力まず、弛まず、企業の社会的責任を果たす
- 事業所名
- ヤマト運輸株式会社 山口主管支店
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- 貨物自動車運送事業
- 従業員数
- 357名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 3 電話受付業務、資料づくり業務、問い合わせ業務 内部障害 0 知的障害 4 在庫管理、パソコン入力、配送便の仕分け業務 精神障害 0 - 目次

山口主管支店
1. 事業所の概要と障害者雇用の状況
(1)障害者雇用率3.32%(平成17年5月現在)
“クロネコヤマトの宅急便”というキャッチフレーズで私たちにも馴染みのあるヤマト運輸株式会社は、現在障害者雇用に積極的に取り組んでいる。その数ある支店の中でも、山口主管支店の障害者雇用率は3.32%(平成17年5月現在)であり、法定雇用率1.8%を大きく上回っている。同時に、この数値は全国の支店中トップである。当社で障害者雇用に鋭意取り組んでおられる社員サポート課係長の古谷康夫氏に話を伺った。
「当社では、何か特別なことをやっているといった意識はないのですよ。雇用率3.32%という数値につきましても、本社からの連絡によって初めて知りました。当社では、雇用率の数値について、それまで何も気にしていませんでした。」
古谷氏のソフトな語り口からは、当社の実績をアピールしようといった力みは感じられない。むしろ、障害のある従業員が当社で自然に受け入れられ、定着しつつあることがうかがえる。
現在、山口主管支店には、障害者雇用の実際を学ぼうと、学校関係者や保護者による見学が後を絶たない。また、高い雇用率を達成したノウハウを学ぼうと、他県の支店からも見学者がある。

古谷康夫氏
(2)企業としての社会的責任(ノーマライゼーションの実現)
ヤマト運輸株式会社では障害者雇用を推進する方針にある。ここには、ヤマト福祉財団の前理事長であった故小倉昌男氏(1924~2005)のリードがある(小倉氏は、ヤマト運輸の社長及び会長もかつて歴任)。障害者が地域に出て働き、収入を得て生活できる社会を目指し、ノーマライゼーション実現に向けて力を尽くした小倉氏の理念が、当社の方針に反映されている。
「企業はその規模が大きくなればなるほど、地域社会とのつながりのなかで利益を考えていく必要があります。企業には社会的責任があるのです。本社での障害者雇用の推進は、この社会的責任を果たす活動の一環でもあります。」
(3)障害者雇用の経緯
知的障害者の雇用については、数年前に養護学校の教師から、一人の生徒の職場実習の依頼があったことがきっかけであった。それまでは古谷氏自身、知的障害についてよくご存じなかったとのことである。しかし実習の期間中、彼はまじめに素直に一生懸命取り組み、遅刻も欠勤もすることはなかった。そこで、養護学校卒業と同時の雇用を決定した。その後、当社では県内の養護学校から3名の卒業生を雇用している。
養護学校からの積極的なアプローチと、古谷氏とはじめとする山口主管支店の前向きな姿勢が、この生徒の就労を実現させた。同時に、養護学校と山口主管支店とのその後の貴重なリンクができたといえよう。
2. 知的障害の従業員への支援と仕事ぶり
知的障害者4名のうち、3名を紹介しよう。
(1)Aさん
療育手帳の判定は「B」である。養護学校高等部2年生の時から卒業までに、ヤマト運輸での職場実習を5回体験した。養護学校でパソコン関連の授業を受けていたため、現在パソコン入力が必要とされる在庫管理の部署で働いている。

Aさんは、職場の人間関係や仕事で悩むことが時々ある。そのため、古谷氏は職場でAさんに「どう?」等と声をかけるよう努めている。声かけに対するAさんの反応のなかに、いつもと違う様子が感じとられた時には、何らかの対応が必要とされる。この声かけがきっかけで、古谷氏のもとにAさんから「相談があります」と訪ねてくることがある。こうした時、Aさんの心は鬱積していることが多いが、古谷氏に話を聞いてもらえるだけで、Aさんは安堵の表情を浮かべる。
ある時期には、週2~3回の相談がAさんから持ちかけられることがあった。こうした状況が続くと、Aさんに対して新たな対応も必要となる。
「君も二十歳をすぎたのだから自分でも考えてみようよ、とAさんに話してみるのですが、今のAさんは、私に悩みを聞いてもらうことがまだ必要な様子です。」と古谷氏。
焦らずに時間をかけつつ、「聞く」という姿勢に徹する古谷氏の対応が、Aさんの職場定着につながっているといえよう。
なお、Aさんは学校卒業後にバイクの免許を取得し、現在はバイクで通勤している。
(2)Bさん
療育手帳の判定は「B」である。養護学校高等部3年生の時に、ヤマト運輸での職場実習を4回体験した(6月、夏期休業中、11月、冬季休業中)。
Bさんは養護学校卒業と同時に入社し、その後ぐんぐん明るい表情になってきた。挨拶もきちんとでき、社会人になってきたことを周囲に感じさせている。
「当社では、繁忙期に残業もありますが、Bさんはヤマト運輸の社員であることを自覚し、自ら積極的に仕事に取り組んでくれています。時刻がきたら自分から仕事を始めます。まかせて安心です。また、Bさんはパソコンに関心があり、またこれを扱える様子なので、将来はパソコン業務をBさんにまかせてみようかとも考えています。」と古谷氏は目を細める。

(3)Cさん
療育手帳の判定は「B」である。Aさんと同じく、養護学校高等部2年生の時から卒業までに、ヤマト運輸での職場実習を5回体験した。性格は温厚で協調性があり、皆から信頼されている。

3. 身体障害の従業員への支援と仕事ぶり
当社には、車いすを使用する従業員が現在3名いる。全員が、電話オペレーター等の事務関係の部署についている。2名を紹介しよう。
(1)Dさん
Dさんは交通事故により、身体障害者手帳1級(下肢機能障害)の判定を受けた。公共職業安定所の紹介でヤマト運輸に入社し、現在は得意のパソコンを駆使し、資料作成に従事している。

(2)Eさん
Eさんは身体障害者手帳2級(下肢機能障害)の判定を受けている。県内の養護学校を卒業した後、本人自ら当社に電話をかけ、入社希望の意思を表明したという積極的な女性である。現在、電話オペレーターとして、顧客への問い合わせの連絡等に従事している。

(3)バリアフリー環境の整備
当社では、建設の時点で社屋をバリアフリーにする構想があり、スロープやエレベーター等の設備はその時点で整った。そして、Dさんの入社を機に、助成金でトイレの改修工事等が実施された。このトイレはDさんのオフィスと同じ階にある。また、身障者用の駐車スペースも当社に数カ所整備されている。



4. 障害者雇用の推進と職場定着への支援
(1)養護学校の進路指導相談会等への出席
障害者雇用を推進していくためには、事業所として雇用行政や福祉行政の現況を知る必要がある。また、養護学校等で実施されている進路指導の状況なども情報として知ることが、今後の円滑な連携につながると考えられる。古谷氏は、こうした情報収集に力を入れている。
「養護学校が開催する進路指導相談会等には、できるだけ出席するようにしています。いろいろな人の意見を聞くことは、勉強になります。」と古谷氏。
企業から地域に出向くという積極的な姿勢が、当社での高い雇用率の達成と維持向上につながっている。
(2)職場での声かけ
前述したAさんへの支援として、職場内での声かけが実施されている。声かけに対する反応の様子によっては、従業員への早期対応が必要となる。
「声かけについては、ささいなことのように思われるかもしれませんが、当社ではこれを大切にし、実行しています。」と古谷氏。
悩みを早く察知し、対応することが職場定着の鍵の一つになるといえよう。
(3)上司の理解
障害者雇用を推進していくためには、上司からの理解が欠かせない。ヤマト運輸ではいかがであろうか。
「上司である主管支店長が、障害者雇用や支援の仕事に理解を示し、私に仕事を任せてくれることが、ありがたいですね。会社と上司がこうした方針にありますから、私としても仕事がとてもやりやすいのです。これがヤマト運輸株式会社です。」
5. 学校関係者と保護者に向けて
(1)プラス思考
学校に在籍する生徒の将来について不安を抱える学校関係者や保護者は少なくない。しかし、働く場が提供されるなら、社会での職業自立は可能であることが、当社の実践から明らかである。
「親御さんには、決して悲観していただきたくありません。この世には“救う神”も必ずいるのですから。物事を良い方向に考えていくことが大切です。世間の人は、こうしたプラス思考の人を評価するものですよ。」
この言葉は、保護者にとってこの上ないアドバイスであろう。
(2)大きな声での挨拶
当社では、毎年養護学校からの職場実習を受け入れている。生徒には、大きな声で挨拶をするように指導している。すると、その生徒は次の職場実習先でも、きちんと大きな声で挨拶できるようになる。挨拶は社会のマナーであり、職場の人間関係を円滑にする基本でもある。学校と家庭とが連携しつつ、大きな声での挨拶を習慣づける必要がある。
6. ノーマライゼーションの実現
ノーマライゼーションの実現は、関係者の願いである。
「障害のある人たちに出会い、いろいろな特性があることを知りました。むこうから話しかけてくれたり、問うてくれたりするので、違和感はありません。健常者よりも話がしやすいようにも思います。私としては、この仕事に大変な部分もあることは確かですが、自分自身に人生のハリができたように感じています。」
最後に古谷氏は、自身の障害者観を語られた。
「私自身は、『障害者』を『障がい者』と、できるだけひらかなで書くようにしています。『害』という漢字には良くないニュアンスがありますからね。」
ヤマト運輸株式会社山口主管支店は、力まず、そして弛まず、ノーマライゼーションの実現という旗を掲げ、今日もその着実な歩みを続けている。
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