事業所名

中華料理五十番

所在地

島根県出雲市

事業内容

中華料理店

従業員数

7名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	4	調理補助、店内接客、出前、掃除
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
2. 共に生活することでの信頼関係づくり
3. 仕事を覚えるための工夫と効果～「出前」業務と店内作業～
4. 他従業員との関係
5. 今後の展望

1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯

（1） 事業所の概要

　中華料理五十番は、一品一品がボリュームたっぷりの中華料理店。ラーメンは、コクのあるすっきりしたスープにストレート麺がよく合っている。出前が中心で、一日に何件もの出前をこなしている。
　店主夫妻（マスター、ママさん）、従業員5人の総勢7人で切り盛りしている。
　「美味しい物を、安く、早く、お腹いっぱいに」という店主の思いが店全体を優しい雰囲気で包んでいる。従業員全員の力で支え合い助け合うことが、当たり前のこととして出来る環境にすることを心がけている。福利厚生にも力を入れ、社員旅行も毎年行っている。
　現在、店舗と従業員宿泊施設を改装中である。

（2）障害者雇用の理念

　住み込み出来る環境を整え、店主と従業員が生活を共にすることで、同じ人間として個々の特徴を見極め、何でもやってみることで力を引き出すことを心がけている。そしてそれぞれの自立を考えながら生きていく力もつけるようにしている。

（3）障害者雇用の経緯

　開店当初は夫婦・弟妹で営業していたが、5年後、定着してきた段階で職安に求人することにした。そこで一人の精神障害者（男性）を紹介され、周囲に反対はあったものの、マスターは「やってみないとわからない」と受け入れる。
　さらに、当時知り合いだった出雲市福祉課の職員から依頼もあり、病院入院中の精神障害者の院外活動の実習の場として、多くの障害者を受け入れてきた。多いときで10名程度、住み込みの形で生活も共にしながら、互いの信頼関係を築いてきた。中には親の入院や片親の実習生もおり、親代わりとしても彼らの自立を考えながら試行錯誤の繰り返しであった。
　多くの障害者を受け入れる中、中には仕事が向かず施設等へ入所するケースもあったが、一つひとつ丁寧に仕事を教え込むことで仕事を覚え、定着するようになった。
　現在勤務している4名は知的障害者で、特に何度も根気よく教えていくことを必要とした。掃除、皿洗いから食材の下ごしらえ、スープづくりなど経験や適性に応じて分担されている。

野菜の下ごしらえを任せられるTさん

毎朝、米研ぎするAさん

2. 共に生活することでの信頼関係づくり

　現在は、障害を持つ従業員と健常者従業員を同じアパートの別の階に住ませ、睡眠時間以外の生活を共にすることで家族的な信頼関係を築き、個々の特性の見極めや生活態度などの指導も行うようにしている。
　理由としては、以下の3点である。

（1）仕事を覚える段階では工程などを覚えるのに相当な集中力が必要。

　家庭での生活は家族がどうしても甘やかしてしまい、折角覚えたことを一晩で忘れてしまうこともあった。

（2）個性を見極めて伸ばす。

　受け入れる際、学校等から「調理に向いている子です」ということで引き受けても、実際はそうではないケースもある。またその逆で何が出来るか判らないというケースが長続きし、仕事も覚えるといったことがある。本人の本質や特性に合う仕事を覚えさせることが必要。

（3）自立心を育てる。

　将来自分で生活できる力を育てること。社会性なども身につけることが必要。
　様々な障害者を受け止めてきた店主夫妻が、経験の中からたどり着いた一つの方法が「共に生活し、失敗を恐れずやってみる」ことである。しかしこれに固執せず、15年目になる従業員の様に、集団の苦手な人には一人暮らしをさせることもある。無理矢理一緒にせず個性を尊重している。

3. 仕事を覚えるための工夫と効果～「出前」業務と店内作業～

（1）「出前」業務

ア　段階的な指導

　計算の苦手な知的障害者には、出前時の金銭のやりとりは難関の一つだった。次のような方法で出前が出来るようにした。
［第1段階］
自転車の片手運転。あいさつを何度も練習する。初めは先輩について行く。
［第2段階］
おつりは、1000円、2000円をもらった時に渡す金額を持たせるようにする。お客さんにも協力してもらい、おつりが必要な時は1000円・2000円を払ってもらう。
お客さんからいただいてきたお金が合わない時は、「足らないよ」と言い、すぐに言うようにして探させる。責めるわけではなく一緒に探す。本人は自然に反省し、間違えないよう努力するようになる。
［第3段階］
計算も自分で出来るように紙に書いて何度も教える。時間はかかるが5年間くらいで計算も出来、任せられるようになる。

イ　「出前」業務で活躍

　このような工夫により、中華料理五十番に来た当初は、まったく計算できなかった人も、今では自分でおつりを渡せるようになっているそうだ。
また、以前は出前先で「気持ち悪い」と言われたことがあるが、「一緒に住んでるけど、何とも無いよ」と障害の事を説明して理解してもらったこともあった。
本人の特長を生かすこともある。22年目になるAさんの多動なところを生かし、店内の作業よりも出前や仕入れなどを任せるようにしている。Aさんは運転免許も取得しており、遠方への出前もこなす。今では「出前」が「売り」になっており、「皆がいてくれるおかげ」と店主は話す。

得意な車の運転で出前するAさん

自転車での出前も慣れたTくん

（2）店内作業

　最初は簡単な作業から始める。食器洗い、玉ねぎ・にんじん・にんにく等の皮むき、掃き掃除、ソース・酢醤油の補充等、飲食店としての基礎的なものであり、特別なことではない。
指導方法はきめ細やかで、店主自ら手をとって教える。例えば食器を洗うのもスポンジに洗剤をつけることから教える。一つの仕事を覚えるには時間がかかり、また、そのかかる時間も一人一人違う。そのことを理解し、根気よく教えていく事が必要である。

（3）マナーとチャレンジ

　絶えず声掛けをするようにして「気を付けて」「おかえり」「お待たせしました、と言いなさい」「ありがとうございます、と言いなさい」など挨拶やマナーも実際に経験していく中で覚えさせるようにしている。そして仕事が出来た時は誉める。誉めることで自信になり、忘れないようになる。
とりあえずやってみること、やってみて何かが起きたら考えるようにしている。「人は見かけによらぬもの、見かけだけでは判断しないことが大切」とマスターは話している。

製麺作業は几帳面なOさんの担当で

厨房で段取り良く作業をこなす

4. 他従業員との関係

　調理担当のNさん（健常者）は15年間一緒に働いてきた方である。従業員のリーダー的存在で、店主不在時も皆に指示しながら店を開けている。
　「ずっと一緒に居るので、障害者という意識はない。いつもマスターがやっておられるようにしている」と話され、みんなとの信頼関係が良好なことがわかる。「家族より一緒に居る時間が長い。実家に帰ったほうが他人行儀になったりする」と、家族的な生活の中でお互いを認め合い助け合うことが自然な形で出来ている。失敗すれば叱られながらも、みんなで工夫することを覚え、成功すればみんなで喜び合える暖かい環境で、障害者従業員も自信を持って働いている。

5. 今後の展望

　家族同様の関係性の中で築いてきた店主夫妻と従業員との信頼関係が、うまく業務にも反映され、継続雇用にも繋がっている例である。
　知的障害のある従業員に、防災管理等取得できそうな資格も積極的に取得させるようにしており、Aさんは既に防災管理の資格を取得して大きな自信になっている。
　また、店舗改築を期に、障害者雇用促進協会の助成金制度等を利用し、環境改善にも力を入れている。
　このように障害者雇用に積極的であるが、店主夫妻の高齢化による不安はある。店長夫妻は「出来る限り店は続けていきたいが、いつ何があるかわからない。何かあっても続けていく力をつけてもらいたい」と話しておられた。
　若い健常者のNさんを中心に、日々チャレンジが続く。