事業所名

矢崎ビジネスサポート株式会社
（矢崎総業株式会社の特例子会社）

所在地

静岡県裾野市

事業内容

矢崎総業構内の建物、社宅、寮等の保守管理
防災、警備ほか関連付帯業務の運営管理

従業員数

25名

うち障害者数

6名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	受付補助業務
肢体不自由	4	寮・社宅の管理、厚生施設の補助管理等、イベント会場作り、健保事務
内部障害	0
知的障害	1	アルミ缶等の再資源化処理業務
精神障害	0

目次

1. はじめに～特例子会社の増加
2. 事業所の概要と特例子会社設立のあゆみ
3. 障害者の業務と今後の事業展開
4. 企業にハードルを越えさせた行政の役割
5. まとめにかえて～特例子会社のメリット

「ワールドヘッドクォーターズ」からみた矢崎総業構内

1. はじめに～特例子会社の増加

　特例子会社がはじめて認定されてから約30年、親企業の障害者雇用率にカウントされることのメリットを活かして、全国では現在（2005年8月）までに175社の設立を見て、知的障害者・重度身体障害者をはじめ多くの障害者の雇用の場が確保されてきている。
　1998年10月、民間企業の雇用率の1.8％への引き上げ、2002年10月からは除外率の廃止に向けた縮減、加えて法定雇用率未達成企業名の公表も加速され、企業の障害者雇用は「待ったなし」となっている。一方、特例子会社の認定要件が緩和されるなどの制度の改正がすすみ、また社会的には法令順守、企業の社会的責任が議論されてきたこともあいまって、特に近年、設立数は増加の傾向を示してきている。
　静岡県では、1991、1992年と2社が設立された後、10年余の年月が推移してきたが、2004年度になり、相次いで3社が特例子会社の認定を受けた。
　そのうちの一社、矢崎ビジネスサポート（株）の状況をみながら、最近になって漸く動き出した子会社設立の背景とその設立に至った要因を探ってみたい。

2. 事業所の概要と特例子会社設立のあゆみ

（1）親会社の概要

　親会社は矢崎総業（株）。矢崎電線、矢崎部品、矢崎計器、矢崎資源などグループ全社製品の販売、人事を担当し、関連会社も含めた82社の経営管理、新製品の開発研究、従業員教育、コミュニケーションなど幅広い活動を行っている企業である。
　東京三田に本社を置くが、静岡県裾野市の東名高速道路裾野ICに隣接した広大な敷地に、「Y－CITY」と称する企業の各種の中枢機能施設が配置されて、事実上総合的なYAZAKIグループのコントロールタワーの役割をここで担っている。

Y－CITY全体図

（2）特例子会社の概要

　矢崎ビジネスサポート（株）は、このY－CITYの中心である「ワールドヘッドクォーターズ」に事務所をおいている。
　会計・ビジネスサポート・アンカーサービスの3部で構成され、このY－CITYに配置された、ビル・社宅・寮等の建築物・工作物の保守、維持管理、修繕、防災、警備等の業務受付、事務業務処理の請負、各種式典・催事の開催管理、食堂・保育園の運営管理まで幅広い間接部門の業務を担当している。
　障害者は健常者とともに各業務に分散して仕事を担当しているのが特徴である。

（3）特例子会社設立の背景とあゆみ

　親会社の矢崎総業（株）は従業員3,040名の大企業である。今まで障害者雇用への理解がなかったというわけではなく、例えば、身体障害者福祉工場である「天竜福祉工場」や、県内各地域にある小規模授産所に対してグループ各社からの仕事の提供などを通じて障害者の就労場所の確保に大きく貢献してきている。
　しかしながら、会社の業務がグループ全体の管理機能と研究開発等に集中していること、海外をはじめ全国にある多くの営業拠点に職員が点在しているなど事業所特有の事情もあって、長い間、企業独自で障害者の雇用の場を確保することに苦慮する状況で推移してきた。
　その後、バブル崩壊後の経済環境変化に伴い、間接部門の削減、アウトソーシング化などがすすめられるなかで、間接部門の業務実施会社として、2004年4月21日、矢崎ビジネスサポート（株）が設立された。資本金は1,000万円。
　この間に行政からの働きかけなど経過は前後するが、この会社の業務体制を整備する中で、2004年12月～2005年3月にかけて、男子4名、女子2名、計6名の障害者を採用し、2005年4月18日、静岡県第4番目の特例子会社として認定を受けたものである。

3. 障害者の業務と今後の事業展開

（1）障害者の従事業務

　間接部門・サービス部門ということで、障害者はその特性にも合わせて多様な業務に従事している。

• ワールドヘッドクォーターズの来客受付、図書の貸出管理、寮・社宅の管理、会議室機器セッティング、職員駐車場許認可管理などに加えて現在健保組合の事務的作業を実習中のものもいる。
• 構内のアルミ缶・ダンボールなどの圧縮、結束など再資源化処理も行い、70～80万円の収益を上げている。ここは、知的障害者が担当しているが、ここの収益で車いすを購入して施設に寄贈するという「事業」も過去に行われた。

（2）今後の事業展開

　障害者の雇用は6人でスタートしたが，今後3年計画で毎年5名～6名を増員して法定雇用率の完全達成を目指している。
　そのため、人事・総務をはじめ全社的な合意の下に、現在の業務に加えてあらたな「仕事をつくる」ための企画が検討されている。
　郵便物集配処理、植栽管理等への拡大、現在アウトソーシングされている加工、組立、検査、端物再生などの「作業」分野を開拓すること、将来は「人材派遣」の資格をとって事業を展開していくことも検討されている。
　確かに、この特例子会社は、間接部門全般という幅広い間口を持つだけに、将来大きな可能性を秘めているように感じられる。それだけに「安定的・中心的業務」を創造していくことが今後の大事な課題であると思われる。

4. 企業にハードルを越えさせた行政の役割

（1）静岡県の状況

　全国的にも同様の状況と考えられるが、静岡県内では、障害者の重度・重複化・高齢化がすすむ一方で、企業の効率化・合理化の下で職域が狭まり、ハローワークでの有効求職者は増加の一途を続ける厳しい雇用状況で推移してきている。
　静岡労働局は、2004年度の行政運営方針の障害者雇用対策で、就職件数のアップ、県全体雇用率と雇用率達成企業割合の引上げを目指し、なかでも特例子会社によるあらたな職域の開発を推進することを最重点施策として取組みを行ってきた。
　このなかで、特例子会社に関する決定的な「周知不足」が感じられた。例えば、新たな会社を設立することなく出資比率を変更することで特例子会社の認可が出来ることや障害者雇用に関する様々な支援や制度についての情報などである。　そこで要点をまとめた「障害者雇用拡大・啓発のガイドブック」を作成し、これを使っての労働局・ハローワークの雇用率未達成企業の訪問、指導が行われてきた。

（2）特例子会社設立への働きかけ

　矢崎総業（株）が、子会社認定に急速に取組むこととなった背景には、3つのポイントがあったと考えられる。

• 間接部門削減の社内要因
• 会社幹部の法令順守、企業の社会的責任、企業責任を果たすという意識
• 行政の働きかけ

　このうち、「行政の働きかけ」では、長い間の地道な行政の指導が重ねられてきたとはいえ、決定的と思われるのは、労働局長が直接企業のトップと会い要請を行ったことであり、具体的に子会社設立へと動いたきっかけとなったと思われる。
　企業への要請は続けられていても、努力が「結果」に結びつくまでに至らない事例が多い。タイミングとか様々な要因もあるが、「トップの決断」に至る決定的要因は、当然のことながらやはり「行政のスタンス」と積極的行動にある、と考えられる。
　確かに難しい理由を挙げればどこにでも多くあると思われるが、その最後のハードルを越えるアクションは正に「行政」であるように、今回のケースでは思われた。

5. まとめにかえて～特例子会社のメリット

構内を電動カートで巡るMさん

　いろいろな困難を乗り越え、様々な議論や努力の結果誕生したあらたな「特例子会社」の事例であるが、これをどう育てていくか、ということもこれからの重要な課題であると思う。
　いまこの会社では、新たな職種の開拓に向けた社内の検討もすすめられている。
　また、これは特例子会社のメリットともいえるが、社長をはじめ生活指導員などのスタッフが障害者の身近に存在して毎日の様子に配慮し、仕事のことのみならず、体調や作業遂行の補助具の対策など、きめこまかな雇用管理が行われている。
　例えば、Mさん（49）は上肢・体幹機能障害2級であるが、前職の経験センスが活かされて寮・社宅の管理（入退去者管理、退去時立会い、点検、補修手配・業者との協議）、厚生設備の点検、維持管理などを主な業務としている。このため、関係書類や用器具を抱え広大な敷地内の担当施設を常時往復してきたが、障害による制約や負担が大きかった。このため「屋根付き電動カート」を助成金を活用して購入し、身体的業務負担の軽減に大きく役立っているという事例は典型的であった。
　地域を代表するような大企業の中で、様々な特性と能力、経験を活かす仕事の出来ることが、企業を支えているという意識とあいまって障害者の姿を生き生きとしたものにしているという側面でも、いっそうこの特例子会社の取組みが加速されるべき、という思いがする。