事業所名

伊東養鶏場

所在地

佐賀県杵島郡山内町

事業内容

鶏卵の生産・販売

従業員数

37名（平成17年7月1日現在）

うち障害者数

31名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	0
知的障害	31	収卵、給餌、計量、洗卵
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の状況
2. 知的障害者の特性と生活支援
3. 今後の課題・展望

収卵作業：毎日午前中に収卵作業が行われる。

1. 事業所の概要と障害者雇用の状況

（1）沿革

　昭和36年4月、牛津町の自宅で雛360羽を飼育し養鶏業を始める。昭和40年4月、三日月町（現小城市）に養鶏場を移転し1万羽を飼養し、同年、神埼町でも1万羽を飼育する養鶏場を操業するなど事業拡大していく。その後、養鶏特有の公害問題が生じてきたことや敷地が手狭になったことなどから、昭和49年12月、現在地に移転する。昭和60年12月には、太良町に養鶏場を新規に開設し、現在、雛4万羽、成鶏16万羽を飼育しており、県内有数の鶏卵生産業を営んでいる。

（2）障害者雇用の経緯

　養鶏場を始めた当初は、農家の主婦をパートで雇用していたが都合で休むことが多々あった。毎日の仕事であるため休まれると他の従業員に負担がかかり、安定した雇用が続かない状況であった。そんな中、知的障害者を養鶏場で雇用している事業所があり、それを参考にして障害者を雇用するようなった。
　昭和43年に聴覚障害者を雇用したことに始まり、昭和45年に知的障害者更生施設の入所者2名の職場実習を受け入れ、1名を雇用。その後、養護学校や他の知的障害児（者）施設や公共職業安定所等からの雇用要請もあったことから順次雇用を拡大し、昭和49年に山内町に移転してきた頃には、10名を超えた。
　平成17年7月1日現在では、知的障害者を31名（うち重度28名）雇用しており、山内町農場、太良町農場で働いている。障害者雇用率は83.78％となっており、重度障害者多数雇用事業所として評価されている。

（3）障害者雇用が進んだ要因

　障害者雇用が進んだ要因としては、養鶏場での作業内容が比較的単純で毎日繰り返す仕事が多いため、知的障害があっても十分対応が可能であることや、勤勉性や真面目な仕事への取り組みが習熟度を向上させ、安定した労働力として育っていったことなどがあげられる。
　また、養鶏場の立地が山間部で通勤が困難なことから、従業員は住込みとなっている。障害者雇用促進協会からの助成を受けて、障害者用住宅を設置したことや知的障害者施設のグループホームを併設したことも障害者雇用が進んだ大きな要因となっている。

2. 知的障害者の特性と生活支援

（1）知的障害者の特性にあった作業

　知的障害者は、複雑な作業工程や状況に応じた判断、数量的作業等には適応が難しい場合もあり、習熟するまで時間がかかるが、本人自身が一度理解すると、言われたことは確実に行い、与えられた仕事に対し真面目に取り組むため、作業効率も向上していくことが多い。その結果、毎日の継続した作業や単純作業等では健常者以上に力を発揮することもある。
養鶏場の作業は、採卵、給餌作業、除糞作業、掃除、移動作業、卵の計量等が主な作業となっており、そのほとんどが単純作業である。そのため、毎日の繰り返しによって習熟度が高まり作業効率も向上していく。そのため、重度の知的障害者でも十分に仕事としてやっていける状態になっている。毎日仕事があるため安定した労働力を確保することがこの業種には求められるが、期待通り着実に仕事に取り組んでくれるため、作業の予定が立てやすい。
また、裏表がなく、嫌なときは嫌と言い、素直な面が多いので、労務管理に苦労することは余りない。

給餌作業：配合飼料が均等に行き渡るようしている。

計量作業：はかりで確認しながら同じ重量になるよう調整している。

洗卵作業：洗浄された卵をサイズ別に箱詰作業を行っている。

（2）生活面での支援

　障害者全員が養鶏場敷地内の寮に住込みで生活しており、平均勤務年数が15年と比較的長期間雇用されている障害者が多いため、共同生活の中で良好な人間関係やコミュニケーションが形成されており、家族的な雰囲気がある。
身辺処理はほぼ自立している。洗濯等は全自動洗濯機を利用して各自が行っており、掃除当番なども自分達で決めて分担し、寮生活を営んでいる。また、食事の準備や生活上の相談支援等は寮母さんが担当しており、専務と連携して生活面の支援もされている。
勤務体制は週休2日制となっているため、休みの日は寮で過ごしたり自宅に帰ったり、武雄市や博多まで買い物や観劇に行ったりと各自が思い思いに過ごしている。
女子は、グループホームで共同生活をしている。時折、口喧嘩などが起こることもあり、専務や寮母さんが食事を一緒にする中で話し合い調整している。
また、家族による面会や家族間の交流が行われると精神的な安定が増すので、できるだけ家族関係を維持していくための働きかけが行なわれている。

男子宿舎：障害者雇用促進協会から助成を受けて建てられた男子寮

3. 今後の課題・展望

（1）高齢化

　比較的長期間雇用されている障害者が多く、安定した職場となっているが、雇用した障害者が高齢になるに連れて障害者の家族も高齢化が進み、既に両親が他界されている等家族との連携が難しくなりつつある。30年間働いて退職したが、両親は亡くなっており帰る家が無いので寮で引き続き生活しているという障害者もおり、今後このような事例も増えていくことが予想される。
　退職後の生活の場をどうしていくのかという問題は、雇用主だけで解決できるものではない。体力低下が健常者より10年早いといわれる障害者のために、老後の地域生活支援をどう進めていくのか、行政や関係団体も交えて早急な検討が必要と考えられる。

（2）財産管理

　一般に、障害者本人の賃金や障害年金等の財産は、家族が管理するか雇用している事業所が管理するかのいずれかの方法が採られている。家族が管理する場合、家庭の都合で支出される可能性があり本人の将来を考えると問題がある。また、事業所が管理する場合についても利益相反の可能性もあることから、成年後見制度の活用等を検討し、本人のための安定した財産管理体制を整備していくことも課題と考えられる。

（3）まとめ

　有限会社伊東養鶏場は、知的障害者の雇用について、定着しやすいための配慮や体制が考慮されていた。今年度は、障害者職業センターと養護学校からの依頼で2名雇用を検討しているとのことで、会社訪問時には元気に職場実習をしている障害者の笑顔があった。