笑顔の電話交換手～重度視覚障害者の雇用事例～
2004年度作成
| 事業所名 | 医療法人中部徳州会 中部徳州会病院 | |||||||||||||||||||||
| 所在地 | 沖縄県沖縄市 | |||||||||||||||||||||
| 事業内容 | 一般病院（内科・外科等24診療科目）、クリニックおよび老人保健施設 | |||||||||||||||||||||
| 従業員数 | 795名 | |||||||||||||||||||||
| うち障害者数 | 1名
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 病院の入り口付近 |
1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
（1）事業所の概要 |
| 中部徳州会病院は、昭和63年4月、沖縄本島中部の沖縄市に開設された。同じ医療圏内に所在する大学病院・公立病院・近隣の医療機関とも連携を取りながら、地域の中核病院として救急診療、急性期・慢性期疾患の治療、予防医療の充実に力を入れている。 平成元年には許可病床数が300床となり、その後も併設老人保健施設、関連診療所4箇所の開設、院内では総合検診センター日帰り手術センターの開設など、多様化する患者のニーズに合わせて病院運営を展開してきた。 |
（2）障害者雇用の動機 |
| 障害者を雇用するきっかけは、ハローワークからの紹介からである。当時は障害者雇用の意思はあったが、適職が見つからず雇用に至らない状態が続いていた。その頃、あんま、マッサージの話で視覚障害のAさんのことが話題にあがり、住まいが近いこともあって雇用のお願いをすることになった。 当時の徳洲会病院では、外線電話に代表番号がなく事務職の人が取り次いでいた現状があった。Aさんは電話交換手の訓練も受けた経験があるとのことで、電話交換手での採用ができないかどうかを打診し、母親を含めて面接となり、Aさんの採用に至った。病院内での仕事のほとんどが有資格者でなければならない職種であるが、一般事務なら資格なしでも雇用できるし、動きの少ない仕事なら全盲の方でも雇用可能ではないか、という理由からであった。また、Aさんは仕事の覚えも早く、性格が親しみやすい明るい雰囲気ということも雇用に踏み切る大きなポイントになった。 病院という業種のため、接する相手は患者さんがほとんどである。そのため、接遇に関しては自信をもって行うという永遠の課題がある。病院職員の障害者に対する偏見・差別といった態度は皆無であるため、障害者雇用を今後も積極的に進めていきたいと考えている。 |
2.視覚障害者雇用のための工夫・対策
（1）職場環境の整備 |
| Aさんの雇用初期においては、まず一通りの病院概要の説明を行い、仕事内容は研修を通して覚えてもらった。業務に慣れるまでは指導も兼ねサポーターをつけるよう配慮した。雇用当初に行った院内歩行訓練を通して、点字ブロック・エレベーターの整備等、視覚障害者に対する施設整備が進んだこともあり、病院側としてはよりよい施設提供の一歩にもつながったという点で、Aさんを採用して本当によかったという感想であった。 事務所内に関しても、Aさんにとってドアノブが見つけにくいとの理由から、同課の戸を押し戸へ取り替えたり、歩きやすい環境維持のため床に物を置かないようにするといった配慮を促している。 |
（2）労働条件 |
| 給与に関しては、特別なルールは設けていない。一般事務としての採用のため、事務職の給与規定に則って他の職員と同等の給与を与えている。常勤採用のため、昇給・キャリアアップも当然他の職員と同じように考えられる。 |
（3）社員のサポート体制 |
| 雇用当初は、アパートから職場までの通勤をAさんと同じ課である医療事務課の職員で援助していた。現在は、悪天候の際に限り援助を受けている。全職員を対象とした接遇やその他さまざまな講習会を開いているが、Aさんもこれらの講習会に積極的に参加している。普段の業務上での階移動はほとんどないが、講習会の場合は階移動のため、講義室への移動は職員らが協力して援助している。Aさんの明るく人懐っこい性格が、自然なサポート体制を作り出しているのだと感じた。 |
3.Aさんの仕事ぶり
| 「1日300件くらいの電話を受けています」と話すAさんの笑顔が印象的だった。これらの電話の中には苦情や取立ての電話もしばしば含まれるが、どうしても困った場合は周りの職員に助けてもらっているとのことだった。電話が殺到した場合には、他の部署の電話に自動的に流れるようになっている。電話の応対は午前中に殺到するため、午後の空いた時間を利用して職員名簿の整理（点字に清書）を行っている。 日々のストレス解消法は、同僚や友人と食事やカラオケに行くことや旅行だと話していた。毎日の昼食は自分で弁当を作って同僚と食べるそうだが、同僚の話によると、盛り付けが完璧とのことだった。何事にも積極的に取り組む姿勢が彼女のはつらつとした笑顔の源となっていることに気づかされた。
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4.今後の展望
| 中部徳洲会病院としては、障害者や高齢者を雇用することに抵抗はなく、患者さんにとってより充実した提供を行うことができると考えているため、積極的に取り組んでいきたいと考えている。 これまで沖縄県内では、病院での障害者の雇用事例は聞いたことがない。中部徳州会病院は地域の中核病院でもあり、徳州会グループのひとつでもある。こうした連携上のメリットも活かし、病院内の障害者雇用を検討する際、どのような障害種類がどのような職種に就いているのかという情報を積極的に他の病院と交換していきたいと望んでいる。3か月ごとに地区内の事務長会が開かれるので、そこを情報交換の場として活用したいと考えている。 地域の人が多く利用する総合病院において、障害者雇用をきっかけに、来院者へのサービスの向上へもつなげていこうという前向きな姿勢がとても力強く感じられた。 （執筆者：琉球大学教育学部障害児教育講座助教授 田中敦士） |
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