「お互い様」で一緒に歩んで行きましょう
~ヘルパー2級として活躍する知的障害者~
- 事業所名
- 特定非営利活動法人ほほえみサービス米沢
- 所在地
- 山形県米沢市
- 事業内容
- 地域にふれあいの輪を広めるための助け合い事業と介護保険事業
- 従業員数
- 26名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 1 介護業務 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)沿革
NPOほほえみサービス米沢(以下、「ほほえみ」という。)は、1993年、山形県南部に位置する置賜地域の中核都市である米沢市に、高齢者や障害者など、生活上の困難を抱えている家庭の支援を行う在宅福祉サービス事業を開始し、1998年に県内第一号のNPO法人の認可を受けたものである。
2000年には介護保険の指定居宅サービス事業者となり、2001年には市内のマンションの一階にデイサービスをメインとする活動の拠点を設けるとともに、開所当初からの理念である「地域での助け合い」を大切にしながら、事業内容を2部門としている。
(2)事業内容
一つは、助け合いの部(有償ボランティア)である。
利用会員・協力会員・賛助会員からなる会員制でサービスの提供を行っているが、ボランティアではなくサービス団体である事を名乗り、コーディネイト職の事務会員がおり、1時間800円の利用料を徴収し、ボランティアの方にも謝礼を払っている。

「ボランティアなのに有償とはおかしい」との批判もあったが、地域の認識も進みサービスを受ける側にとっても合理的であるばかりでなく、ボランティア継続の動機にもなっている。現在は利用者会員37名、協力会員52名、賛助会員59名で利用ボランティアも延べ100名を数えている。
もう一つは、介護保険の部である。
介護支援事業には要介護者の生活支援を行う為3名のケアマネジャーを配置、利用者105名のケアプランを作成し、各種サービス提供者との連絡調整や利用者の身体変化・サービス提供者状況把握等でのプラン見直しを行っている。
(3)事業所の特徴と理念
「ほほえみ」の特徴としては介護保険で提供できるサービスの他に「助け合い」部門のサービスを組み合わせて提供できることにある。
また、訪問介護事業は介護保険制度と同時にスタートしており、常勤・登録合わせて24名のヘルパーが72名の利用者宅を訪問し、利用者が住み慣れた自宅で可能な限り自立して生活できるように支援するものである。特徴的なものとして、「ほほえみ」ではサービス提供時間の7割が生活(家事)援助となっている事である。
さらに、通所介護事業は2001年5月に開設し、デイサービスでは入浴、食事、レクリェーション、外出等のサービス提供を行っている。通所介護は「ほほえみ」開設当初からの「地域での助け合い」という理念に従い、重度の認知症高齢者を積極的に受け入れたり、採算が取れない遠隔地の方でも採算度外視で受け入れている。
高齢者・障害者が参加できる場としての施設(ハード)が必要であるとの考えから、誰もが気軽に立ち寄れる雰囲気を作り人の輪(ソフト)でお互いに支えあう環境で成り立っている。「相互扶助」と言うよりも、どの事業にも職員も「お互い様」という理事長の言葉が浸透し、全ての職員が活き活きと利用者に接している姿をみつめ、微笑みながら「人は財産」と言い切る理事長の姿勢が、ごく自然に、障害者を受け入れられる気風を生んでいる。
2. 障害者対象のヘルパー2級養成講座について
(1)知的障害者の資格取得
知的障害者の資格取得は困難なものがあり、専門用語や設問の理解不足等「資格試験」という壁に阻まれているのが実状である。本報告では、知的障害者向け職業訓練としての訪問介護員養成講座を受講し、資格取得により「ほほえみ」での雇用に到ったMさんの事例を紹介するものである。
(2)知的障害者対象の2級ヘルパー講座
障害のある方を対象としたヘルパー養成講座は県内でも開設されていたが、主に家事援助が中心の3級ヘルパーのみであり、身体介護ができる2級ヘルパーの講座は全国でも大阪に次いで2番目になるものであった。
この事業は、山形県商工労働観光部雇用労政課が実施主体となり、山形県離転職者訓練事業「訪問介護員養成研修2級課程」として実施された。さらに、県立山形職業能力開発専門校の障害者対象委託訓練事業「訪問介護(2級課程)知識・技能習得コース」として山形県社会福祉事業団に委託され、2004年5月に募集開始となった。知的障害のある方がホームヘルパー資格を取得し、自ら福祉の担い手になる事でおのずと自分に自信を持ち、尚且つ就労の機会を増やしていくという、極めて重要な目的を持つものである。
講師のほとんどが社会福祉事業団の職員であり、初めての試みという事で念入りな打合せや準備を心掛け、資料も理解し易いように工夫し、手作りのテキストでの講義であった。
一般の講座は講義・演習・実習を通じて130時間であるが、この事業においては障害の特性を考慮し、300時間で設定している。
3. Mさんがヘルパー2級資格を取得するまで
(1)知的障害のあるMさんの希望

知的障害者対象のヘルパー2級講座を初めて受講したのは、山形県立総合コロニー希望が丘「あさひ寮」(知的障害者入所授産施設)を利用中であったMさんである。
Mさんは2003年からあさひ寮を利用していたが、その当時より「他人の世話をする仕事がしたい」「困っている人を自分が出来る事で助けてあげたい」という就労への希望があった。それは在宅生活を送っていた当時、家庭で義母の介護を手伝っているうちに思うようになった事であると言う。訪問介護員という仕事を知ってからは、自分も資格を取り地域で働き生活したいと考えるようになったのである。
それまでも就職活動は行っていたが、なかなか就職場所は見つからず、実習や話だけでもとあちこちに連絡をとってみたが、本人の希望する介護実習を受け入れてくれる施設は無く、まして就労は困難であった。昨年一度だけ特別養護老人ホームでの実習を行ったが、思ったより評価は低く、現実の厳しさを実感したようだ。しかし、その評価に不満をもつことで本人はより強固に自分の意志を固めた様である。
Mさんはいわゆる姉御肌で面倒見がよく、他利用者の信頼もあり元気一杯だが、その分感情の起伏も激しく、就労の話が出る度に一喜一憂しながら授産施設の畜産班で仕事に励んでいた。
(2)ヘルパー養成講座の受講
2005年6月に夢が叶い、ハローワークの推薦により、養成研修の受講が決定したと知らせが届いた時、Mさんは大喜びだった。
しかし、300時間の講座は、予想以上に知的障害の彼女にとって困難なものとなった。期間が3ヶ月という長丁場で、通学には徒歩・自転車・汽車・バスを利用して片道2時間かかり、加えて7月という暑い時期でもあり、職員は不安や心配をし、本人は「大丈夫」の一言であったが、やがて「大変さ」を実感することになる。
7月27日から10月22日までの受講期間中に、幾度となく「辞めるか?続けるか?」という問答や、時には3時間にも及ぶ話し合い(怒鳴りあい)もあった。授産施設職員も「これで本当にこれでよかったのか?」と言う疑問や「リタイヤしないだろうか」などとハラハラしながら、本人共々ストレス・緊張・爆発の喜怒哀楽の日々を乗り切った。そして、ようやく努力が実を結び県知事名が記載された「訪問介護員2級」の資格を取得するに到ったのである。
この事業を受けた第一期生6名が全員一人の脱落者も無く、周囲の励ましに感謝しながらも胸を張って修了式を行う事ができた。「やろうとする意思があれば、出来る。」との言葉に力強く、自信を持って頷くMさん。「自分で自分を褒めて」の言葉にそっと涙しての修了式であった。
4. Mさんがヘルパーとして就職するまで
(1)障害を持つ人の雇用
介護職に関わらず、事業所が、障害者とわかっていて雇用するということには大変な不安を抱くものであり、躊躇する事業所にあっては、固定観念として、個人の人格よりも「障害」に囚われる傾向が強いものである。
今回の、そして、これまでの障害者雇用全般について言える事であるが、障害の特性(理解力・認知・対人関係等)を理解する必要はあるが、性格と同様に個人が持っている能力は違うのであり、それを知って貰うには、実際に接して、共に働く機会を多くつくり出すことが必要なのである。
(2)就職活動
資格を取得したからといっても、すぐに就職先が見つかる訳でもなく、ハローワークと連携しながら就労先を捜し何箇所か職員募集の広告に連絡を試みるが、ヘルパー2級資格所持者と言っても、障害者と告げたとたん「そうでしたか、それでは充分検討してから・・・」というのが殆どで、「残念ですが・・」と返答してくれる所はまだしも、再度連絡してくれるところは皆無であった。
確かに、ヘルパーの仕事は殆どが高齢者相手であり、精神的・肉体的に細心の注意と配慮が要求される。そうした仕事を障害のある人にどれだけ委ねられ、責任を持たせられるかが一番の心配ではあるが、本人と面接もしないで、態の良い拒否が続いたのである。
(3)「ほほえみ」での実習と採用

こうした中、「ほほえみ」の職員(学生時代にあさひ寮で実習を行った方)が声を掛けてくれた事から、Mさんは、デイサービスで1か月の実習を開始したのである。
当初は、実際の仕事の理解と、高齢者との触れ合いを通しての介護体験をと考え、デイサービスの利用者及びスタッフとの関係調整や、Mさんへの理解と認識を求めるべく、あさひ寮の職員が3週間程度ジョブコーチとして入り、挨拶や身だしなみ・言葉づかい・作業について共に行動した。そして、徐々にジョブコーチの時間を減らし現場スタッフの指示に任せる頃、本人から「どうしてもこのまま働きたい。」との強い訴えがあった。
後日、理事長が思い出すように言われたのは、「正直、答えを出すのは難しかったし戸惑った。知的障害を持つ人との交流はあまり無く、自分自身障害を理解しているとは思えなかった」。そんな中でのMさんからの働かせて欲しいとの申し出に、理事長が戸惑うのは当たり前だろうと思われる。しかし、Mさんとあさひ寮職員は必死に思いを伝え続けた。
1ヵ月後の2005年5月1日、「一緒に頑張りましょう。お互いにね、助けを必要としている人に・・・」という理事長の言葉に感謝をし、Mさんは「ほほえみ」デイサービス事業所に臨時支援員として採用となったのである。
(4)ヘルパーとしての仕事
Mさんは、介護職員として、入浴介護を除き以下全てを行っている。
- 入浴者の着衣の脱着
- トイレ誘導
- 食事の介助
- 送迎の付き添い・対話
- その他(職員の指示事項、介護者の要望事項
「ほほえみ」の介護職員のみなさんは、Mさんを知的障害者として紹介されていないので、障害があることを知らない人も多いようである。
5. 事業所の受け入れ、対応から学ぶもの
(1)キーパーソンの存在
「ほほえみ」では初めての障害者雇用であり、利用する高齢者が拒否するのではないか、人間関係は上手く取れるのか、仕事上の指示をどの程度理解できるのか等々、職員の精神的な負担の大きさは計り知れないものである。また、介護の仕事は少しのミスも許されるものではなく、「障害を持っているから・・・」との手加減は事故に繋がる事となるのである。

知的障害を持つ人の苦手なことの一つに、複数の人からの指示や曖昧な表現があり、そこに混乱と思い込みが生まれる。そのため、指示を下し作業を分割し理解しやすい言葉で教えてくれる「指導者」となるべき職場のキーパーソンが必要である。そのキーパーソンが、デイサービス部管理責任者であるAさんであった。Aさんは、実習時から仕事面の他に私的な事にまで相談に乗って貰うなど、Mさんが信頼していた方である。
ある日、Aさんから「Mさんに対してどのような対応をしたら良いか。」という質問があった。実際の現場では、複数の職員からの指示が出されることとなり、戸惑っていたというのである。知的障害の特性を説明し、複数の人からの指示が苦手である事と、Mさんからの指示に一本化して欲しい旨を伝え、また、難しい言葉や曖昧な表現ではなく理解しやすい言葉と具体的な指示を出して欲しいことも併せてお願いした。
その後、Aさんがキーパーソンとなって作業指示が一本化され、Mさんの作業スキルも向上したのである。
(2)他の職員との関わりと理解
実際に雇用となり、仕事に慣れて来るに従い、一番問題だったのが他の職員との関わりであった。全職員が障害について理解していた訳ではなく、Mさんの言動に戸惑ったり、すれ違った会話があったりギクシャクする場面も少なくなかった。人間関係のズレは介護の仕事にも大きく影響することから、キーパーソンであるAさんが、Mさんと他の職員との調整役にもなってくれたことで、少しづつではあるが他の職員が障害について理解することができた。
一例として毎朝行われるミーティングをあげると、経験もなく的確な表現も出来ないMさんは、会話についていけない、何処まで理解できているのか分からない、現場の職員も距離をおいてしまう等々の問題があった。Aさんが間に立ち、今話し合っているのがどのような問題なのかMさんに分かり易い言葉で教え、また、Mさんの意見を乏しい表現から引き出し他の職員に伝えるといったことを根気良く続けていただいた。
介護という職場で、初めは遅々として進まない仕事に不満の声もあったと聞くが、キーパーソンであるAさんの、障害を受け入れ理解しようとする姿に、少しづつではあるがより良い人間関係が築き上げられている。
Mさんにとっても、他の職員同様に、目指すところは利用者にとってのより良いサービスの提供であり、「報酬をもらって働く限りは、職業人としての自覚を持つことは障害の有無に関わらず、同じである。」ということがごく当たり前になっていたのである。
6. おわりに
前にも述べたように、障害者を受け入れるということは、事業所にとっても不安なことである。その時に、まずは事業所の声に耳を傾け、不安に思っていることを聞き出し一つ一つ説明していくことから始め、連携・協力、そして共感というように、事業所としての前向きな姿勢を示してもらえたことが就労に結びついたと実感した。
職場開拓とは、最終的には「人と人との繋がりである。」ということと、具体的な支援に関しては「いかに良い支援があっても、採用するのは事業所であり、共に働くのは事業所の職員である。」という視点であり、就労支援に携わる職員としても、この事例で学ぶことが多くあった。
障害を持つ方が就職し、地域で生活する際には多くの課題があるが、それは壁ではなく何重ものドアであると思われる。障害とは一つのドアであり、他の人より一枚多いドアを自分で開けなければならないということでもある。そして、最も重要なことは「働きたい、働き続けたい。」という本人の願いと、強い意志なのである。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。