特性に合った対応のあり方を追い求める
- 事業所名
- 下関水陸物産株式会社
- 所在地
- 山口県下関市
- 事業内容
- ウニ瓶詰の製造販売
- 従業員数
- 45名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 原料の棘殻除去作業 肢体不自由 2 ウニ瓶詰め作業、原料の棘殻除去作業 内部障害 0 知的障害 3 ウニ瓶詰め工程作業、清掃作業 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要と障害者雇用の状況
(1)“社会貢献”を念頭においた取り組み
全国有数の漁業の街でもある下関市は、ウニ製品の製造でも全国に名をはせている。その老舗である下関水陸物産株式会社は、平成12年に創立50周年を迎えた。これを機に、顧客への感謝の気持ちも込め、社会貢献に向けた取り組みとして、以下の三つの方針を掲げた。
・記念商品の製作
・衛生管理面のさらなる徹底
・障害者の雇用
障害者の雇用については、当社ではこれまで身体障害者雇用の経験はあった。しかし、製造工場内での雇用ではなかったため、これから工場内での障害者雇用を本格的に推進させることとした。
(2)徹底した衛生管理
当社で障害者雇用の指揮をとっておられる取締役工場長の柴田孝氏に、さっそく工場を案内していただいた。
まず、工場入口で専用のクリーンルームウェアを着用し、その上から粘着ローラーをあてて全身から小さな埃をとり、両手を入念に洗浄した後に入室となる。清潔をモットーとする食品加工の現場では、こうして従業員にも見学者にも衛生管理の徹底が求められる。
前述したように、当社では創立50周年を機に、衛生管理面のさらなる徹底に取り組んだ結果、食品安全予防システムの国際規格「ハセップ(HACCP)システム」の認証を取得するに至った。衛生的で安全な食品を製造し続けることが、顧客からの信用と収益につながるため、現在雇用されている6名の障害者を含めた全従業員に対し、その社員教育は徹底している。
2. 従業員への支援と仕事ぶり
(1)知的障害と自閉傾向のあるAさん
知的障害のあるAさん(療育手帳の判定「B」)は、トライアル雇用(3ヶ月間)を経て、当社に正式雇用となった。6名の障害者の中で勤務年数が最も長く、性格温厚かつ仕事好きなAさんは、社内で信頼されている従業員の一人である。
入社当初より、洗瓶作業の部署を中心に働いている。所定の位置に瓶を置き、同時にコンベアー上の瓶の流れを調整する視線は常に真剣そのものだ。根気を必要とする繰り返しの作業を通し、Aさんはその実力を発揮している。
Aさんには自閉的傾向があり、特定の物品へのこだわり等がある。また、上司からの指示内容を長期間忘れずにいることもあるので、現時点での作業を柔軟にこなしにくくなる一面もある。しかし、上司を含めた周囲の従業員が、こうしたAさんの特性を知り、落ち着いた言葉がけ等による対応によって、Aさんは現時点での作業の遂行に向けて、気持ちを徐々に切り替えることができている。
Aさんは、下関市内にある知的障害者グループホームから通勤している。一般就労と地域生活を両立させているAさんの姿は、これから就労を目指そうとする人にとってのモデルの一人といえよう。
(2)知的障害のあるBさん
知的障害のあるBさん(療育手帳の判定「B」)は、他県の高等学校に在籍している時、当社で現場実習をしたことが縁で、後に正式雇用となった。
現場実習ではまず原料等の選別作業の部署についたが、技能的に困難であることがわかった。そこで次に、瓶にキャップシールを貼る作業を試みた。この部署では毎分30本の瓶にキャップシールを貼るスピードが求められるのであるが、最初はこの水準にうまく達しなかった。この時からBさんの懸命な練習が始まった。当社からの指導と本人の努力が実を結び、Bさんはその後、健常者と変わらぬほどのスピードでキャップシール貼りの作業をこなせるまでになった。本人の特性に合った作業種目を見い出し、やる気を促す声かけを含めた継続的指導が、Bさんの積極的な取り組みの姿勢を引き出し、結果としてその潜在力を伸ばすことにつながった。
現在、Bさんはシール貼りの業務に加え、ラベル印刷のセッティングの業務も当社より任されている。操作盤の液晶画面に、指先で必要事項を入力する担当であり、ここには正確さが求められる。柴田孝氏が、Bさんにこの業務を任せることを思いつかれたのは、Bさんが昼休みに携帯電話でメール交換をしている姿を目にした時だった。Bさんは小さなボタンを指先で操作し、情報を上手に送信していた。家庭での様子も尋ねると、パソコンゲームを楽しんでいるとのことである。IT機器に親しんでいるBさんにとって、入力操作の業務も可能であろうと、その時柴田氏は判断された。そして今、Bさんはその業務を正確にこなしている。
前述のキャップシール貼りの作業と同様、本人の特性に合った作業種目を見い出そうとする当社の姿勢が、Bさんの可能性を開拓したといえよう。
(3)下肢に障害のあるCさん
Cさんは股関節の障害により、人工関節を体内に入れている(身体障害者手帳3級)。そのため、中腰での作業や物を抱える作業が困難であり、歩行には杖を使用している。そこで、座ったまま取り組める作業として、ウニの瓶詰め作業および原料選別作業に従事している。作業場が当社の3階にあるため、その移動にはエレベーターを使用している。荷物の運搬を目的に設置されたエレベーターであるが、現在のCさんにとって無くてはならない移動手段ともなっている。
(4)心臓に障害のあるDさん
Dさんには心臓機能障害がある(身体障害者手帳1級)。現在、原料の中に混在している棘、殻、毛髪等を除去する作業に従事している。終日ほぼ座って行える作業なので、体に負担はかからないが、精神的プレッシャーにより心臓の鼓動が激しくなることがある。例えば、時間的に急いで作業してほしい等の指示を受けたり、失敗した時に叱責を受けた時などはプレッシャーにつながりやすいので、配慮が必要である。
柴田氏は、Dさんを頭ごなしに叱るといった対応を避けるよう、従業員に指示している。また、注意や叱責の必要があると判断された時にも、柴田氏がその場で直接注意するのではなく、Dさんのそばで指導している担当者を通して間接的に注意や助言をさせるよう、二段構えの対応を心がけている。
「工場長からの直接の叱責や注意は、本人に相当こたえますからね。また、本人に注意や助言をするタイミングとしては、空腹時より、昼食後など本人の心身がリラックスしている時間帯が良いようです。」と柴田氏。
(5)聴覚障害のあるEさん
Eさんには聴覚障害がある(身体障害者手帳4級)。Dさんと同じく、原料の中に混在している棘、殻、毛髪等を除去する作業に従事している。補聴器をつけているので、社内での会話は可能であるが、後方からの声は本人が認識しづらいため、指示等は必ずEさんの正面に立ち、はっきりとした声で伝えるよう配慮している。
(6)知的障害とてんかんのあるFさん
知的障害のあるFさん(療育手帳の判定「B」)は、社内の清掃作業に従事している。59歳(平成17年9月現在)と高齢であるが、元気に働いている。てんかん発作をおこす可能性があるため、現在も服薬を続け、約2週間に1回の通院が必要である。当社ではそのために時間の都合をつけ、通院を優先する配慮をしている。金銭管理については、下関市内にある福祉施設からの支援を受けつつ、現在は市内に一人で暮らしている。
3. 家族、福祉施設、労働機関等との連携
(1)福祉施設との連携
前述したように、Aさんは知的障害者グループホームを現在利用している。グループホームとは、障害者数名が世話人(キーパー)からの支援のもとで共同生活をするという居住形態である。共同生活であるから、当然そこには入居者同士の様々な人間関係が生まれるが、それが良好な状態であってこそ、互いの豊かな生活が実現する。
さて、Aさんは、諸般の理由によって同居者との人間関係に軋轢の生じたことがあった。こうした状態は、本人の精神的ストレスにつながり、これが就労面の不安定さを生じさせてしまった。当社として大変気がかりな事態である。しかし、日々忙しい事業所の立場からして、従業員の生活面への支援に力を注ぐことはむずかしい。そこで、Aさんのこの生活上のトラブルに対し、福祉サイドからの支援として、当グループホームのバックアップ施設(下関市内にある知的障害者更生施設)の職員が当社を訪問しつつ、きめ細かく対応している。
諸問題を事業所がかかえ込むのではなく、地域の支援機関に委ねてみることが、結果的に良い成果をもたらすと期待される。
(2)家族との連携
当社では毎年、忘年会や新年会がもたれ、社員同士の親睦が深められている。さて、こうした会の終了後、柴田氏はBさんを自宅まで送っておられる。Bさんの自宅は当社の近隣にあり、玄関で出迎えるBさんの家族と柴田氏とは、すでに顔なじみである。良好な信頼関係がそこに生まれている。この関係がベースとなって、Bさんの家族は当社の取り組みに、理解と協力の姿勢を示してくれるようになった。
興味深いエピソードを紹介しよう。誰しも仕事上の悩みや迷いが心に生じる時があるが、Bさんも「仕事をやめたい」との意向をある時家族にもらしたことがあった。その時、毅然とした態度で叱ったのがBさんの父である。給料を取得する仕事であるからには、そこに楽しさもあれば、いろいろなつらさもある。上司からの厳しい指導に耐え、心の甘えを乗り越える姿勢も必要とされる。父からの指導により、Bさんは心の迷いをふりほどき、積極的かつ明朗な態度で仕事に取り組むようになった。家族と事業所との連携が、Bさんの安定就労を促しているといえよう。
(3)労働機関との連携
当社は、福祉施設との連携と同時に、トライアル雇用制度の活用、職場適応援助者(ジョブコーチ)の活用、合同面接会への参加等、労働機関とも緊密に連携しつつ、障害者雇用を進めている。事業所の努力に加え、関係諸機関との横のつながりのある支援体制のなかで、障害者の安定就労がより良く実現すると考えられる。
4. 自己実現への支援
社会貢献に向けた取り組みとして、障害者の雇用をその一つに掲げた当社では、障害者一人一人の特性に合った対応の仕方を、日々の取り組みのなかで追求している。障害者にとって、事業所への就労が究極の社会参加であることは、おそらく異論のないところであろう。下関水陸物産株式会社は、障害者からの「働きたい」という熱い願いを受けとめ、就労という社会参加の道を開くことを通して、自己実現を支援する取り組みを今日も続けている。
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