企業・福祉施設・地方自治体による息のあった障害者雇用の拡大~障害者雇用のための作業施設を設置~
- 事業所名
- 株式会社クラレ 新潟事業所
- 所在地
- 新潟県胎内市
- 事業内容
- 化学製品製造業
- 従業員数
- 591名(企業全体 2,603人)
- うち障害者数
- 25名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 4 総務、設計、生産 内部障害 1 管理職 知的障害 20 作業職 精神障害 0 - 目次

1. 障害者雇用のための作業所設置の経緯
(1)取り組みの背景
当社は、CSR(企業の社会的責任)の活動に従来から取り組んできた。
その中で、昭和34年に設立された新潟事業所(当時は中条事業所)は、地域に密着した社会貢献活動として、文化・スポーツ・社会教育等の分野で地域とのふれあいに力を入れてきた。
障害者雇用については、企業単位では法定雇用率を達成していたものの、安定した雇用数を確保するには、化学工場という巨大な装置産業の中で、これ以上障害者の雇用数を伸ばすための方策に苦慮していた。
一方、知的障害者授産施設「虹の家」(桐生清次園長)は、知的障害者の社会復帰に非常に熱心に活動を続けてきていた。しかし、平成の時代に入りしばらくして、いわゆるバブルがはじけて、授産施設利用者の社会復帰のための職場が少なくなる。逆に、職場を失った知的障害者が施設利用を希望しても、定員の枠もあり全て受け入れられない状況にあった。
(2)クラレ作業所の設置
虹の家から障害者雇用についての相談があり、保護紙再生作業(パラグラスの保護紙はぎ)での受け入れが検討課題に挙がった。しかし、化学工場であり、工場内での作業は危険であることから躊躇していたところ、中条町(現在、胎内市)の働きかけもあり、近くに町有地を貸与してもらえることになった。その結果、株式会社クラレ新潟事業所の作業施設である「クラレ作業所」を、虹の家の前に設置する運びとなった。
中条町が土地を提供する、当社が作業所を設置して障害者と指導員を雇用し、自宅とクラレ作業所間を送迎する、福祉施設が作業所の運営と指導に協力する、という三者が協力して事業を推進する全国的にも前例のない障害者雇用の形が生まれた。
2. クラレ作業所の概要
(1)概要
クラレ作業所は、165平米(50坪)の作業施設を建設し、1997年(平成9年)4月に5人の知的障害者を雇用して発足した。虹の家からも2人の就労が実現した。
以来、クラレ作業所は順調に運営され、社員、施設、町、新潟障害者職業センター、公共職業安定所などの関係機関、地域住民の期待に添って活動している。
また、知的障害者の働きぶりから安全に対する理解も進み、また作業の必要性もあったため、2003年(平成15年)に第二作業所を工場内に設置した。
2005年(平成17年)現在、クラレ作業所で20人の知的障害者と4人の指導員が働いている。また、当企業の障害者雇用率も法定雇用率を上回る2.0%となっている。
現在の地域別、年齢別の採用状況は次の通りである。
地域 | 胎内市 | 阿賀野市 | 新発田市 | 聖籠町 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|
男子障害者 | 6 | 2 | 3 | 1 | 12 |
女子障害者 | 4 | 0 | 4 | 8 | |
計 | 10 | 2 | 8 | 20 |
20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
男子障害者 | 5 | 4 | 2 | 1 | 12 | |
女子障害者 | 2 | 2 | 3 | 1 | 8 | |
計 | 7 | 6 | 5 | 2 | 20 |
(2)沿革
1997年(平成 9年)4月 重度知的障害者5人、指導員1人で開設
1997年(平成 9年)4月 重度知的障害者1人採用
1998年(平成10年)5月 重度知的障害者4人、指導員1人採用
1999年(平成11年)5月 重度知的障害者5人採用
1999年(平成11年)7月 指導員1人採用
2003年(平成15年)3月 指導員1人退職
2003年(平成15年)5月 重度知的障害者3人採用
2003年(平成15年)7月 第二作業所開設
2003年(平成15年)8月 指導員1人採用
2004年(平成16年)7月 重度知的障害者2人採用
2005年(平成17年)4月 指導員1人採用
(3)作業内容
- 原料回収用CG板(アクリル樹脂板)の保護紙はがし
- ネルの洗濯
- 製品梱包用木箱組立
- アクリル樹脂注入用チューブ裁断加工
- PP用トリミング屑分別
- ウエス裁断加工
- 重合炉取付用チューブ加工
- フレコン上部裁断加工






3. クラレ作業所の雇用管理と工夫
(1)採用条件と能力の把握
重度障害者は短時間勤務者も雇用率にカウントされることから、事業所の嘱託社員として雇用し、労働時間は1日5時間45分で、週30時間未満の短時間勤務とした。
ハローワークから紹介を受けて面接する際には、当初は知的障害者の理解が浅かったので、虹の家の援助を得た。単純作業であるが、仕事がきちんとできること、継続性が期待できることを重視した。
今のところ、中途退職者は1人も出ていない。
(2)労働条件
・雇用期間 | 基本的には3ヶ月毎に見直し、双方合意のもとに更新継続する。 |
・終業時間 | 始業9:00、終業15:45、所定時間は5時間45分。 |
・休日 | 日曜、祭日、第2第4土曜日、夏期休暇3日、年末年始5日。 |
・賃金 | 時給。最低賃金除外申請をしている者が多い。 |
(3)作業環境の工夫、改善
安全面では、作業員に怪我をさせないよう努力した。
最初は刃物を使わない作業を探した。社員が刃物を使っていた作業を、刃物を使わずに行えるよう型を作って「当て切り」をさせるよう工夫し訓練をした。
また、作業の種類の拡大もありカッターや鋏を使う必要が増したので、使い方について時間を十分かけて指導した。
アクリル板の汚れの防止が重要だが、よごれの見かた、拭き取りかたを辛抱強く訓練し、今では自分で判断できるようになった。
(4)社会資源の活用
- 特定求職者雇用開発助成金
- 通勤用バスの購入に対する助成金
- 業務遂行援助者の配置
- 職業コンサルタントの配置
(5)人的支援・社内体制
指導員は4人で、外部募集が2人、社員の配置転換が2人である。総務部の役割として、必ず新入社員・転入社員はクラレ作業所で体験実習をさせており、そのことによって社員はクラレ新潟事業所にそのような作業所があるのはあたりまえと認識するようになった。
また、各種行事は、基本的に社員、作業所のメンバー、さらに虹の家と合同で年間計画をたて実施し、参加するようになっている。
まとめると次のようになる。
- 新入社員体験実習
- ふれあいサッカー
- 文化展への出品
社員への作業所の理解が進んだ例として、最近は現場から「こんな仕事が作業所でできないか」という提案も出てきている。
(6)家族・関係機関との連携
- 家族には、連絡ノートで毎日の作業所の様子を伝えているが、合併症を持つ人もいるので、健康面について特に注意を払って書いている。また、作業所日報も社員の健康面に留意して記録している。
- 関係機関には、入社式などに参列してもらう等連携に留意している。
4. クラレ作業所の効果
(1)地域社会への貢献
株式会社クラレのCSR(企業の社会的責任)に沿った活動として、現在、障害者雇用では、特に困難の中にある知的障害者に働く場を提供するという地域社会貢献の役割を十分に果たしている。また、健常者社員にも、知的障害者に対する理解が進んできているといえる。
作業所発足とともに、会社は次のような運営基本方針を定めている。
- 地域に密着した社会貢献活動の一つとして、中条町(現胎内市)と社会福祉法人(七穂会)虹の家の協力を得て、知的障害者の雇用を図ること。
- 会社は、社員に対し深い理解と深い愛情を持って指導教育、援助にあたり、社員の可能性を最大限に生かすことに努めること。
- 社員は、社会の一員であるという自覚のもと、主体性と自主性を持って職務遂行に努力すること。
- 会社は、社員が生甲斐のある社会生活を確保するため努力すること。
(2)知的障害のある社員の戦力化
知的障害者の特性である理解力の困難、作業の習熟度の遅さを十分に理解して教育訓練を粘り強く続け作業を習熟させることが出来た。
そして、知的障害者のもう一つの特性、「覚えたことは忠実に行うこと」を作業に生かしている。
作業所社員は、単に就職できたという喜びだけでなく、「クラレの社員であることの矜持」と誇りを持って働いている。また、家族は「クラレに採用してもらった。がんばりなさい」という感謝と励ましの姿勢で就職が継続できるよう協力している。
(3)障害者雇用率の維持
企業の障害者雇用率が法定雇用率を上回る2.0%を安定的に維持できるようになった。
5. 今後の課題
(1)社員や指導員の高齢化
50歳代の作業所社員がいるが、加齢による作業能力の低下は今のところ見受けられないようである。今後の作業能力が低下し、就業が困難になった時、家族も高齢化していたり代替わりしていたりするので、福祉との連携が今後とも重要である。
また、指導員の高齢化という課題もある。特に、事業所社員から指導員になった人は事業所内の生産工程を熟知しているため、作業所の社員に向いた仕事を探し出すという重要な役割がある。
(2)仕事量の確保
仕事量の確保については、今も従業員数に見合った仕事量を確保することは努力を要することある。
会社が化学工業ということから、生産品目が変わると作業所に出していた仕事も変わる場合が多い。常に、会社の生産活動の中から作業所の仕事を確保していかなければならない。
6. まとめ~企業の決断と波及効果
(1)企業の決断
福祉施設の要望に応え、企業内に作業所を作ることを決断し、知的障害者の雇用の拡大を図っている。しかも、化学工業を事業とする大企業がそれに取組んだことは、障害者雇用に新しい方法論をもたらした素晴らしいことである。
(2)「クラレの社員」という矜持と希望
知的障害者にとって、働くことは本人の生き甲斐の大きな要素になっているが、「クラレの社員という矜持」がそれをさらに大きくしている。このことは、虹の家の入所生にも大変良い刺激になっている。福祉施設での授産作業で一生懸命励むことで、認められてクラレの社員になれるという「夢」を与えている。
(3)指導体制
指導員にとっても、福祉施設が近くにあり、いつでも困ったときは協力してもらえることは心強いことで、指導に自信を持ってあたることができる。また、この事例では作業領域を拡大するために、作業手順や方法等を工夫し、粘り強く時間をかけて訓練している。優秀な人材の指導員を確保できたことが大きい。
(4)地域への波及
クラレ作業所の順調な運営は、地域に好感を持って受け入れられるなど効果的に波及している。
その一つが、虹の家が拡大・進化して第二の授産施設「虹の家高浜」が数キロ離れたところに出来たことである。
さらに、近接するA社が同じように企業内に作業所を開設し、地域社会貢献と障害者雇用率アップを果たすことが出来た。
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