企業の支援を活用した福祉工場
~ビジネスの仕組みが、従業員意識も変える!~
- 事業所名
- 社会福祉法人スミや 和佐福祉工場
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 花王商品の充填・詰め合わせ等の業務
- 従業員数
- 31名
- うち障害者数
- 21名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 商品の充填・詰め合わせ 聴覚障害 1 商品の充填・詰め合わせ 肢体不自由 19 商品の充填・詰め合わせ 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人スミや和佐福祉工場は、「重度の身体障害者で作業能力はあるが、職場の設備、構造、通勤事情等により、一般企業に雇用されることが困難な方に職場・住居等を提供し、生活指導と健康管理のもとに、自立した健全な社会生活を営ませること」(以上法人定款より)を目的に1993年に開設された福祉工場(以下「工場」と言う)である。
1991年、和歌山県、花王株式会社、医療法人スミヤの3者で協定が交わされ、助成金・借入金・寄付金の財源を活用して、医療法人スミヤより貸与を受けた土地に工場を新設した。

工場では花王株式会社(以下「協定企業」と言う)が機械設備を設置・貸与、ならびに機械設備を維持管理し、技術指導員も常駐派遣し支援を行っている。また従業員の健康管理は、医療法人スミヤが支援を行っている。
工場内には、工場棟ばかりでなく、バリアフリー化された宿舎棟もあり、現在6名の重度障害者がどうしても手助けを必要とするとき以外は、完全に自立した生活を送っている。
従業員構成は、パートも含めた全従業員32名のうち、障害者が21名であり、そのうち2級以上の重度障害者が17名、肢体障害者が19名といったように多数を占めている。
また、障害者以外の従業員では、指導員2名に加え、協定企業からの派遣指導員1名が常駐で作業工程のアレンジにあたっていることが特徴的である。障害者21名の平均年齢は30歳と若く、活気があり、常に明るい雰囲気に満ち溢れた職場である。
(2)設立の経緯と課題
1991年、「障害者の自立的な社会参画の実現」を考える医療法人スミヤが、「地域社会・文化の発展に貢献すること」を活動方針のひとつとして掲げる花王株式会社と手を組み、これに国と和歌山県が参画し、いわゆる地域・企業・行政が一体となった「和歌山方式」とも呼ばれる成功事例が誕生することとなった。
今でこそ“成功”と言えるものの、1993年操業開始時には、重度障害者を多数受け入れるにあたってのノウハウ蓄積が足りず、また障害者の側からも主体的に事業に参画しようとするという積極的な動機が不足した状態の船出であったため、多くの問題に直面することとなった。
では、どのようにして、工場が軌道に乗ったかというと、もちろん障害者を中心とする従業員や指導員の不断の努力が、良い影響を及ぼしていることには間違いはないが、その他にも、以下に説明するようなビジネスとして成功する仕組みづくりがなされていたことが上げられる。
2. 販路まで包括した経営の仕組み作り
障害者の社会参画を持続的に推し進めるには、障害者の労働力を活用して利益を出すビジネスプランを作らなければならない。工場は、最初からこのプランを考慮して設立されており、経営の継続性といった観点から特に優れている。
このプランの鍵を握るのが、『安定した販路』であり、工場で生産された製品は、既に協定企業に納めることが決まっている。つまり、このプランには営業活動に伴う人件費や広告宣伝費といった諸経費を全て省くことができ、収益力が向上するメリットがあるのである。既に、操業後12年経過した2005年7月現在、設立時に要した借入金1億1千万円を完済してしまったことからも、このビジネスプランが上手く機能していることがわかる。
しかし、いくら販路が事前に決まっているとはいっても、協定企業に甘えてばかりいては、支援する側の企業負担が大幅に増加してしまう。そこで工場では、数え間違いや異物混入などの製品不良が生じないよう、たゆまぬ努力を行っている。
3. 不良品ゼロへの取り組み
工場が行う受託作業は、協定企業の製造する製品を詰め合わせる作業などであり、シャンプー・リンスの詰め合わせなど、多くはスーパー、コンビニに納品されるセット商品である。一般に、どの企業においても、製品の不良が発見されれば、たとえ製品単価が安くてもブランド価値の低下を招くこととなり、製品詰め合わせを社外に委託する場合には、特に不良品発生に目を光らせるものである。
このことは、工場の安定した販路である協定企業も例外ではない。よって工場においても、万が一、受託して詰め合わせた商品に不良品が発生した場合には、協定企業のブランド価値の低下、および売上低下を招き、協定企業からの信用失墜という状況から受託数量の減少などのペナルティを覚悟しなければならない。
このため工場では、製品不良が生じないよう以下をはじめとする様々な取り組みを行っている。
(1)作業者のユニット化
工場では、移動しての作業に困難を伴う肢体障害者(詰め合わせ担当者)である従業員の作業位置を固定化し、詰め合わせ作業を一人で完結させる「セル方式」が設計されている。詰め合わせに必要となる資材も作業者が楽に手に取ることができ、目の前のテーブル上で、楽な姿勢で加工できるよう改善がされている。また詰め終わった製品の収集、および必要資材の設置は、健常者パート社員および歩行作業が可能な障害者を中心に行う仕組みが出来上がっている。



(2)複数行う製品の検品

詰め合わせ担当者が作業を行う際には、あらかじめ定められた数量のみを専用のカゴに用意し、詰め合わせを行うように決められており、詰め間違いがあったときには残数からすぐに分かるように考えられている。また出来上がった製品を完成品トレーに置く際も、この製品なら縦に6個、横に4列といった具合に、これも決められた数量を置くよう作業マニュアルが決められており、効率性を落とすことなく正確性を確保する仕組みが出来上がっている。詰め合わせ担当から製品を収集した従業員は、検品場所において改めて数量をカウント・検品し、更には重量センサーをも駆使して、組み合わせミス等も判別するよう、何重ものチェック機能により、あってはならない不良品を無くす努力がなされている。
(3)改善は毎日行う

工場には、指導員2名がおり、また協定企業からも技術指導員が常駐で出向してきている。彼ら3名による作業工程の管理・設備機械のメンテナンスにより、従業員の生産性が飛躍的に向上し、ミスゼロへの取り組みが実現可能となっている。また常日頃、環境美化についても従業員自らが率先して努力を重ねるなど、作業環境における改善も行われている。
このような取り組みにより、製品組み合わせミスなどの不良品製造は、ここ2~3年間では、たった1個の詰め合わせミスしか起きておらず、また労働災害に関しても、無災害記録3,500日(2005年7月17日現在)を達成するという、驚くべき取り組み効果が表れてきている。卓越した実績に裏打ちされ、工場に対する協定企業からの信頼性は多いに向上し、注文に追われる毎日である。
4. モチベーション向上への取り組み
工場では、従業員に対し、“自分達が業務活動の最前線にいる”という自覚を持ってもらうよう、朝礼において従業員が自発的に安全衛生を考える仕組みを取り入れたり、指導員がこまめに現場従業員にコミュニケーションを行うなど、さまざまな動機づけを図っている。前述した「不良品ミスが協定企業のブランドを大きく損なうといった事実」、「自分達がそのブランドを支えているという自覚」を常に従業員に意識してもらうことに加え、協定企業から直接常駐で派遣された指導員が、協定企業の考えや方針をタイムリーに伝えることにより、従業員に強い自覚が醸成されている。
このことは、作業改善にとても良い影響を与えており、操業当初、障害を持つ従業員は、製品の切り替えなど指導員に「やってもらう」という意識が主であったのが、現在では、自ら進んで煩雑な切り替え作業に従事し、短時間でロスを出すことなく作業を終えることができている。また、作業工程の改善に対しても、指導員と積極的に意見を交換することが多くなり、毎日の作業を通して従業員のモチベーションが大きく向上することとなった。
5. ミニ・インターンシップによる就職ミスマッチ解消への取り組み
工場では、障害者である従業員を採用する前には、就職希望者が就職を当工場に決めるかの判断を、数日の間、工場内での作業に研修として従事させた後に行ってもらうことにしている。いわゆる短期間のインターンシップであるが、ここ数年は、採用後すぐに退職してしまう社員が全くいない状態であり、採用後の従業員は無理なく職場に溶け込んでいることがわかる。
このミニ・インターンシップでは、先輩従業員と指導員が指導にあたり、実際に採用後に行う作業を実体験してもらうこと、および就業時間以外のインフォーマルな他の社員との触れ合いを感じてもらうことに重点を置いている。工場の採用条件は、後述のとおり、働く意志や日常生活動作の自立、集団生活といった一般企業にも通じるものであるため、この段階で就職を希望する障害者には、自分がここで働きがいをもってやっていけるかを自ら考える機会と期間が与えられるのである。
6. やりがいを育てる労働・雇用条件の設定
障害者である従業員の労働条件は、高く設定されている。週40時間制の遵守はもとより、週休2日制が維持されており、賃金には基本給の他に、諸手当や定期昇給、賞与支給もある。法定福利のほか中小企業退職金共済制度にも加入するなど、従業員の資産形成に対し、満足度の高い労働条件となっている。
一方、従業員の雇用条件については、一般企業にも通じる「働く意志のあること」「日常生活動作が自立していること」「集団生活が可能なこと」などといったものであり、重度の身体障害者に対し、社会人として積極的な自立と参画を求めている。
7. 取り組みの効果

販路を事前に確保するというビジネスプランが功を奏し、工場では前述の通り高い収益力を実現している。また“ミスゼロ”に対する不断の取り組みや指導員の存在は、従業員の社会参画に向けてのモチベーション向上への大きな動因となっている。そして、重度障害者である若い従業員にとり、高い労働条件は、将来の資産形成や家庭づくりに対し、大きな希望を育む効果を持っている。この他、社内レクリエーションとして、花見会、バス旅行、そして協定企業が主催する運動会や文化祭への招待などが毎年行われており、従業員は工場での社会人生活を満喫している。
このように一般社会人とほとんど変わらない環境におかれている従業員達であるがゆえ、休日の使い方も積極的であり、例えば車いすダンスの全国優勝者がいたり、車いすテーブルテニスの選手がいたり、劇団に所属する俳優の卵がいたりするなど、自らの趣味を活かした活動にも積極的に打ち込んでいる。
8. 今後の課題や展望
今後は、さらに今までの取り組みを充実させ、これからも長く障害者を受け入れていけるよう、工場として確固たる存続基盤を確立することが第一の課題である。また従業員が家庭を持つことが十分可能な環境を構築することも重要な課題である。既に収益の増加により、借入金を完済した状態であるので、この収益を今後は、地域の障害者福祉に役立てることも課題として検討中である。
社会貢献を志向する企業の強力な支援を受け、それを効率的にビジネスに活用し、ともに有益なビジネスパートナーとして歩んでいける関係作りは、今後の障害者雇用の突破口となる示唆を含んでいる。また、このような関係が良く作用して、障害者自らが業務活動の最前線にたっているという強い参画意識を持つように、そこで働く従業員の行動様式を変えていく。環境が人間を変えていくというという先進事例として、当成功事例は価値が高いものと思われる。
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