美容室での知的障害者雇用~いきいき楽しく働く~
- 事業所名
- ビューティーサロンかぐや姫
- 所在地
- 奈良県北葛城郡広陵町
- 事業内容
- 美容室
- 従業員数
- 4名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 1 補助作業 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要と障害者雇用への思い
(1)事業所の概要
ビューティサロンかぐや姫は、奈良盆地の中西部に位置する奈良県広陵町にある。
広陵町は、近畿圏の中核都市である大阪市へは約30kmの直線距離で結ばれ、近年は、奈良県の中でも大阪のベッドタウンとして人口が大きく増えている地域となっている。また、一級河川の高田川と葛城川に囲まれた北部地域と、真美ヶ丘ニュータウンの開発により人口が急増した西部地域、そして今なお田園風景が広がる南東部地域と大きく3つに分けられる。
当地には、昔から静岡県富士市や京都府向日市、岡山県真備市と並んで、竹取物語の舞台であると伝えられる讃岐神社が近隣にあることから、かぐや姫伝説があり、お客様に印象深い名前をとの考えから、お店の名前が「ビューティサロン かぐや姫」と名づけられた。開店の昭和54年当時は、地元の町が積極的にかぐや姫伝説を売り出す以前だったが、伝説を先取りして現在地にてオープンし、以来26年間営業を続けている。
(2)店長である経営者の強い思い

平成11年に初めて知的障害者のN子さんを雇用され、以来6年間継続している。
経営者でもある店長は、以前から障害者の支援について積極的に取り組んでこられている。実は店長のご子息も障害者であり、地域や社会の支援が本当に必要であるということを、実体験として持っておられたということである。障害者の雇用を辛抱強くここまでやってこられたのには、雇用を通じての支援を人任せだけには出来ないとの店長の強い想いが背景にあったのである。
2. 知的障害のあるN子さんの採用~雇用を通じての支援~
(1)知的障害のあるN子さん
平成11年に採用された知的障害者のN子さんは、所定の休日を除いて、毎朝9時までに出勤する。最寄りの駅まで電車を利用し、そこからは自転車での通勤である。勿論天気の良い日ばかりではない。暑い夏の日も寒い真冬の気温の中でも、雨や雪にも負けずに彼女は休まない。
以前、雪が多く降って路面がスリップする危険があり、電話で休むよう指示した日があったが、天候が回復した午後には家族の方が止めたにもかかわらず、出勤したこともあった。
振り返ってみれば、地元の奈良県立二階堂養護高校の紹介で、縁あって知的障害のN子さんを雇用したのがもう6年前のことである。
(2)職場実習と作業内容
サービス業で刃物を扱うこともあるため、業務の内容に一定の制約があるのだが、学校からの紹介で職場実習を行い、N子さんの障害の程度、基礎的な体力、性格が円満かどうか等を注意深く観察し、仕事に対して前向きに取り組む姿勢と積極性から採用を決めたということである。
しかし美容業は免許制度であるために、免許がないと従事できない作業も多くあり、一般的な制限がどうしてもでてくる。製造業でのルーチン(決まりきった仕事)作業とは違い、仕事においてどうしても一定の制約が避けられず、お客様の要求や希望が一人一人違うこともあり、日常の作業の中での臨機応変の対応が必要な場合が数多くある。
従ってN子さんには当初、仕事を理解して貰うことと、どうすれば気持ちの良い作業環境が作れるかの習得を狙いとして、タオルの洗濯をすること、及び洗濯をしたタオルを綺麗に畳むことを指示し、その後、ロット、ペーパー、ゴムの整理なども彼女の担当となった。
現在、これらの作業が彼女の重点的な役割となっている。この作業が本人に合っていたからかどうかは分からないが、今では一番の熟練となっている。


(3)成長したN子さん
勿論仕事のことであるから、最初の内は暗くなったり、ふさぎ込んだり、或いは涙をみせることもあったが、人と接していたい、コミュニケーションを絶えずとっていたいという彼女の気持ちが分かると共に、現在では以前には考えられないレベルでお客様に積極的に接している。
また、N子さんが最初に店に来られた当時、恥ずかしさもあって彼女は殆ど誰とも会話が出来なかったが、店長の理解と指導、周囲の思いやりの中で今では明るくにこやかに、店のスタッフやお客さんとも話が出来るようになっている。お昼の休憩時には自分で作ったお弁当を持ってきて、他のスタッフとともににぎやかに昼食を摂り、その中では前向きに自分の考えを述べたりすることもある。
彼女がここまで成長し、自分を表現できるようになったのは、周囲の人たちの理解のもとに、就労を通しての自己実現が図られた成果ではないかと思える。当初には考えられないほどの本当に大きな進歩だと言えよう。
また、彼女が明るく仕事をこなしていることが、職場を明るく和やかなものにしている大きな原動力のひとつではないかと思われる。サービス業では、お店の繁栄を考える上で大変大事なことである。
3. 小規模店舗での人を育てる環境作り
(1)N子さんの雇用から学んだこと
障害のある人を雇用するには不安要因が全くないかと言えば、そうではない。「適した業務があるか」「就労環境が整っていない」「他の従業員との人間関係が円滑に進むか」等々を考えざるを得ない。しかし、実際に6年間に渡るN子さんの雇用から学んだことをまとめると、以下のようになった。
ア お客様に受け入れられるかどうかを懸念したが、お客様の方がこだわりなく、一人の従業員として接して頂いている。
イ 障害者を雇用する場合、仕事の内容、業務の種類に合わせて該当者を採用出来るかどうかを考えてしまう。結果として不採用となってしまうことが多いかもしれない。
でも一方で、採用した当人にあわせ遂行可能な業務を考えても良いと思う。いわば業務を創り出すということになるのかも知れない。
ウ 「出来ること・出来ないこと」を明確に区別する。どんな職場であれ、仕事の基本はチームワークである。たぶん出来るから大丈夫だろうとの思いこみは、却ってほかの従業員との関係で仕事の阻害要因となる。経験を積み重ねて「出来ること」を増やす試みは無論大切だが、「出来ないこと」の確認も同時に重要なことである。
エ 職場に「共に」という雰囲気があり、「育てる」という意識が必要である。働けるポジションを探すこと、本人が自分の力を発揮していくのを全員で支えること、以上、二つの共通認識がなければならない。
オ コミュニケーションが大切。「声かけをする」「よく話を聞く」「何故か?を教える」といった気軽に話を聞いてもらえる信頼関係がとても重要である。本人が仕事に対して意欲的に向き合えるかどうか、これらが継続的な雇用につながる大きなファクター(要因)である。
(2)小規模店舗での指導と育成
小規模な店舗でしかもお客様と接するサービス業では、障害者の雇用は難しいと思われるのは、ある意味やむを得ないことかも知れない。仕事に必要な知識や技術を習得しているかどうかよりも、あいさつがきちんと出来るか、人とうまく交わることが出来るか、日常の業務がこなせる体力があるか、健康状態に問題はないか、仕事に対して意欲的に取り組めるか、などが押さえておくべき基本的なポイントとなる。小規模事業場では指導や育成を、カリキュラムを作って時間をかけて行うことは困難である。従って、日常業務の流れの中で気が付いたことや直しておかねばならないこと等を、躊躇せずにその場で正しい方向へ導いていくことが求められるのである。辛抱強くそして我慢強く行ってきたことが、この6年間の成果ではないかと思われる。
4. まとめ ~働く喜びと楽しみ~
(1)店長のこれからの想い
店長はこう語っておられる。
「6年の間、人として障害のある人が働くための職場環境をどのように整えていくかについては試行錯誤の連続でした。雇用を支えていくためには本人の心の負担を取り除く工夫が必要でした。
職場での努力や工夫だけではありません。家庭とも連携を取って『働くこと』と『生活すること』を切り離して考えるのではなく、両者を一体的にとらえていくことに最も気を配りました。障害のある人が、働くことを心から喜びそして楽しんでいる姿を是非知ってもらいたいと思います。」
美容業という特性からどうしても障害者が担当できる仕事は限られる。本当はもっと多様な仕事を担当して貰い、お客様の美しさを引き出すお手伝いを自分の仕事とし、更に専門的な技術も身につけて貰いたい、もっともっといろんなことに挑戦させてあげたい、本人の持つ能力を引き出したい、可能性を見つけ出したい、という思いが常にあるのである。これが目下のところの大きな課題となっている。
(2)結び
最後に、この取材を通じてあらためて解ったことをまとめると、以下のようになる。
人が社会で人として生きていくためには、「生きる力」が必要である。それはすなわち、「生きがい」ということだと思う。働くことは「生きがい」に通じる。障害を持っている人たちも、働くことを通して自分の持っている力や、自分のやりたいことを、色々な形で表現しているのではないだろうか。だから「働く」ことを本人の自己表現として大切なものとして位置づけなくてはならないと思う。
障害者も健常者も区別なく同じように、明るく活き活きと暮らすことが、障害者雇用にとってこれからの大きな目標となる。そのための糧となるのがまさしく今回の事例で紹介させていただいた「楽しんで働く」ということだといえよう。
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