発にも取り組んでいる。今年の国際福祉機器展に出展予定の車いすは、ガス圧を活用した独自のリクライニング機構を備えたもので、車輪回りにも安全性や操作性を高める独自の工夫が施されている。これは現在、特許出願中である。 |

(4)障害者の雇用状況 |

従業員数は現在16名。ピーク時には19名であったが、近年、減少している。 うち、障害者数は計5名。内訳は下肢障害が4名(いずれも車いすを使用)、内部障害が1名となっている。 下肢障害者4名の配置部署は、代表者1名、営業2名、事務1名となっている。 営業時間は、8時半から5時半まで。 |

2.バリアフリー化の現状
三協車椅子製作所は、熊本市のややはずれ、小高い丘陵の中腹にある。曲がりくねった道路の脇に開かれたそれほど広くない土地に、事務所と工場を収める社屋が建っている。もともと代表者の住居の敷地内に建てられた社屋は、すでに手狭で、住居自体も倉庫代わり。代表者夫婦も住まいを別に求めなければならなくなった。 このような立地とスペースで、車いすの利用者が4名。交通手段や社屋内の移動、実際の業務は本当に大丈夫なのだろうか。それが、正直な第一印象だった。 下肢障害者4名は全員、自家用車で通勤している。いずれの車も個人で車いす用に改造されたものだ。助成金などを活用したかどうかは定かではない。 営業員3名のうち2名が障害者であるため、営業用車両3台はすべて障害者用に改造してある。健常者の車両まで改造したのは、車検などによって車両が1台減っても営業業務に支障を来さないためである。これら営業用車両の改造にあたっては、助成金の活用はされていない。「そういう制度があるとは知らなかった。改造しないと運転できないし、特に助成金などを調べることもなく、改造しました」と代表者は語っている。 営業エリアは熊本県内一円。車いすに乗った営業マンたちは車で忙しく働いている。代表者自身もより広域の営業活動に飛び回っている。「長時間のドライブは疲れるでしょう」と聞くと、「いやあ、私はどこへでも行きますよ。九州内でも、大阪でも」と元気な声が返ってくる。 社屋内については特別に大きな改装は行っていない。通路の段差解消とトイレの昇降便座の設置程度である。「通路を広げたくても今の敷地では限界で、どうしようもないんですよ。できる範囲でやれることをしているといった状況ですね」。
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3.人間同士の思いやりで解決できること
狭い事務所スペースを車いすで移動する。さぞ不自由なことも多いだろうと思うが、「特に不自由は感じない」という。車の改造やトイレの昇降装置設置などは必要だが、限られた条件の中でなんとかなるという。 代表者の奥さんに話を聞くと、「一緒にこうやって仕事をしていると、誰が障害者だとか健常者だとか感じないですよ。ごく普通に仕事をしているという感じです」とのこと。 とは言っても、もちろん、肉体的なハンディはさまざまな面に現れる。例えば、排便の問題。薬剤を摂取して、排便を促す際に、何時間もかかる場合がある。仕事への支障も生じる。また、病院への通院も就業時間を使わざるを得ないこともある。しかし、これらのことも、互いに理解し合ってフォローし合えばなんとかなるというのが三協車椅子の考え方である。 そのため、三協車椅子では障害者のための社内規則などを特別に定めてはいない。「一応、8時半から5時半までという就業時間は決めていますが、それぞれがうまく行くために、いい仕事ができるためにはどうすればよいかを考えて、判断していけばよいのではないでしょうか」。 砂利を敷いた駐車スペースを車いすで移動しながら、永野社長が語った。「本当は、駐車スペースもコンクリを打って、車いすが動かしやすいようにした方がいい。そうしようかとも思っていたんですが、みんな『そんな必要ないですよ。いまのままで大丈夫』と言ってくれるんですよ」。
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4.まとめ~三協車椅子製作所における障害者雇用に学ぶこと
客観的に見れば、バリアフリー化の余地はいろいろあるのだろう。しかし、絶対必要な改造・改装が行われていれば、あとは人の意識の在り方でクリアしていける。そのことを、三協車椅子製作所の事例は物語っている。 おそらく、代表者自身が障害を負っていることが大きいのだろう。一緒に働くことにあたってのバリアフリーな意識も、それゆえに会社内に定着したのであろうし、障害の実情をよく知った上での雇用上の判断だからこそ、社員たちも信頼を置けるのだろうと思われる。また、何よりも車いすで生活しているからこそ、優れた車いすの開発・製造を行うことができ、まわりからの高い評価も獲得してきたのである。 健常者ばかりの企業であっても、社内コミュニケーションのゆがみが多かったり、利用者のメリットを無視した商品開発が多いという現実を考える時、一緒に働く仲間の痛みに目を向けることができ、利用者の立場になってものづくりができる三協車椅子の在り方は我々にとても重要な問題を提起しているのだと考える。 現在、同社の敷地は新たに開通する道路計画にかかっており、近い将来、社屋移転が行われる。これまでの経験と企業文化を活かして、よりよい職場環境が誕生すること、そして、さらに優れた福祉用具の開発・製造が行われることを願いたい。
(執筆者:有限会社エアーズ取締役 森 克彰) |

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