事業所名

住友電工電子ワイヤー株式会社

所在地

栃木県鹿沼市

事業内容

非鉄金属製造業

従業員数

647名

うち障害者数

9名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	1	データ入力
聴覚障害	3	電線の製造・検査、計測器による検査
肢体不自由	3	事務、電線出荷、加工
内部障害	2	電線サンプル作成、性能評価
知的障害	0
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
2. 聴覚障害者雇用のための手話講習会
3. 消防訓練での失敗と配慮
4. 事業所の取り組みに対する評価

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

　当社は、昭和47年7月に住友電気工業株式会社関東製作所として栃木県鹿沼市に進出し、34年になる。
　会社の事業精神は、「信用を重んじ、確実を旨とし、不利を追わず、国家社会のために尽くす。」であり、先輩達が作り上げた功績を伝授しつつ、エレクトロニクス機器用配線材料や自動車関連部品の製造・販売を行っている。
　平成15年4月に分社化により住友電工電子ワイヤー株式会社となり、現在は鹿沼工業団地の住友電気工業株式会社関東製作所内で、従来とほぼ同規模の約650名が勤務している。
　障害者雇用理念については、当人の立場を考え「何事も自分で出来るよう自立した人材を育成すること」。但し、必要な時は、快く手助けをするようにしている。

（2）障害者雇用取り組みの経緯

　昭和60年の当社の障害者雇用率は0．23％と非常に低い状態であった。そんな中、栃木県雇用開発協会主催で障害者雇用率1．6％達成（当時）に向けて努力する旨の研修があり、今後障害者を雇用していくにあたって、手話を身につける必要性を感じた。そこで、昭和62年に栃木県雇用開発協会の手話講習会に参加したのが障害者雇用の取り組みの始まりである。
　昭和63年には1名の聴覚障害者を雇用した。彼は、バレーボールの高校選抜の優秀なる選手であった。また、口話で言葉の理解ができ、6人制バレーボールの前衛セッターでリーダーシップをとっていた。そんな様子をみて会社の社内スポーツに、また地域のスポーツに寄与して預けるのではないかとの思いで採用したのである。以降、日常生活には困る様子もなく、大きな地域のバレーボール大会にも会社のチームとして参加し、良い成績を残している。仕事は人一倍行い、ユーモアのある人柄でもあり、職場の人気者であった。冗談も会話の中に溶け込み、何の問題もなかった。

2. 聴覚障害者雇用のための手話講習会

（1）聴覚障害者雇用の体制づくり

　昭和60年の障害者雇用率は0．23％と非常に低い数字であり、社会的責任を果たすためためには、少なくとも1．8％に引き上げる必要があった。その為には、聴覚障害者の受け入れ準備が必要で、採用時の面接担当者、職場の上司、直接指導に当たる指導員など、広範囲に手話教育を行う必要があった。
　栃木県雇用開発協会主催の研修を当社で独占するのは不可能と判断し、「会社の教育の一貫として取り込めないか。」と協会に相談に行ったところ、有料ではあるが、実施できるとの回答があり、社内で手話講習会を実施することとした。

（2）手話講習会の開催

　まずは、受け入れ職場の上司から研修を始め、月3～4回（1回2時間）の計10回（約3ヶ月間）、延べ20時間を行った。徐々にその部下へ、そして直接指導する立場の指導員に至るまで、計5ブロックを実施し、受講者数も97名となった。

（3）聴覚障害者の雇用

　研修が終わった時、受講生から「せっかく手話を覚えたのだから忘れないように聴覚障害者を1名配属して欲しい」との要請があり、早速、手話講習会の講師に相談し、紹介してもらった。
　配属は先述のバレーボール選手のいる職場にし、聴覚障害者同士が会話出来るように配慮した。

（4）雇用率の大幅アップ

　それからどの位経っただろうか、採用した聴覚障害者から、当社を希望している同僚がいるので面接してほしいとの紹介があった。以後、聴覚障害のある社員の紹介により次々と入社し、当初0．23％だった障害者雇用率2．3％と一挙に大幅アップした。また、現在2．545％という水準を維持出来ているのは、職場の受け入れ体制と本人達の心構えが身を結んだものと考える。

3. 消防訓練での失敗と配慮

　消防訓練では、大きな失敗をしたことがある。
　というのは、健常者が避難しているのを見て、聴覚障害者はなぜみんな逃げているのか理解できず、戸惑ってしまったのである。会社としては、通常の消防訓練と同じように実施したが、障害者に配慮した情報の伝達をしていなかった。状況がわからないままの避難は、どんなに不安だったことだろう。
　この失敗以来、職場における情報伝達を確実に行うようルールを整備してきた。今後も、日常生活や職場改善など、更に障害者との信頼関係を密にして、維持向上に向け努力したいと思っている。

4. 事業所の取り組みに対する評価

　当事業所は、昭和60年に取り組みを始めるまで障害者雇用率は0．23％と非常に低い状態であったが、栃木県雇用開発協会の手話研修会に参加したことにより、人事担当者が率先して社内活動を行い障害者雇用の足がかりを作ったことは、会社の姿勢として高く評価したい。
　さらに、人事担当者のみに留まらず、直接指導する部門の上司を対象に手話研修を実施し、順次、直接の指導員にまで発展させ、5回の研修に約100人にのぼる受講者を受講させている。全体を通じて、上司から末端までのすばらしい取り組みと効果の例だと感服した。
　また、職場で朝礼時に10分間の手話教育を行うなど、職場の皆さんが努力されている様子が障害者の方々に通じて、職場定着という良い結果になったと思う。
　15年経過した現在も障害者雇用率が低下することなく、維持向上に努めて居られることに敬意を表したい。
　さて、職場を巡回したところ、音でなく目で見てわかるようブザーからランプに改善された設備などがあった。また、聴覚障害者の方にお話しをうかがうと、明るく受け答えをして頂き、職場の雰囲気も明るく、楽しく会社生活を送っており満足しているとの評価を博していた。
　近年、製造事業は海外進出をせざるを得ない現状であり、国内では、空洞化現象が起こるなど、働く者にとって厳しい労働情勢となっている。そんな中、1人もリストラすることなく雇用を継続していることは、会社の努力もさることながら、障害のある社員自らが会社に必要な人になろうとする努力があるからこそと思う。
　障害のある社員の皆さんが安心して働けること、そして、努力すれば職場定着も出来ることが何よりもすばらしいことだと思われた。