事業所名

株式会社日本デント

所在地

群馬県伊勢崎市

事業内容

差し歯・入れ歯の技工全般、インプラント技工、矯正装置全般

従業員数

80名

うち障害者数

5名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	3	歯科技工士
肢体不自由	2	一般事務
内部障害	0
知的障害	0
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 採用と環境整備
3. 教育・研修と要求水準
4. メンタル面のケア
5. 社会に送り出すための障害者雇用
6. まとめ～障害者雇用の姿勢

1. 事業所の概要

　（株）日本デント（渋澤一良社長）は、歯科医師からの受注で、差し歯・入れ歯等の技工全般を行っている。創業は1966年で、現在、従業員は80人、そのうち歯科技工士約55人。
　渋澤社長の恩師が障害を持っていたことから、障害者に対する思いが強く、創業間もない1970年頃、すでに養護学校から3人の障害者を雇用している。その後試行錯誤しながらも障害者雇用に積極的に取り組んでいる。

2. 採用と環境整備

（1）歯科技工士の採用

　業種の特性上、技工には資格が必要で、1997年にハローワークの紹介で聴覚に障害がある筑波大付属聾学校歯科技工科（3年制）の卒業生3人を雇用。以後、同校からの卒業生を受け入れているのが特徴だ。
　この聾学校は、筑波大付属聾学校歯科技工科を含め全国に3校しかなく、生徒も日本各地から聴覚障害者が集まる。従って同社には日本各地から入社している。

（2）事務部門での採用と環境整備

　歯科技工士の資格者だけでなく、事務部門にも地元から障害者を2人採用しており、そのうち1人が下肢障害者であった。事業規模が歯科技工業としては比較的大きいからというだけでなく、前述のような障害者雇用に対する渋澤社長の思いもあり、職場環境の面で下肢障害の社員には不便をかけているということが気にかかっていた。
　そんな折、2002年の法人設立30周年を期に一部社屋を増改築することとなり、自動トイレ、エレベーター、玄関のスロープ等を整備し、障害者雇用の環境を積極的に整えた。そして今では、車いすの障害者も雇用している。

3. 教育・研修と要求水準

　同社の教育は、入社後まず伊勢崎商工会議所主催の新人社員研修に参加して一般常識を学ぶ。そして現場に配属し、各責任者がOJTを中心にマンツーマンで実習指導する。入社時は、比較的単純な模型作業、インレー（詰め物）製作から入り、職場に馴れながら熟練の度合いに合わせてより高度な技工物へとステップアップさせていく。
　仕事自体は障害者も健常者とまったく同じで、特別待遇はないが、聴覚障害者との日常の会話は、大きな声でゆっくりと手振り、身振りをつけて話せば、ほとんどが理解してもらえるが、仕事上の綿密な作業工程などでは筆談やジェスチャーを通じてのコミュニケーションになり時間がかかるのが現状である。
　歯科技工物は患者の医療物ということもあり、仕事に関しての出来栄えは大切である。歯科医師からの指示書に基づいて製品を仕上げ、自分の印鑑を押すが、工程内検査を通して仕上がりを検査して出荷される。その製品は健常者とまったく差はなく、もちろん遜色はない。

4. メンタル面のケア

　歯科技工士として雇用している聴覚障害者は、筑波大付属聾学校歯科技工科の卒業生が多いため、出身地は全国に広がっている。
　現在、同社には同校卒業の技工士が3人いるが、4年目の男性（24）が埼玉、2年目の男性（22）が石川、1年目の男性（21）が徳島の出身である。3人は伊勢崎市内の同じアパートに各人住んでいて、会社までの2kmを自転車で通勤している。地元採用の健常者と違い、出身地が遠く離れている地方の人が多く、障害に加えホームシックなどメンタル面の留意点もあり、長く勤め続けることが難しいのが実情という。
　同社は、そんなメンタル面もケアしている。丸4年勤めて今年春に退社した大分県出身の女性の場合、故郷から遠く離れての一人暮らしということと人とのコミュニケーションが苦手というのが退職の主な理由だが、渋澤社長が親身になって知人が経営する福岡県の会社とコンタクトをとり、その紹介で故郷に近いところにすぐに再就職することができた。

　また障害者の孤独感をやわらげるために、本人の悩みを常々聞くようにしている。昼食は社内の食堂で、障害者、健常者が一緒に食べている。前日に弁当屋さんに注文する方式で、会社で補助もしている。これが仕事の合間でのコミュニケーションの場にもなっている。
　さらに、節目節目の職場の宴会にも積極的に参加してもらい、コミュニケーションも図っている。毎年暮れには、遠くから来ている障害者、健常者の寂しい思いを察して、渋澤社長が、食事会を開いており、障害者と健常者から感謝されている。

5. 社会に送り出すための障害者雇用

　歯科技工士の仕事は、手仕事で職人的な要素が多分にあり、一人立ちするのに最低3年はかかる。会社としては長く勤めてもらいたいが、出身地から離れていることが一つのネックになっているのも事実である。
　しかし、障害者に就職の機会を提供し、実際に社会に出てさまざまなことを経験してもらい各人の人生を歩んでもらうことは、社会貢献の一つになっていると確信している。
　むしろ、資格をとっても技工業界はまだ脆弱で個人開業が殆どのため受け入れ態勢が整っておらず、「資格をとりました。勤めるところがありません」というのが現状。資格をとって即戦力になるのであれば使用者側も雇用しやすいのだが・・・
　そんな思いから、渋澤社長は、自社での積極的な雇用はもちろんだが、ハンディキャップを背負っている人たちを学校卒業後一定期間教育し各地に送り出す、という学校のようなトレーニング施設を将来作りたいという夢も持っている。
　最近では、インターネットの普及をにらみ、日本企業でも導入数が少ない自動ワックス形成装置「ワックスプロ」を設置し、稼動させた。画面の前に居ながらにして歯科医師とのやりとりができるため、特に聴覚障害者に大変有効な機械だという。

6. まとめ～障害者雇用の姿勢

　渋澤社長は、モットーである障害者に対する思いやりの気持ちを基本に置きながら、実際の仕事では障害者も健常者もすべて平等に行っている。そのため、働いている障害者からも「この恵まれた環境に甘んじるのではなく頑張りたい」という気持ちがありありと感じられる。また本格的に障害者を雇用して9年近くになり、一般の社員の障害者に対する理解が深まり、それも好影響を与えている。
　渋澤社長は、「遠方出身の技工士が、故郷に帰ったときにしっかりと自立できるよう、うちの会社できちんと技術を身につけてほしい。」と話されていた。
　こうした同社の姿勢が評価され、2005年9月には群馬県障害者雇用促進協会長から障害者雇用優良事業所として表彰された。