一人一人の持ち味と持ち場~流れ作業での分担と助け合い~
- 事業所名
- 日新殖産株式会社 副霊山工場
- 所在地
- 福島県相馬市
- 事業内容
- 鶏肉製品の製造・加工・販売。畜産物・農産物・食品・飼料の仕入れ・販売。動物用医薬品の販売。
- 従業員数
- 145名
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 むね肉検品 肢体不自由 5 と体懸鳥、仕上げ、箱詰め、余剰もも肉の保管、ブレストデボナー 内部障害 0 知的障害 8 懸鳥、ACM懸垂、ささみ取り、脂取り、フィート・足ガラ計量、氷投入、箱詰め 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
日新殖産株式会社は、昭和45(1970)年1月に伊達物産(株)副霊山工場として稼働し、平成10年1月に伊達物産(株)より分社(株)し大東生産組合として設立され、平成14年7月に日新殖産(株)と社名が変更して現在に至っている。
本社(「日新殖産株式会社」)は福島県伊達郡梁川町にあり、ほかに同町に梁川工場を有している。会社全体の従業員数はパートを含めて182名である。
同社の主な事業内容は、1)鶏肉製品の生産、製造、加工及び販売、2)畜産物、農産物、食品、飼料等の仕入れ・販売、3)動物用医薬品の販売、4)その他、と幅広く営業活動を行っている年商約40億円の会社である。会社の主要な仕入れ先は伊達物産(株)や地元の生産農家で、福島県を中心に契約農家数は51軒を数える(福島県41軒・宮城県10軒)。
筆者が訪ねた同社の副霊山工場は、標高約400mの阿武隈山系の山間に位置し、厳寒期には氷点下17~18度になるという静かではあるが気象条件の厳しい環境にある。同工場は主に鶏肉製品の生産、製造、加工を手がけており、1日あたり地鶏の「伊達鶏」を約3千羽、「若鶏」を約8千~1万羽処分・解体し製品として加工している。平成17年7月現在で従業員数は145名で、その約1割が正社員、9割はパート社員で占められている。そのうち障害者が14名(うち4名は重度障害者)雇用されており、同工場の障害者雇用率は法定雇用率(1.8%)の約7倍の12.4%に達している(会社全体では約10%となる)。
2. 障害者雇用の概況
(1)障害者雇用に対する会社の姿勢と取り組み
日新殖産株式会社が障害者の雇用を開始したのは、昭和55年頃に遡り、会社の創設者(会長)である清水昌夫氏の功績が非常に大きい。氏は自らが農家の出身であったこともあり、「農家を相手にする仕事はその儲けを農家に還元すること」をモットーとし、皆が公平に働いてそれを社会に還元することを社訓とした。氏のこうした考えや姿勢が会社経営の基底にあり、障害者にも温かい支援を差し延べその雇用を積極的に促進してきたといえる。加えて、同社は県内の養護学校やハローワークからの実習生を積極的に受け入れ、障害のある生徒や障害者の実習先として地域に貢献している。
(2)障害者雇用の状況
副霊山工場では、平成17年7月時点で男性7名と女性7名の合計14名の障害者が雇用されており、その概要は表1の通りである。年齢は18歳から67歳までにわたり平均年齢は38歳となっている。鶏肉製品の生産、製造、加工の一連の工程(生産ライン)は1番の「生鳥入荷」から110番の「フィート計量」まで細分化され、健常者の中に交じって障害者が各自の持ち場(工程)で責任をもって分担作業をしている。ベルトコンベアーのような流れ作業の中にそれぞれの障害者がうまく溶け込んで作業をしている。
障害者が仕事でつまずいたり分からない時には、その都度側にいる健常者がアドバイスしたり励ましたり出来るサポート体制が取られている。障害者だけを1つの固まり(グループ)にして作業に従事するのではなく、社員全員が一人一人の持ち味を生かして相互に助け合って流れ作業(仕事)に従事している姿がとても印象的であった。
NO. | 性別 | 年齢 | 障害の種類・程度 | 雇用形態 | 作業工程と作業内容 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 男 | 22 | 重度知的障害 | 一般 | 109 足ガラ計量 |
2 | 男 | 36 | 両足関節の著しい機能障害(5級) | 一般 | 56 ブレストデボナー |
3 | 男 | 46 | 重度知的障害 | 一般 | 108 脂取り |
4 | 女 | 49 | 重度知的障害 | 一般 | 59 ささみ取り |
5 | 女 | 28 | 知的障害・左上下肢機能障害(2級) | 一般 | 77 余剰もも肉の保管 |
6 | 女 | 63 | 両耳の難聴(2級) | 一般 | 66 むね肉検品 |
7 | 男 | 39 | 知的障害 | 一般 | 100 箱詰め |
8 | 女 | 20 | 知的障害 | 一般 | 110 フィート計量 |
9 | 男 | 22 | 知的障害 | 一般 | 107 氷投入 |
10 | 女 | 34 | 重度知的障害 | 一般 | 12 懸鳥 |
11 | 女 | 51 | 左手指の機能障害(4級) | 一般 | 19 と体懸鳥 |
12 | 男 | 67 | 外傷による両側第3~5指欠損(6級) | 一般 | 100 箱詰め |
13 | 男 | 18 | 知的障害 | 一般 | 52 ACM懸垂 |
14 | 女 | 66 | 右手指の機能障害(3級) | 一般 | 31 仕上げ |
3. 障害者雇用に際しての工夫と配慮
障害者の雇用には会社の理解と障害者一人一人の特性(持ち味)を活かした工夫と配慮が必要である。各自の「持ち味」をそれぞれの「持ち場」で活かしていく、まさに「適材適所」が肝要である。日新殖産株式会社では下記のような工夫と配慮がなされており、こうした配慮が障害者の雇用を可能にしている鍵だと言える。
(1)送迎バスの運行
同工場は交通の不便な所に位置しているために、送迎バス(中型)8台を使って従業員の送り迎えを行っている。従業員は近郊の市町村から通っているが、遠い人で片道40分の距離を通勤している。特に冬場は積雪が多いために、会社独自で通勤道路の除雪を行うなどして、勤務開始時間(8:00)に間に合うように万全の対策が取られている。こうした配慮により、障害者でも不便な公共交通機関を利用せずに容易に出勤が可能となっている。
(2)徹底した衛生管理と安全管理
同工場では食品の生産・加工を行うために、全従業員が白衣に帽子・マスクを着用し徹底した衛生管理が行われている。各生産ラインでは要所要所で消毒や除菌が徹底して行われている。
またナイフ等を使用する危険な作業には(1名を除いて)障害者を従事させないなどの安全面での配慮も徹底されている。また機械を使う作業では危険が伴うために、特に整理整頓に心掛けさせ、清掃や後片づけも必ず機械を停止してから行うように徹底されている。
こうした衛生管理と安全管理も、障害者の適性に合わせて徹底されている。
(3)特性を配慮したラインへの配置
先述したように、同工場における作業工程(生産ライン)は「生鳥の入荷」から「フィート計量」まで110段階に細分化されており、障害者一人一人の特性(持ち味)に合わせて障害者がそれぞれのラインに配置されている。片手しか使えない障害者には片手で出来る仕事を用意して、まさに「仕事に障害者を合わせる」のではなく、「障害者に仕事を合わせる」工夫がよくなされている。しかも健常者の中に交じって障害者が配置されているために、適宜必要なアドバイスや支援を受けられるようになっている。
作業の様子を見学して、どの方が障害者なのか全く分からない程全員が生産ラインにうまく溶け込んでいたのがとても印象的であった。従業員全員が黙々と一心不乱に自分の持ち場の作業に取り組んでいる姿は壮観であった。
(4)勤務時間の配慮
同工場は、食品加工という性格上、週末は多忙になるために土曜日出勤で毎週水曜日が休日となっている。勤務時間は午前8時から午後5時25分までの8時間労働である。
仕事が基本的に一カ所に留まっての単純作業であるために、2時間働いて15分の休憩という細切れな休憩を取り入れている。昼休みは55分の休憩となっている。
また健康管理にも注意を払い、障害者が休んだ場合は必ず確認することにしている。しかし実際は、健常者よりも障害者の方が休む者が少ないとのことである。
(5)悩み事等の相談やアドバイス
障害者が困っていることや悩み事の相談には随時応じているとのことであるが、実際に相談してくるケースは少なく、こちらから問いかけたりしているとのことである。また社内レクレーション等を企画しても障害者の参加率は少ないとのことで、この点が課題となっている。また必要に応じて保護者との連絡も取っているが、障害者ゆえのコミュニケーションの問題が今ひとつ問題となっている。
本人たちがどう感じているかは別にして、会社としては「もう少し心を開いて欲しいのだが・・・」とのことであった。
4. 障害者雇用に必要な要素と求められる資質~今後の課題~
障害者の雇用については法定雇用率(1.8%)が定めてあるにも拘わらず、現状はそれを達成してない会社が未だに多い。日新殖産株式会社を始めとするモデル企業を訪問して痛感することは、障害者雇用の成否は会社の規模ではなく、障害者に対する会社の姿勢そのものにあるということである。会社ぐるみの障害者理解への努力と障害者への温かい支援がその雇用を可能にし、障害者にとって働きやすい職場になっている。しかも重要なことは、障害者にとって働きやすい職場は、実は健常者にとっても働きやすい職場になっているという点である。
日新殖産株式会社副霊山工場副長の村松明氏と同工場管理部総務課長の渡邊俊壽氏からお話をお聞きした際、両氏が強調された言葉に「厳しさと優しさ」というのがあった。民間会社である以上「障害者だから」といった甘えは許されず、かといってやはり障害者への細やかな配慮は必要であり、それが「優しさ」であろう。障害者雇用のポイントはこの「厳しさと優しさ」という言葉に集約されるのではないだろうか。
また両氏は、障害者であろうとなかろうと「社会人としてのマナー」の重要性を強調された。日常生活の基本的習慣、とりわけ「挨拶」「エチケット」「マナー」等の重要性である。同工場では健常者よりもむしろ障害者の方が挨拶がよいとのことであった。
課題としては、一般社員との社交性(コミュニケーション)が今ひとつで、もう少し積極的に関わって欲しいとの希望が出された。こうした社会性(ソーシャルスキル)を身に付けることが障害者の職業生活への適応や社会生活を送る上でも重要な要素となる。ややもすると、障害者の作業能力(能率)や技能面にのみ目が行きがちであるが、むしろこの面の適否が障害者の職場適応の成否を左右するといえる。
加えて障害者一人一人の得意な点(長所)を伸ばしていくことが必要で、同社では障害者一人一人の「持ち味」(長所)をそれぞれの「持ち場」(生産ライン)で活かしていこうという工夫が随所になされていた。
こうした状況の中で、障害者雇用のモデル事例として取り上げた日新殖産株式会社の取り組みには学ぶべき点が多々あり、他社にも参考にしていただきたい。
謝辞:
会社訪問に際しては、ご多忙の中を日新殖産株式会社副霊山工場副長の村松明氏と同工場管理部総務課長の渡邊俊壽氏に社内の案内と懇切丁寧なご説明をいただいた。この場を借りて両氏に衷心より謝意を表します。
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