精神障害者の就業環境の整備~休憩室・衛生施設・動線などハード面の改善~
2004年度作成
事業所名 | 有限会社マル平 | |||||||||||||||||||||
所在地 | 鹿児島県鹿児島市 | |||||||||||||||||||||
事業内容 | 青果物・鮮魚類の卸小売 | |||||||||||||||||||||
従業員数 | 17名 | |||||||||||||||||||||
うち障害者数 | 4名
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1.事業所の概要と障害者雇用の状況
(1)事業内容 |

当事業所は、青果物、鮮魚類の卸、小売販売を行っており、平成5年に設立され現在に至っている。主に鹿児島県内の病院、福祉施設等の給食等に食材を提供しており、顧客から新たな分野への進出も望まれている。それにより、現在は直営の食堂運営や、福祉施設の菓子類の仕分け配達などにも取組んでいる。 |

(2)障害者雇用の経緯 |

当事業所では作業内容として青果物、鮮魚類等の仕分け、配達を行なっているが障害を持つ者にとっても十分に活躍可能な部分があると判断し、平成15年に障害者の雇用を開始した。当該地域の職業安定所等の勧めもあり、面接会等に積極的に参加し、これまで継続的に障害者の雇用に取組んで来ている。社会貢献を果たし企業として障害者との共生を進め、障害者の可能性も活かしていきたいとの会社の方針もあり、知的障害者に対しては毎日学校で行なわれるような授業を職員が担当し、そのスキルアップにも取組んでおり、成果をあげている。 身体障害、知的障害、精神障害は同じ障害者と言えどもそれぞれの特性は非常に異なる。特に「精神障害」の特性として、数的、形状的な「こだわり」がそれぞれにあり、これを個別に理解し、職場の中で解決していくには時間と努力が必要であった。時間をかけた対話の中で、相互理解を進めお互いを活かすための努力を継続してきた。 |

2.障害者を雇用して直面した課題
(1)障害特有の「個性」に対する課題 |

精神障害者にはそれぞれに特有の個性があり、一般の職員との日常のリズムの違いを考慮して、休憩時間、休日の設定を一般の職員とは別途に考慮する必要があった。 例えば、障害者自身に休日をとりたい曜日の「こだわり」があり、会社が提示する曜日と異なる場合がある。また、一般の職員の休憩時間帯とは別に、一定の時間を区切った形(短時間ごと)で独自に休憩時間を設ける必要性もあった。 また障害による特に内面的な問題、仕事上の問題や対人関係の問題等を安心して話せる場、時間、人的サポートが継続的な雇用の為の相互理解に必要と考えられた。 |

(2)衛生面の課題 |

食材を取り扱う事業所であり、衛生面については細心の注意を払う必要があるが、障害者にとって必要な薬を飲む事による水分の摂取量の多さから頻繁に排尿があり、休憩室、トイレ周辺の衛生対応が必要と考えられた。既存のトイレは土足利用の和便器であったため、トイレを使用する者自身に衛生管理面での高い意識が必要であったが、障害者に対してその意識を期待することは困難であった。 また、着脱衣や備品の管理など、障害の特性上不得手とする日常的な動作の面でも衛生確保をする必要があった。精神障害者の特性として、健常者とは異なる「こだわり」や数や形などへの認識の違いがあることを理解し、これらを個別に動線や手順で対応する事が望まれた。 |

(3)指導や叱責等心的ストレスの課題 |

精神障害者の場合、知的レベルは高いため、ある一定の特性を理解する事により、職場においてもその能力を十分に発揮する事ができる。ある一定の違いを理解、解決する手法としては、内面的な問題と並行しながら、外的要因、つまり作業動線や手順等のハード面を整備する事が不可欠であると考えられた。この事により不必要な指導や叱責を減らし、指導者、障害者双方の心的ストレスを軽減する事ができるのではないかと考えた。 |

3.課題への対応と効果
(1)休憩室、相談室、カウンセリングルームの設置 |

長時間労働が難しい者に対して、時間を区切って休憩できる場を提供した。 また相談室、カウンセリングルームを設置し、安心して面談(相談、指導)が出来る場を確保する事によって、精神的な面でストレスなく安全かつ継続して就労できる環境を準備した。 安心して休憩を取れる場、相談出来る場を確保した事により相互理解が進み、落着いた状態で業務を行えている。また職長を始めとして一般職員との交流の場ともなり、和やかな雰囲気の中継続した就労を支える事が可能となった。 精神障害者、知的障害者にとっては、まず第一に内面的な悩みや問題が多いと考えられ、職長を始めとした一般職員の理解と関係が大変必要と思われる。それぞれの努力と歩み寄りによって、それぞれの可能性を活かした「ワークシェアリング」が行なわれていると思われ、特に一般職員にとっても、障害者の職場適応に対して努力する姿勢が好影響を与えている。 |

(2)トイレの改修・改善 |

頻繁にトイレに行く必要性から、トイレの改修を行った。 まず、既存のトイレは、土足利用であり作業場で使用している雨靴のまま利用できるスタイルであったため、使用者本人に衛生管理意識が必要であった。作業用雨靴をスリッパに履きかえるということを明確に行う事により、意識にかかわらずこの面で衛生管理が行えるようにした。
トイレを改修する事によって、作業用雨靴からスリッパに履き替える必要性が生まれ、障害者にとっても理解し易い形で衛生管理が自然な形で可能になった。また改装する事によって美観も維持されている。 |

(3)出入り口と衛生設備 |

関連する作業場に数箇所ある出入口については、入口、出口を明確に分け、手洗い器(消毒含む)等の衛生設備を動線上に明確に配置するなどの対応を行った。そのことによって、障害者にとっても無意識の内に衛生管理が出来ている。
また、出来るだけ不要な部分に触れずに済む配置にし、自動ドアを設置したため、業務上確保しなければならない衛生管理への不安が解消され、スムーズに作業が行えている。
また、自分の使用した食器等の管理、作業服、私服の管理等、障害者にとって比較的困難な衛生面の留意点を明確にするため、ロッカールームなどの確保を行い、日常的な作業が理解しやすいようにした。 そのことで、障害者の作業範囲、職域も広がり、一般職員が注意する負担も軽減された。 |

4.まとめ~ハード面・ソフト面の整備
(1)ハード面の整備 |

精神障害者にとっての良好な職場環境を整備するには、内面的な相互理解とそれから生まれる具体的なハード面での対処が必要であった。 それは、一般的に言われる段差解消などのバリアフリーとは異なり、理解や行動意欲へのバリアを取り払うことであり、精神障害者が理解しやすい動線やスペースを確保する事など、人的負担を軽減する為には不可欠な整備である。作業場によっては、障害者が作業するために動線の考慮、広さ、衛生面の確保の為の手段等を配慮しなければならない部分もあるので、現在の障害者職員の可能性を広げ、更なる障害者雇用の場を確保するには改善が必要な箇所もある。 |

(2)ソフト面での対応 |

職場のハード面での改善を行う事により、精神障害者が携る事の出来る作業が増える。 作業手順等を明確化することによって、業務が円滑に理解でき、精神的なストレスも双方解消する。また、理解しやすい動線の確保などを行う事によって、人的な指導を必要以上に行って精神的なストレスを与える事なく、スムーズに作業が行える。そして就労期間、経験の増加に伴い、障害者職員の可能性もさらに広がっている。 短期的に全てを改善する事は難しく企業単独では困難な点も多いが、各方面の協力を得ながら、現在の職場の充実と新たな職域、雇用の場を創出していきたいと考えている。 |

(3)まとめ |

今後、事業が発展、変化していく中で彼らの可能性を引き出し、より積極的に事業展開として活躍してもらうためには、精神障害者特有の個性に対応したハード・ソフト両面での整備が不可欠と考える。 現段階でも、障害者職員は時間とともに自信を持ち、表情にも活気が溢れているように思われる。特に雇用している障害者等の個別のスキルや可能性が広がるにつれ、新規事業等での活躍の場が考えられる。これまでの経験を活かしながら、ハード・ソフト両面での的確な職場作りを行い、さらなる障害者雇用の職場を創出して行きたいと考えている。 (執筆者:(社)鹿児島県障害者雇用促進協会技術顧問 金子裕行) |

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