「障害ではなく能力を求める」人事管理と製造現場の工夫改善
- 事業所名
- ちぼりキネヤ株式会社
- 所在地
- 山梨県東八代郡中道町
- 事業内容
- 焼菓子・洋菓子・ゼリー菓子の製造
- 従業員数
- 112名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 3 管理事務、製造 内部障害 0 知的障害 2 清掃、事務 精神障害 0 - 目次


1. 事業所の概要
(1)沿革
昭和61年11月、山梨県食品工業団地内(中道町)の有限会社きねやの経営権譲渡を受け、株式会社キネドールきねやを設立。
きねやは生菓子中心の工場であったため、ちぼりグループは従来の焼菓子に加え、生(ケーキなど)/半生(ゼリーなど)菓子の生産が可能となり、洋菓子全般を対象とする総合製菓業に成長するにいたった。 また当時、キネドールきねやはフランチャイズチェーン本部を運営しており、その後紆余曲折を経たものの、現在でも複数の「花わらべ」店として一部存続している。
当初、ちぼりとしては生菓子工場の経営に不慣れであったこともあり、しばらくは悪戦苦闘を余儀なくされた。しかしながら、グループの商品作りにバラエティーを持つことが出来たのは大きな収穫であった。
社名は、その後幾たびか変わったが、最終的に平成9年8月、ちぼりキネヤ株式会社として現在に至っている。
資本金は1000万円、工場建物は約2000坪、製造商品数は約120点である。
(2)経営方針
創業者である樋口泉の愛した言葉の「日に新たに、日々新たにして また日に新たなり」をスローガンにしており、「社会に必要である為に」を基本として次のような方針が掲げられている。
ア ミッション(使命)
独自な価値を創造し、社会(お客様・お取引様・地元・社員家族・地球環境)の繁栄に貢献する。
イ バリュー(価値基準)
- どうしたら、よりおいしく健康なお菓子がつくれるか
- どうしたら、よりおいしく安心して食べてもらえるか
ウ ビジョン(目的)
高品質・高感覚商品を、的を絞った仕方で提供し適正な利益をいつも生み出す
(3)組織構成
- 代表 樋口浩司(代表取締役社長)
- 従業員 約120名(男性53人、女性59人)
工場長-事務、品質管理、開発(洋菓子)-焼菓子製造、洋菓子製造


2. 障害者雇用の理念ときっかけ
(1)障害者雇用の理念
当社では、使命でもある地元の繁栄への貢献という観点から、障害者の雇用が生まれ、従業員として活躍している。障害を気にして雇用する企業風土がなく、障害者雇用に全く抵抗がない。
特に、相互理解が大切であり、自然体で接することを理念としている。会社全体が、「親切という名のお節介、そっとしておく思いやり」という感覚を忘れずに対応することが重要と考えている。
したがって、応募者がたまたま障害者であっただけであり、健常者と障害者を区別しない雇用管理を実践している。
(2)障害者雇用のきっかけ
障害者雇用率の達成という面もあったが、主に地元の繁栄への貢献という理念に基づき、地元関係の要請に応えて、昭和61年に障害者を採用したのが始まりである。
以後は、ハローワーク主催の合同面接会や通常の求人を通じて、継続的に採用している。また、知的障害の場合、最初は戸惑いや不安があったが、払拭されるのに時間はかからなかった。
障害者を雇用しようと意識せず、自然体で接することが最も重要であり、意識すると無理が出ることは明らかである。
即ち、障害者として特別扱いせず、会社にとって必要な人材を雇用しているだけであり、その結果、障害者の雇用が生まれるという職場環境になっている。

3. 障害者の従事している仕事内容
(1)オフコンを使った原価管理

山梨障害者職業センターにおいて勉強したパソコン操作技術を生かし、原価管理の維持を行っている。
(2)送迎ドライバー

朝夕の従業員の送迎を担当している。
(3)製造業務
機械の操作や、ミキシング、型成形、焼成、包装、箱入れの工程を担当している。



(4)清掃業務

工場内の清掃を担当している。
4. 設備・職場環境の改善
設備や職場環境における改善点や工夫は次のとおりである。
障害者雇用を始めた当初は心配や不安があったが、すぐに「障害者に対して」という意識がなくなり、障害の有無等は全く問題にならなくなった。したがって、障害者だから特別扱いするということはなく、普通に従業員の一人として共に頑張っている。
ただし、作業環境の改善は常に心掛けており、業務効率と安全管理を両立させる工夫を行っている。障害のある従業員が作業しやすい職場は、健常者にとっても作業しやすく安全な職場であるという認識の基に、気が付いたことは日々改善を図っている。
(1)あんこの投入を助ける補助機器
あんこを機械に投入する際、作業姿勢に負担がかからないようにする為、手を使わずケースを昇降できるように、補助機器を内製した。




(2)選別作業補助器具
選別作業において身体に負担がかからないように、体重を支えるイスを内製し、高さを調節できる機器を導入した。


(3)台車の活用
工場内の物品は全て台車に載せて管理するようにしている。可動式の台車に載せることにより、重量物の積み下ろし作業をなくすことができるので、身体に障害のある方でも、健常者と同様に運搬作業を行うことが可能となっている。

(4)牽引金具の作成
台車の活用をさらに容易にするべく、牽引金具を内製した。この金具によって、姿勢に負担をかけることなく、台車そのものを押したり引いたりするよりも、運搬作業が非常にスムースに行える。

(5)攪拌機の改良

生クリーム混合攪拌機を改良し、身体に負担がかからないように高さ調節を可能とした。
(6)ドアの改良
保管庫のドアに対して、手を使わなくても開閉ができるように足スイッチ式の自動開閉装置を内製し取り付けた。
このスイッチにより、身体に障害のある方でも、健常者と同様にドアを開閉できるようになった。



5. 労務管理の工夫
(1)労働条件
ア 期間 原則として労働契約期間の定めはない
イ 場所 工場内
ウ 時間 原則として通常の労働時間
エ 賃金 月給または時給
(2)配置と担当業務
過剰に能力や成果を求めることなく、上司が障害の程度に合わせて仕事を決定している。したがって、会社の期待するレベルと本人の貢献レベルが一致し、双方が満足できる職場づくりを実現している。
また、健常者よりも意欲が高い面があり、仕事の範囲を無理せずに広げることで、仕事のやりがいを高めている。
(3)上司による教育訓練
特に「障害者だから」という意識はないので、特別に指導員を配置し、マンツーマンで教育を実施するような事は行っていないが、上司が教育を担当し、障害者だけではなく、周りの従業員に対しても気を配っている。したがって、作業手順だけではなく、職場にスムースに溶け込めるように、全般的な従業員教育も並行して行っている。
(4)健康管理
障害によっては自分の意思を適切に表現できないため、特に健康面について上司や周りの従業員が注意して見るようにしており、障害者が孤立することのないように心掛けている。
(5)まとめ
労務管理についての工夫のポイントをまとめると次のようになる。
ア 適材適所(あくまで能力評価)
イ 障害の程度にマッチした仕事の配分(過剰かつ過小な能力は求めない)
ウ 障害について必要以上に気を遣わない(相互に認め合う)
エ 孤立させない(コミュニケーション)
オ 作業環境・治具の整備(作業効率向上、安全配慮)
6. 障害者雇用の効果
(1)職場の雰囲気の改善
障害者を雇用することにより、思いやりのある職場となり、職場全体の雰囲気が優しくなったことが認められる。特に、「この人のためにできることは何なのか」という気配りが出来る会社となっている。人を見る目に幅ができ、個性を認め合うという感性も醸成されたと思われる。
また、障害者が職場の潤滑油となり、和気あいあいとした雰囲気を作り出す中心的な役割を果たしている。あいさつやちょっとした会話の中から、気遣いやコミュニケーションが生まれ、職場の雰囲気が改善されている。来所されるお客様からもしばしば「職場の雰囲気がとても明るくていいですね」等のお褒めの言葉を頂戴しており、雰囲気の改善を証明している。
なお、コミュニケーションを図るために、人の話をよく聞くという姿勢と意思伝達のレベルが向上しており、人間関係の円滑化にも役立っている。
(2)モチベーション等の向上
障害者の、最後まで仕事を投げ出さず確実性がある、根気よく細かい仕事をやり遂げる、仕事の精度が向上している等といった働きぶりが周りに刺激を与え、職場の活性化とモチベーション(注)の向上につながっている。
(注)モチベーション
意欲を高めるもととなる「動機付け」を意味する語。意欲そのものを指して用いられる場合もある。その場合は「意欲」「やる気」「士気」などで言い換えることができる。
(3)生産性の改善
障害者を雇用し、活用することにより、業務の効率化や職場の安全衛生向上に対する効果が認められる。
これは、労働生産性の向上などの業績改善に直接結びつくものであり、会社にとって直接的に役立っていると考えられる。というのも、障害者の方が作業をし易いように、業務の流れや仕組みを工夫し治具を活用することは、高年齢者や女性にとっても作業を容易にすることにもなり、職場全体を働きやすい環境にすることが可能となる。
作業を容易にするということは、効率を高めることに他ならない。即ち、無理や無駄の排除そのものであり、人時生産性(注)の向上に貢献している。また、職場の雰囲気の改善によりチームワークや協調性が高まり、思いやりが芽生えたことも明らかである。
職場の雰囲気がよくなれば、会社全体の定着率や働きやすさの向上が図られる。したがって、仕事への集中度合が高まり、結果としてさらに生産性が向上することにつながっていると考えられる。
(注)人時生産性
従業員1人が1時間に稼ぐ粗利益(売上から原材料費を差し引いた利益のこと。粗利益=売上高-原材料費。※直接原価計算方式=ダイレクトコスティング=戦略会計による)を示す。「粗利益÷延べ労働時間(従業員数×労働時間)」の数式で求められる。

(4)助成金等の活用
助成金等については、現在、障害者雇用報奨金(注1)を支給されている。また、過去には、特定求職者雇用開発助成金(注2)を活用している。手続きも容易であり、非常に有効な制度と考えられる。
(注1)報奨金
常用雇用労働者数が300人以下の事業主で一定数(各月の常用雇用労働者数の4%の年度間合計数又は72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している障害者の人数に応じて1人につき月額21,000円の報奨金が支給される。
(注2)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者雇用開発助成金)
身体障害者、知的障害者又は精神障害者等を雇入れる事業主に対して、その雇入れに係る者に支払った賃金に助成率を乗じて得た額を一定期間支給するもの。窓口はハローワーク。
7. 今後の課題と展望
(1)教育訓練
今後は、扱う製品として画一的な商品が減少し、他品種高品質少量生産の商品に移行していくと考えられる。したがって、工程も複雑化し単一作業がなくなるため、障害者に限らず、従業員の技能や能力の向上が必要不可欠と考えられる。技能を高め作業内容及び作業量に応じて、従業員の能力を最大限に引き出す人員配置を図ることが大切である。能力開発を継続することが出来れば、障害者の方の雇用に対して、ほとんど問題はないと思われる。
即ち、一定のレベルに達するまで、特定の教育担当を配置し、マンツーマンで指導を実施できるような体制作りを図りたいと考えている。
(2)安全衛生対策
安全衛生は企業経営の中の全てに優先する最重要ポイントである。障害者の方の安全衛生を考えるということは、企業全体の安全衛生のレベルを高めることにつながる。
今後も継続して、障害のある方が安全で働きやすい職場を目指して、環境の整備に取り組みたいと考えている。また、そのことは、障害者だけでなく高年齢者や女性の活用にも生かされる部分であり、企業にとっては一石二鳥ではなく一石三鳥位の効果があると考えられる。
8. まとめ~労務管理の工夫で業績向上
(1)エピソードの紹介
障害者の方からお話を伺うことができたので、ご紹介する。
この方は、3年前に合同面接会で当社と出会い、パソコンの勉強が生かせるという事もあり就職を決意したとのことだが、非常にはつらつとしている印象であった。
実際、「上司からも頼りにされ、認められていることが仕事に対する大きな張り合いになっている」という言葉をいただいた。また「障害者という事を意識することなく仕事をしており、変に気を遣うことは全くない。できる限り長く勤めたい。」ともお聞きできた。
これは、会社の障害者雇用の理念である「相互理解が大切であり、自然体で接すること」が実現されている証拠に他ならない。障害を意識することなく、やりがいを感じて仕事ができる環境が整備されていることがわかる。
上司の方は、「障害を全く感じさせない。おかげで仕事の精度が明らかに向上した。」と評価しており、障害者雇用が会社にとって効果を上げていることを証明している。
(2)人事労務管理と安全配慮
能力開発も安全衛生も、従業員に能力を発揮してもらうために、雇用管理上最も重要なものの一つである。
当社においては、今後の採用においても健常者と障害者を区別することは考えておらず、従業員として能力を発揮してもらうことが必要不可欠であり、実現可能と考えている。方針としては、「パフォーマンス(実行、遂行)の低い健常者よりも能力と意欲のある障害者を雇用する」という姿勢が一貫しており、障害者雇用に関して「障害ではなく能力を求める」人事管理が相互理解を深めている。
障害者の方が持てる能力を発揮し、会社がそれをバランスよく求めるという関係が、信頼感や安心感、向上心の向上につながるという、非常に効果的な循環を生んでいることがわかる。
また、作業の流れや補助器具、ちょっとした気配りなど本当に小さな工夫を積み重ねることで、障害者の方を含め全ての従業員がやりがいを感じ、安心して働ける魅力ある職場づくりを実現するという大きな成果を上げることが可能となる。
労務管理の工夫は、企業の業績にも必ず良い影響を与えることにつながる。したがって、雇用対策並びに安全衛生対策に対して、さらに前向きに取り組んでいくという姿勢がはっきりと確認できた。
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